2014.11.11

ブラサカ世界選手権に臨む魚住監督「目を閉じ、耳を澄ましてみて」

チームを率いる魚住監督

 16日に、アジアでは初開催となるブラインドサッカー世界選手権大会が、東京・国立代々木競技場フットサルコートで開幕する。人間の情報収集の8割を担うともいわれる視覚を遮断した状態で行う、究極のサッカーだ。これほど難しいボールゲームは、ほかにないだろう。「目」を使わずにサッカーをするとは、一体どういうことなのか。プレーする選手はもちろん、見る側にも想像力が求められるスポーツだ。

「初めてご覧になる方には、見えない状況を頭の中でイメージして、どうすればうまくプレーできるかを考えてもらうといいでしょうね。選手たちは味方と緻密なコミュニケーションを図り、視覚以外の感覚を研ぎ澄まして、フィールド全体の状況を認識しています。そのあたりに注目すると、この世界選手権をより楽しめるのではないでしょうか。試合中に、ちょっと目を閉じて、耳を澄ましてみてもいいかもしれません。選手たちがいかに難しい環境でプレーしているのかがわかると思いますよ」

 そう語るのは、日本代表の魚住稿監督だ。現在は普通高校の体育教員だが、かつては盲学校で体育を教えていたこともある。指導者にとっても、見えない相手に体の動きなどを教えるのは簡単なことではないだろう。

「どんなスポーツでも、見える人はまず模倣から始めますが、見えないとそれができません。『百聞は一見にしかず』といいますが、その『一見』ができないので『百聞』で理解するしかない。こちらとしては、まずいろいろな言葉で表現して、相手にとってわかりやすい説明を探していくことになります。たとえばドリブルをしながらボールを蹴るといった複数の要素を含む動作を説明するのは、本当に難しいですね」

 たとえば日本代表の黒田智成選手は、7歳で全盲になったため、本物のサッカーを一度も見たことがない。だが、あのジネディーヌ・ジダンが得意としていた「ルーレット」を完璧にこなす。ネット上で探した説明文を(音声読み上げ機能を使って)読み、晴眼者の動きを手で触るなどして覚えたそうだ。ひとつの動きをマスターするのに多大な時間と労力がかかるのが、ブラインドサッカーである。

「実際、選手の育成にはふつうのスポーツよりも時間がかかりますね。現在の代表チームで中盤の重要な役割を任せている加藤健人は、高校1年までサッカーをやっていて、10代後半で目の病気を発症しました。それでも、世界と対等に戦える選手になるまで9年ぐらいかかっています。サッカーのセンスやスキルがあっても、すぐにドリブルができるようになるわけではないんですよ。個々の選手たちも、代表チームも、この10年間の積み重ねの上に今があるんです」

 10月に韓国・仁川で開催されたアジアパラ競技大会に出場した日本は、その加藤の守備面での活躍もあって、アジア最強だった中国を完封。加藤を出場停止で欠いたイラン戦は0-2で負けたものの、銅メダルの中国を抑えて銀メダルを獲得した。続く世界選手権でも、魚住監督が強化に取り組んできた守備の成否が成績を大きく左右するだろう。

「今の日本が目指しているのは、決して見栄えのするサッカーではありません。ベースは、あくまでも守備。まずは良い守備ができないと、良い攻撃もできません。忍耐力やひたむきさなど、もともと日本人が持っている良さを最大限に活かそうと考えています。アジアパラの中国戦も、見ている人には攻められる時間が長く感じられたでしょうが、その大半はあえて『攻めさせていた』もの。危険なエリアからは、ほとんどシュートを撃たせませんでした」

 たしかに、1-2-1のダイヤモンド型の陣形を崩すことなく、敵のドリブラーをアウトサイドへ追い出す日本の守備は、中国に対してきわめて有効だった。シュートの大半は角度の薄いエリアや遠い距離から苦し紛れに撃たれたもの。その多くはゴールマウスから大きく外れ、日本のGKを脅かすことはなかった。

「アジアパラでは、これまで自分たちがやってきたことが間違っていないという手応えと自信を得ることができました。ですから世界選手権でも、基本的なやり方は変わりません。とくにグループリーグの3試合は、確実に勝ち点を重ねられるような戦い方になるでしょう。準々決勝以降は、守備と攻撃の時間を明確に区切って、相手の選手交代なども見ながら、勝負所を見極めるつもりです」

 グループAの日本は、パラグアイ(16日)、モロッコ(18日)、フランス(19日)の順で対戦する。パラグアイは、8年前のアルゼンチン大会でも初戦で当たって0-3で負けた相手。アフリカから世界選手権初参加となるモロッコの力量は未知数だが、手足の長い選手が多く、体格で劣る日本が苦手とするタイプだ。フランスとはやはりアルゼンチン大会で同組となり、1-1で引き分けた。2012年のロンドンパラで銀メダルを獲得した強豪だが、日本は昨年12月と今年9月の欧州遠征でも対戦し、ほぼ互角の戦いをしている。このフランスとの一戦が、グループ突破を懸けた大勝負になる可能性が高い。

「グループAでいちばんの強敵はパラグアイでしょう。今大会はアルゼンチンがブラジルと並ぶ二強になると見ているのですが、パラグアイは最近の大会でそのアルゼンチンとも拮抗した試合をしています。そのパラグアイが日本の環境に馴染む前に初戦でやれるのは少し有利かもしれませんね。モロッコは、グループ突破のためには勝たなければいけない相手だと思っています。フランスは、9月のアウェイ戦で、こちらが攻撃的に行っても十分に戦えるだけの手応えをつかみました。日本は3人の中心選手を欠いたメンバーでしたが、それでも多くのチャンスを作りながら0-0で引き分けることができましたから」

 今回の世界選手権は、日本にとって三度目の大舞台だ。これまでは、初出場だったアルゼンチン大会の7-8位決定戦で韓国をPK戦で下したことがあるだけで、まだグループリーグで「勝ち点3」を取ったことがない。まずは「初の1勝」を挙げることで、準々決勝進出も見えてくるだろう。そのためには、地元観衆の応援も必要だ。

「世界の強豪が集まる大きなイベントを日本で開催できるのは、大変嬉しいことですね。弱い相手はひとつもいないので、大勢のみなさんの前で戦うのはプレッシャーも感じますが、ホームの応援を受けて試合ができるのはすごく楽しみです。難しい試合が続くと思いますので、ぜひ会場に足を運んで、われわれの戦いをサポートしてください」

文=岡田仁志

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