2016.05.31

元Jリーガー社長、札幌・野々村氏が語る経営術…地域・ファン・企業を巻き込んだ理想のクラブへ

野々村芳和
サッカーキング編集部

 選手の獲得や育成、ホームタウンの拡大など、リアルなクラブ経営を楽しむことができるスマートフォン向けシミュレーションアプリ『ウイニングイレブン クラブマネージャー』。J SPORTSでは『ウイニングイレブン クラブマネージャーpresents Foot!!special ~クラブマネージメント論~』と題して、実際にクラブを経営している北海道コンサドーレ札幌の野々村芳和代表取締役社長と、スポーツライターの金子達仁氏が理想のクラブ運営について語った。

 番組内では野々村氏がどのようにしてクラブをマネジメントしているか、Jリーグが今後どのような方向を目指していくべきか、Jリーグのアジア戦略などについて、金子氏とともに論じた。また、野々村氏が現在、札幌を率いる四方田修平監督を指揮官に任命した理由や元日本代表MF小野伸二を獲得した際の秘話など、数多くの興味深い話が明かされた。

 サッカーキングでは番組収録後に野々村氏へのインタビューを敢行し、改めて元Jリーガーが行うクラブ経営について話を伺った。

野々村芳和

インタビュー・文=清水遼
写真=兼子愼一郎

■選手としてやってきたことと変わりはない

――収録お疲れ様でした。実際に番組に参加されてみて、率直にどのような感想をお持ちですか?

野々村芳和(以下、野々村) サッカークラブの経営に興味ある人がすごくたくさんいることは、クラブに入ってみてよりわかったことなので、ゲームでそれを楽しめるというのはアリだなと思いました。

――実際はそんなに簡単なことではないですよね(笑)。

野々村 そりゃあそうだよ(笑)。でもそれを言ったら元も子もないし、やったらめちゃくちゃ大変だけど、実際にやってみるとゲームでやっているような感じが一番楽しくていいかな。

――野々村さんは1995年に慶応義塾大からジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド千葉)に加入し、2000年から2シーズンにわたって札幌でもプレーしました。Jクラブの経営者としてはまだまだ珍しい経歴をお持ちですが、選手から経営者になる前にどのようなことを学びましたか?

野々村 特別に何かを学んだということはないですね。

――現役当時の考え方をそのままクラブの経営に持ち込んだということですか?

野々村 小学校1年生からずっとサッカーをやっていて、サッカー界の考え方は元々持っていました。選手時代もそうだし、現役を引退してからもずっと個人事業主としてやってきたので、「どうやったら飯が食えるか」、「どうやったら生きていけるか」を考えるという感覚は昔からありましたね。あとはグループをどうやってマネジメントしていくかということも、サッカーを通じて学んだものをベースにトライしています。今も日々勉強することばかりです。

――ひとつのチームをまとめていくという考え方が、そのままひとつのクラブをまとめていく規模に変わったということですね?

野々村 本当にそのままですね。そういうことです。

――そういった面では選手時代に学んだことが生きているということですね。

野々村 まあ生きていなかったら今まで何のために生きてきたのかってことになっちゃいますからね(笑)。

――特に現役時代の“この経験”が今に生きているなというような面はありますか?

野々村 サッカーとビジネスは若干違うとはいえ、それぞれのグループが持っている力の最大値を出すにはどうすればいいかとか、どこをどう目標にしていくかということは、サッカー選手としてやってきたことと何ら変わりはない。そこはすごくサッカーをやってきてよかったなと思います。

――実際に経営者になったことで、短期的な現場の結果と長期的なクラブの目標をより明確に見ることができるようになったのではないですか?

野々村 そうですね。でもそれは選手時代から常に考えていることですよ。「目の前の相手にどう勝つか」という短期的な結果も大事ですし、「今シーズンはどうやって勝つか」ということも大事。「将来こんな選手になりたい」という長期的な目標もありましたから。短期、中期、長期で常に考えてきたので、サッカークラブを経営する中でそれと同じことをやっているだけですよ。

野々村芳和

■クラブ全部をまとめてマネジメント

――『ウイニングイレブン クラブマネージャー』のゲーム内では、若手選手やベテラン選手など、様々な選手を獲得することができます。野々村さんの個人的なご意見でいいのですが、選手を獲得する上で「ここを重要視する」といったポイントはありますか?

