サッカーゲームキングジャック6月号
2012.10.11

『沈黙を破り、今すべてを語る』 本田圭佑 独占2万字インタビュー全公開

サムライサッカーキング Oct.2012 掲載]
 2010年南アフリカW杯は、ベスト16という望外の結果を残した。1998年に初めてW杯のピッチに立ってから、2002年の熱狂、2006年の惨敗を経て、日本サッカーは着実にステップアップしている。代表選手の半数以上が海外クラブに所属し、欧州のビッグクラブもいまや遠い存在ではない。しかし、それで満足だろうか? 同じ土俵に立っただけではないか? 僕たちは何かを成し遂げたのか? 日本サッカーが真の意味で世界のトップになるために。日本サッカーを変える孤高のサムライの、魂の咆哮に耳を傾けろ。

本田圭佑
インタビュー岩本義弘 写真=新井賢一

──まずは、プレーの話から聞かせてください。最近の本田選手のプレーを見ていて感じるのが、以前と比べて、ボールをもらう動きの質を相当意識して高めようとしているんじゃないかと。「いかにしてフリーになるか」、「いかにして相手を外すか」ということに対して、最も気を使っているんじゃないかと思っているんですが。

本田圭佑 今までも意識していたつもりではいたんですけど、それでもやっぱり、まだ細かさが足りなかったというか、そういった動きの繊細さというか、タイミングも含めて質が低かったのは自覚していました。正直、フリーじゃなくてもボールキープできるという自信はありましたし、フィジカルの強さで何とかなっちゃうというか、ごまかせる部分もあったので、結果的には、かなり怠慢なもらい方になってしまうことも多かった。

──つまり相手を背負ってボールを受けても、大丈夫だったということですね。

本田圭佑 そうです、そうです。でも、それって、どんどんレベルが上がってくると相当難しくなってくるし、自分がもっともっと成長していくためには、細かな動きの質を上げるということも、やっぱり必要になってくる。そこに着手し始めたのは、膝のケガがきっかけですね。リハビリを終えて全体練習に復帰した頃、しばらくは膝の調子がしっくりこなかったので、極力、接触プレーを避けていました。というか、避けていたというより、相手と接触しないためにはどういうふうにプレーすればいいのかということを考えるようになったんです。

──昨日の試合(CSKAモスクワ対クリリャ・ソヴェトフ)を見ていて感じたのが、本田選手のフリーになる動きが、ユヴェントスのアンドレア・ピルロの動きと似ているということ。ポジションの違いはありますが、ピルロのマークを外す動き、つまり、全力でマークを外すんじゃなくて、一瞬のスキを突いて、相手の視界から消えるような、そういった動きを意識しているんじゃないかと。日本で中継映像を見ているだけでは、ボールのないところでの動きはなかなか分かりづらいですし、確信は持てなかったんですが、昨日、生で試合を見て、確信したというか。

本田圭佑 スタジアムで見ればね、分かりますよね。まあ、僕はピルロのプレーをそこまで見ていないので、彼がどういう動きをしているのか、そこまで分からないんですけど、意識しているポイントとしては、そんなに運動量があるわけでもない、そんなにスピードがあるわけでもない、じゃあどうやってマークを外すんや、ってなったら、視界から消えるしかないと思うんですよね。自分がパスを受けた後、どういうプレーをしたいかというビジョンも含めて、自分の特徴を考えると、このボールのもらい方のほうが合致しますね。前でグッと動いて勢いよく外しても、その後、何ができるかということを考えると、プレーの選択肢がかなり限られてきてしまう。そういう外し方では、たぶん追い込まれてしまうと思うんですよね。でも後ろで相手の視界から消えてフリーになってパスを受けられた時には、明らかに長い時間を得られる。その状態のほうが自分のビジョンを描きやすいので、自然とそっちを選択するようになりましたね。

──ただ、トップ下のポジションで、複数の相手選手がいて、「絶対にマークを外さない」と思っている中で、視界から消える動きをするというのは本当に難しいことだと思うんですよ。事実、CSKAモスクワの中で他にそういう動きができている選手は、昨日の試合を見る限りでは皆無ですよね。そういう動きを心掛けている選手自体、ほとんどいない。

