シンガポール戦で先発出場した日本代表MF柏木陽介(中央) [写真]=Getty Images
金崎夢生(鹿島アントラーズ)、本田圭佑(ミラン)、吉田麻也(サウサンプトン)のゴールでシンガポールを敵地で3-0で下した日本代表。6月の2018年ロシアワールドカップ初戦(埼玉)で味わったスコアレスドローの屈辱をとりあえずは払拭した形だが、「もっと点が取れた」とヴァイッド・ハリルホジッチ監督も手放しで喜んでいるわけではない。
「後半は少し自分たちが引いて相手が出てくるのを待って、そこでボールを奪ってカウンターっていうのを狙いとしてやりましたけど、正直、あまりうまくはまらなかった」とキャプテン・長谷部誠(フランクフルト)も課題を口にしていた。中4日で迎える年内最終戦・カンボジア戦(プノンペン)はよりよい内容で相手を圧倒する必要があるだろう。
そんな日本代表は試合から一夜明けた13日午前、シンガポール市内の練習場でクールダウンを行った。この日は雷警報が鳴り、練習開始が予定より15分ほど遅れた。その後、恒例の青空ミーティングからトレーニングが始まったが、前夜の殊勲選手である金崎と清武弘嗣(ハノーファー)が欠席。金崎は右太もも打撲、清武はドイツにいた頃からの靴ずれが悪化したため、大事を取ったという。
練習は前日先発組、控え組、GKの3グループに分かれて進み、先発組は本田、吉田ら8人が参加。ランニングなどでダウンに努めた。控え組の方は槙野智章(浦和レッズ)や岡崎慎司(レスター)が中心となって声を出して盛り上げ、遠藤航(湘南ベルマーレ)や南野拓実(ザルツブルク)ら若手も士気を高めていた。彼らはランニングやアップの後、5対5、GKを入れての6対6など実戦的なメニューを精力的に1時間程度こなし、コンディション維持を図った。次戦の相手・カンボジアは目下、E組ダントツ最下位。メンバーの大幅入れ替えもあり得る。若い選手にも出場機会が与えられる可能性もあるだけに楽しみだ。
そんな中、先発組で早めにトレーニングを切り上げた柏木陽介(浦和)が少し長めに取材に応じた。
「前日の記事がやたらみんなから送られてくる。『こういう記事が書かれていたよ』みたいな。送られてきたら見るよね。ラインもいっぱい来た。反響は確実に多かった」と久しぶりの代表スタメンでインパクトを残したことで、柏木の周辺は一気に騒がしくなったようだ。
「次のワールドカップが最後だと思ってる。それに出るために代表に残りたい」と悲壮な決意を口にして、シンガポール入りした柏木。その闘争心はピッチ上でしっかりと出ていた。特に清武とのタテ関係は良好で、それほど一緒にプレーした経験がないのに、シンプルなパス交換でリズムが生まれていた。
「メンバー的にもそうだと思うけど、簡単にやる選手が増えた。キヨもワンタッチ、ツータッチでやる選手。キヨとは前回の練習で同じサブ組でやっていたから分かっていた。ただ、もっとキヨのところにボールを出したかったけど、相手に切られていたよね。それでもつねにサポートに行くことは意識していた。レッズでは俺がワンボランチのようにして攻撃組み立てるから、なかなか前との距離を縮められないところあるけど、このチームなら全体的に真ん中に人がいる状態は作れている。自分の特徴は生かしやすいのかな。レッズはあれはあれで楽しいけど、代表は細かいパスが増える。つなぎやすい」と短期間で代表特有のリズムに適応できたという。
こうしたシンガポール戦での柏木の一挙手一投足を目の当たりにして、「遠藤保仁(ガンバ大阪)の後継者に最も近い選手」と評するメディアも少なくなかった。本人も偉大な先輩・遠藤のことはイメージしながら戦っていた様子だ。
「イメージ的にはヤットさんのような感じを意識したい。ただ、今まで左利きのボランチはいなかったし、左利きにできることを考えて取り組んでいきたい」と柏木は遠藤の創造性にレフティならではの武器を加えて、オリジナリティを作り出していくつもりだ。そういう領域に達することができれば、柏木の言う「次のワールドカップ出場」に確実に近づく。
遅れてきた調子乗り世代の司令塔がここからどのような成長曲線を描くのか。次のカンボジア戦の起用法も含めて、非常に興味深いところだ。
By 元川悦子