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U-30億! プロビンチアから選ぶJリーグ2014前半戦ベスト11

2014.08.09

甲府の番記者・大島和人が選んだJ1リーグ前半戦のベスト11

J1リーグは7月27日に第17節が終了し、前半戦を折り返した。優勝争いは例年と同じく大混戦となっており、降格争いにもビッククラブが巻き込まれこちらも厳しさを増している。そこで『J論』ではJ1リーグ前半戦をオリジナル視点での「ベスト11」で振り返っていく。今回はクラブ自身が「プロビンチア」を自称する甲府の番記者・大島和人が選ぶベスト11。これぞ、Jリーグの底力。とくとご覧あれ。

■プロビンチアとは?


 ドイツならバイエルン、スペインならバルセロナと、世界ではその国の有力クラブを“核”にして代表チームを構成する場合がある。しかしJリーグで今それをやるのは無理かつ無謀だろう。良くも悪くも“世界標準”から外れている混戦リーグ。それがJリーグだからだ。

 試しにリーグ戦の勝ち点から“混戦度”を測ってみよう。バイエルンは2013-14シーズンのブンデスリーガを勝ち点90で終えた。一方で全18クラブのうち9位ホッフェンハイム以下の10チームが、その半分未満の勝ち点にとどまっている。例年より混戦だったスペインですら、12位ラージョ・バジェカーノ以下の9チームが、勝ち点は首位アトレチコ・マドリーの半分未満だった。

 近年のJ1はおおむね全18チーム中15~17チームが、首位の半分以上の勝ち点を挙げている。ビッグクラブが物足りないという言い方もあるが、中小クラブの善戦はやはり特筆に値する。13年の“セカンドステージ”優勝はアルビレックス新潟だった。今季も第19節終了時点でサガン鳥栖が首位に立っている。J1は大都市にホームを置いていない、経済的に大きな支援を受けられないクラブが、覇権を握り得る。そんなリーグになっている。

 そうしたJ1の状況に敬意を表し、今回の前半戦ベストイレブンは“プロビンチア選抜”とさせて頂いた。問題は地方都市の中小クラブを意味するプロビンチアの定義だが、まず2013年の営業費用(支出金額)が30億円未満というところで線を引く。2013年のJ1を見ると、18チーム中13チームが“30億円の壁”を超えている。30億7200万円という支出額で連覇を果たした広島に敬意を払いつつ、ここをラインとして選考から外させていただいた。

 13シーズンをJ2で戦ったガンバ大阪、ヴィッセル神戸も営業費用は30億円以下だった。しかしJ1で戦う今季は30億の壁を突破していると思われるし、大都市圏である地域性も考慮してやはり“プロビンチア”に含めない。

■核となるのは首位クラブ

 かくして今回の“J1前半戦ベスト11プロビンチア版”は仙台、新潟、甲府、徳島、鳥栖の5クラブを選考対象にすることになる。J2の松本あたりから助っ人を呼んでも良かったが、そこは冷徹(?)に排除している。

 GKは林彰洋(鳥栖)で決まりだろう。昨季は彼の途中加入から、鳥栖の守備が劇的に引き締まった。194cmの長身、長い手足に加えて、1対1の反応やパンチが効いたフィードも林の強み。ハイボールの捕球については、Jリーグでも彼の右に出るモノはいない。昨季なら東口順昭、林卓人と高レベルの“ベスト11争い”を観られただろうけれど、二人ともより大きなクラブへ去って行った。人材が引き抜かれていくのもまた、プロビンチアの宿命である。

 布陣は首位を走る鳥栖に敬意を表して[4-2-3-1]を採用した。右SBは様々なタイプが競り合ったが、松原健(新潟)をチョイスする。運動量とスムーズなドリブル、“動きながら精度の高いキックが蹴れる”部分は彼の強みだ。丹羽竜平(鳥栖)の守備力、ロングキックも評価したいが、鳥栖率が高まりすぎるという政治的判断もあって選外とした。

 CBは菊地直哉(鳥栖)と佐々木翔(甲府)のコンビにする。菊地は体格、スピード、技術とすべてを持ち合わせたオールラウンダーだが、三十路を前にしてディフェンスリーダーとして“周りを動かす”部分でも成熟が見られる。佐々木翔は現在3バックの左を務め、過去には左SBやボランチの経験もあるオールラウンダー。176cmとCBにしては小柄だが、実は昨季の空中戦勝率でJ1のトップ5に入ってもいる“隠れエアバトラー”だ。強靭なフィジカル、左右両足を苦もなく扱う技術に加えて、相手の狙いを察知してすぐ対応するクレバーさも持っている。

