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【サッカーに生きる人たち】青赤の血で勝利をもたらす選手たちを育てる|佐藤一樹(FC東京U−18監督)

2017.06.07

 14人の監督の知恵を消化し、FC東京の未来を照らそうとする人物がいる。

 佐藤一樹(さとう・かずき)さんは現在、FC東京U−18の監督を務め、若い世代の選手たちの育成に力を注ぐ日々を送っている。


「このチームから日本を勝たせるような選手を一人でも多く輩出できたらいいなと思っています」

 そう話す佐藤さんがプロとしてのキャリアをスタートさせたのは1997年。今からちょうど20年前のことだ。筑波大学を卒業後、横浜フリューゲルスに加入し、それから横浜F・マリノス、京都パープルサンガ、大分トリニータ、サンフレッチェ広島、横浜FCと計6チームを渡り歩いた。現役時代は主に右のウイングやサイドバックとしてプレーし、天皇杯制覇や所属チームの消滅、J1優勝にJ2降格など、まさに激動の9年間を駆け抜けた。

 目まぐるしく変わる環境のなかに身を置いていたが、その変化が現在の自分を育て上げたと佐藤さんは語る。

「環境が変わるとものすごいストレスがあって、そこに適応するいろんな大変さもあります。ただ、新しい環境や立場で、しっかりと自分の心と向き合うことが自分の成長につながっていくというふうに思いますね」

元バルセロナのスペイン人からの影響は色濃い

 2006年に指導者に転身してから11年目を迎えた。12年にFC東京U−18のコーチに就任し、14年からは監督を務めている。高校生たちの夢の実現をサポートする毎日を過ごしている。

 現役時代には、元日本代表監督の加茂周氏や岡田武史氏、元バルセロナのスペイン人、カルロス・レシャックなど14人もの監督と出会い、様々な薫陶を受けた。その経験が指導者としての今に生きている。

 なかでも、一年足らずの師弟関係ではあったが、横浜フリューゲルス時代の98年に指導を受けたレシャックからの影響は色濃いという。選手としてバルセロナでヨハン・クライフらとともにプレーし、同クラブの監督を務めたこともあるレシャックによる練習内容はまさしく「衝撃的」だった。

「あまり動かなくていい、とにかくボールを動かせ、立ち位置もある程度決められたなかで、というような指導は初めてでした。簡単にポジションを右から左に変更しますし、ウイングから3バックに変わることもありました。そういった大きな変化を怖がらない。肝っ玉がすわっているといいますか、ダイナミックな指導でしたし、僕自身も試合に使っていただいてたので、一番鮮明に残っています」

 出会った監督のなかでもとりわけ異彩を放つ指導法をしてみせたレシャック。その経験は佐藤さんの現在を充実させている。彼が示してくれたように、「動かない」という選択肢が意味を持つ局面があるとも考えている。

「今の指導なんかでも、日本人の良さを生かすパス&ムーブ、流動性とか活動性は大事だと思いますが、動きすぎずに賢いポジションをとるということも同時に大事なことだと考えています。そういったところはレシャックの影響を受けているのかなと思いますね」

選手の良さをしっかりと評価してあげる

 時計の針を戻す。06年、指導者としてスタートを切ったのは大学の先輩から誘われたのがきっかけだった。当時サンフレッチェ広島ユースの監督を務めていた森山佳郎さんのもとで新たな一歩を踏み出した。そこで森山さんから本気で選手と向き合うことの大事さを学んだ。

「森山さんは誰よりも努力される方ですし、誰よりも情熱をかけて選手とぶつかる方なんです。指導者としてそこが基準になったという部分で、僕はすごくラッキーだったと思います」

 こちらが本気かどうかは相手にも伝わっている。口先だけで伝えようとしても選手からは認めてもらえない。だからこそ自分自身も努力を怠ってはいけないと佐藤さんは言葉をつなぐ。

「ピッチの上だけじゃなくて、保護者との関係だったり学校との関係だったり、その他諸々のところにも目を配って選手を見守ってあげないと一流の指導者とは言えないと思っています。そういう意味では、自分自身の飽くなき探求心といいますか、そういう部分を常に持つようにしています。本気で選手とぶつかるというところは大事にしていますし、森山さんから影響を受けたところなのかなと思います」

 11年のなかで変わらないものがある。同時に変わったものもある。選手を伸ばしてあげたい、という根底にある思いは昔も今も変わらない。ただ、指導者になったばかりの頃はその情熱の表現の仕方がうまくいっていなかったという。

