丸岡の背番号10・宮永任(左) [写真]=瀬藤尚美
取材・文=篠幸彦(提供:ストライカーデラックス編集部)
「2点目を先に取られたときはもうやばいと思ってしまった」と、丸岡・小阪康弘監督の頭に思わず敗戦がよぎった窮地をエースの一撃が救った。
前半開始2分、丸岡は明間希が倒されてPKのチャンスを得ると、田海寧生が一度はセーブされながらこぼれ球をきっちりと押し込んで先制に成功する。すると前半33分に今度は東山MF久乗聖亜がPKを獲得し、同点に追いついた。そこから拮抗する展開が続き、両チームともに決定打に欠ける時間が続いた。
そして後半29分、セットプレーの流れから東山MF掛見直央が左サイドでボールをキープし、右足の鋭いクロスを入れる。それにDF井上竜稀がヘディングで合わせ、東山が逆転に成功する。「後半はいつかやられる」という丸岡・小阪監督の予感が的中した。残り時間は10分。指揮官の頭に一瞬、敗戦がよぎった。
それは「正直、心の中では負けるんじゃないかと思ってしまった瞬間もあった」と、エース宮永任の頭にもよぎっていた。そのとき、宮永は観客席を見た。「声を出して応援してくれる仲間を信じて走ろう」(宮永)。宮永は仲間にも信じようと声をかけた。
そして終了間際のアディショナルタイム2分。左サイドから馬場脩介にボールがつながると、中へボールを持ち出し、クロスを入れようとファーサイドを見た。すると手前で宮永がフリーになっているのが視界に入った。馬場はとっさに流れてしまったボールをスライディングで蹴り出し、宮永へつないだ。ボールを受けた宮永の動きは流れるように滑らかだった。
「得意のコースというか、ずっとやってきたコースだった。頭の中で何度もイメージして、サッカーをずっとやってきた中での感覚、感触を出せた」。宮永はファーストタッチで左足の前にコントロールし、切り返した。そして右足に持ち変えると素早くゴール右隅へ流すようにインサイドキックを蹴り込んだ。劇的な同点弾だった。
「ずっと練習や紅白戦のときからああいった形はイメージしていて、でもなかなかうまくいかないことも多かった。でも今回こういった土壇場の中で決めることができた。それができるというのが、この選手権という素晴らしい舞台なのかなと思う」(宮永)
試合はPK戦へともつれ込み、劇的な得点の勢いそのままに丸岡が5-4で制した。「あいつは2年のときまでは自分の嫌なことは逃げていた。やることで自分と向き合って逃げなくなったことで、今日のようないい結果が出たんじゃないかと思う」(小阪監督)。ひと皮向けたエースが、大舞台でその成長の証を刻み、丸岡の初戦突破を導いた。