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【サッカーに生きる人たち】この声でスタジアムをつくる|寺田 忍(水戸ホーリーホック スタジアムDJ)

 水戸ホーリーホックのスタジアムDJを務める寺田忍(てらた・しのぶ)さんに、スタジアムDJとして特に印象に残っている試合を尋ねると声が弾んだ。記憶はすぐ2010年10月31日にさかのぼる。

「思い出に残っているのは、初めてこのケーズデンキスタジアムに1万人の観客が入った時ですね。あの時は柏レイソル戦で、観客には柏サポーターも大勢いましたけど、今まで満員のスタジアムなんて見たことないですから、すごく感動しましたね。試合途中、僕、結構気合入っていまして、途中で声がつぶれるぐらいまでやっていました」

 試合には1-4で負けたものの、寺田さんは、サポーターと一緒に選手を後押しした。引く時は引き、しかるべき場面では気持ちを声に乗せる理想の仕事ができた。

 寺田さんの熱さは敵をもうならせたという。試合後、柏サポーターであり、試合に居合わせたミュージシャンのパッパラー河合さんが、自身のブログで寺田さんの“声”に称賛を送ってくれたのだ。

「パッパラー河合さんが、『すごく魂が入っていて感銘を受けた』というようなことを、書かれていて。相手のチームで、しかもDJについて言うことなんてあんまりないと思いますし、自分がそういうふうにスタジアムを盛り上げられていて、それに対して相手からも感銘を受けてもらったのはすごくうれしかったですね」

スタジアムDJはあくまでボランティア

 実を言うと、寺田さんの本業はスタジアムDJではない。本職は日立市のケーブルテレビ局、株式会社JWAY(ジェイウェイ)の社員で、様々な番組を制作する仕事を日々こなしている。水戸ホーリーホックのスタジアムDJはあくまでボランティア。つまり無償だ。それでも、多岐にわたる業務と向き合う一日はとても充実している。

「試合開始4時間前にはスタジアムに入りますね。まずは原稿や音声チェックなどをして、一度スタンドの外に出て、サポーターと情報交換をしたりイベントやグッズをチェックしたりしています。何か良い情報があったら、スタジアム内に戻ってその情報を紹介する。そして、試合が始まったら、選手交代時の選手紹介やゴールアナウンスという流れですね」

 スタジアムDJとの出会いは大学時代にあった。もともとはアナウンサー希望であり、大学に入学後、アナウンサー志望者が集まるサークルに入りアナウンスの勉強に励んでいた。すると2004年、不意に水戸ホーリーホックから、そのサークルに「サークルのなかにスタジアムDJとしてしゃべれる人はいませんか?」という話があった。「せっかくの機会だからやってみようか」と最初は軽い気持ちで始めたが、やがて水戸とスタジアムDJの魅力にどっぷりのめり込み、現在に至る。10年以上にわたり、スタジアムを盛り上げてきた。

少年時代にスタジアム観戦の素晴らしさを知る

 ボランティアとして水戸ホーリーホックを支える寺田さんは、地元、茨城県出身だ。そもそもは鹿島アントラーズのサポーターだったと話す。

「1993年にJリーグが開幕して、当時、僕自身は小学生でしたが、鹿島の試合があって名古屋に5-0で大勝してそれをテレビで見たら感動してサポーターになりました。ジーコやアルシンドが得点を決めて『すごい!』と思いましたね。初めてカシマスタジアムに足を運んだのが小学6年生の時で、湘南ベルマーレ戦でした。ジーコの引退試合でもあって、そのジーコがゴールを決めたんですが、あの時は本当に興奮しましたね。歓声はすごいし、小学生時代にはもう、スタジアムで見る楽しさにハマってしまっていました」

 スタジアム観戦という素晴らしいエンタテイメントの原体験を少年時代に持つ寺田さんは、常にこの原風景を胸にとどめている。少年時代に感銘を受けた光景、満員のスタジアムで、割れんばかりの歓声で選手たちを応援するスタジアム観戦の楽しさを水戸ホーリーホックサポーターにも伝えたいと考えている。

「深く考えず試合を見て盛り上がる。それだけでも楽しいと思いますよ。当然、試合以外にもグルメやイベントがあるので、そういった楽しみ方もあります。試合の後、何か楽しさを一つでも持って帰ってもらえれば僕としてもうれしいです。ぜひ皆さんにスタジアム観戦の楽しさを知ってもらいたいと思いますね」

