2017.02.06

母国に栄光をもたらす「不屈の男」の物語/篠幸彦(ヨコハマ・フットボール映画祭2017)

サッカー総合情報サイト

 2011年にスタートし、年に一度サッカー&映画ファンが集う一大イベントに成長、今年も2月11日(土)、12日(日)、13日(月)、15日(水)、16日(木)、17日(金)の6日間で10作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2017」。さらに松本・新潟・仙台・神戸・鳥栖・群馬・福岡・沖縄など全国9都市で映画を上映するジャパンツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、サッカーをこよなく愛する気鋭のスポーツライター篠幸彦さんによる、ブラインドサッカー・ブラジル代表の“不動の10番”を追ったドキュメンタリー『WHO I AM リカルディーニョ』(上映 2/11[土]17:20-、2/17[金]18:10-)の映画評をご紹介。

ヨコハマ・フットボール映画祭2017 公式HP

母国に栄光をもたらす「不屈の男」の物語/篠幸彦

 2016年8月、サッカー王国ブラジルは母国開催のリオデジャネイロ・オリンピックで悲願の金メダルを初めて獲得した。優勝の瞬間のピッチには、セレソン栄光の10番をまとい、キャプテンマークを巻いた喜びに涙するネイマールの姿があった。その背番号と共に国民の期待をまさに一身に背負った英雄が、想像を絶するプレッシャーから解放された瞬間であった。

 そしてブラジルにはもう一人、その栄光の10番とキャプテンマークを託された英雄がいる。ブラインドサッカー・ブラジル代表、リカルディーニョである。ブラジル代表は母国の地で、パラリンピック4連覇という前人未到の記録に挑んだ。今作はそのエースが苦難を乗り越え、大会で躍動する姿を追ったドキュメンタリーだ。

 ブラジル代表は無敵だった。過去3大会で一度も敗れていないどころか、失点も1つしか許していなかった。その無敵の象徴がリカルディーニョなのだ。他の誰にも真似できないドリブルとゴールセンス。その天賦の才は観る者の予想を遥かに超える瞬間を創造し、勝利をもたらしてきた。

 しかし、ある日の試合で靭帯断裂と骨折という重傷により、その創造を可能にしたリカルディーニョの魔法の脚は奪われてしまう。パラリンピック開幕5カ月前だった。歩けるようになるまで2カ月、練習に復帰できるまで4カ月。エースの復活にはギリギリの時間しか残されていなかった。それでも、リカルディーニョは絶望しない。国民の期待に応えるため、懸命のリハビリを始める。

 そんな彼の姿に、私は私が知っている「もう一人の10番」の姿を思い起こしていた。ブラインドサッカー・日本代表のキャプテン、落合啓士だ。

 2014年11月、4年に一度行われるブラインドサッカーの世界選手権が日本で初めて開催された。日本は過去に2度挑戦した同大会で1勝も挙げられていなかった。世界との差は決して小さくはない。そんな中、初戦の相手は南米の強豪・パラグアイだった。格上と対峙する選手たちを、満員となった会場の期待と熱気が包み込んでいた。

 ブラインドサッカーは音を頼りにプレーする選手たちの妨げにならないように、観客はプレー中に声援を送れない。静まり返るピッチからは選手の声、息遣い、骨と骨とがぶつかり合う鈍い音が観客の耳にダイレクトに届いてくる。その迫力に観客は皆引き込まれていくのだ。

 パラグアイとの試合はまさに死闘だった。格上の猛攻を日本は組織的な守備でしのいでいき、油断は一瞬も許されなかった。前半19分、日本は堅守速攻が実り、ストライカーの黒田智成が先制点を挙げる。会場は爆発したような歓声で溢れ、その熱狂を落合もベンチから聞いていた。

 そして後半、1点リードのピッチにキャプテンの落合が送り込まれる。そのとき、静かな会場に落合の力強い声が響いた。

「勝つぞ!」

 他の競技であれば声援でかき消されているその声は、日本代表の選手だけでなく、自身を含めたその場にいるすべての人間を鼓舞していた。スタンドにいた私もまた、落合の声に引き込まれていた。

 そして想像した。落合のひと言に込められた思いを、ここに至るまでの道程を。彼らが紡いできた歴史を大きく変える1勝が、もう手の届くところにある。落合の言葉は、歩んできた人生のすべてを賭けた男の決意の言葉だ。日本は最後まで1点を守り抜き、歴史的な1勝を挙げた。

 私は再び想像した。試合後、落合はチームを代表して見上げるようにスタンドに向けて感謝の言葉を述べた。その見えていない視線の先に、彼には一体何が見えているのだろうか。目の前には選手たちを誇らしく讃える観客がスタンド一面に広がっていた。

 リカルディーニョは致命的な負傷から復帰し、パラリンピックのピッチに立った。怪我を負ったとき、彼は言った。「今までも様々な困難を乗り越えてきたんだ。こんなことで決して折れたりしない。逆にこれをばねに強くなってみせる」

 幼くして視力を失い、大好きなサッカーまでも奪われてしまいそうだった少年が、代表のユニフォームに袖を通し、国民の期待を背負って戦うまでになった道程を容易くは想像ができない。それでも、再び訪れた困難に立ち向かう彼の言葉には幾度も乗り越え、積み上げられた不屈の精神力が宿っていることがわかる。

 人は困難を乗り越えた人間の姿に魅了される。落合があのとき見せた姿もまた、語らずとも観客を惹きつける力強さがあった。視覚障害だけが困難ではない。どんな人生にも様々な困難が幾度も訪れる。このドキュメンタリーはリカルディーニョというブラジルの英雄が、その困難を乗り越えて人々を魅了し、母国に栄光の金メダルもたらす「不屈の男」の物語なのだ。

【執筆者プロフィール】
篠幸彦(しの・ゆきひこ)
東京都生まれ。スポーツジャーナリスト。編集プロダクションを経て、実用系出版社に勤務。技術論や対談集、サッカービジネスといった多彩なスポーツ系の書籍編集を担当。2011年よりフリーランスへ。サッカー専門誌「週刊サッカーダイジェスト」でFC町田ゼルビアの番記者を担当。「サッカーダイジェストテクニカル」にライター兼編集で携わる。著書に「弱小校のチカラを引き出す」 「高校サッカーは頭脳が9割」(東邦出版)、「長友佑都の折れないこころ」(ぱる出版)がある。2017年よりボルダリングの取材も行っている。

【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2017年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月11日(土)、12日(日)、13日(月)、15日(水)、16日(木)、17日(金)の6日間開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2017.yfff.org/)にて。

ヨコハマ・フットボール映画祭2017 公式HP

Jリーグ順位表

サンフレッチェ広島
37pt
FC東京
28pt
川崎F
27pt
Jリーグ順位をもっと見る
大分
31pt
山口
28pt
町田
26pt
Jリーグ順位をもっと見る
鹿児島
20pt
沼津
20pt
C大23
19pt
Jリーグ順位をもっと見る