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【ライターコラムfrom清水】4年ぶりの“静岡ダービー”を通して静岡県民が望むこと

2017.03.31

2013年10月の静岡ダービーは清水が勝利 ©J.LEAGUE PHOTOS

「J1に昇格してから『今年はダービーを楽しみにしているよ』ということを、どこを歩いていても言われるんですよ。静岡出身じゃない僕らにはわからない歴史や背景があると思うし、静岡の人たちにとっては本当に大きな試合なんだなとあらためて感じます」

 そう語るのは、前回(3年半前)の“静岡ダービー”で決勝点をお膳立てした村田和哉。2014年と15年はジュビロ磐田がJ2で戦っていて、16年は清水エスパルスがJ2にいたため3年間行われていなかった伝統の“静岡ダービー”が、今週末リーグ戦で4年ぶりに再開することになった。


村田和哉

2013年10月の磐田戦での村田 ©J.LEAGUE PHOTOS

『サッカー王国・静岡』という呼び名は、県内チームの結果だけを見ると、今は実態を伴っているとは言えない。ただ、静岡県が他の都道府県ともっとも異なるのは、老若男女あらゆる層にサッカーが広く深く根付いていることだ。たとえば、今年ベガルタ仙台から移籍してきたGK六反勇治(鹿児島県出身)は「近所の公園で子どもと遊んでいるお母さんが、普通にインサイドキックとかリフティングができるのを見て相当ビックリしました(笑)」と語る。

 筆者は以前、地元の父親リーグで草サッカーを楽しんでいたことがあるが、高校選手権やインターハイで全国大会に出た経験のある選手が相手チームにいることも珍しくなかった。母校・藤枝東高では、校内でプリンスリーグなどの公式戦が行われると、地元の観客でスタンドがビッシリと埋まるのが日常的な光景だ。その中には、何十年も同校サッカー部を見守り続けてきた高齢者も多い。

 静岡に転勤してきたスポーツ新聞の記者がまず驚くのは、清水や磐田の練習に毎日足を運んでいる番記者が多いこと。当然、県内版のサッカー面の充実度は他県とは大きく異なっている。テレビでもサッカーの話題が取り上げられることが多く、それだけサッカー情報に対するニーズは大きい。プレーする人も観る人も多く、草の根レベルの底辺の充実度は今なお抜きん出たものがあり、それは長年かけて積み上げてきた歴史の賜物でもある。


99年のCS。PK戦前の沢登(清水、左)と中山(磐田、右) ©J.LEAGUE PHOTOS

 そんな土地柄のダービーマッチなので、過去にもさまざまなドラマが生まれた。もっとも有名なのが、1999年のJリーグ・チャンピオンシップだ。その年は1stステージで磐田が優勝し、2ndステージで清水が優勝したため、静岡ダービーで年間王者を争うことになり、その実現自体が静岡県民には大きな誇りだった。

 当然、試合内容も本当に熱い激戦となり、1勝1敗で得失点でも並んだため、決着はPK戦に持ち込まれる。結果は磐田の勝利に終わったが、沢登正朗の起死回生のFKなど多くの伝説が生まれ、それらは今も県民の中で語り継がれている。

 過去の対戦成績は、リーグ戦では清水の17勝5分22敗。2000年代初頭までは黄金期を築いた磐田が優位に立っていたが、2004年以降では清水が10勝5分5敗と勝ち越しており、現在は4連勝中だ。そんな中で、前回のダービーは2013年の第30節。清水が1-0で勝ったことで、磐田のJ2降格が決定的となったという因縁も残っている。

 また、清水はアウェイゲームでは7勝1分14敗と大きく負け越しているが、清水がホームゲームとして開催したこともあるエコパでは、6勝1分8敗とほぼ互角。エコパのこけら落としとして開催された2001年1stステージの戦い(磐田のホームゲーム)では、当時最強と言われていた磐田に、清水が延長Vゴールで勝った記憶も色あせてはいない。

エコパスタジアムのこけら落とし、2001年5月のダービーでは5万人以上の観衆を集めた ©J.LEAGUE PHOTOS

 清水も磐田も、今は一頃の低迷から少しずつ立ち直りつつある。両チームとも前回からメンバーが大幅に入れ替わっており、今回は“静岡ダービー 第2章”としてのリスタートとも言える戦いだ。そこに4年ぶりという待望の想いも加わってサポーターの期待は非常に大きく、エコパのピッチがかつてない雰囲気に包まれ、両チームの選手たちがいつも以上の力を発揮する様子が、今から目に浮かぶ。

「選手は(周囲の)期待に応えようと頑張ることで伸びていきます。うちもジュビロもこれから伸びていかなければいけないチームですし、ダービーで注目されることをきっかけに、静岡のレベルが上がっていけば良いと思っています」と清水の小林伸二監督は言う。

 両者が激しく切磋琢磨していくことでタフさや強さを身につけ、王国・静岡の復活を牽引していくこと。それが県民の誰もが強く望むことであり、だからこそダービーマッチの注目度も今まで以上に高くなっているのではないだろうか。

文=前島芳雄

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