2018.10.30

南葛SCの大いなる挑戦――「葛飾区からJリーグへ」のビジョンを、葛飾区長、高橋陽一後援会長、現役復帰の福西崇史が語り合う

(左から)葛飾区の青木克德区長、クラブの高橋陽一後援会長、10年ぶりに現役復帰を果たした福西崇史選手
サッカー総合情報サイト

 日向小次郎に「おれのサッカーはおまえらのあそびのサッカーとはちがうんだ!!」と挑発されると、あどけない表情を一変させ「サッカーはおれの夢だ!!」と言い放ったのは大空翼だ。世界的人気を誇る漫画『キャプテン翼』の主人公は、まだJリーグが発足していない時代にあって「日本をワールドカップで優勝させる」という壮大な夢を抱いていた。

 東京は葛飾区、情緒あふれる下町で、サッカーの夢を追い求める人たちがいる。『キャプテン翼』の作者である高橋陽一先生が後援会長を務める南葛SCだ。大空翼が「おれの夢」を追いかけたチームと同じ名前のクラブは、2012年に誕生した。Jリーグ入りを目標に掲げ、翌2013年に街クラブの葛飾ヴィトアードから改称すると、J1を1部とすれば9部に相当する東京都社会人サッカー連盟3部リーグから挑戦を始め、順調に昇格を重ねてきた。今年9月には東京都社会人1部リーグで優勝を手繰り寄せている。

 11月に行われる関東社会人サッカー大会を制すれば、関東サッカーリーグ2部への昇格が決まる。夢の実現にまた一歩近づく。悲願に迫るべく、“元日本代表選手”を獲得した。

 関東社会人サッカー大会の初戦は11月3日に行われる。決戦を前に集まったのは3人のキーパーソーンたち。南葛SCの本拠地である葛飾区の青木克德(かつのり)区長、クラブの高橋陽一後援会長、「葛飾区からJリーグへ」という大いなる挑戦に賛同し、南葛SCの選手として10年ぶりに現役復帰を果たした福西崇史が、「夢の叶え方」について語り合った。

進行:岩本義弘
構成:菅野浩二(ナウヒア)
写真:鷹羽康博

「南葛SCの歩みは葛飾区長として素直にうれしい」


南葛SCが東京都社会人1部リーグで優勝を果たしました。13勝1分け1敗という成績で、2018年シーズン最大の目標に掲げている「関東リーグ昇格」という目標が近づいています。

青木葛飾区長――素晴らしいですよね。高橋先生には後援会長以上の力を入れていただいて、前に向かって着実に前進しているなと感じます。2013年に南葛SCが始動した時から私は応援させてもらっています。「葛飾Jリーグプロジェクト」が始まって10年くらいでしょうか、最初は正直、道は長いだろうなと思っていましたが、着実に前に進んできている。葛飾区長として素直にうれしいですし、区民の皆さんも喜んでいるという実感がありますね。

高橋――それはこちらもうれしいです。ただ、区長がおっしゃったようにJリーグ昇格までの道のりは決して簡単ではありません。今回、東京都社会人1部リーグで優勝できましたが、今度は関東社会人サッカー大会で結果を出さなければなりません。

青木葛飾区長――関東参入戦と呼ばれる大会ですね。

高橋――そうです。関東の他県の優勝チーム及び上位チーム、計16チームでトーナメントを戦って、そこで決勝まで進まないと関東リーグには上がれません。しっかりと結果を出すために、福西さんの力をお借りすることにしました。

福西――高橋先生からお話をいただいた時、正直にいうと僕自身は不安しかなかったんですよ。現役を引退して10年たっていましたから。30分程度の遊び感覚のサッカーは定期的に楽しんでいましたが、公式戦は45分ハーフです。体力的にもなかなか難しいかもしれないという不安はありました。ただ、高橋先生と岩本(義弘)GMの熱意と南葛SCが掲げる夢の大きさに賛同して加入を決めました。

青木葛飾区長――福西さんの加入はビッグニュースでしたよね。新聞やインターネットでも大きく取り上げられていました。福西さんの参加によって、葛飾区のサッカーもさらに盛り上がると思います。

高橋――東京都社会人1部リーグで優勝したとはいえ、接戦も少なくありませんでした。落としてもおかしくない試合もありましたし、その部分でどうしてももう一本、チームに確固たる柱がほしくて福西さんに声をかけさせていただきました。

青木葛飾区長――他の選手に与える影響はすごく大きいでしょうね。福西さんはワールドカップも経験していますし、直接言わなくても練習に臨む姿勢やプレーだけで他の選手も大きな刺激を受けるはずです。日本代表も経験されている福西さんの存在によって、勝利への意識や一体感は間違いなく強まるでしょうし、技術的な面でも精神的な面でも期待しています。

福西――ありがとうございます。高橋先生の要望もそうですし、自分の要望でもあるというところがあって、単なる選手以外の部分でも南葛SCに貢献したいと考えています。私自身も指導者になるという目標がありますし、区長がおっしゃったようにチームメートに私自身の経験や考えを伝えることで南葛SCが強くなればいいなと思っています。

