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広島の佐藤寿人がリーグ連覇を振り返る「歴史に残るチームへ」

2014.01.15

写真=hummel (株式会社エスエスケイ

 リーグ21年の歴史の中で、1993~1994年のヴェルディ川崎、2000~2001年の鹿島アントラーズ、2003~2004年の横浜F・マリノス、2007~2009年の鹿島アントラーズに続いて、サンフレッチェ広島が、2012~2013年と連覇を飾った。サンフレッチェ広島のキャプテンであり、エースストライカーである佐藤寿人選手の言葉の中に、連覇の要因を探した。

■2012~2013年、J1リーグ連覇を達成


 2012シーズン、サンフレッチェ広島に移籍して8シーズン目となった佐藤寿人選手は「チームとして、個人としても待ち望んでいた」J1初優勝を飾った。「とにかく自分たちのやれるサッカーを続けていこうと無欲でシーズンに入っていく中で、徐々に優勝争いをした」と言う2012シーズン。2013シーズンは、ディフェンディングチャンピオンとして相手にもマークされる中で戦った一年となり、シーズン開始から4月末まではアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)があり過密日程も加わった。

「序盤はすごく難しい試合が多かったですし、やっぱり広島対策をとってくるクラブが多くて。2012シーズンは対戦相手が自分たちのやっているやり方を変えてまでもサンフレッチェの良さを消してくることはまずなかったので。2013はまずサンフレッチェの良い部分を消そうという形でのシステム変更だったり、戦術だったり。そこを上回るのはすごく難しかったですね。それでも時間が経つにつれて少しずついい試合ができるようになりました」

 2013シーズンは、運動量が落ちるラスト15分の失点が減り、34試合で29失点とリーグ最少失点を記録。守備の強さを見せつけた一年となった。「広島対策をとられた分、攻撃で圧倒する試合は少なかったですが、逆に守備の部分が2012年以上にすごく安定しました。自分たちの攻撃に対応し、相手が守備を固めているところに闇雲に突っ込んでいっても難しいですし。そういう意味で、試合に入る時に守備への集中が例年以上にありました」

 リーグ連覇は、1試合を残してホーム広島で優勝を決めた2012年とは違い、ラスト2試合で勝ち点5の差を逆転するという劇的なものだった。2013シーズン、連覇を目指していたのかと聞くと、笑いながら「思ってないですよ」と即答。「もちろんしたいですけど、したいとできるは違いますし。この世界に長くいればいるほど、連覇がいかに難しいか知っていますし、自分たちの置かれている状況は自分たちが一番よく分かっています。ただ『去年がたまたま良かった』とは言われたくはなかったので、連覇するっていう思いよりも、優勝争いに絡む、優勝争いを2年続けてするっていうのが求められていたと思います。もちろんその上で自分自身も何かしらタイトルをとって、ユニフォームに2つ目の星をつけたいっていう思いでシーズンに入りました」

 クラブ・ワールドカップを終えた2012年12月、これから世界と戦っていくための課題を尋ねると「完璧を求めると言うと大げさですが、それだけ高い質を求められていると感じました。いろんな選手と対戦し、状況判断が本当に早いなと感じることができたので、個人としてもチームとしても上積みしていきたいと感じました」と話した寿人選手。2013シーズン、目立った補強はなく、主力選手の移籍もありましたが、その言葉通り、チームと個人の上積みでサンフレッチェ広島は連覇を成し遂げた。

■森保監督への信頼感の厚さ

 チーム力アップについては、もちろん森保一監督の手腕と、それを支える選手からの信頼感の厚さも見逃せない。2012年、ミハイロ・ペトロヴィッチ前監督(現・浦和レッズ監督)が築いた広島の組織的な攻撃サッカーを、クラブ生え抜きの森保監督が引き継ぎ、更に攻守にわたってバランスのとれた新しい広島のサッカースタイルへと進化させた。「2012年、優勝という最高の結果を手に入れて、いかにチームとして一つになるかっていう大切さを学びました。あと、監督が『やれることをしっかりやっていこう』と常に言ってくれる人なんですよ。2013年は、優勝したベースの上に、さらにやり続けることで、それぞれの質を上げていこうっていう、継続していく進化を目指したトライができたんです。そういうベースがあったのが大きかったと思いますね」