 左SBは安田理大(鳥栖)だろう。オランダから帰国した後の“激ヤセ”は、鳥栖のハードトレーニングの凄まじさを痛感させるインパクトがあった。今季はG大阪時代と同等以上のパフォーマンスを見せている。売りはやはり攻撃で、重心の低いドリブルや両足のクロスで得点に絡める攻撃的SBだ。ワンツーやフリーランニングで“使い/使われる”関係を構築できることもポイント。安田とキムミヌが組む左サイドは、鳥栖のストロングポイントと言っていい。

■最前線はもちろんあの男

 ボランチはまずレオ・シルバ(新潟)。プロビンチア云々を抜きにしてもなお選ばれる、J1のベストプレイヤーだろう。分身の術が使えるという怪説が飛ぶほど、縦横無尽神出鬼没に動き回れる選手だ。1対1で相手からボールを奪う能力はJ1最高だろうし、ボールを握ったら奪いようがないほどのキープ力もある。彼はもうちょっと別格である。

 レオ・シルバとコンビを組むのは藤田直之(鳥栖)でどうだろうか? 福岡大時代は守備の苦手な技巧派というイメージすらあったが、現在は正反対。ハードワークと守備を強みとするセントラルMFへと脱皮してみせている。左右のスペースを見極めて展開する技術と戦術眼、そして機を見て中央から切れ込むドリブルも兼備する。キック並みの威力を持つライナー性のスローインも、セットプレーでは大きな武器だ。

 右サイドハーフは太田吉彰(仙台)を起用する。彼のスピード、ドリブルはチームのいいアクセントになるだろう。左サイドハーフはキム・ミヌ(鳥栖)だ。決して大柄な選手ではないが、腰の強さでぐいぐい運ぶドリブルは脅威。左足担当として、セットプレーにおける役割も期待したい。

 1トップはもちろん豊田陽平(鳥栖)である。日本代表の“自分たちのサッカー”にはフィットできなかったのかもしれない。しかし“プロビンチアのサッカー”には誰よりもフィットするセンターFWではないだろうか。豊田の強みはもちろんヘディングにあるのだが、ただ高いというだけでなく、空中戦の“回数”が驚異的な選手だ。ジャンプはダッシュと同じか、それ以上に筋肉を消耗する強い動きだが、豊田はジャンプの“量”がJ1でも断トツ。前半は互角に競り合えていた相手DFが、後半になると豊田に圧倒されている展開もよく見られる。

 豊田のヘディングがすべてシュートというわけではない。彼の落としをどう収め、どう生かすかが鳥栖のスタイルでは決定的に重要なポイントとなる。セカンドボールを生かすために必要なモノは全体の切り替え、押し上げ、ポジションの伸び縮みだろう。ただその場にいればいいということではなく、空中戦と同様の球際の激しいバトルも必須条件だ。

 豊田陽平を生かすセカンドトップは、やはり池田圭(鳥栖)だろう。豊田が引いてハイボールを競るときは、池田が裏に走り込む。豊田がDFを背負って足元で受けるときには、後方でフォローする。そういう“生かされ方”が池田はピカイチだ。彼がドリブルで抜く、フェイントで翻弄することはあまり期待できない。今季ここまでのゴール数も「4」と物足りない。一方でチェイシングをさぼらず、セカンドに鋭く反応して球際でガツガツ行くプレーは、彼の十八番といっていい。プロビンチアのサッカーでは“前線の守備力”が問われるけれど、池田はそこを期待できる。

■彼らの健闘が示す日本サッカーの多様性

 11人中7名が鳥栖所属という結果になったが、J1の首位クラブなのだからそれも自然なことだろう。もしかしたら皆さんの知らない、決して有名でない選手が入っているかもしれないが、それは魅力的な人材がJに潜んでいるということの証明だ。このメンバーで試合をしたらザックジャパンとは随分と違ったスタイルになりそうだが、それは「日本サッカーの引き出しが実はもっと多い」ということをも意味している。

 日本サッカーには秘められた可能性があるし、才能の生かし方にはもっとバリエーションがある――。そんな嬉しい事実を示しているのが、J1におけるプロビンチアの健闘だ。

文●大島和人

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