サッカーキングで「プロローグ」「カーンVSチラベルト(前編)」が公開中の『ワイルド・フットボール~サッカー界の暴れん坊たち~』。
著者は『夕空のクライフイズム』(ビッグコミックスピリッツ/小学館 刊)で「美しく勝利するサッカー」を追求して人気を博した手原和憲だ。
今回の作品でのテーマは「サッカー界の暴れん坊」。
今なぜ、ワイルドな選手を取り上げるのか。その魅力はどこにあるのか。著者にインタビューを実施した。
聞き手/池田タツ
ワイルドなのに…実は“頭がいい”イブラ
――まず作品についてご紹介いただけますでしょうか。
手原和憲 8月24日から『週刊ジョージア』(WEBマガジン)で連載を始めた漫画で、毎週更新をしています。内容は、スポーツバーで働く“ちょっと変わった美女”ナナが、ワイルドなサッカー選手についてレクチャーしていく話です。
――どうして「ワイルド」という方向性になったのでしょうか。
手原和憲 ワイルドな選手って魅力的ですよね。そういった魅力あふれる選手たちを紹介していきたいなと思いまして。
――ワイルドな選手の魅力というとどんなところになりますか。
手原和憲 不思議なほど似顔絵を書いていて面白い選手ばかりなんですよね。見た目に特徴がある選手が多く、外見的魅力がありますよね。
――手原さんは誰が好きなんですか?
手原和憲 イブラヒモビッチですね。本当に好きなのでイブラだけ漫画のページ数も増やしちゃいました(笑)。髪型ネタのいじりから入って…織田信長に似ているでしょう?今あの髪型がちょっと流行っている感じがありますよね。フェルミーニョやアルナウトビッチあたりが似た髪型をしています。
――イブラヒモビッチの魅力はどんなところでしょうか。
手原和憲 まず選手として、物凄く強引に点が取れるストライカー。2004年のEUROでイタリア相手に決めたゴールが有名ですよね。相手がガッチガチに戦術的に守ってきても、ありえない体勢からゴールを決めてしまう。そうなるとどんなに戦術でイブラをおさえていても相手はお手上げです。ゴール前だけでなく、ミドルシュートもうまいですよね。この前のプレミアのリーグ戦でも早速決めました。ペナルティエリアの中でヘディングだけやっていてもたくさん点が取れちゃいそうなのですが、中盤まで下がってきて組み立てに参加したり、ミドルシュートを狙ったりする。そしてそのミドルが結構決まるんですよね。実際、ピッチ上でのプレーは本当に知的ですよね。荒くれ者ではないんですよね。自分からケンカを売るというよりは、売られたケンカを買うタイプ。
――プレー以外では、どんなところに魅力がありますか。
手原和憲 “ガキ大将のようなオーラ”は魅力的ですよね。どこにいっても「イブラと楽しい仲間たち」というチームにしてしまう。あとイブラはコメントはかなり知的ですよね。挑発するような発言をするんですが、一定のラインは超えないんですよ。「自分はゴッドだ、レジェンドだ」と言い放つんですが、本当に嫌われるところまではいかない。タトゥーがたくさん入っていて見た目はかなりワイルドなのに、頭はいい。タトゥーはどんどん増えていて、今は耳なし芳一みたいになってしまってますが(笑)。
怒りがエネルギーになり過ぎちゃう選手
――他にワイルドで好きな選手はいますか? また、その選手の魅力はどんなところでしょうか。
手原和憲 イタリアのバロテッリですね。シーズン通じて活躍する感じではないですが、本当に大事な試合でハートの強さをみせますよね。マンチェスター・シティが44年ぶりの優勝を決めたときのアシストや、EURO2012準決勝の2ゴールなど。ワイルドな選手ってメンタルが強くて大一番で活躍することが多いのが特徴だと思います。ただ、バロテッリは気合が入っていないときは本当に酷いプレーしますが……。バロテッリは常に何かの怒りを抱えている感じがしますよね。イブラが「怒りはとてもエネルギーになる」と言っていますが、バロテッリの場合はエネルギーになり過ぎているときもあります(笑)バロテッリは怒りがいい方向に向かった時、大一番での活躍につながっているのかなと思いますね。
――確かにワイルドで魅力のある選手って感情をプレーにぶつけられるとういのはあるかもしれませんね。
手原和憲 そうですね。意識しているのか、あるいは無意識なのか、それぞれあると思いますが、感情をプレーにぶつけられる選手が活躍している感じはありますよね。知的なイブラヒモビッチのような選手と、バロテッリみたいな選手、どちらもワイルドと呼べるので、“ワイルド”って言葉は便利です(笑)。
愛されてこそ“ワイルド”
――レジェンドも入れると数多くの暴れん坊がいますが、マンガで取り上げる基準ってありますか?
手原和憲 「本当にただやばい選手」は漫画にもできないんですよね。そして“ワイルド”とも呼べない。例えば、ジョーイ・バートンなんかは漫画にしようと思ったのですが、できませんでした。ワイルドって言葉はやっぱり“ある程度愛される選手”に使いたい。実はTwitterで連載を告知したら、フォロワーさんから「ジョーイ・バートンは描かないんですか?」と聞かれたんです。僕が「やばすぎて無理でした」と返信したら、その方から「そうですよね。あの人はサッカーのうまい犯罪者ですもんね」っていう返事をいただきました(笑)。こうなると、もうワイルドではないですよね。
――ナスリも微妙なラインですよね?
手原和憲 ナスリは言動から、ワイルドというより“嫌な奴”と思われる可能性がありますよね。やっぱりワイルドな選手は愛される選手であってほしいなと思います。
――愛されるためには何が必要なのでしょうか。
手原和憲 ワイルドで愛される選手はどこかピュアな感じがありますよね。知的でもそうでなくてもどこかで少年っぽい一面を見せる選手が、愛されるワイルドな選手なのだと思います。
――マンガの「ワイルド・フットボール」は今後どういった展開になるのでしょう。
手原和憲 週刊ジョージアというWEBマガジンで連載していて、サッカーキングでもプロローグと第1話を公開してもらう予定です。現在は第1話の「カーンVSチラベルト(前編)」が公開中なので、興味を持ってくれた人はぜひ読んでみてください。前述のイブラヒモビッチやバロテッリはもちろん、まさに“サッカー界の暴れん坊たち”を「へぇ」なエピソードと、たっぷりの愛情を込めて取り上げていきますので、ご期待ください(笑)。