2018.03.26

VAR、W杯での導入決定! でも実際どんなもの? 担当者のプレゼンをまとめてみた

セリエAの試合でVARが使用されている様子 [写真]=Getty Images
サッカーキング編集部

 夏に開催を控えたロシア・ワールドカップでは、これまでの大会には無かった新たな競技ルールが加わることになる。それはVARの導入だ。

 すでにFIFA主催大会やブンデスリーガ、セリエA、FAカップなどで導入が始まっており、日本でも目にすることが増えたこのシステム。Video Assistant Refereeの略称で、端的に説明すると主審がピッチ上で起きた事象について映像を用いて確認するためのシステムである。

 3月22日、サッカーのルール制定などを決める機関であるIFAB(国際サッカー評議会、International Football Association Board)のテクニカルダイレクター兼イングランドサッカー協会審判委員長を務めるデイヴィッド・エラレイ氏が、日本サッカー協会にてメディア向け説明会を実施し、1時間以上にわたってVARについてプレゼンテーションを行った。

■VARのフィロソフィー

JFAハウスで説明会を行ったエラレイ氏 ©J.LEAGUE

 まず説明会では「VARとは?」からスタート。IFABやFIFA(国際サッカー連盟)で、多くの、そして厳しい承認プロセスを経て決まったVAR導入のきっかけについて「目的は新聞の見出しを飾ってしまうような状況になることを防ぐことだ」と言及。「誰が見ても明らかで、疑う余地のないエラーを避けるため。そして、審判が見えない位置で起きた暴力的行為といった深刻な事象を確認するためのもの」と説明した。

 VARの哲学とは、「最小の介入で最大の効果を得ること」と説明会でも繰り返し口にし、ゲームを左右する事象にのみ適用することを強調。「フットボールとは常にグレーなエリアがあるもの。より多くのエラーを排除するために用いると、試合の中断や遅延につながり、それはフットボールではない、別の競技となってしまう」と話す。

 あくまでも「明らかな間違い、明らかな不公平」を対象としており、「局面ごとでベストな判定を得たり、100%の判定を達成するものではない」を説明。「誰が見ても明らか」の「誰が見ても」はどのくらいの範囲を示すかの質問については、「100%全員の同意はフットボールでは得られない。何度もリプレイを見る、何度もディスカッションするようなプレーにおいては、全員の合意を得ることにはならない」もので、「人によって『ペナルティだ』『ペナルティではない』と割れるようなプレーとなればVARは使わない」としている。

 VARを用いることで主審の影響低下や、判断に躊躇が出ることへの懸念については、「主審が常に判定を下し、確固たる判定を求めるため使用するもの」であると否定。その「確固たる判定」のためのアプローチを確かなものにすることや、前述の「誰が見ても」の判断をするためにも、主審の教育がVARを使用する際に最も重要で、その期間は半年から9カ月ほどかかると見解を示している。

■VAR対象のプレー

フランスvsスペインでモニター室とやり取りをする主審 [写真]=Getty Images

 では、VARを用いる対象となる「ゲームを左右する事象」とはどういったものか。IFABの年次総会で承認されたのは以下の通り。
(1)得点に関すること
(2)ペナルティキックであるか、そうではないか
(3)レッドカードに相当する行為かどうか(2度目の警告を含めたイエローカード相当の行為は対象外)
(4)間違った選手に対しての退場処分、警告処分であったかどうか

(1)については、ゴールに結びつく一連のプレーにおいて、反則などがあったかの確認となる。VARを用いて効果的な運用ができた例として2017年3月に行われたフランスvsスペインの親善試合を挙げる。この試合ではフランスの先制点がオフサイドとして取り消しになり、逆にスペインの2点目は副審がオフサイドの判断をしたものの、VARで確認した後、オフサイドはなかったとして得点が認められた。エラレイ氏は「1-1で終わったかもしれない試合が2-0とことは重要なこと」と話す。

 また、「一連のプレー」については、「どれぐらい前のプレーまで戻って確認するかという話においては、ゴールもしくはPKにつながった攻撃の起点までとなる。オープンプレーでチームがどうやってポゼッションを得るに至ったかということ」と話す。

 VARを使用するタイミングについてはアウトオブプレーとなったところで、主審が判断をする。VAR担当審判とコミュニケーションを開始する際は主審が耳に手を当てるサインを示す必要があり、VARの確認を開始する際と判断を決めた際にはそれぞれ、モニターを描くジェスチャーをするアクションが必要となる。

■チャレンジシステムの導入は? 試合の遅延になるのでは?

テニスのチャレンジで用いられる『ホークアイ』システム [写真]=Getty Images

 VARは主審の判断で使用するかどうかを決めるものとなる。他のスポーツでは回数制限を設けた上でビデオ判定を主審に求める『チャレンジ』を導入しているものがあるが、エラレイ氏は、「VARとは自動的にチェックされるものであり、選手や監督からの異議申し立てで行うものではない。原則として主審が常に判断を下すということだ。常に確固たる判定を求めるために主審が使用するということ。見直しは主審が始め、主審ができる。仮にチャレンジの回数をオーバーしてから、不公平な場面が生まれた時には、それを正すことができない」と回答。すべての不公平、明らかな間違いを是正するためのシステムであるため、チャレンジを導入することについては否定した。

