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“コミュサカ”を知っていますか? 地域リーグ開幕戦、ボンズ市原の戦い

ボンズ市原の西村監督 [写真]=重田航

文=川本梅花

「コミュサカ」という言葉がある。

 この言葉の守備範囲は、J3、JFL、地域リーグ、都道府県リーグ、フットサル、障がい者サッカーなどが含まれる。サッカー日本代表、J1、J2以外のサッカーのクラスが「コミュサカ」にあたる。地域リーグのクラブを応援しているコミュサカ・ファンが話してくれたことだが、「応援しているクラブがJFLに昇格したら、もう追いかけないかもしれない。別の地域リーグのクラブを応援するかも」と語った。

 彼のような思考は面白いと思う。一般的には(一般的が何なのかさえ現代では例えとして怪しいのだが)、応援するクラブが下部クラスから上部クラスへと昇格していく姿を同時に体験する喜びに、ファン心理が育まれると考える。たとえば、「ああ、やっとJ3からJ2に昇格した。ここまでの道のりは本当に長かったな。応援してきて良かった。さあ、次はJ1を目指すぞ」などと。苦楽をともにしてきたという同時性にファンが酔いしれる瞬間がやってくる。下から上に昇っていくという喜び。次は上のステージを目指すという上昇志向。

「コミュサカ」のファンは、そうした思考の持ち主では、どうもないようだ。これは、私の周辺にいるファンだけかもしれないが、地域リーグならばそのリーグの中だけで成立する世界を愛する趣向の持ち主である。細分化した中での特権性とでも言えばいいのか。そうした「コミュサカ」のファンたちがスタジアムに足を運んでくれて注目してくれるから、地域リーグなどのクラスが成立していると言える。

 4月4日、風が吹き荒れた土曜日の午後3時、ゼットエーオリプリスタジアムでは、地域リーグの開幕戦、ボンズ市原対日立ビルシステムサッカー部の試合が始まろうとしていた。スタジアムには関係者を含めて1100人の観客がつめかける。スタンドからは、ボンズ市原のジュニアユースの子どもたちの声援が響き渡る。

■情に棹させば流される

 試合は、ボンズ市原が3-0で勝利する。

 西村卓朗監督が率いるボンズ市原は、[3-2-4-1]のシステムを採用する。守備の際は、両ウイングバックが下りてきて[5-4-1]になる。この試合では、奇妙というか、前半と後半では偏った攻撃サイドの展開になった。その理由を試合後の西村監督に尋ねてみた。

「前半は右サイドでボールが展開したのが80%。逆に後半になると左サイドでの展開が70%。どうしてこのような偏った展開になったのですか?」と監督に聞く。西村監督は、「それにはちゃんとした理由がありますよ」と答えを準備していたかのように流暢に話し出した。

「右サイドがワイドに開く展開になったのは、センターバックの坂本和哉、ボランチの仲座昇吾が、右サイドに振るのが得意なんです。あと背番号5番の右ウイングバックをやった庄司佳佑は、攻撃的なセンスがある。あそこにボールが入るといい攻撃ができる。逆サイドのウイングバックの田中雄一は、上下動をする選手なので、前が空いてれば縦にいくし、そうでなければステイする判断力に長けた選手です」

 さらに、監督はハーフタイムでの指示についてふれた。

「ハーフタイムで『コの字にボールを動かすように』と指示したんです。コの字とはウイングバック、ストッパー、逆サイドのウイングバックとボールが動いていくことで、ボランチを経由してもいいんですが、要するにボールを横に動かしていこうと。『コの字にボールを動かすとマイボールの時間が増えるよ』と話をした。後半になって、右サイドを起点にしてボールが左サイドに渡ることで、左サイドの選手が前を向いてボールをもてるようになってチャンスができた」。

「そう言えば、左サイドの中島康平が縦に抜けてクロスを中に入れた。それに反応したミッドフィルダーの今林(義祐)がゴールを決めたシーンがありましたね」と尋ねると、「あれは左サイドから展開された攻撃の象徴的なプレーです」と返答をもらった。