本田圭佑 そうですね。ただ、僕自身も実際できていなかったわけですし、簡単ではないと思うんですよ。それに、これって言われて気づくもんでもない。自分自身で、ピッチの中で感じて、そのシチュエーションに応じてポジションを変えていかないといけないんで。それができるようになるには、やっぱり経験が必要だし、論理的にサッカーのことが分かっていたとしても、実際にピッチに立つと、できなかったりするんですよね。

──頭では分かっていても、じゃあピッチの上で具体的にどう動くかとなると、そう簡単ではない、ということですね。

本田圭佑 そうなんです。現に僕も、つい最近まではボールに寄っちゃっていましたし。そうなんですよ。ボールを見てたら、つい、ボールに寄っちゃうんですよ。やっぱり、ボールが欲しいですから。でも、「欲しいんだけど離れる」ということを覚えたら、途端に相手はマークに付きにくくなる。じゃあ、何でできるようになったかと言ったら、僕にとっては、やっぱり、ケガをしたことが大きかった。

──ケガという、いわばネガティブな要素が、結果的には選手としての進化につながった。

本田圭佑 そうです。僕にとってはネガティブな要素じゃなかったっていうことです。ケガはポジティブやったんですよ。

──本田選手の動きの“進化”に合わせて、CSKAモスクワのチームメートの意識も変わってきている部分はあるんじゃないですか? 恐らく、最初のうちは分からなかったでしょうけれど、今は「こういうシチュエーションの時には、ホンダはここら辺にいるな」というのが分かってきているんじゃないかと。

本田圭佑 分かってくれていればいいんですけどね。まだ、分かってないんちゃうかなあ(笑)。


──昨日の試合を見ていても感じたんですが、サイドのゾラン・トシッチは、昨シーズンまでの強引すぎるプレー、セルフィッシュなプレーが目に見えて減って、シンプルにさばくプレーが増えています。あれは本田選手の動きと連動した結果ですか?

本田圭佑 あれもちょっとずつ僕が洗脳しているんでね。僕の動きとの連動というよりも、僕が直接、本人に言っているんで、普段から。もう、毎日のように言ってますよ。ホンダが毎回毎回言うことで、だんだんとホンダのチームになってますから。毎回毎回、外国人勢には、ああしろ、こうしろっていうのは口うるさいほど言ってますね。

──アフメド・ムサあたりにも、相当言ってそうですね。

本田圭佑 ムサ、トシッチ、(ラスムス)エルム、マルク・ゴンサレス、英語が分かるヤツには全員、普段から言ってますよ。

── そうなんですね。だからトシッチは、あんなにいい選手になってきたんですね。彼自身のキャリアにとっても、昨シーズンまでのプレースタイルだったら、再びビッグクラブからオファーが来る可能性はなかったですもんね。

本田圭佑 そのとおりですね。僕はトシッチと二人で話した時に、自分の目標として、「僕はビッグクラブでプレーしたい」と言ったんです。僕も以前から、トシッチもビッグクラブでプレーしたいというのを知ってましたし、トシッチも聞いていたわけですよ、僕の野望みたいなのをね。で、僕が言ったのは、「でも、自分は何だかんだでCSKAに居続けてるし、その理由としては、僕が未熟やからだと。昨シーズン、僕は8点取ったと、MFで8点はいい数字やと。でも、なんで移籍できないか。なぜなら、僕には波があると。それが僕がCSKAからステップアップできない理由じゃないかって、まずは自分の話をしたんですね。そしたら、トシッチが「俺もそうや」と。俺も点は取れるけど、波がある。それと、まだセルフィッシュなプレーが多いと。

──自分でも、自分のプレーの課題を分かってたんですね。

本田圭佑 そうです。そういうのも理由なんじゃないかと思ってると。もっと自分はいいプレーヤーになりたいと言ってました。きっと、こっちが心を開いたことで、トシッチも心を開いてくれたんじゃないかと思うんですよね。まあ、昨日の試合だけでは分からないですし、昨日だって、プレーが良くなったのは自分で点を取った後からですから、まだ評価するのは早いですけど、でも最近、確かに、パスで崩していこうという意識はチーム全体から感じますね。(アラン)ザゴエフもそうですし、全体的に芽生えてきたかなとは思います。

──チーム全体がパスを意識するようになったことで、本田選手の「消える動き」も明らかに機能するようになりますよね。昨日の試合でも、本当に細かく動き直しているじゃないですか。相当意識してやってるわけですよね。

本田圭佑 そうですね。でも、まだまだですね。

──理想を言えば、他にも同様の動きを意識してやってくれる選手がいれば、また一つ上のレベルのプレーができるわけですよね?

