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上場ITベンチャーからJクラブへキャリアチェンジ…ガイナーレ鳥取で目指す“地方クラブの百年構想”

2017.11.13

30代半ばで「サッカークラブの経営に携わりたい」と思い上場ITベンチャーからガイナーレ鳥取に転職した高島祐亮さん

連載企画『あなたのJリーグライフがもっと充実! 5分でわかるサッカービジネス講座』は“読んで学ぶ講義“です。Jリーグにかかわるエキスパートを講師に迎え、サッカービジネスのあまり知られていない一面を紹介していきます。

サッカーファンの皆さんのなかには「Jリーグのクラブで働きたい」と思っている方も少なくないはずです。では、実際にJクラブのスタッフは日々どんな仕事に打ち込んでいるのでしょうか。あるいはどういった経緯でJクラブへ入社することができたのでしょうか。J3クラブ、ガイナーレ鳥取を経営する株式会社SC鳥取に転職したばかりの高島祐亮(たかしま・ゆうすけ)さんが、自らの経験も踏まえ、現場視点の情報を伝えてくれます。

構成=菅野浩二
協力=一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル

◆SC鳥取は芝生を販売し、新たな財源を確保します

 私が株式会社SC鳥取に入社したのは2017年7月。Jクラブスタッフとしてはまだ新米ですが、私なりにJリーグにかかわる仕事がしたいと考えている方にとって有益なお話をしたいと思います。

 肩書きは「社長室 事業戦略特命部長」というもので、なんだか重々しい感じがするかもしれません。もともとインターネットメディアをはじめとした事業開発会社に勤め、IT企業2社の上場にかかわった経歴があるので、ガイナーレ鳥取のインターネット周りの改善に携わる一方、新規事業の推進にも取り組んでいます。

 Jクラブの経営を支えるのは「広告料収入」「入場料収入」「物販収入」の“3本柱”であることを知っている方は多いかもしれません。SC鳥取は新規事業として“4本目の柱”をつくろうとしていて、今、私はその業務に注力しています。具体的に言うと、「Shibafull(しばふる)」というプロジェクト名のもと、私たちは芝生を販売して“3本柱”に加えた新たな財源を確保しようと動いています。

 私たちのホームスタジアム、チュウブYAJINスタジアムのネーミングライツを購入していただいたスポンサーの株式会社チュウブさんは、芝生の生産販売から管理請負・運営までを行う“芝のスペシャリスト”です。建設してからこれまで約5年間、チュウブさんの協力を得ながら、私たちのスタッフが自ら芝生の管理をしてきました。そして、チュウブさんとコミュニケーションを取り合うなかで新たなビジネスの種が見つかったのです。プロジェクトパートナーとしてはチュウブさんだけでなく、ナチュラルミネラルウォーターの販売を手がけるミライズさん、廃棄物処理事業を展開する三光株式会社さんにも加わっていただきました。

◆様々な職種の仲間とともにプロスポーツビジネス講座を受講

新天地は「いろいろとチャレンジしてみる柔軟性も心地いい」と明かし、サッカー界への転職は「判断は間違っていなかった」と話す高島さん


 IT企業で働く私が「サッカークラブの経営に携わりたい」と思ったのが30代半ばの時。ちょうどその頃、Jリーグがクラブ経営人材の養成と輩出を目的に「Jリーグヒューマンキャピタル」(以下JHC)を創設し、受講生を募集していることを知りました。JHCはスポーツ界で活躍しているキーパーソンから研修が受けられる点に大きな魅力を感じました。何より、自分のビジネススキルがサッカー業界にどのくらいインパクトを残せるのか、そして自分のスキルが同じ目標を持った人たちと一緒になった時にどのくらいのポジションなのかを確かめたかったので、迷わず受講を決めました。