 もともと鹿島サポーターでもあり、カシマスタジアムで長きにわたって満員の試合を見てきたその寺田さんは今、同じ茨城県でも鹿島アントラーズではなく、水戸ホーリーホックを無償の愛で支えている。水戸ホーリーホックとともに生き、自分の声で盛り上げようという決意が固まったのは、奇しくも鹿島との試合がきっかけだったという。

「大学生の頃、DJをやるかたわらアウェイでの鹿島とのプレシーズンの時に試合を観戦していました。その時に水戸の応援席を見たら、少ないサポーターのなか、がんばって応援している。その光景を見て、感銘を受けたんです。その時に、水戸のサポーターをもっと増やして、地域全体で応援していかなくてはダメだと思いましたね。しゃべっている以上、自分自身に気持ちがないとしゃべりもできないとも思っています」

「サポーターの声を消さない。これは一番ですね」

 寺田さんは、サポーターと選手が一緒に戦う場をつくれるようにこだわりを持っている。自身は「スタジアムをつくる」と表現したが、自分の声でサポーターの声をかき消さないこと、そして自分の声が応援のスイッチとなることを心がけていると話す。

「しゃべりで気をつけていることは、サポーターの声を消さないこと。これは一番ですね。選手を応援する主役はサポーターの方たちですしね。サポーターが応援して、一緒に戦う場をつくるというのが自分の仕事だと考えています。ですから、サポーターが声を出している時は、一緒にアクセントをつける感じですね。あとは、良いアクセントをつけることも意識しています。具体的に言うと、僕の声でサポーターが応援の声を上げるきっかけになるという感じですね」

 得点の際も重要な役割を担っていると考えている。一瞬の間も置かずに喜びを伝え、スタジアムを歓喜で満たすことがスタジアムDJの務めだと考えているからだ。

「ゴールの時、僕は入った瞬間に『ゴール!』と言うようにしています。タイミングがずれたら違和感があるし、だから、決まった瞬間にすぐに『ゴール!』と言えば、選手、サポーター、そしてスタジアム全体の雰囲気を盛り上げることになるんじゃないかと思っているんです」

「常にスタジアムを満員にしたいですね」

 夢は、冒頭で触れた柏戦のようにスタジアムを満員にすること。あるいは少年時代に見た原風景を日常の光景にすることと言ってもいいかもしれない。

 少年時代にスタジアム観戦のとりこになった寺田さんは、「常に満員になるようなスタジアムをめざすというのが一番の目標です。とにかくスタジアムを満員にしたいですよね」と目を輝かせる。

 できるだけ多くの人にスタジアムを運んでもらうために、スタジアムDJ以外の部分でも努力を続けている。現在、ケーズデンキスタジアムを訪れる観客は平均で5000人ほど。ここ数年、着実に右肩上がりで増えている。だが、まだ席は空いている。まだまだやれることがあると話す。

「僕は、試合の他にも水戸のイベントでクラブから『しゃべってください』と言われると、なるべく行くようにしていますね。水戸のお祭りで有名な黄門まつりにも出て、選手紹介や『こんなふうに応援しています』と紹介しています。それから、なるべく、水戸のグッズを身に着けるようにしています。ユニフォームやグッズを身に着けて常に水戸ホーリーホックの存在をまず知ってもらうようにPRしていますね。それをきっかけに、スタジアムに足を運んでもらう人が少しでも増えれば、という思いで自然とやっている感じです。やっぱり水戸ホーリーホックを応援してくれる人を増やしたいですから」

 取材から数日後、水戸ホーリーホックの本拠地ケーズデンキスタジアムに足を運んだ。青空のなか、寺田さんの声が響く。

「ぜひ、皆さんの力で今日水戸ホーリーホックに勝利を呼びましょう。ホーリーホックサポーターの皆さん、応援よろしくお願いします!」

 休日ということもあり、ホーリーホックを応援する家族連れのサポーターやサッカー好きの仲間たちで大勢にぎわっていた。そこに寺田さんの声が響き渡り、サポーターのボルテージが最高潮に盛り上がる。スタジアム観戦に魅了され続けている寺田さんの声のスイッチをきっかけに、サポーターと選手が一体となり、最高の雰囲気がスタジアムをつつんだ。

 
寺田忍さんの関連情報は下記をチェック!

Twitter:@hollyhockDJ
Facebook:寺田忍
Instagram:mitohollyhockdj

 

インタビュー・文=小室 聡(サッカーキング・アカデミー/現フロムワン・スポーツ・アカデミー
写真=藤本洋志(サッカーキング・アカデミー/現フロムワン・スポーツ・アカデミー

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