本田圭佑 他にもいれば全然違いますし、それから今、僕が課題に感じてるのは、ペナルティーエリアの中で、その消える動きができるようになること。中盤付近では、かなり消える動きができるようになってきたんですけど、ペナルティーエリア付近では、まだ難しい。シンジ(香川真司)とかは見てると、結構できてるんですよね。こう、後ろにクッと振り向けて、ちょっとしたスペースに入っていって、そこで流れながらもらえるようになれば、もっとGKと一対一になるようなシーンも作り出せると思っていて。まだまだ課題は多いなと感じてます。

──昨日の試合でも、後半に一度、ペナルティーエリアの右からドリブルで中に入り込んで、そこからパスを出して、ワンツーを受けようとしたシーンがありましたね。

本田圭佑 マルクとワンツーしようとしたヤツですね。で、マルクがシュートを打ったヤツですよね、はい。

──あのシーンは、ダイレクトでワンツーが戻ってくれば、完全に抜け出してフリーになってました。まさに、ペナルティーエリア内での「消える動き」でしたよね。

本田圭佑 間違いないですね。あそこはマルクがボールをチョンと置いてくれるだけで良かったんですけど。もうDFは足が止まってたんで。でも、ああいったプレーの数が、やっぱりまだまだ少ないです。

──ああいったプレーをどんどん増やしていかないといけない。

本田圭佑 でないと、まだまだ世界のトップにはたどり着かないですからね。(リオネル)メッシを見てると、本当にああいう動きが多いですもんね。しつこいくらいにくり返してるし、それとやっぱり、足元にボールが入った時の技術がすごいから。DFが当たりに行ったらパスを出されてワンツーを狙われる、行かんかったらドリブルで仕掛けられる。シンプルだけど、あのプレーを常にやれるのがすごいですよね。

──メッシはあれだけ激しいマークが付いていても、本当にうまく相手の視界から消えますよね。現在、世界のサッカー界で、最もうまくマークを外してフリーになれる選手だと思うんですが、やはり、バルセロナの試合はかなり見ているんですか?

本田圭佑 バルサのサッカーは、見ていて楽しいですし、一番よく見てますね。もちろん、レアル(マドリー)の試合も見ますし、最近やと(マンチェスター)シティーの試合も結構面白いので見てますよ。でもやっぱり、純粋に見ていてすごいなと思うのはメッシ。メッシのプレーは別格ですよね、勉強になるというか。

──一番勉強になるのは、やっぱり、ボールのもらい方ですか?

本田圭佑 もらい方もそうですし、ボールを持った時の仕掛ける姿勢も勉強になります。メッシって、意外とボールを失うことも多いんですよね。あれだけうまい選手がボールを失うのは、やっぱり、それだけ仕掛けているから。だからこそ、点が取れるわけで。チャレンジする姿勢は、見習わなアカンなと思います。

──本田選手もかなり自分から仕掛けるタイプのプレーヤーだと思うんですけど、もっと回数を増やすということですか? 昨日の試合でも、前半終了間際に、シュートフェイントを交えながら左に左にとボールを動かして、シュートまで持っていったシーンがありました。

本田圭佑 「にわかメッシ」みたいなね(笑)。

──見ているほうからすれば、ああいったシーンは本当にワクワクします。相手をかわした時点で、これはすごいシュートが放たれるんじゃないかと。昨日は最後のタッチがちょっと流れて、結果的にはうまくいきませんでしたけど、でも、ああいったシーンをたくさん増やせば、間違いなくゴールは増えますよね?

本田圭佑 あれをね、たくさん増やすには、まだまだクリアしなければならない課題がたくさんあるんですよ。

──それは自分自身の課題ですか? それとも、チームメートも含めて?