「『教えよう』という気持ちが強くなってしまって、一方通行が多くなってしまったかなと思います。あとは、ネガティブなところを突くことが多く、今では反省しています」

 しかし時間が流れるにつれて、佐藤さん自身にも様々な気づきがあった。より前向きに選手を見守っていく、ポジティブな部分を伝えていくというスタンスに変化していった。今では、選手の良さをしっかりと評価することで彼ら自身が着実に成長していくという実感がある。

「もちろんネガティブなことを言うこともあります。でも自分の良さが評価されていると自覚できていると、ネガティブなこととも向き合えるんですよ。自分はここはできている、認めてもらえている。そのうえで、でもここは良くないと言われれば、足りない部分に対してよりエネルギーをもって改善していこうという気持ちになるんだと思っています」

すべての能力をバランスよく育てる

 ゆくゆくはトップチームで活躍できる選手を育て上げたい。実際、現在は岡庭愁人を筆頭に、U−18所属ながら2種登録選手として10名の若者たちをトップチームに送り出すことができている。

 さらには、世界でも活躍できるようなプレーヤーの輩出を見据え、選手の成長を促している。たとえば選手の能力を、攻撃センス、守備力、テクニック、フィジカル、パスセンスのような5角形のグラフで表した時、世界でも戦える選手を育成するためには一つだけ飛び抜けたストロングポイントでなく、すべての能力をバランスよく伸ばしていく必要があると話す。

「今はやっぱりサッカーが多様化していて、攻撃だけ、守備だけ、とは言っていられない。戦術理解度の高いイニエスタのような選手であればどこのポジションもできます。そういった選手を育てるためには、様々な能力をどれだけより均等に大きくできるかが重要だと思います」

 ピッチ上の様々な状況で求められる能力をバランスよく高めていく。佐藤さんはさらりと話すが、「言うは易く、行うは難し」だ。万能型の選手を多く育成するのはそれほど簡単ではない。それぞれの選手のそれぞれの要素を大きく伸ばすために佐藤さんはトレーニングにもひと工夫取り入れている。自身が現役時代に体験した環境の変化もその一つだ。

「いろいろなポジションをやらせて理解を深める。あとは違った強度のチーム、たとえばU−18からU−23やトップチームで一緒にプレーさせたり、新1年生と3年生を一緒に練習させてみたりしています。そうやっていろんなストレスや刺激を受けるなかでいろいろな能力値を大きくしていく。そうするともともと持っているストロングポイントも勝手に伸びていくんです」

U−18を卒業させた後も夢は続く

 昨シーズン、FC東京U−18はクラブユース選手権U−18とJユースカップで2冠を達成した。今シーズンはプレミアリーグEASTを加えた3冠を目標に掲げ戦っている。

 そしてシーズンが終われば高校3年生はそれぞれの進路に進む。所属する選手全員が上のカテゴリーに昇格できるわけではない。それでも佐藤さんはU−18からトップチームへ昇格ができなかった選手たちのことも逐一追いかけている。選手たちの夢も、佐藤さんの夢もまだそこでは終わっていないからだ。

「大学に行った選手に関しても、今どのような状況なのかというのはだいたい把握しています。このタイミングでトップチームに上がれなかったから終わり、ということではないですし、大学でもうひと伸びする選手もいますから。U−18を卒業したら終わりではなく、逆に卒業してからが僕らの仕事なんだと思っています」

 U−18で育成し、トップチームへと昇格した選手たち。昇格を果たせず一度は大学へと進学しながら、そこで結果を残しもう一度FC東京へと帰ってくる選手たち。そういった「青赤の血が流れた選手たち」とともにまた戦いたい。7年前に、Jクラブの監督を務めるためのS級ライセンスはすでに取得した。今度はトップチームの監督と選手としてサッカーを追求したい、というのが佐藤さんの目標だ。

「僕が携わった選手が今、トップでもがんばってくれている。ですから、いずれはFC東京のトップチーム監督として、そういった選手たちともう一回一緒に仕事をすることをめざしていきたいですね」

 選手たちを世界の舞台で戦えるほどに育て上げ、なおかつ自身も飽くなき向上心を持ち続ける。夢を話す佐藤さんの目には、確かな情熱が宿っていた。

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インタビュー・文=松永大輝(サッカーキング・アカデミー/現フロムワン・スポーツ・アカデミー
写真=兼子愼一郎

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