 中島は前半、1トップのフォワードとして相手に潰されていた。縦パスが中島に入ると、日立ビルシステムの選手たちは2、3人で囲んでプレッシャーをかける。中島にボールが入ると、ボンズ市原の攻撃のスイッチになることから、相手は中島にボールが入らないように潰しにかかってきた。後半途中から、フォワードに宮内亨がついて中島はシャドーとして二列目にポジションを移動した。そこでのプレーは、縦への突破とクロスの精度は見るべきものがあった。中島が気になり、どんな選手かを聞いてみた。

「中島は、2年前のトライアウトから注目した選手です。フィジカル的な能力が高い。トライアウトという場所は、自分を売り込む場で、いかに自分のプレーが出せるのかというところに目がいく。チームの補強ポイントがフォワードだったので、彼に声をかけました。町田ゼルビア(中島の前所属クラブ)では試合に出られなかった。メンタルに関して、気持ちの上下動もあったようだ。話をしてみて、純粋にサッカーが好きなんだ、ということがわかったんです。僕から見れば、彼は今までサッカーをちゃんと教わってないように見えた。プロの世界は『自分で這い上がってこい』という世界なので、その中で自分の良さや課題にどうやって取り組めばいいのか、というきめ細かい指導を受けてきていない、と映ったんです」

「サッカー選手が上手くなっていく中で、チームの練習と試合に関わることでレベルアップするんですが、最終的にはもっと個人レベルで技術的なところだったりフィジカル的ところだったりを鍛えていくことが重要なんです。彼とはいろいろとコミュニケーションをとりながら、メンタル的なところをいろいろな切り口をもって、僕がいかに彼に提供していけるのかで、彼が伸びて行けるところがでてくると思っているんです。そこら辺は、やっと指導者になって僕自身も選手に対してできるようになってきたと思います」

 もう1人、面白いプレーをする選手がいた。先にも述べたフォワードの宮内亨である。知人のコミュサカ・ファンによれば、宮内はボンズ市原で人気が高い選手だという。その理由は、彼がボンズ創設当時からの生え抜きの選手だからでもある。

 西村監督によれば「宮内の良さというのは、気持ちを乗せてプレーできる点です。後半途中から出場する機会が多い。途中出場で出ても得点を挙げられる力がある。出場時間の割合からすれば、得点率は高い。彼が入ると得点が生まれる予感をもたせる。指導者からすると、教えられないものを持っている稀な選手だ。ボンズ市原を象徴するレジェンドだと言える選手」だと語る。

 今のチーム完成度について問うと、「今日の開幕戦は、ポテンシャルを考えたら60%くらいの完成度だと思います。ただ、もっともっとよくなる」と自信をのぞかせる。「選手が昨年から変っているけれども、ずっといる選手と新しい選手との兼ね合いは難しいんじゃないのか」と聞くと「チーム強化の点において、上を目指すためには立ち止まることはできない。今までいた選手には頑張ってほしいし試合に絡んでほしい。ただ、やはり競争の世界に身を置いていかないと、僕自身も立ち止まることになってしまう。そこはもうプロを目指す以上競争という環境は必要です」

「彼らの生活だったり、サッカーに対する思いだったりを考えて、そうした中でレベルを上げて行こうと思って取り組んできた。すごく情が入ってしまって。でも、上を目指すならば、とにかく競争させて、去年まで試合に出ていた選手も『これではいけない』と考えて努力をしていけば、選手自身も成長していくと思うんです」。

 今季の目標について尋ねると、「今季に関しては、JFL昇格、でもそこは通過点だと考えています。うちの選手は、27歳、28歳の選手が多いんです。彼らのキャリアを考えても、ここ1、2年がラストチャンスだと思う。とにかく立ち止まることができない。彼らのサッカーにかける想いは、Jの選手に劣るところはない。だから、とにかく結果に繋げたい」と話して西村監督は言葉を締めた。

 西村卓朗監督は、情を断ち切って厳しい決断を下せるのか。彼は、果たしてどのようなチームを作っていくのか。これからの動向に注目しよう。

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