本田圭佑 どっちもですね。両方の質を上げていかないと、僕のスピードであのプレーを何度もやるのは、無理があるというか。僕の場合は、ああいったプレーをする前に、シンプルにプレーしてるから、あのフェイントが効いてくるんで。メッシの場合は、相手DFが読んでても抜いていけますけど、僕の場合は読まれてると、相手DFが頑張れば間に合っちゃう。あくまでも、布石を打ってるから効くわけで。だから、毎試合のように、数多くああいうプレーをやるとなると、そう簡単にはやらしてもらえなくなる。

──そういった感覚でプレーするようになったのは、今回のケガの後ですか? 正直、以前の本田選手は、かわして打てるんだったら打ちにいくのがファーストチョイスで、シンプルにプレーすることで布石を打つ、というようなことは、そこまでプライオリティーが高くなかったように思うんですが……。

本田圭佑 よう見てますね。まさにそのとおりで、自分の選択肢というか、優先順位というのを状況に応じて判断するようにしていて。以前までは、試合が始まる前からすでに優先順位が決まってたりしたんですけど、今はあまり優先順位を決めないようにしてます。ニュートラルな状態から、チャンスがあれば打ちにいく、というような感じのスタンスですね。その瞬間に「アシストのほうが可能性が高い」と感じれば、それを選択するようにしてるんです。だから、見ていて「あれ、打てばいい場面なのにパス出してる」なんてシーンがあったかもしれないですけど、僕の中では、そういうプレーの質を高めていこうと思っているところです。

──つまり、その試合だけじゃなく、よりトップレベルでプレーする自分をイメージしながらやっていると?

本田圭佑 そうです。将来を見据えています。

──今のレベルだと、強引にいったほうがむしろ点が入る場面でも、より高いレベルでプレーした時にも通用するだろうプレーを選択する。たとえ、今はうまくかみ合わないことがあったとしても。

本田圭佑 そりゃそうですよね。例えば、メッシが受け手だったら、ナンボでもアシストできそうなシーンがありますし、逆にそこで引きつけてくれたら自分が打てるシーンもあるでしょうし。その辺の緩急というか、バランスはもっと調和が取れてくるでしょうね。


──ボールを持っていない時の動きの質が高まったことと、シンプルなプレーが増えたことによって、ボールを失う回数が明らかに減りましたよね。

本田圭佑 そうですね。まあ受け方を考えて工夫することによって時間ができたり、次のプレーのプランが描きやすくなってますから。そもそも、パスの受け方を考えてる時点で、次のビジョンを描いてる証拠なんで。だからだいたいそうなんですよね、もう。正直、プランが描けてる時は、取られる気がしないですね。ただ、個人的には昨日の試合はホンマに身体が重くて、全然ダメやったんですけどね。だから、いかに省エネでプレーして効果的にプレーできるか、点を取れるかということだけ、考えてました。

──見ていても、本田選手が省エネを意識しているのは感じていました。週2試合の連戦が続きますからね。でも、あのシーンだけは強引に狙いにいきましたよね、後半、ペナルティーエリアの左に持ち出してシュートを打ったシーン。惜しくも、GKに弾かれてゴールにはなりませんでしたが。

本田圭佑 あそこは打たんとダメでしょ。あそこはエゴですよね。そこのバランスが重要ですよね。瞬時に変えていく、優先順位を当てはめずに、決めずに。

──あそこでゴールに向かってドリブルせずに、左に持ち出した時点で、「あっ、これは決めにいくんだな」と感じました。左利きがあそこにボールを置いたら、間違いなく狙いにいきますよね。

本田圭佑 あそこにボールを置いたら、もう、かわさなくていいんです。10センチ空いていれば打ちます。

──今回、ぜひ聞きたいと思っていたのが、左利きの感覚についてなんですが、自分が左利きであることで、独特の感覚が身についていると感じていますか?