野々村 これはゲームに反映されているかはわからないことだけどいいかな。サッカークラブはどこもだいたい30人くらいの選手を抱えているんだけど、その30人が一緒になって月曜日から金曜日までトレーニングをする。そのトレーニングの雰囲気が絶対に土日の試合に影響するので、選手一人ひとりの特性を考えて、この選手は盛り上げ役でこの選手はリーダーシップがあってとか、全体の年齢バランスは保たれているかとかを考えて、チームを編成しています。

――単純にテクニックがあるとかだけではなく、選手の性格面も考慮しているということですね。

野々村 例えばある選手がすごくチームの中心になるような実力を持っているんだけど、そうなれなかった場合の悪影響を考える。じゃあどうすればいいかとなった時に、その選手をサポートできる、マネジメントできるような選手、スタッフを置くとかね。色々なことを考えていかなければいけないです。

――選手だけを見ているのではなく、スタッフとの相性やスタッフの実力も考えているんですね。

野々村 そうそう。もうクラブ全部をまとめてマネジメントする感覚で選ばないと、どこかで軋轢が生まれるのかなと。それを考えたところで全部うまくいくわけではないんだけど、何も考えずに選んではいけないと思います。

――コンサドーレというクラブを経営していく中で、野々村さんは何か“哲学”や“テーマ”を持っていらっしゃいますか?

野々村 テーマというか……自分が色々と勉強していく中で、自分の持っている価値観は少しずつ変わっていきます。でも、サッカークラブだから勝つことはもちろん大事なんだけど、勝ち負けだけで評価されるようなものになってはいけないなと思っています。例えばコンサドーレだったら、「地域のために何ができているか」ということが第一にないといけない。勝ち負けは二の次というか。

――クラブとしての存在意義、いかにファン・サポーターにクラブが受け入れられるかが重要で、その目標のために「勝ち」を積み重ねていくということですね。

野々村 それが一番かな。

――地域密着を掲げる中で、コンサドーレのココを見て欲しいというような要素はありますか?

野々村 特別にココを見て欲しいというものはないです。というのも、各クラブが色々なことをやっていて、地域貢献活動だったり、選手が幼稚園や小学校を訪問したりとか、毎日毎日色々なところに顔を出しています。ウチで言うと、年間で500回くらいは地域貢献活躍をしています。そういった活動はそれでいいんだけど、クラブのサポーターであることを誇りに思えるような存在になりたいというか。コンサドーレに関わってくれている人たちに、日々の生活を気持ちよく過ごして欲しいんです。

――ファン・サポーターの日々の生活を豊かにするということが目標なんですね。

野々村 例えば、あるファンが朝目覚めた時に、気になっているあの若手選手は今どうすごしているだろうとか、今はチームがどんな活動しているのかとか、ふと気になるような存在になりたいですね。そのためにどうやって地域の人々、ファン・サポーターと接していくかが重要だと思います。

――ヨーロッパの百数十年も歴史があるクラブみたいに、現地の人々の生活に溶け込んでいる存在でありたいということですね。

野々村 それがベースになければいけないんです。それをベースとしつつ、そこまでのめり込めない人たちには、一つのエンターテイメントとしての魅力を提供していくという流れですね。エンターテイメントとして見に来てくださっている人たちと、文化的な感覚で「一緒にクラブを育てていこう」という人たちと、両方に対してどのようにアプローチしていくかが重要です。ただ、ベースはあくまで「一緒にクラブを育てていこう」という人たちを増やすことです。

――「一緒になってクラブを育てていく」という言葉が出ましたが、クラブを経営していくためにはスポンサーの存在も重要だと思います。スポンサーについてはどのような考えを持って経営に取り組んでいますか?

