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【ブラサカインタビュー】「日本で一番強いチームと戦えることにワクワクする」(齊藤悠希/buen cambio yokohama)

2022.01.22

buen cambio yokohama所属の齊藤悠希 [写真]=日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄

 第19回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権の初優勝が懸かるbuen cambio yokohamaがチーム創設以来、3度目の決勝ラウンドに進出した。しかし決勝では一度も勝つことができず、今大会では三度目の正直を狙う。

 今大会の準決勝ラウンド、兵庫サムライスターズ戦では齊藤悠希がGKを含めた相手選手全員を抜いてゴールを決め、話題になった。buen cambioでキャプテンも務める齊藤に、決勝戦へ向けた意気込み、ブラインドサッカーの魅力、この競技にかける想いを聞いた。

インタビュー=北健一郎
文=舞野隼大

■準決勝では全員を抜いてゴール

―――決勝が22日に控えていますが、buen cambio yokohamaにとって、齊藤選手にとってこのアクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権はどんな大会ですか?

齊藤悠希(以下、齊藤) チーム創設以来、日本一を目標に活動してきて、目標達成まであと一つというところまで来たので、優勝したい気持ちが強いです。過去に準優勝が2度、ベスト4が1度あるのですが、あと一歩、二歩のところで結果が出ませんでした。

チームは今年で「11」年目を迎えました。創設者の落合啓士監督がチームでつけていた背番号は「11」。この「11」という数字はチームにとって重要だと個人的に思っています。「11」年目という節目で決勝に上がることができたので、今大会は必ず優勝したいという気持ちが強いです。

―――落合さんは松本山雅 B.F.C.で、目が見えないなかで監督をするというチャレンジをされています。

齊藤 そうですね。この大会の初戦がおっちーさん率いる松本山雅 B.F.C.で、その試合に勝つことができて勢いがつきました。何か縁を感じますし、11年目で決勝へ行けたことも運命を感じるので、一層優勝したいと思っています。

―――今大会のbuen cambioの戦いぶりを振り返って、チームの状態などはいかがでしょうか?

齊藤 これまでは僕が中心となってやってきました。以前なら相手のエースや要注意人物を僕が見ていましたが、今は全員に任せられるくらいにみんなのレベルが上がっています。チームメートは大変だったと思いますけど、みんなが頑張ってエースを抑えてくれました。チームが一丸となって戦えていると思います。

―――チームの底上げが上手くできているという感覚?

齊藤 そうですね。2年前におっちーさんがチームから離れ「僕がおっちーさんの代わりをしなきゃ」と思っていましたが、なかなか上手くいかない部分が多かったです。

自分にはまだまだ足りない部分がありますが、そこをチームメートに上手く任せることができたと思っています。だからこそ自分が自由に動けるようになって、その結果、チームメートも自由に動けるようになる。良い相乗効果が生まれていると思います。

―――準決勝ラウンドで決めた齊藤選手のゴールがTwitterで話題になっていました。GKを抜き去って決めていましたが、これはよくあることでしょうか?

齊藤 ないと思います(笑)。

―――どんな感覚であのゴールを決めたのでしょうか?

齊藤 自分自身はGKを抜いた感覚はなかったです。ピッチの風が強くて空間把握が難しく、ガイドの位置がわからない状況でドリブルをスタートしました。

ほとんど感覚で相手を抜いていました。ガイドの位置がわかったのですが、自分が思っていた位置よりもズレていて、GKとシュートコースが被っていました。

「ここで打っても入らないな」と思って「中に動いて、コースを作って打たなければいけない」と切り替えました。相手のGKはシュートコースを消していましたし「打つしかないだろう」と思っていたはず。そこでギャップが生まれてGKをかわすことに繋がったのかなと。

―――ディエゴ・マラドーナの5人抜きのように何人も抜いてゴールが決まるのはブラインドサッカーの一つの魅力ですよね。

齊藤 そうですね。サッカーでは、カウンターの場面などでごぼう抜きする場面はありますが、珍しいと思います。ブラインドサッカーではああいうプレーがチャンスになると思います。

■高校でサッカーができなくなり、進学先でブラサカと出会う

―――齊藤選手は自分自身のどんなプレーを見てほしいですか?

齊藤 僕はブラインドサッカーの選手の中では体が大きい方です。上手く体を使ってドリブルをするところ、あとは必ずシュートで終わることを意識しています。どんな体勢でも、どんな場所からでもシュートを打って終わるようにしているので、そういうシュートに貪欲なところは見ていただきたいです。

あとはチームメートをパスで上手く使ったり、サポートしたりなどバランスを取る役割もしています。自分で点を取りにいかずに、味方を上手く使って、チャンスを作るところを見てもらえたらなと思います。

―――齊藤選手がブラインドサッカーを始めたきっかけは?

齊藤 僕は先天性で視覚障がいがあったのですが、小学2年生から高校までは普通のサッカーをしていました。高校2年生の夏、自分たちの代になってからはレギュラーとして試合によく出られるようになりました。

それから数カ月後の冬に目の病気が進行し、視野が狭くなっていきました。レギュラーとしてプレーしていましたが、病気の進行と共にベンチを温める日々が続くようになり、出場機会がなくなって引退試合では5分しかプレーできませんでした。

それでも小さい頃からボールを蹴るのが好きで「どうしてもサッカーがしたい」と悩んでいたとき、ブラインドサッカーを広めた日本ブラインドサッカー協会の前の事務局長と進学先で出会いました。そこで「視覚障がいの人でもサッカーができるんだ」ということを知って、それからはブラインドサッカーを続けています。

―――サッカーで不完全燃焼だった思いが大きい?