本田圭佑 いや、実はあんまりないんですよ。人に言われて気づくぐらい。自分から感じたことはないですね。だって、自分にとっては、自分がスタンダードやから。

──アウトサイド、アウトフロントのキックのうまさというのも、左利きの特徴なのかなと思っていて。左サイドに展開する時に、よく、左のアウトにかけてグラウンダーのパスを出すじゃないですか、昨日の試合でも出してましたけど。右利きの選手は、右サイドに展開する時に右足のアウトにかけることはほとんどないですよ、よほどの選手じゃないと。

本田圭佑 確かに、左利きの選手は子供の頃、左足一本でプレーすることが多いから、工夫するんですよね。キックの種類が多くなったほうがプレーの幅が広がるから。でも、それも僕の中ではスタンダードやから。自分のキックのどこが他人と比べてすごいのかも分かってないですね、そこに関しては。逆に、何でできひんの、みたいな感じですよね。

──世界的に見ると、浮き球のパスだったり、空間把握能力みたいなものが、左利きの選手は優れているというか、一説には右脳を使ってるからだと言われているんですが。本田選手も、浮き球のパスを多用しますよね。特にエリア付近で。

本田圭佑 それも、僕にとってはスタンダードですね(笑)。他の人がどういう画を見てプレーしているか分からないですし。ただ、プレーしていて、自分が2手先、3手先、4手先までイメージできてる時があるわけですよ。その点で言うと、CSKAのヤツらは全然、イメージできていないなと感じることはあります。それが左利きと右利きの差と言うんであれば、そうかもしれない。でも、僕はそれがそうやと考えたことはないんで。

──続いて、FKについて聞かせてください。本田選手の代名詞とも言えるFKですが、蹴る時に考えていることを具体的に教えてもらいたいと思います。まず、良い位置でFKを取りました。最初に何を考えます?

本田圭佑 まず、自分だけの空間を作るかな。サッカーで唯一じゃないですか、たった一人にあれだけ視線が集まるシーンというのは。常にプレーが流れているサッカーでも、セットプレーの瞬間だけは、蹴る人間だけに視線が集まる。

──ボールを持つじゃないですか。それから、ボールをセットする時は、かなりボールの向きを気にしてますよね?

本田圭佑 気にしますね。置き方も決まってますから。それと、FKが決まる時はね、蹴る前に分かるんですよ。決めるシーンがグーッと画として頭に浮かび上がってくるんです。

──それは、かなり正確にイメージできているということですか?

本田圭佑 結果論ですけどね。でも、決まる時はやっぱり描けているんですよ、鮮明に。鮮明さが違うんですよね、外す時とは。ラインがもう出てきますからね、ボールが動くラインが。

──これまでも、たくさんのFKの名手に話を聞いてきましたが、こんな表現は初めてですね。蹴る前に、弾道も含めて、すべて見えるということですか?

本田圭佑 見えます。GKが動くラインまで見えます。GKがどこまで飛べて、結果的に届かないことも鮮明に見えるんです。だから、FKのシーンになったら、とにかくそれを描こうとするわけですよ。でも、結果論ですけど、外してる時は描けていないんです。何とか描こうとしてるんですけど、必死に。でも自然と、やっぱり狂ってきちゃうんです。

──ゴールに入る時とは違うんですね?

本田圭佑 そうなんです。入る時は、助走する前にもう描けてるんですよ。立ってゴールのほうを向いた時に、「あっ何かきてる」っていう感じになるんですよね。

──描けているかどうかは、どの瞬間に分かるんですか? 蹴った瞬間ですか?

本田圭佑 もう立ってる時ですね。スタートする前です。分かって、描けて、こうクッと見えているわけですよ。で、その結果、蹴ると入るわけですよね。で、描けてたってなるんですよ。「あっ、ホンマに描けてたわ」って。外す時も、描けてたつもりで蹴って、外すわけです。で、蹴った後に「描けてなかったな」って気づくんです。

──すごく独特の感覚ですね。きっと、本当に一握りの人にしか分からない感覚なんでしょうね。

本田圭佑 自分でもまだよく分かってないんです。だから、そこも課題でしょうね。

──それから、現在のボールはメーカーによっても質感が全然違いますし、明らかにFKにも影響が出ていると思いますが、キッカーにとって、ボールの違いはどこまで影響するんですかね?

本田圭佑 やっぱり、全然違いますよね。ボールの質の違いもそうですし、ピッチの芝の長さでも変わってきますし、ボールが濡れているかどうか、スパイクが濡れているかどうかでも、全然違ってきますね。すべてのコンディションがボールの変化につながりますから。あとは感覚的なものもありますよね。それも含めた画なんですよね。

──練習の時から、そういった要素を含めて、意識して蹴るんですか?

