2016.11.17

【サッカーに生きる人たち】サッカーを通して“生きる姿勢”を伝える|宮沢克行(浦和レッズ ハートフルクラブ コーチ)

編集者、サッカーライター、スポーツカメラマンを目指す人のためのアカデミー

 30度を超える猛暑日。浦和レッズ ハートフルクラブのコーチとしての取り組みなどをひとしきり聞いた後、野外グラウンドでの写真撮影をお願いした。

 ここからは歩いて10分ほどかかる。じりじりと照りつける太陽が悩ましいが、宮沢克行さんは猛暑にさらされないような気づかいを見せてくれた。

「僕が車を出しますね」

 そう言って自らハンドルを握り、私たちをグラウンドまで連れて行ってくれた。撮影中も気さくに話しかけ、場を和ませてくれた。その姿には、実直に歩んできたサッカー人生が凝縮されていた。

 宮沢さんは1999年に明治大学から地元の浦和レッズに加入し、プロキャリアを歩み始めた。2001年に一度は浦和から「契約満了」を受けたものの、その後アルビレックス新潟とモンテディオ山形でプレーを続けた。豊富な運動量と左足から放たれる精度の高いパスを武器に、当時J2だったチームのJ1昇格に貢献している。山形では2007年から5シーズンにわたって、キャプテンを務めた。

 12年に現役を引退。現役最後のクラブとなった山形からは指導者としての道が用意されていた。地域の人々からも必要とされていることは強く感じていたが、宮沢さんは“地元”埼玉で古巣に戻る決断を下す。浦和レッズ ハートフルクラブのコーチとして、生まれ故郷の子どもたちと向き合う道を選択した。

「山形での話は本当にありがたかったです。ただ、地元を離れて長かったですし、家族もいたのでいつかは戻らなくてはいけないと思っていました。それと、レッズからは01年にクラブを離れてしばらく経ってからも気にかけてもらっていたんです。10年近く契約更新やシーズン終了の度にずっと声をかけていただいていたので、その気持ちに応えたかったというのもありますね」

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まず何より「こころ」を育んでほしい

 12年に現役を引退する時の記者会見で、宮沢さんは、サッカーの技術と同様に、一人の人間として、子を持つ父親として、人間性を高めることを意識してきた、と話した。人間力を高めてこそ、という考え方の原点は少年時代に受けた指導にある。

「小学校の頃に在籍したストームサッカークラブでは、サッカーをやる中でも『サッカーだけじゃないよ』という指導者が多かったです。サッカーはある程度自由にやらせてもらいましたけど、きちんとあいさつをするとか、物を大事にするとか、そういった人としての行動に対しては厳しかったです。武南高校の大山(照人)監督も同じでしたね。サッカーの技術の部分もそうなんですけど、あいさつや身だしなみなど、サッカー以外の時の行動には本当に厳しかったです」

「人間として何ができるか」、あるいは「集団の中で何をすべきか」という心構えは現在ハートフルクラブで伝える内容にも通じる。13年から籍を置く浦和レッズ ハートフルクラブは性別や技術レベルで分けずに指導を行う。サッカーを通じて、子どもたちにまず何より「こころ」を育んでほしいという思いがあるからだ。

 学んでほしいのは、思いやりの心やコミュニケーションの重要性、そして一生懸命に取り組むことの大切さ。サッカースクールに加え、幼稚園や小学校、中学校での講演やサッカー教室を通して、いわば“生きる姿勢”を伝えている。

「サッカーコーチというと、技術とか、どうすればうまくなるかを教えるのが多いと思いますが、僕たちはその前にどんな『こころ』を持ってやらなくてはいけないのかというのを指導しています。例えば、練習に一生懸命打ち込む、思いやりを持ってプレーする、味方を信頼して取り組むなど、そういった『こころ』の部分を伝えようとしています」

 確かに、チームスポーツであるサッカーでは、チームのために最後まで走ったり、仲間に丁寧なパスを出したり、チームメートを信じてスペースに走り込んだりと、思いやりや信頼の心がプレーに影響する。“生きる姿勢”が、時には勝敗を分けることさえある。

単純な練習メニューでも楽しいと思って練習するほうが上達する

「どんなに良い練習メニューを与えたとしても、取り組む姿勢がなっていなかったり、仲間との関係がうまくいかなかったりすると、そのトレーニングの効果は薄まってしまいます。だから、一人でやる練習でも仲間と協力してやる練習でも、一生懸命に取り組むことが大事なんだよ、ということは子どもたちによく言いますね」