「自力優勝はなかったので、普段通り臨めた」という2013年最終節の鹿島戦。「とにかく鹿島に勝つことだけに集中した」チームに、森保監督から選手たちの背中を押す言葉がかけられた。『鹿島は常勝軍団として、したたかさと勝ち方を知っていると言われてきたチーム。でも今のお前たちはその当時の鹿島のような力がある』と。その言葉に勇気付けられ、自信を持ってピッチへ向かった広島イレブン。「やっぱり鹿島が残してきたものは偉大でしたし、『今のお前たちは鹿島以上だ』ってすごい勇気を与えてくれたんで。天皇杯でも良い試合ができましたし(天皇杯4回戦、3-1で広島が勝利)、自信を持たせてもらった中でゲームに入れたという感じでした」

■全員で勝ち取ることができた連覇

 サンフレッチェ広島のチームスローガンは、2012年が『団結』、2013年が『一丸』。スローガンそのままに、「全員が同じ目標に対して同じ方向を向いて一丸となって戦うことができた」と言う寿人選手。そんな広島らしいエピソードが、最終節の選手交代でもあった。途中交代してベンチに退いたキャプテンの佐藤寿人選手が、森保監督に現役引退を発表している中島浩司選手の交代出場を直訴したのだ。

「監督も言っていましたが、『本来だったらホーム最終戦で、プレーしている姿を家族に見せてあげたいと思っていた』のですが、(第33節の)湘南戦は1-0のままでゲームを決めることができなかったんです。そういう部分で交代が難しかったっていうのがあったと思います。鹿島戦で2点入って、もちろん相手が一人少なくなっていたので、僕とミキッチが交代して、選手交代の枠があと一つで。みんなの思いは『あとはナカジさんに出てもらう』っていう、それしかなかったので。ベンチにいる選手も自分のアップよりも、いかにナカジさんに出てもらうかっていう感じで。そういった声や様子は見て取れたので、監督とコーチングスタッフに「どうですかね?」と話しに行ったんです」

 「もちろんピッチで試合は進んでいますし、まずは何より勝たないといけない。監督の考えや采配っていうのは一番だと思うんです。ただ、その次のいろんな思いっていうのは監督も一緒だったと思うので。うちもファン・ソッコ選手が退場になって余計に難しくしなった部分もあって。サッカーは10秒もあれば得点が入るスポーツですし、そういった意味ではすごく難しい判断だったと思います。監督は相当悩んでいたと思いますが、決断してくれました。最後ナカジさんのプレーが見れて、すごい嬉しかったですし、監督もコーチングスタッフもサブに控えている選手もピッチで戦っている選手もみんな思いは一緒でしたね」

■2年連続フェアプレー個人賞受賞

 優勝争いを繰り広げ、得点を重ね続けることは、DFのマークが厳しくなることを意味する。しかしながら、佐藤寿人選手は2年連続でフェアプレー個人賞を受賞。それどころか、佐藤選手は実に、丸4年以上にわたって、リーグ戦でイエローカードをもらっていない。そのフェアプレースピリットは、チームにも広がっており、チームも2年連続で警告数がリーグ最少を記録。サンフレッチェ広島もまた2年連続でフェアプレーチーム賞を受賞している。