本田圭佑 そうですね。感覚的な部分も多いんですが、GKの位置、壁の位置、壁の高さ、風の吹き方、ボールやスパイクの濡れ具合、そういった要素を全部考慮して蹴ります。

──そこまでイメージしてアジャストしていくわけですね。

本田圭佑 はい。その物差しを誤ると、絶対に外れてしまうので、その物差しがピンポイントで来る作業を普段からしないといけないんです。


──ここからは、プレー以外のことについて、じっくり話を聞かせてもらいたいと思います。まず、試合に勝つこと以外に、プレーヤーとして喜びを感じる瞬間を教えてください。

本田圭佑 いっぱいありますよ。自分が点を取った時。自分がアシストした時。思いどおりのプレーで相手の逆を突けた時。

──やっぱり、相手の逆を突いた瞬間というのは、かなりの快感なんですか?

本田圭佑 まあそうですね。特に、精神的な駆け引きで逆を取った時には、「してやったり」みたいな気持ちにはなりますね。ただ、とはいっても、ゴールの喜びには勝てないですよ。だから、逆を突けてゴールを決められた時っていうのは、すごく大きな喜びですよね。なかなかそう甘くはいかないんですけど。

──高いレベルでは、そんなに簡単に逆を突かせてくれないということですか?

本田圭佑 いや、実際はそんなこともないと思うんですけど、ポイントは逆を突く勇気があるかどうかですよね。「逆を突こうとする勇気」って、つまりは「プレーを止める勇気」ということですから。例えば、シュートフェイントを仕掛けるとしますよね。シュートフェイントを仕掛けて読まれて失敗してしまったら、「お前打っとけよ」となるじゃないですか。しかも、シュートフェイントなんて、「ここは絶対に打ってくる」とDFが思った時のほうが引っ掛かるわけでしょ? ということは、シュートフェイントを掛けるということは、実際にシュートを打てたシーンなわけですよ。だから、失敗した時には当然、批判される。シュートを「止めた」わけですからね。

──その感覚、すごく新鮮です。確かに、「プレーを止める勇気」ですね。

本田圭佑 そうなんです、ヘタしたら「やっちゃった」になるわけですよ。大チャンスを逃したっていう。でも、成功している選手は、そういうシーンで打つことを止められる勇気がある。もちろん、失敗しているケースもあるんでしょうけど、また同じ場面でそれをやる勇気がある。まあ、相当なメンタルだと思いますね。

──それもメンタルなんですね。

本田圭佑 メンタルでしょ。あとは絶対的な技術面での自信、その後、決め切るという自信ですね。

── この形だったら、絶対に決められる、という自信が必要なんでしょうね。他に喜びの瞬間ってありますか?

本田圭佑 うーん……人生の喜びはたくさんありますけどね(笑)。

──(笑)。ちなみに、人生の喜びを教えてください。

本田圭佑 例えば、自分の伝えようとしたことを、きちんとメディアが伝えてくれた時ですかね。メディアの仕事というのは、選手の発言や、明確な真実、本質をきちんと世の中やファンに伝えることだと僕は思っているんですが、最近はテレビでも他のメディアでも、数字が取れないから、まずは企画ありきじゃないですか。

──やりたい企画があって、それに選手を当てはめる。

本田圭佑 そう。でもそれだと結局は企画ありきなんで、選手は誰だっていいわけですよ。でも本質を伝えるとなると、その人じゃないとダメやったり、その人が伝えたいことを伝えるからこそ、意味があるわけで。いわばメディアは、選手とファンの間に入る仲介人というか、代理人でしかないわけですよ。でも、やっぱり数字も取っていかなアカンし、会社として生き残っていかなアカンから、実際はどこかでズレ始めてしまうわけですよね、生き残っていくために。僕はそういう中でも、一応どの記者ともガチで勝負していて。できるだけ自分の伝えたいことを伝えてもらいたいと思ってるわけです。だからぶっちゃけ、そういう記者としか話さないようにしてるし、信頼している記者にも、できるだけ長い文章で書いてくれと伝えています。一部だけ切り取ると、どうしても伝わりづらいし、それでなくても僕のコメントは誤解を招きやすいわけやから。だからこそ、自分の伝えようとしたことがうまいこと伝わった時は、選手としてすごく大きな喜びというか、一つのビジネスとしても、完成させることができた感じがしますね。

──まだ、メディアを通して「伝える」ことを、あきらめてはいないということですね? 選手によっては、伝えることをほぼあきらめている選手もいるように思いますが。

本田圭佑 いや、僕も半分はあきらめてますよ。でも、頑張ってる記者もいるんで、その人たちに対してはあきらめていないです。

──他には、どんな喜びがありますか?

