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【三重】異彩を放つ生粋のサッカー小僧――。主将にしてエースの吉良元希がチームを高みへ導く<第100回高校選手権>

2021.12.28

プレー面だけでなく、精神的にもチームの支えとなっているFW吉良元希  [写真]=森田将義

 今年の三重が「史上最弱」と呼ばれてきたのには理由がある。これまでの代に比べ、足元の技術がなければ、覇気もない。チームがうまくいかなくなれば、下を向く選手が多いのが特徴であるためだ。「クラス内の陰と陽で言うとサッカー部には陰が多い。陽は野球部ばっかりなんです」と苦笑いするのは、徳地俊彦監督だ。

 そうしたチームにおいて、異色とも言える存在が主将を務めるFW吉良元希(3年)だ。中学までは大阪府のJSC SAKAIでプレー。中学3年生になったタイミングで米子北からも声がかかったが、「鳥取県で米子北は何年も連続して全国に行けるチーム。それよりも、僕は強いチームを倒して全国に行きたかった。そこで四日市中央工を倒して全国に行きたいと思った」と三重を選択するほど、バイタリティにあふれた男だ。

 3年間、担任を務める徳地監督は吉良と初めて会った時のことを今でも鮮明に覚えている。「彼が入学してきた時に、『僕、Jリーガーになりたいんです』と言ってきたんです。でも、この学校からJリーガーになったのは3人だけ。なぜうちに来たんだろう。プロを目指すなら、うちじゃないだろうと思った」。徳地監督は保健体育の授業を受け持つため、身体能力的に見てもJリーガーになるのは無理だろうと思っていたが、彼は不思議な力を持っていた。体育の授業でバスケットボールをやっても、レイアップシュートやフリースローは目も当てられないほどの実力しかない。だが、「今からフリースロー3本決めれば勝ち」と勝敗を決めるルールに変えると、バスケ部の選手を押しのけて彼が一番初めに3本のシュートを決める。他の競技をやらせても同じだ。徳地監督はそうした勝負強さを買って、決して能力的には高くない吉良を1年生の頃からAチームで使い続けてきた。

 そして、何よりも活発で練習熱心なのが彼の魅力だ。授業終わりの16時から始まった練習が18時に終われば、そこから2時間以上、自主練を続けてきた。そうした努力の甲斐あり、効き足の右足だけでなく、左足でもパンチのあるシュートが打てるようになった。筋トレも欠かさず行ったことで、2列目に下りてパスでチャンスを作るセカンドトップタイプの選手だった入学時までとは変わり、今では屈強なフィジカルを生かしてフィニッシュまで持ち込む生粋のストライカーへと変貌を遂げた。彼のサッカーに取り組む姿勢が、周りに与えた影響も大きい。今年の3年生は生粋のサッカー小僧である彼に感化され、熱心に自主練に励む選手が増えていったという。

 キャプテンとなり、インターハイにも出場した今でも、彼のサッカーと向き合う姿勢は変わらない。先日も土砂降りでいつも練習を行う人工芝グラウンドが使えず、気温も低かったため走力トレーニングを30分ほどやって終える日があった。冷えた体を暖めるため、徳地監督らスタッフ陣がコーヒーを飲みながら室内で談笑していると、グラウンドからボールを蹴る音が聞こえてきた。ぬかるみとなった学校のグラウンドを窓から覗くと、チームメイトと楽しそうにボールを蹴って遊んでいる吉良の姿があったという。「多分、あいつは選手権で負けて帰ってきた次の日も練習すると思う。それに何のストレスも感じないタイプ。不思議なやつですね」(徳地監督)

 高校3年間での遂げた成長は著しく、彼がいなければ“史上最弱”と呼ばれた今年の三重が選手権に出場することはなかったに違いない。サッカーと真剣に向き合い続ける彼なら、この先さらに成長していくだろう。日に日にたくましくなっていく吉良の姿を見て、徳地監督は再び彼と出会った日のことを思い出し、自分に先見の明がなかったと痛感するという。「高1の時に、こいつじゃJリーグは無理だろうなと思っていたけど、今はJリーガーになるのは確実だなと思うようになった」。いずれプロに進むであろう彼が、選手権の舞台でどんな活躍をするか、多くの人に見てほしい。

取材・文=森田将義



By 森田将義

育成年代を中心に取材を続けるサッカーライター

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