野々村 資金を出していただく以上、費用対効果があるのか、ないのかという観点で考えなくてはいけないというのは事実です。その中で、単純にスポーツを見る行為の中で生まれる広告価値だけではなく、スポーツを育てるという中での広告価値を売り出していきたいです。「ウチと一緒にこういうことをやってくださると、地域の方々をこれだけ豊かにできます。御社も一緒に色々なことをやっていきませんか」という具合です。そこに価値を創造する方が難しいですけど、可能性は無限にあるので。それをスポンサーにどう伝えていくかということです。日本ではあまりそういう取り組みが積極的ではないので、スポーツを育てることの価値をしっかりと伝えていくかが大事です。

――企業とタッグを組んでいくような感じですね。

野々村 あとは当たり前に露出の効果を上げていくことが大事です。コンサドーレは今年から地上波でのテレビ中継を増やしました。北海道の人口が約540万人ですから、例えテレビの視聴率が5パーセントでも単純計算で1試合25万人以上が見てくれることになるんです。昨シーズンの年間観客動員数が25万人なので、1試合で約1年分の人にコンサドーレの試合を見てもらえることができます。そうなれば当然広告効果が上がりますよね。

――1試合で1年分ですか。やはり地上波の力はすごいですね。

野々村 そんなふうにビジネス的なロジックと、気持ちの面を両方、うまく伝えていく必要がありますね。我々は一緒に取り組んでくださる企業のことを「スポンサー」と呼ばずに「パートナー」と呼んでいますし、サポーターも「パートナー」ということです。みんながコンサドーレの「パートナー」なんです。

――クラブという一つの中心があって、周りを巻き込んでいくことが重要ですね。

野々村芳和

■いつか100億円、200億円規模のビッグクラブに

――番組内でもお話が出ましたが、コンサドーレはアジア地域への進出も積極的ですよね。これまでもベトナム代表FWレ・コン・ビン選手(現ビンズオン)やインドネシア代表MFイルファン選手が所属しています。そういったアジア戦略も、目的としては海外での「パートナー」を増やしていくということにあるんでしょうか。

野々村 これはパイを増やすという意味ですね。例えば今までだったら、コンサドーレに入りたいという人は北海道に住んでいる子どもたちが中心ですよね。でも、我々がアジアへ出て行くことで、アジアの子どもたち、例えばベトナムの子どもたちやインドネシアの子どもたちが「将来はコンサドーレに入りたい」、「将来はJリーガーになりたい」と思ってくれれば、全然スケールが変わってくるじゃないですか。可能性が世界に広がるわけですから。将来、もっと楽しいことが起きる可能性を秘めていると思います。

――アジアでの影響力が広がっていくとして、マーケットが拡大することで選手が国外に流出することが増えるかもしれませんよね。国内外に限らず、売るクラブ側に回ることもあるかと思いますが、“選手を育てて、その選手を売って生計を立てる”といった考えはお持ちですか?

野々村 それはもちろんありますよ。なくてはいけないです。勝つということだけを考えれば、取ってきた選手を育てて、何年も時間をかけて完成形のチームを作って結果を残すということになると思います。でもビジネスになると、そんなのは実現できないんじゃないかな。国内だけでやっているクラブに勝つ確率を上げるためにも、そういう海外とのビジネスは成功させなければいけないと思います。

――例えば、Jリーグで得点王になるような選手が中東のクラブなどに買われてしまうこともありますよね。戦力的には大きな痛手ですけど、そういうことも考慮に入れているということですか。

野々村 全然ありです。だってそれで得た資金があって、スタッフにしっかりとした目があれば、また新しい選手を取ってくればいいからね。逆にそれが売れないとか、買う相手がいないというような状況になってしまえば、マーケットとしては終わりですよ。だから、買ってくれる相手がいる方がいいです。

――では最後にお伺いします。北海道コンサドーレ札幌の短期的な目標、そして長期的な目標、夢に近いものでもいいので、何かありましたら教えて下さい。

野々村 まずはJ1のクラブになるということ。それにはクラブの規模をそれなりのものにしなければいけないので、そこを目指すのが最初の目標ですね。その次は100億円規模のクラブになって、アジアに進出していくこと。でもそれは自分たちだけではなかなかできないです。それには日本サッカー全体として、Jリーグの価値を上げて、それにともなって各クラブが大きくなることが必要。その大きくなっていく過程で、他のクラブが倍になるなら、自分たちは4倍になるくらいの仕掛けを打ち出していけば、いつか100億円、200億円規模のビッグクラブになる可能性はあると思います。

野々村芳和

 野々村芳和社長が出演した『ウイニングイレブン クラブマネージャーpresents Foot!!special ~クラブマネージメント論~』は、5月29日(日)より放送中。6月6日(月)までJ SPORTS 2でご覧になれます。

番組詳細はコチラ

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