齊藤 サッカーができなくなることは本当にショックでした。小学校からサッカーが好きだったのですが、視覚障がいがあることで子どもの頃はプレーすること自体反対されました。

「クリスマスプレゼントや誕生日プレゼントは何もいらないからサッカーをやらせてほしい」とお願いしてようやくサッカーができるようになり、ずっとボールを蹴っていました。

それからサッカーはできなくなりましたが、ブラインドサッカーと出会うことができて「ボールが蹴られる」「またサッカーできる」という喜びが大きかったです。

―――ブラインドサッカーと出会ってどのくらいになりますか?

齊藤 大体10年くらいですね。

―――そこからbuen cambioに入ったきっかけを教えてください。

齊藤 元々僕はbuen cambioではなく違うチームにいましたが、チャレンジしたいという思いが強かったことと、おっちーさんとのつながりですね。

―――落合さんとはどんなつながりなんでしょうか?

齊藤 僕が兵庫県にいて、おっちーさんとは全く面識がなかったときに「日本代表が遠征するから試合相手に来てよ」という連絡がいきなり来たのが最初でした。東京に出たときも最初に連絡をくれた人がおっちーさんで「こういう体験があるから来ない?」といった連絡をマメにいただいていました。

おっちーさんは、ブラインドサッカーの普及や視覚障がいを持つ子どもたちに対してのトレーニングなど、いろいろなことをされていました。僕自身も優勝を目指すだけでなく、地域に愛されることや視覚障がいを持つ子どもたちに何かできないかと考えていたので、自分のやりたいことと合いそうだなと思ってbuen cambioに入ることにしました。

日本一を意識するようになったのもbuen cambioに入ってからです。それまではチームや関わってくださる方が楽しくなるようなサッカーを意識していましたが、buen cambioに入ってからはそれプラス、日本一を意識するようになりました。

―――齊藤選手にとって落合さんはクラブの創設者というだけでなく、大きな存在だったんですね。

齊藤 そうですね。いろいろなきっかけやチャンスをいただいたと思っています。

―――決勝のfree bird mejirodai戦に向けてはどんなことを意識していますか?

齊藤 僕はナショナルトレセンに選ばれていて、そこにはfree birdの選手もいます。何度も一緒に練習をしてきましたし、お互い高め合うような関係性です。

free birdは日本で一番強いチームだと思っています。自分たちのサッカーというのをやらせてもらえない可能性が高いなかでも諦めずに、予選や準決勝ラウンドでやってきたことを貫きたいです。

これまで自信をつけてきたことが、日本で一番完成度が高いチームにどれだけ通用するか。そして、ワンチャンスをモノにして必ず勝ちたいと思っています。

―――free bird mejirodaiの鳥居健人選手は自分たちのスタイルを「攻守一体のトータルフットボールです」と話していました。

齊藤 準決勝ラウンドの映像を見て確認しましたが、パラリンピックで見た日本代表に近い戦い方だなと。相当手強いと思いますけど、それで怖気付いていてもチームとして成長しない。強い相手とやるとき、ウチのメンバーはむしろ燃える選手が多いので、一番強いチームと対戦できることにワクワクしています。決勝が楽しみですね。

―――buen cambioの中で注目選手は誰になりますか?

齊藤 和田一文選手ですね。チームでも僕と同じくらい点を取れる選手です。晴眼の選手ですけど、すごく成長していて、前回大会の準決勝free bird戦で点を取ったのは和田選手でした。

そのときはトップのポジションだけしかできませんでしたが、この2年で僕と中盤を組むようになりました。相手のエースを任せられるくらい守備もできて、攻撃力と守備力の高い選手です。

あとは、5番の近藤凌也選手です。チームが行っている視覚障がいを持つ子ども向けのトレーニングに参加して実力を磨き、今はレギュラーとしてプレーしています。

ユーストレセンにも選ばれていて、一番若い選手です。まだ公式戦で点を取ったことがないですが「今後チームを背負っていく選手に育ってほしいな」という期待も込めて、彼にも注目してほしいです。

―――今大会はTBSラジオで初めて生中継もされます。

齊藤 この前のパラリンピックは見てもらえたと思いますけど、ブラインドサッカーが多くの人の目に触れる機会は少ないのでありがたいなと思います。

最近はYouTubeライブで見てもらえる機会は増えましたが「ブラインドサッカー」と検索しないと見てもらえない。そうなるとブラインドサッカーを知っている人にしか届かなかったと思います。

TBSのラジオを聴かれる方が多いと思うので「ブラインドサッカー」というワードだけでも耳にして今まで知らなかった人に「そういうものもあるんだ」と知る機会になればなと思います。

―――ブラインドサッカーに選手として関わっている方は、音で聞くことでよりイメージが湧いたり、YouTube以上に情報が得られる可能性は?

齊藤 あると思います。映像がはっきり見えてないなか、最近は実況が聞こえてイメージできる。うちの選手も、実況の言葉だけで、試合のイメージができると思います。アナウンサーの実況で、展開の早さも伝わるのかなと思っています。

By 北健一郎

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。株式会社『ウニベルサーレ』CEO。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経て、フリーライターとしての活動を始める。2005年から2009年までサッカー専門誌・ストライカーDXの編集者として働く。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」、「サッカーはミスが9割」など。

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