 現在、ファンからのブーイングの対象にもなっている試合の遅延については、「VARを使用中は時間的なプレッシャーが主審に与えられることはない。精度が重要だからだ。リプレイが見られるということは2度目のミスは許されないので、スピードより精度が大事」と説明。「非常に重要なことは、主審が最終的な判断を下し、それはVARではないということ」と、主審の判定がすべてであると繰り返し強調する。

 一方でこれまでVARを用いた試合のデータについても言及。

・世界中のトップレベル972試合でVARを使用し、ベルギーの大学で結果を検証。
・VARが使用されたのは3試合に1回の割合で、約70%の試合でVARの介入が無かった。
※試合を通じて1回使用されたのが約25%、複数回が残りの約5%。
・VARの1回の使用においての試合遅延は平均55秒。
・2017年に行われたチャンピオンズリーグとヨーロッパリーグの準決勝・決勝の10試合を分析すると、1試合平均、FKで8~9分、スローインで7分、ゴールキックで5分、CKで4分、選手交代で約3分を失っている。
・明らかなエラーに対する判定の精度は99%近くにまで向上。
・VARを使用し、判定が覆らなかったケースは10~15%ほど。

 上記のデータを踏まえ、「VARで失われている時間は少ないと言える」と、他のアウトオブプレーの時間を考えれば、「最小の介入で最大の効果を得ること」に寄与できると説明している。

 さらに質疑応答では主審が確認している映像をスタジアムのビジョンでも移して、観客に示すといったことを検証しているか問われたエラレイ氏は、「将来的には運用は各国に委ねる」としつつ、「ネガティブな面としてはその映像を見た観客やベンチのスタッフなどが過剰に反応をすることなどが起きることが挙げられる。例えばラグビーにおいては選手などから映像を流すことを嫌がるという意見もある。その雰囲気がジャッジに判定しているのではという疑念などを抱えてしまうからだ。私からの提案としては映像を流すのではなく、どういったプレーを確認しているかメッセージを示すといったことがよいのではないかと思っている」と、ジャッジへの影響はないと考えつつ、現場からの意見も踏まえた私見を述べている。

■日本での導入は?

11月の日本vsブラジルではVARで吉田麻也がPKを献上 [写真]=Getty Images

 FIFA主催大会以外にもブンデスリーガやセリエAではすでに導入されているVARだが、日本はまだ導入しておらず、あくまでも「準備」にとどまっている。

 VARがスタンダードとなれば、もちろん日本も導入をすることになるであろうが、エラレイ氏は、「早急に導入をしないこと」を、アドバイスとして送る。これには前述の主審の教育という部分が大きく、焦って導入することによって、余計に混乱などを招く可能性があるからだ。

 説明会に同席していたJリーグの原博実副理事長も教育が大事なことを強調するとともに、金銭面での負担も懸念として挙げる。「W杯はトップオブトップの大会だからいいかもれないが、例えばJ1からJ3まで導入すれば莫大な人員も必要。J1だけの導入でいいのか、という議論もあるし、グラスルーツもどうするのか」と、スポーツ競技として画一化されたルールを適応できないという面での危惧も挙げる。

「まずは世界でVARがどう使われているかをしっかり分析をする。Jリーグで導入しているアディショナルアシスタントレフェリー(追加副審)も時間がかかった。オフラインでVARを試したりもしました。例えば試験的にJ3などでやってみる、という可能性もある。いきなりJ1で始めますというのは難しいかなと。来季にすぐやるとかではない。費用なども考えながら。ただ準備はしないといけないとですよね」(原副理事)

 VARとはどういうものか、という認知も必要となる。エラレイ氏は「特に導入初期は問題がたくさんあるということを理解してほしい。何か新しいことを始めるというものは何でもそうなように。メディアの皆さんがVARの主目的が何であるかを理解してくことが大切だし、スタジアムでも、なぜ中断・遅延しているかをわかってもらうコミュニケーションが大事になってくる」と話せば、原副理事も「一般の方に知ってもらう時間も必要で、正しく伝えることが大事です。Jリーグの選手たちも今日の説明会で話されたことほどVARのことを知らないと思います。まず、監督や選手にも指導をしないと大混乱になります。W杯での導入は決まっていますので、代表選手は協会が主導でやると思いますが、しっかりとレクチャーをすることがポイントですね」と、同様の意見を示している。

■VARを導入するということ

[写真]=Getty Images

 エラレイ氏は「主審がミスを認めた場合、皆さんにはそれを受け入れてほしいと思っている。リアルタイムでは一回しかその場面を見られないからだ」と説明会中に口にした。

「VARは選手の行動を変える、試合の高潔性を改善する可能性を秘めている。例えばシミュレーションかどうかはわかるようになるし、明らかな不正行為は罰せられる。主審を“操作”しようとすることは難しくなる」

「人によってはすべての誤審がVARでなくなると思っているが、それはあり得ない。最小限の介入で最大限の成果を得ることを求める人もいる。VARの使用・導入はすごく難しいことだが、胸が高鳴る課題でもある。VARを正しく使えば主審の一番の味方となり、ひいてはフットボールの味方になる」

 エラレイ氏は説明会をそうまとめた。新しいチャレンジには不安や不満が付きまとうもの。それを取り除いていくには時間と理解、様々な意見交換による改善が必要となる。すべてはフットボールがよりよくなるために。

取材=小松春生

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