2017.04.19

【ライターコラムfrom甲府】『ボールを持つと苦労する』 “レアケース”を克服できるか

新潟戦後、肩を落とす甲府の選手たち ©J.LEAGUE PHOTOS
サッカーはもちろん、バスケや野球、ラグビーにも精通する“球技ライター”。

 シュート、パス、ドリブル…。サッカー選手はボールを持てば自由な選択が許される。チームとしてもポゼッションの時間が増えれば守備の時間は減る。素朴に考えればボールを持って損をすることは無いはずだ。しかしサッカーの守備戦術が高度化する中で『悪い持たせ方をさせる』という罠を張るチームが増えた。

 そんな罠の抜け方は、なかなか答えの出ない難題だ。特にヴァンフォーレ甲府のような守備マインドの強い、カウンター依存度が高いチームは、ボールを持たされることで試合運びが難しくなりやすい。

 2015年11月15日の天皇杯4回戦。甲府は後半ロスタイムに退場者を出した柏レイソル相手に、120分の土壇場でゴールを喫して敗れた。試合後の佐久間悟監督(現GM)は、こんなことを口にしている。

「我々はボールを持っているときがピンチで、数的優位がディスアドバンテージになってしまっていた」

 4月16日のJ1第7節・アルビレックス新潟戦(0-2)も、それを思い出させるような内容だった。甲府はまず11分にセットプレーから相手の先制を許す。新潟はリードを得たこともあり[4-4-2]のブロックを崩さず、ラインも深めに引いてきた。

 試合を通して甲府のボール保持率は60%を超えている。しかしチームが90分間に放ったシュートの総数はわずか5本。甲府が罠を抜け出せず、『引いている相手を崩す』という難題にもがく展開だった。吉田達磨監督はこう振り返る。「攻撃のスイッチが入ることが少なかった。相手にうまく吸収されたといえばそうだし、自分たちから剥がすアイデアや技術がちょっと足りなかった」

新井涼平

新潟戦での新井涼平 ©J.LEAGUE PHOTOS

 DF新井涼平はこう反省する。「新潟はホニ選手のカウンターを狙いに来て引いている。その中で(甲府は)うまくブロックの中に侵入する、ブロックの中で待つ選手がいなかった。裏のスペースもケアされていた。間で受ける選手と、そこに勇気を持って付けていくというのが増えれば、相手を引き出して、もっと嫌な位置にボールを運べたと思う」

 事前の想定とのズレもあった。新潟はハイプレスを持ち味とするチームで、その攻略を甲府は意識していた。吉田監督が1月からチーム作りをしている中で、相手のプレスを逆用するスペース作りとその活用は浸透しつつある。ただし新潟戦は『ボールを奪いに来ない』相手の攻略で苦しんだ。

 吉田監督は「プレッシャーが来たときに困らないトレーニングやイメージ作りはしていた。そうじゃなかったときに、入っていくところでひと手間かけないでよかった」と悔いる。相手を食いつかせるための人とボールの動きが、この試合に限っては無駄だったのかもしれない。

 もちろん新潟が『全く奪いに来なかった』ということではなく、例えば相手をサイドに押し出した状況下の連動的な守備にはやはり迫力があった。ただそれに対して甲府も2対2、3対3から狭い局面を打開する攻撃の連携を出せていた。課題はやはり「中央」「ブロック」ということになる。

 とはいえ監督、選手の言葉や態度から重苦しさは感じられなかった。例えばFW堀米勇輝は奪いに来ない相手の突きどころをこう説明してくれた。

「ボランチ脇を『くすぐる』ところと、(相手が)出なかったときにサイドバックがどう動いているか(がポイント)。自分もボールを持ってみて、やっていけたら崩しにかかれるんじゃないかというイメージがあった。ブロックだからこそ、崩しやすいところもある。もう少しボールの動かし方をチームで共有してやっていきたい」

 ベテランDFの阿部翔平はそれと違う方向性で、打開案を口にする。「空いたところにしっかりパスを通して、リズムを出すことが一番大事。(新潟戦は)点を取られた後はずっとアタフタしている感じだった。いつでも点を取れるというチームではないので、だからこそ慌ててしまうのかもしれないですけれど、試合をやっていく上で余裕が必要なのかなと思う。出し手の狙い過ぎる場面が多かった」

堀米勇輝

堀米勇輝新潟戦での堀米勇輝 ©J.LEAGUE PHOTOS

 最終局面では内側を突いて、強いプレーにチャレンジしなければ得点も生まれない。シュートのチャレンジも増やさなければならない。しかし新潟戦の甲府は「狙おうとして狙い切れない」というもどかしさの中で、文字通り“アタフタ”していた。

 甲府が先制点を許した時点で、時間は80分も残っていた。相手が奪いに来ないならば、まず自分たちのリズムを作るシンプルなショートパスを活用すれば良かったのだろう。そうやって相手に守備の的を絞らせず、迷わせるという駆け引きを使うべきだった。もちろん相手がラインを上げてきたら裏に蹴ればいい。前からプレスをかけてきたら“いつものボール回し”をすればいい。ただしいつも同じ狙いでプレーし続けると、相手も対応しやすくなる。膠着状態で利を得るのは、守っている側だ。

 甲府にとって『引いた相手を押し込む』展開はレアケース。とはいっても先制される、相手に退場者が出るといった理由から引かれる流れは今後もあるだろう。そういう新潟戦のような状況下で相手を崩すための用意、イメージの共有はやはり必要だ。

 再び引いた相手と対峙した場合、違いを見せられるのか? 難題を解けないままシーズンを終えてしまうのか? 敗戦と引き換えに、今季の甲府を観察する上での興味深いテーマを得た新潟戦だった。

文=大島和人

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