「区という単位でサッカー熱が高まっているのは素晴らしい」


高橋――福西さんには当然、選手としてプレーしてもらいますが、それ以外のコーチングだったり、これまでの経験をチームのみんなに伝えてもらうことが大切だと思っています。それは今回の関東参入戦だけではなくて、先を見据えた意味でも、選手たちにもいい影響があるんじゃないかなと期待しています。

青木葛飾区長――いちばん大事なことは何といっても区民の盛り上がりです。その点でいえば、やはり福西さんの加入は大きいと思います。

福西――南葛SCが強くなって皆さんがその存在をもっと知ることになれば、漫画やアニメの『キャプテン翼』もまた広がっていくと思います。今Jリーグでプレーしているアンドレス・イニエスタやフェルナンド・トーレス、ルーカス・ポドルスキなど、世界で『キャプテン翼』の影響を受けている選手たちがたくさんいますし、『キャプテン翼』の力も借りながら南葛SCが広く知られることになる形が理想かなと思います。

南葛SCが東京都の3部リーグといういちばん下にいた頃から青木区長にはクラブを応援していただいています。「葛飾ヴィトアード」が「南葛SC」に発展的改称したのが2013年ですから、もう5年になりますね。

青木葛飾区長――試合が行われる区内のそれぞれの会場は着実に盛り上がってきていますよね。会場に足を運ぶ人が増えれば増えるほど、全体として盛り上がってくる感じが出てきます。南葛SCが立ち上がるまでは、Jリーグのサッカーを「こんなものかな」という感じでどこか他人事として見ていたわけです。だからこそ、地元のチームができたという意義はとても大きい。インフラも整ってきたといいますか、葛飾区内でサッカーができるコートもここ何年かで増えてきています。葛飾区奥戸総合スポーツセンターの陸上競技場もそうですし、東京理科大学の葛飾キャンパスの裏にも区の施設をつくりました。今年の春には水元総合スポーツセンターにサッカーができる多目的広場を開設しています。

高橋 理科大のそばの、にいじゅくみらい公園多目的広場は、南葛SCも使わせていただいています。ジュニアサッカースクールの練習もそこで行っています。

青木葛飾区長――そうですよね。それからFCバルセロナのバルサアカデミー葛飾校は東金町運動場でトレーニングをしています。サッカーをやる場所、見る場所は間違いなく増えてきていますし、サッカーに対する区民の認識は高まっていると思います。

福西――東京の中心部の区という単位でサッカー熱が高まっているのは素晴らしいと思います。それ自体が世界的に発信できる情報ですよね。

青木葛飾区長――サッカー熱といえば、今年はワールドカップが行われましたよね。各国代表を支えているのは、各地域にあるクラブチームであり、それぞれのクラブの積み上げが各国のサッカーの強さや文化につながっているのだと思います。南葛SCの取り組みを見て、区民もそういった構造への理解度を高めてきているのではないかと感じています。ですから、地元にある南葛SCを応援して、自分たちで育てていこうという当事者意識が生まれてきているような気がします。

福西――それはうれしいですね。Jリーグの発展や世界につながることも含めて、南葛SCは地域の皆さんと一緒になって大きくなっていかなければなりません。そのためには葛飾区という自治体の力や区民の皆さんの協力が不可欠です。もちろん、チームは強くならなければならない。強い地元クラブを区民の皆さんが応援する。その一体感や強さが葛飾区から東京のサッカーとして発信されて、東京から日本全体へ、そして日本から世界へと注目度を高めていければいいなと思いっています。

「葛飾区が発展するようなスタジアムができるのが理想」


高橋――一方で、クラブが強くなってもJリーグが規定する条件を満たすスタジアムがなければ前に進んでいけません。JFL昇格、J3昇格、J2昇格、J1昇格のためにはそれぞれJリーグが定めた収容人数を満たすホームスタジアムを持っている必要があります。今も、J2やJ3クラブで優勝してもスタジアムが条件を満たしていないから上のカテゴリーに上がれないという状況があります。

青木葛飾区長――先ほどもお伝えしましたが、いちばん大切なのは区民の盛り上がりです。スタジアムをつくるということはしかるべき場所が必要ですし、お金もかかりますからね。そういった部分は区民の皆さんの支持がなければ、自治体としても強引に進めるわけにはいきません。区全体に「やるべきだよ」という盛り上がりがあるのが理想です。今の段階でも一定の人数を収容できるサッカーの会場はあるわけなので、さらなる盛り上がりが必要になると思います。

たとえばイングランドのロンドンでは首都のなかにプロクラブが100以上あります。そして、そのほとんどが専用スタジアムを持っています。

青木葛飾区長――もちろん、我々としても今持っている会場に対して観客席をどうつけるか、南葛SCがJFLまで行った場合、その状況に応えられるようにしたいと、常にいろいろと考えています。いずれにせよ、箱があればいいわけではなくて、人に来てもらわないといけないとは思っています。