 そう語る宮沢さんは、サッカーと向き合う姿勢の重要性を伝えつつ、基本技術の大切さを教えたいとも考えている。試合で結果を出すためには、トップスピードであっても、相手に囲まれていても、疲れていても、しっかりとボールを止め、正確にボールを蹴る技術が不可欠となるからだ。宮沢さんは、成功を支える「ぶれない技術」は継続性によって確立されると話す。

「一人や二人でやるドリブルやパスのつまらない練習でも、プロの選手はこれが上手かったからプロになれたんだよ、と伝えています。基本的な練習をたくさんしたからプロは基本技術がしっかりしている。だから、子どもたちにはすぐには上手くならないということと、一日一日の単位ではなかなか成果が見えないけれど、続けていけば必ず1年後、10年後には違ってくるんだよ、ということはよく話しています。やり続ける心というか、あきらめない気持ちを持ってほしいですね」

 インサイドでひたすらボールを蹴る。浮いたボールをしっかりと止める。同じフェイントを何度も繰り返す。基本技術を養うトレーニングは、得てして退屈なものになりがちだ。ともすれば子どもたちがあきてしまうようなメニューをいかに継続させるかが、指導者としては重要になってくる。

「指導者が良いなと思う練習メニューをむりやりやらせるよりも、単純な練習メニューでも楽しいと思って練習するほうが上達すると思います。だから、キックの練習にしても楽しい練習になるようにして、いつの間にかキックが上手くなっていた、みたいな工夫は考えますね。そういう部分が指導者としての面白いところですし、頑張りどころでもあります」

 4年目の宮沢コーチは「まだまだ試行錯誤の状態ですね」と頭をかく。だからこそ、周囲からも様々な要素を吸収しながら、指導者としての可能性を高めていこうと考えている。高校時代の同級生で現在は教師を務めている友人や、長年高校サッカーに携わっている方々に指導法について話を聞くことも多いという。

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「今、レッズにかかわれていることはすごく幸せ」

 9月に40歳となった宮沢さんは、引退してまた浦和レッズに戻ってこれたこと、そして今でも温かい声をかけてくれる地域の人々に対して感謝の念を抱いている。「レッズでは大した活躍もしてないし、選手としていい思い出はあまりないんですけど」と前置きし、こう続ける。

「それでも今、レッズにかかわれていることはすごく幸せに感じています。今でも応援してくれる人がいるのは本当にありがたいですね。今やっていることはレッズとクラブを応援してくれる人たちへの恩返しになるので、精いっぱいやっていきたいです。あとは、スクールで指導している子どもたちが大人になった時に、『今でも浦和レッズを応援しています』とか、『あの頃スクールでやったことが生きました』と言ってくれることを楽しみにしています」

 今は「浦和レッズのために」と語るが、他の古巣への思いも忘れてはいない。現役引退後の14年、J1昇格プレーオフでは、J2で6位だった山形が準決勝でジュビロ磐田を2-1で下した。決勝の相手はジェフユナイテッド千葉。宮沢さんは会場の味の素スタジアムまで駆けつけ、かつての仲間とともに1-0によるJ1復帰を喜び、涙を流した。

「新潟と山形にもお世話になったし、温かく応援していただいたのでとても感謝しています。できるかどうかわからないですが、いつかは恩返しをしたいと心の中では思っています」

 指導者に転向して4年あまり。いずれ育成年代のチームの指導者として大会に参加したり、トップチームの指導者としても活動してみたいという気持ちもあるが、「自分がどこに合っているかはまだわからない」とも明かす。ただ、指導者としての未来が「まだわからない」とは、言い換えれば可能性は無限に広がっているということだ。

 どんな形であれ、たくさんの声援が響くスタジアムでプレーする選手を増やすことができれば、指導者冥利に尽きるだろう。サッカー選手であることの喜びは、プロ入りから3年目で一度は「契約満了」を言い渡されながら、14年間もボールを追い続けることができた自分自身がよくわかっている。

「今でも浦和レッズの試合を観戦していると、あのピッチに立ちたいと思うんです。プロのサッカー選手ってやっぱりいいなって思います」

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インタビュー・文=大塚 暁(サッカーキング・アカデミー
写真=大澤智子

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