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川崎の連覇を支えた“噛む力” 意外と知らない?アスリートとガムの関係性

2021.11.09

 明治安田生命J1リーグの連覇を達成した川崎フロンターレ。近5年で4度の優勝と、現在の日本サッカー界をけん引する存在となっている。

 その川崎の力を支える一助となっているのが“噛合力”だ。

 2018年に「噛むこと研究部」を設立した株式会社ロッテは、創業の1948年からガムを作り続けてきた、その道の第一人者。そのロッテが川崎のサポートを開始したのは2019年のこと。

「噛むこと研究部」とは、科学の進歩で明らかになってきた“噛むこと”の必要性や“噛むこと”がもたらす意外なチカラについて、研究を進めるプロジェクトで、様々なアスリートに“噛むこと”が最も効果的に体験できるツールの1つとしてガムを提供。運動パフォーマンスに寄り添ってアスリートのサポートをしており、サッカーや野球、ラグビーといった団体スポーツや、フィギュアスケートの羽生結弦選手やプロゴルファーといった個人スポーツ、さらにはeSports選手に至るまで支援をしている。

 ロッテではプロジェクトの中心メンバーである東京歯科大学スポーツ歯学研究室、日本スポーツ協会公認スポーツデンティストの武田友孝教授とともに2019年にサポートを開始。中村憲剛氏(当時選手)を中心とした選手たちが噛み心地やフレーバーを監修し、カスタマイズしたスペシャルガムを作製・提供した。翌年には川崎のファン・アカデミーの小学生を対象に「ロッテ釜本サッカー教室」を開催し、数百名の子どもたちに向けて、スポーツにおける噛むことの重要性の啓蒙などをおこなった。

サッカー教室の様子

 2021年はガムのカスタマイズがさらに進化。武田教授と中村氏がタッグを組み、実際に噛合力、噛合バランスを測定後、硬さ、形状、フレーバーを組み合わせ、60種類ものパターンから「中村憲剛専用のプロフェッショナルガム」を作製するなど、より深く知見をためている。

 実際、練習や試合中にガムを噛むようになって5年以上は経つという川崎MF家長昭博は、「サッカーの時しか噛まないですが、自分の仕事にいまから行くぞという感じで噛んでいます。自分の中では試合や練習に臨む一つのルーティンになっています」と、ガムがスイッチの役目を果たしているという。また「味はブラックです。甘くないスースーするやつです。それは絶対ですね」とこだわりもあるようで、今ではガムを噛んでいないほうが違和感とまで話す。

家長昭博

川崎MF家長昭博

 プロジェクトの中心人物である武田教授は「噛むこと研究部」において“噛合取組”を実施。これは大きく3つの軸がある。

(1)口腔健康セミナー
・口腔健康の知識習得
・咀嚼(噛むこと)のさまざまな効果・知見についての講義

(2)咀嚼能力測定
・噛合力(噛む力<単位/N:ニュートン>)の測定
・噛合左右バランスの測定

(3)噛むトレーニング(トレーニングガムセレクト)
・(2)の測定結果を基に、形状2種/硬度3種/フレーバー10種=計60種のガムより、カスタマイズガムを製作
・セレクトしたガムを使用して、噛む力トレーニングを推奨・指導
※噛合バランスが左右50:50になることが理想のバランス。噛合左右バランスに応じて、左右いずれかに比重をかけてツールとしてのガムを噛むこと指導
※カスタマイズしたトレーニングガムをアスリート個人専用のプロフェッショナルガムとして提供

 武田教授は「人によって噛み癖があるので咀嚼能力は左右でバラツキのある人が多いですが、歯学としての考えでは一般的に左右50対50の咀嚼バランスが理想とされています。ただ咀嚼能力を整えるのにはそれなりに時間がかかります。今年、噛むこと取り入れておおよそ3年が経過する川崎フロンターレと千葉ロッテマリーンズが好成績を収めているのは、偶然ではないかもしれないですね」と胸を張る。

武田友孝教授

“噛む力”とはどれほどのものか。

 アスリートの歯への負荷について武田教授に聞くと、「すでに多くのアスリートが“噛むこと”を意識していますが、特にレジェンドと言われるような方はプレスケールによる測定で、嚙み合わせのバランスが良く、強い方が多いようです。また、そのためかお口の健康の維持・増進に積極的に取り組んでいる方も多いように思われます」と、実績のある選手、息の長い選手ほど、ケアをしっかりしていると話す。

「一般に、強い噛みしめなどでは、体重と同じくらいの力がかかると言われています。スポーツも同様あるいはもう少し強いことが予想されます。実際、長年激しい運動をした選手の歯はすり減っていたり、傷んでいることが少なくありません」

 では、スポーツを楽しむ程度の人たちや、将来のアスリートを目指す十代の子どもたちに必要なものはあるのであろうか。

「運動に適した体を作るためや、十分なエネルギーを発揮するためには十分な量、バランスの良い食事を摂取しなければなりません。身体のコンディション同様、常に虫歯や歯茎の病気のない良い状態に保つ、口腔状態のコンディション作りにも注意していただきたいです。また、噛むことの効果には、脳の活動、頸部筋・全身の筋活動、平衡機能の維持にも影響することもわかってきています。これらの効果を十分に得るためにも、噛み応えのある食事をとる、ガムなどを用いて咀嚼筋(あごの周りの噛むときに働く筋肉)を鍛える、トレーニングをするのもいいと思います」

「また、歯の破折などのケガは多くの場合、人工の材料を用いて形態・機能を回復します。皮膚の切り傷、骨折などと違い2度と元の状態には戻りません。サッカーでもトップ選手の使用が徐々に増えている、歯のケガを防ぐ、正しいマウスガード(歯科医が診察、かたどり、調整などをきちんとする)の使用も、若いうちから考えていただきたいと思います」

 アスリートと一緒に分析・改善していくことでパフォーマンスが向上するだけでなく、そのデータを生かすことで、次世代のアスリートを育てることにもつながっていく。

 最後に、川崎の守備を支えた一人であるDFジェジエウは優勝が決定した11月3日の試合後、「常日頃支えてくださっているすべての皆さんのおかげで勝ち取ったタイトル」と、選手・サポーターだけでなく、リーグ優勝についてすべての人へと感謝を示したが、多くのアプローチや取り組みがあってのタイトルとなったことは言うまでもないのかもしれない。

By サッカーキング編集部

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