本田圭佑 チームメートと「こうやろうぜ」と言っていたことが、ピッチの中で実際に表現できた時。これは自分だけで達成できることじゃないですし、だからこそ、チームとして連動して表現できた時はうれしいですね。

── この前、札幌でのベネズエラ戦後に、中村憲剛選手に話を聞いた時、香川真司選手だけじゃなく、本田選手もボールのないところでの動きが明らかに変わってきたから、スタメンで頭から1回だけでいいからやらせてほしい、と言っていて。一緒にやったら絶対に面白いサッカーができるはずだから、って。

本田圭佑 僕のフリーランが変わってるって、憲剛君も気づいているんですね。

──彼はいわば、ボールのないところでの動きの質で勝負してきた選手だし、そうやってマークを外してフリーになった選手を見つけて、そこにパスを出すことで勝負してきた選手だと思うから。

本田圭佑 確かに、憲剛君のスルーパスはすごいもんね。憲剛君とのプレーは、僕もイメージできますよ。中盤あたりで、クックックって俺が仕掛けていって、相手を引きつけながら憲剛君に出して、もう1回(相手と相手の)間で受けて。そして、アシストか自分でシュートか、そんな感じでしょうね。とにかく、ギャップで受けることを意識して。憲剛君なら、そこを狙ってくれるから。1メートル、2メートルのギャップでも、きっちり見て出してくれるイメージはある。そこで足元に強めに出してくれれば、あとはワンタッチでポンとスペースに出せば。まあ、これは一番、シンジ(香川)が得意としているようなプレーですけどね、どっちかと言ったら。

──そういうプレーがイメージできる選手が今の日本代表には揃ってきているから、そこがかみ合わさったら、すごく魅力的なサッカーができそうですよね。

本田圭佑 みんなが出し手になれて、みんなが受け手になれて。そういうサッカーが徐々にやれてきてはいます。でも、まだまだ全然ですよね。ここで満足したら、もう先はないですから。


── 日本代表で言うと、本田選手は常々、「目標はワールドカップ優勝」と言っています。その目標のために、より高いレベルに日本代表がたどり着くためには、何が必要だと考えていますか?

本田圭佑 まずは、選手それぞれが、それぞれの器を広げることですね。それぞれが器を大きくすることで、僕は本気で世界一になれると確信しています。だから、技術論じゃないです。人として、ということなので、幅は広いですよね。だから、すごい抽象的な言い方になりますけど、抽象的なものが重要になってくると。

──こういう話は、日本代表のチームメートともしているんですか? 以前、長友(佑都)選手や岡崎(慎司)選手とは、「どうしたらW杯で優勝できるか」という話をしていると、口にしていましたが。

本田圭佑 まあね……難しいんだよな……。ユウト(長友)もガキやからなあ、ホンマに。オカ(岡崎)もそんなこと何も考えてないしなあ。

──それだけ話していても、難しいことなんですね。

本田圭佑 いや、僕が求めるハードルが高いんで。世界一の器を求めているんで。もちろん、オカにしてもユウトにしても、日本レベルで見たら立派な大人ですよ。自分をしっかりブランドにしていて、足一本で日本代表まで上り詰めて、その中心にいるわけですから。それは日本人から見たら、憧れの的と言っても過言ではないでしょう。でも、僕が求めているのは世界一ですから。ユウトにはインテルのヤツらに負けてもらっては困るんですよ。

──むしろ、インテルを引っ張るぐらいじゃないと困るわけですね。

本田圭佑 そうですよ。オカだってシュトゥットガルトの、あの個性の強いヤツらを引っ張っていってもらわな困るんです。シンジに関しても一緒ですよ。英語がしゃべれないとかいって、イジられているようじゃダメなんですよ。たとえ、マンチェスター・ユナイテッドだとしても。