 JHCの同期生には経営者やJクラブのスタッフ、元プロサッカー選手や経営コンサルタント、銀行員や公務員など、様々な職種の人がいました。そういった方々と意見を交わし合う時間は本当に刺激的でしたし、「新しいスポーツビジネスのサービス構築と提供」をミッションとするJHCでの学びはとても大きかったと思います。バラエティに富んだキャリアを持つ同期生と受講するなかで確信したのは、「自分の強みはこれまでベンチャー企業で培った、固定観念にとらわれない発想力や戦略性、そして経験値だぞ」ということでした。具体的には、経営面と実作業の両面を見ることができる力は、まだまだ伸びしろがあるJ2やJ3のクラブでこそ生きると考えました。

 JHCを通し、ありがたいことにJ3のSC鳥取からお話をいただきキャリアチェンジを決意したのですが、その判断は間違っていなかったと感じています。SC鳥取は2007年に株式会社化したばかりで、いわばスタートアップ企業のようなもの。代表取締役社長の塚野(真樹)の意思決定は早いですし、目標を達成するためにいろいろとチャレンジしてみる柔軟性も心地いい。今年9月にはJ2クラブライセンスも交付され、チームとしてもクラブとしても成長していく“うねり”のなかでチャレンジを重ねる日々はとても充実しています。

 ちなみに、JHCは2016年にJリーグから独立し、「一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル」と名前を変えて、引き続きプロスポーツ界の経営を担う人材開発と育成を行っています。

◆Jクラブは、企業の社会的責任を果たす必要があります

 もう一度、SC鳥取の“4本目の柱”の話に戻りましょう。

 始めに話したとおり、私たちは芝生の販売を新規事業にしようと考えています。芝生を必要としているところは、自治体、観光地をはじめいろいろありますし、その後のアフターサービスや張り替えも含め、ビジネスとして拡張性があります。鳥取県内にとどまらず世界をマーケットにできる可能性を秘めていますし、事業として十分な将来性を持つアプローチだと確信しています。

 ただし、SC鳥取はクラブの利益だけを考えているわけではありません。株式会社化10年目という節目の今年、私たちは「SC鳥取百年構想」というミッションを立てました。「こどもたちのみらい ふるさとのみらい」「輝くガイナーレ鳥取」「地域社会の一員としてお役に立つ」という3つのメッセージを掲げたのですが、芝生の販売は「こどもたちのみらい ふるさとのみらい」と「地域社会の一員としてお役に立つ」という思いに関連しています。

 県内の小中高の校庭が芝生になれば、砂ぼこりが立たないばかりではなく、転んでも痛くありません。何よりも芝生を前にした子供の目の色が変わります。外で元気に遊ぶ子どもたちは間違いなく増えるでしょう。サッカーに関して言えば、プレー機会が増えることで優秀な選手が出てくる確率が高まります。また、多くの地方都市は農作物が1年以上作付けされていない“耕作放置地”をどう活用するかという課題を抱えていますが、この問題もたとえば芝生畑として利用してもらうことで解決されるはずです。芝生畑は普通の畑と違って畑に入っても怒られません。開放することが可能になれば地域の人々の新たなコミュニティとなるばかりか景観も良くなります。

 地域に根ざすべきJクラブは、企業の社会的責任を果たす必要があります。SC鳥取の“4本目の柱”、芝生の販売はクラブの利益になるだけでなく、事業活動を通じて地域を豊かにする一面も持つ、とてもやりがいのある挑戦です。「Shibafull(しばふる)」というプロジェクト名には「芝生を通し、地域の方たちの笑顔で街を満たしたい」という思いを込めました。私と一緒にSC鳥取と鳥取県を盛り上げたいという熱意のある方は、ぜひクラブまでご連絡ください。直接Facebookにメッセージを書き込んでいただく形でも構いません。情熱のある方のご応募をお待ちしております。


\教えてくれた人/
高島祐亮(たかしま・ゆうすけ)さん
株式会社SC鳥取で社長室事業戦略特命部長を務める。入社前は、2つのIT企業でインターネットメディアをはじめとした50以上の新規事業立上げから業務提携、経営企画部門の立上げ等に携わり、2社連続上場にかかわる。2015年に「Jリーグヒューマンキャピタル(現スポーツヒューマンキャピタル)」で学んだ後、2017年7月から現職。茨城県出身。

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