高橋――私の構想ですが、スタジアムだけじゃなくて、いろんな機能があればいいのかなと思っています。イベントができるような商業施設が入っていてもいいですし、音楽などのエンターテイメントイベントも強い需要があります。また、キャプテン翼ミュージアムが併設されてたりすると、海外からも来たお客さんにも来ていただける気がしています。単なるサッカースタジアムではなくて、葛飾区が発展するような存在のものができるのが理想ですよね。

青木葛飾区長――そうですね。今、約46万2000人の区民がいますが、できれば全員がスポーツを楽しむ区にしたいと思っています。今度の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会も同じで、スポーツをみんなが楽しむ区にしていきたい。そのなかには当然サッカーがありますし、南葛SCがもっともっと強くなって上のカテゴリーに上がっていけば、インバウンドも含めた観光にも生かせることになります。

福西さんは9月13日に「都市とスポーツとエンタテインメントの未来」というシンポジウムに参加されました。東京の渋谷区の代々木公園にサッカースタジアムをつくる構想の意義を話し合う場でしたね。

福西――結局、地域に根ざしたスポーツクラブは、Jリーグやスポーツの発展、あるいは世界につながることも含めて、地域と一緒になって大きくなっていかなければならない。私自身はそう考えています。スタジアムに関していえば、サッカーもできる、コンサートやフリーマケットなどのエンタテインメントも楽しめる、商業施設やミュージアムも隣接している、というような複合施設であれば、試合がない日でも人は集まるはずです。みんなが楽しめる場所であることが理想ですよね。

「葛飾といえばスポーツの都だと言われるように」


高橋――たとえばバルセロナのカンプ・ノウというスタジアムもクラブのミュージアムが併設されていたりして、バルセロナという都市のなかで観光客がいちばん足を運ぶ場所になっているそうです。サッカーは世界的なスポーツですし、人を動かす大きな力もあると思うので、生まれ育った葛飾区にサッカー専用スタジアムができたら最高ですね。それこそ南葛SCがどんどん強くなって、J1に昇格して、アジア(AFC)チャンピオンズリーグで優勝して、というような大きな夢をみんなが描ける共通の舞台になると思うので、ぜひともお力を貸していただければと思います。

青木葛飾区長――現実問題として東京都は土地の少なさなども含めて難しさはありますが、「できない」とばかり考えていても意味がありません。葛飾区が発展できるようなチャンスにすぐに反応できるような状況をつくっておかなければなりませんし、高橋先生がお話しされているような形をいつも意識して取り組んでいくことが大事だと思います。民間の企業にも支えていただくなど、多くの人が運営のことも含めて当事者意識を持ってかかわる仕組みがあれば、うまくいく可能性は高まると思います。

福西――葛飾区では、やはり『キャプテン翼』の存在は大きいと思います。私自身もそうですし、『キャプテン翼』を見て育った選手は世界中にたくさんいます。『キャプテン翼』といえば「南葛SC」、「南葛SC」といえば「葛飾区」とつながっていくような取り組みをどんどん進めていきたいですね。チームがそれこそAFCチャンピオンズリーグに出場できるくらい強くなれば、海外の選手でも『キャプテン翼』の「南葛SC」でプレーしたいという思いが強まるはずです。

青木葛飾区長――今も『キャプテン翼』の像を目当てにたくさんの方が来られていますからね。先日も高橋先生の母校の南葛飾高校の近くにツインシュートの像を建てましたが、その他の施設や設備にしても積極的にいろいろと取り組んでいければと思っています。葛飾といえばサッカーやスポーツの区、スポーツの都だと言われるようにしていきたいと思っています。大風呂敷な感じかもしれませんが、気持ち的にはそう思っています。

そのためには南葛SCの成長が欠かせませんね。

福西――南葛SCの一員としては、葛飾区に住んでいる方の中心にサッカーがあるような状況をつくっていきたいです。皆さんが楽しめるスタジアムがあれば、それこそ最高ですよね。

高橋――先ほどもお話ししましたが、せっかく優勝したのにスタジアムが条件を満たしていないから上のカテゴリーに上がれないというのは、クラブにとってもサポーターにとってもさびしいことだと思います。高い目標を掲げる南葛SCとしては、やはり葛飾区にサッカー専用スタジアムがあるのが理想です。いずれにしても、11月に行われる関東社会人サッカー大会でまずは結果を残さないといけないと思っています。

青木葛飾区長――目標や夢を持っている南葛SCさんの姿からは、区全体で刺激を受けているという気がします。このあたりはやはり下町ですから、皆さん、とにかくお祭り好きなんですよ。9月に開催された区内盆踊りの集大成である「ふるさと葛飾盆まつり」にも2万人以上の方が集まって大盛り上がりでした。イベントごとが大好きな土地柄ですし、南葛SCさんにも葛飾区全体を盛り上げる存在になってもらえるよう期待しています。

高橋――ありがとうございます。私自身は生まれも育ちも葛飾区なので、この街への思い入れはとても強いです。サッカーを通じて街の発展に貢献できたら、それ以上に幸せなことはありません。

福西――東京の中心部の区にあるクラブ、というのはやはり南葛SCの強みだと思います。都道府県と比べたら決して大きくはない自治体の単位でトップをめざしていく、というのは大きな挑戦ですし、私自身もできる限り力をお貸しできればと考えています。

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