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初の決勝進出を目指す近江 強者を倒すDNAを植え付けた前田監督「弱点で勝負しても楽しくない」

2024.01.05

近江の前田高考監督 [写真]=佐藤博之

 第102回全国高校サッカー選手権大会・準々決勝が4日に行われ、近江(滋賀)は神村学園(鹿児島)に4-3で勝利し、準決勝進出を決めた。試合後、近江の前田高考監督がメディア取材に応じた。

 現役時代に清水エスパルスなどでプレーした経験を持つ前田高孝監督が就任し、今年で8年目の近江。前田監督の就任当初は全国大会出場はおろか、滋賀県3部リーグに所属していた。

「8年前に人数の少ないところから僕らはスタートして、やり続けてここまで来ました。仲間も集まってくれて、同級生がいたりとか、先輩がいたりとか、こういうジャイアントキリングがやりたくて集まってくれました。こういうのが一番おもしろいと感じるスタッフが集まっています」

 前田監督が語るとおり、近江は毎年のように格上の相手に挑み、勝ち上がり、着実に強化を進めてきた。今年は3大会ぶり3回目のインターハイ出場、そして、選手権の切符も2年連続で勝ち取った。

 しかし、周囲から大きな注目を浴びるなかで、選手たちの重圧も同時に高まっていた。前田監督から見ても、今大会ここまで、選手たちは「セーフティに、セーフティに」プレーするところがあったという。

「結構、選手たちがセーフティにプレーするので、『もういいやん』と。『マイボールでつなぎ倒せばええやん。そうやってやってきたやろ』と伝えました。(試合前日の)夜のミーティングでも『今年1年間やってきたことをやるだけやからな』と言いましたし、ここの境地に至ったというのが、1年間の成功だと思います。神村学園さんだからといって新しい戦術を使うのではなく『やり合おう』と。弱点はありますけど、弱点で勝負しても彼らは楽しくないと思うので、自分たちのストロングポイントで戦おうと吹っ切れました」

 そして迎えた準々決勝。前田監督は試合前にあらためて選手たちに声をかけた。

「最初から神村学園さんをゼロで抑えるのは難しいとわかっていたので、『1点取られたら2点、2点取られたら3点、3点取られたら4点取る』と、最初からやり合うつもりで試合に入りました。選手たちもそれを想定していたと思います。相手の強みと弱点を分析するなかで、『殴り合う』試合になるだろうなという結論に至りました」

 試合は“予測不可能という予想”通りの展開になった。先に得点を奪ったのは近江だったが、先制点から6分後に同点に追いつかれ、その4分後には逆転を許す展開に。前半はこのまま1-2とビハインドで終了した。

 『殴り合う』試合を想定していた近江にとって、前半のスコアは想定内。前田監督も「神村学園さんのボールの動かし方をまず抑えて。自分たちの良さは出せたかなと思います」と、前半のパフォーマンスを評価していた。

 そして、後半は前半以上の打ち合いになる。53分、川上隼輔のクロスから山本諒が気持ちのこもったヘディングシュートを決めて、近江が2-2の同点に追いつくが、55分には神村学園の名和田我空に直接フリーキックを決められて、2-3と再度リードを許す展開になった。しかし、66分には再びゴール前の競り合いを制した山本が2点目を決め、3-3の同点に追いつく。

 劣勢に立たされた状況で、チームを救う2点を決めた山本について、前田監督は「彼は大阪出身で“なにわ”の血が入っているので、『気合』ですよね。技術じゃないです。『気合』ですよ(笑)」と冗談交じりに活躍をたたえていた。

 試合終盤に入ると、近江のアグレッシブな戦いが会場の空気を完璧に掴んだ。近江はスタンドの声援に後押しされる形で、両サイドからどんどん仕掛けていく。神村学園に息つく暇を与えなかった。

 しかし、それでも流石は神村学園。決死の守備で驚異的な粘り強さを見せた。前田監督も「神村学園さんのゴール前の守備はすごかったですよね。やっぱり普段からプレミアリーグでやっているだけあって、入ったと思ってもかき出したり、シュートブロックはすごかったですね」と、リスペクトを送る。

 だが、後半アディショナルタイム3分、PK戦に突入かと思われた時間帯に試合が決した。クロスボールの混戦から最後、こぼれ球を押し込んだのは鵜戸。近江が土壇場で勝ち越すことに成功する。

 劇的な勝ち越し点。残り時間はもうほとんどない。だが、前田監督はゴールを喜ぶ近江の選手たちに大声で叫び続けていた。

「点が入っても、あまり喜べないんですよ。いつまた入れられるかわからないので(笑)ラストワンプレーで終わるかなと思っても、もう一つ危ない場面があったので、そのくらい怖さのあるチームでした。試合終了のレフェリーが手を上げた瞬間に、終わってよかったなと思いました」

 待ちわびた試合終了のホイッスル。高円宮杯プリンスリーグの近江が、プレミアリーグの神村学園を下し、準決勝進出を決めた。試合後に前田監督は『強豪』を倒せた喜びをこう語る。

「立ち上げの1期生のときから、強豪校にたくさん負けてきたので、ジャイアントキリングのようなことが一番楽しいというのは、僕らのDNAとしてしみ込んでいると思います。そういうチームに向かっていく姿勢が、今大会が出せていると思いますし、彼らは頼もしいです」

 次は準決勝。国立競技場は独特の雰囲気に包まれ、緊張感も高まるだろう。ただ、準々決勝前に前田監督から伝えられた言葉を思い出せば、選手たちが重圧に飲み込まれる心配はないはず。

「メディアの方がたくさん来てくださって、テレビで放送してくれた方、スタジアムを用意してくれた方、いろいろな方がこういう舞台をつくってくれて、たくさんの観客の中でプレーすることになる。だけど、一番大事にしないといけないのは、仲間だったり、親御さんだったりするから、もう一回地に足をつけてやろうや。俺らは何のために戦うのか再確認してやろうや」

 堀越(東京A)を倒せば、決勝の舞台。すなわち日本一が見えてくるが、前田監督は「日本一を獲るというよりは、強い相手と一つずつ戦っていくという考えしかないです」とあくまで一戦必勝を誓う。準決勝でもこれまで通り、自分たちのスタイルを貫くだけだ。

 近江は就任8年目の前田監督のもと、史上初の決勝進出を目指して、6日に国立での準決勝に挑む。

取材・文=高橋羽紋

By 高橋羽紋

2023年からWebサッカーキング編集部に勤務

2023年からサッカーキング編集部に所属。

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