「特別イエローカードをもらわないようにしてるわけじゃないんですけどね。考え方が大事だと思うんです。例えば、対戦相手を敵だと思うとマイナスの気持ちが出てしまうと思うんです。怒りだったり、憎しみだったりというネガティブな感情が生まれて、ラフプレーにもつながってしまいます。でも、同じサッカーを愛する仲間だとリスペクトすれば、フェアプレー精神でプレーできるのではないかと思っています。僕自身、カズさん(三浦知良/横浜FC)やゴンさん(中山雅史)の影響で、常にフェアな形でゴールを決めたいと思うようになりました」

 2013年のフェアプレー個人賞は佐藤選手の他、セレッソ大阪の柿谷曜一朗選手も同時受賞した。「Jリーグアウォーズの舞台で僕の前にスピーチをした柿谷選手が、僕がフェアプレー個人賞を2012年にとった姿を見て、『自分も欲しいと思って無駄なラフプレーしないように心がけた』とスピーチで言ってくれて。正直あの時はビックリして『本当かよ』って思ったんですけど、その後曜一朗と話をしたら『本当にこの賞欲しかったんで』って言ってくれたんですよね。そういう自分の考え方やプレーを、同じJでプレーしてる若い選手が見て、変えていってくれる。なおかつストライカーとしてゴールを残した上での、フェアプレー個人賞を受賞した柿谷選手を見て嬉しかったですし、そういった思いや考え方っていうのを、普段Jリーグを見てくれている多くの子ども達にもこれから伝えていけると思いますし、僕自身も下の世代に対してそう伝えていけるような背中でありたいなと思います」

■サンフレッチェ黄金期に向けて

 インタビュー後、色紙にサインと連覇への思いを書いてもらうようにリクエストすると、迷いながら、「何がいいかな。でも『連覇達成』とか書くと、これで終わっちゃったみたいで嫌なんですよね」と連覇を喜びながらも、既にその次に目が向けられていた。身長170センチとFWとしては小柄ながらも、常に課題を探し続け、どうプレーしていけば自分が生きるのか、相手が嫌がるのかを考え続けることで、10年連続二桁得点、J1で134点、J2で50点という実績を残してきた佐藤寿人選手。2013年、チームとしての課題は「夏場にあった」と言う。第21節(8/17)の名古屋戦、ロスタイムで同点に追いつかれ、翌22節大分戦(8/24)もドロー。その後3連敗を喫し、1ヶ月余りの間、勝ち星から遠ざかった。

「夏場5試合勝ちから見放されて。ホームの名古屋戦でロスタイムまで1-0で勝っていて最後のプレーで追いつかれたり、アウェイの大分戦でも残り短い時間で追いつかれたり。その時にもう少し何かできたんじゃないか、とは思いますね。あとは、レッズとマリノスとの直接対決で2敗。これは非常に悔しくて。『しっかりしろ』と自分に言葉をかけたいです」。連覇を達成しながらも「やっぱり、まだ満足はできないですよね」と言う寿人選手。「圧倒して勝ちたいって思いがあるので。優勝しても、フォワードは満足したらそこで終わりなんで。もっともっと上手くなりたいですし、もっともっと強いチームになりたいですね。自分自身を危険な選手に、ゲームを決められる選手になっていきたい。あとは、連覇したことで自分たちには3連覇のチャンスがあります。2013年にできなかったこと、足りなかったことを2014年にしっかり埋めていく上で結果を出せば、3連覇も見えてくると思います。これからのJリーグの歴史の中で、『あの時がサンフレッチェの黄金期だった』と言われるような結果を残したいですね。サンフレッチェの黄金期を作っていきたい、サンフレッチェを地元に必要とされるクラブにしていきたい、と強く思います」

 2014シーズン、Jリーグは3/1(土)に開幕する。さらに、2013年は勝ち星を上げることのできなかったACLの舞台が再び待ち受けている。「サポーターには、アジアで戦う姿を見て欲しいですし、背中を押して欲しいなっていう気持ちがあります。あとは本当に感謝の気持ちです。そして一緒になって連覇っていうタイトルを勝ち取ってくれた仲間におめでとうという言葉をかけてあげたいです」

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