2017.08.06

【コラム】球際、ボールへの執着心や泥臭さ…松田直樹が示していたものを今こそ取り戻すべき時

田中隼磨
松本の背番号3を着ける田中隼磨 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
日本代表から海外まで幅広くフォローするフリーライター。

 気温27.4度、湿度90%という高温多湿な環境の中、5日にBMWスタジアム平塚で行われた明治安田生命J2リーグ第26節湘南ベルマーレ対松本山雅FC。J2首位をひた走る相手に対し、松本山雅は勝ち点3を奪うつもりでアグレッシブに戦う必要があった。

 その思いは、安川有の開始3分の先制弾という形でいきなり結実した。が、雷鳥軍団はそこから受け身に回ってしまう。パス回しと走力で上回る湘南に翻弄され前半のうちから足が止まり、32分には安川のクリアボールがジネイに当たって同点弾を献上。そのわずか5分後にまたもミスが出る。岩間雄大からのボールを右サイドの田中隼磨が受け、キープしようとしたが、横浜F・マリノス時代の後輩である端戸仁にさらわれ、ゴール前に走り込んだ山田直輝に2点目を決められてしまった。後半は巻き返したものの、最後まで得点にはつながらずじまい。1-2の敗戦に反町康治監督は「これが実力。湘南とは相当な差がある」とおかんむりだった。

「雄大から厳しいパスが来たけど、俺が何とかしなきゃいけなかった。あんな失点のつながるミスはプロになってからホント、初めてくらい。今季の山雅にとって大切な時期にあんなミスをしてる自分がね……。俺自身、情けないというか、ちょっと信じられない」と背番号3を着ける男は失望感を露わにした。

 それもそのはず。この日は2011年8月4日に急逝した故・松田直樹さんの命日翌日に行われた特別な一戦だったからだ。

背番号3の練習着でアップを行った [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 山雅の選手たちは彼の名が刻まれた練習着を身にまとい、普段闘争心を高めてゲームに入ったはずだった。そのけん引役になるべき背番号3の後継者が勝負を分けるミスをしてしまった。日頃、強気な彼も「(マツさんのことを思って)今日は寝れないですね……」と視線を落とした。

 6年前の8月2日。松田さんが梓川ふるさと公園のグランドで突然倒れ、信州大学病院に救急搬送された時、田中隼磨は名古屋グランパスでプレーしていた。

「名古屋の関係者から話を聞いて、もう心配で心配で、当たり前のように松本へ行きました。倒れた当日はマツさんが住んでた家に行って、ユキさん(佐藤由紀彦/FC東京U-15むさしコーチ)、俊さん(中村俊輔/ジュビロ磐田)、キジ(木島良輔/カマタマーレ讃岐)と朝まで一緒にいました。早朝にユキさんと一緒に車で帰って、練習してまた松本に引き返した。何往復したか分かんないけど、自然に足が向いていました。亡くなった時はホントに信じられない思いでした」と彼は当時を述懐する。

田中は松田と横浜FMでともにプレー [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 松田さんが「J1を目指す」と赴いた松本山雅移籍を決断し、2014年からプレーする田中隼磨は、先輩の思いをわずか1年で成就させた。翌2015年は瞬く間にJ2降格を余儀なくされたが、常に全身全霊を込めてチーム全体を鼓舞し続けた。網膜剥離で選手生命の危機に瀕した2016年も苦しい入院生活を乗り越えて完全復活。J1復帰こそ果たせなかったもののものの、その悔しさを今季につなげようとしている。「マツさんの遺志を引き継いでいこうという強い気持ちは今日だけじゃなくて、毎試合持って戦ってます」と、7月31日に当時の松田さんを超える35歳を迎えた背番号3は語気を強めた。

 とはいえ、走力主体のスタイルからボールポゼッションに比重を置いた戦い方にシフトしつつある今季の山雅は思うように結果が出ていない。湘南戦はまさにその象徴だった。

「球際だったり、セカンドボールへの執着心だったり、泥臭さだったり……。それは僕たちの持ち味にしてるところ。そこで負けていたら結果はついてこないですよね」と田中隼磨は問題点をズバリ指摘する。

松田直樹の魂は確かに受け継がれている [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 そういった部分は、まさに松田直樹さんが横浜や松本山雅、日本代表で体現していた部分に他ならない。現代サッカーでは必須といわれる要素だが、10年前の日本ではその部分を前面に押し出せる選手は少なかった。松田さんはそういう意味でも未来を先取りした存在だったのかもしれない。彼がピッチ上で示してくれたものを今一度、思い出し、地道にコツコツとやっていくこと。それが松本山雅の足踏み状態脱出の大きなポイントなのは、間違いない事実だろう。

 目下、松田さんと山雅で一緒にプレーした唯一の選手で、毎年墓参りを欠かさないキャプテン・飯田真輝も「球際を行こうと、裏取られてもいいから行こうよと割り切ったら、いい内容になった」と湘南戦の後半の改善を前向きに話していた。こうしたギアチェンジのどこかに、亡き偉大なセンターバックの姿が投影されていたのかもしれない。それをチーム全体が共有していくべきだろう。

 8月はこの後、12日の名古屋戦を皮切りに、16日のモンテディオ山形、20日のファジアーノ岡山、26日のFC町田ゼルビアと厳しい試合が続く。今こそ松田直樹さんの荒々しさや勇敢さを全員が思い出し、湘南戦の二の舞を避けることが肝要だ。「同じミスを繰り返しちゃいけないことは自分が一番、よく分かっているんで、しっかりやるだけです」と改めて気を引き締めた田中隼磨のリーダーシップに大きな期待を寄せたい。

文=元川悦子

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