── そういうことも含めて、それぞれが、それぞれのクラブで、一番の存在感を出していかなきゃダメだと。

本田圭佑 そうです。もちろんね、それぞれのキャラクターがあるから、俺みたいに引っ張れとは言わないですよ。スタイルが違うんで。ただ一人の男として、やっぱり自立して、その自立心っていうものを磨いていく。それぞれが、もっとカッコいい男になった時に、その男たちが一つの集団になった時に、それぞれの技術論が、そこで初めて戦術になり、結果的に、すごい集団になると思うんです。

──器がより重要になるのは、クラブではなく、代表だからというのもありますよね。クラブチームだったら、日々の練習で、戦術だけで高いレベルに達することも可能かもしれないですけれど、代表チームはたまにしか集まれない。やっぱり、その違いは大きいですよね。

本田圭佑 違いますね。それぞれが日々をどのように過ごしているか、そこで差が出ると思うんですよ。4年に一度のW杯でも、1カ月くらいしか準備する期間がないわけですから。

──本田選手のそういった意識というのは、いつ、どんなタイミングで芽生えたんでしょうか? 誰しもが持っている意識ではないですし、日本を代表する選手たちでさえ、ほとんどの選手は持っていないものじゃないですか。環境なのか、人なのか、何かのきっかけなのか……。

本田圭佑 どうなんでしょうね。よく、この質問をされるんですけど。どうしてそういう考え方が芽生えたのかと。

──もちろん、理由は一つじゃないと思いますが。

本田圭佑 そうですよね。もともとは、僕もこういう考え方をしていなかったと思うし、そもそも考え方って先天的なものではないと思ってますから。でも、やっぱり先天的な部分もあるんですかね? まあ、そうだとするならば、半分は性格で、半分は環境だと思いますね。僕は、小さい頃に両親が離婚して、父親のほうに引き取られたんですけど、父親が仕事で忙しかったこともあって、実質的には祖父母に育てられてたんですよ。それで、同世代の連中が、どういう教育をされているかっていうのを、当時、子供ながらに見てたんですが、僕の家の教育がひときわ厳しかったのは確かですね。

──祖父母に育てられたのに、厳しかったんですね。それは珍しくないですか。

本田圭佑 いや、僕は珍しいといった感覚はないんですよ。僕の感覚では、祖父母は厳しいもんだと思ってますからね。それがスタンダードなんで。

──でも、おじいちゃん、おばあちゃんは、孫に対しては甘くなるというのが一般的な感覚だと思いますよ。

本田圭佑 いや、僕の祖父、祖母はね、本当に僕のことを息子のように思って育ててくれたと思うし、本当は優しい人たちだったとは思うんですけど、あえてね、厳しく接してくれてたというか。それが分かったのは大人になってからですけどね。

──子供の頃は、「何でこんなに厳しいんだろう?」と思っていたわけですね。

本田圭佑 当時は受け入れられなかったですね。それぐらい厳しくて。正直、「俺のことがどんだけ嫌いやねん」って思ってましたから。そう思わされるくらい、厳しく教育されてましたね。でもそれが愛情だっていうのは、大人になってから分かるもんなんですね。初めて気づいたのは、高校(星稜)に進学して、家を出て一人暮らしを始めてからですから。


──日本のサッカー、Jリーグのサッカーと、ヨーロッパのスタンダードなサッカーとの一番の違いはどういうところだと考えていますか?

本田圭佑 これはよく議論されていることだと思うんですけど、一番は「プレー効率の違い」だと思います。いかにしてゴールに向かって行くのか、そのやり方が違う。日本は手数掛けますからね。ヨーロッパのスタンダードで話をすれば、手数を掛けずにシンプルにシュートまで持っていく。効率の良さを最重視するんです。そこが一番違う部分かな。

──それは代表、クラブに限らずということですか?

本田圭佑 いや、今の日本代表はヨーロッパのスタンダードの中でやっている選手が多いから、ミックスになってますよね。日本とヨーロッパのいいところを、合わせたような集団になってると思います。

──確かに、縦に早い時は早いし、丁寧にいく時は丁寧につないでいく、という印象はあります。

本田圭佑 もっともっとこれを高めていけば、見ている人たちも面白くなるんじゃないかなと思いますね。

──ということは、世界一になるにはまだまだだけど、以前と比べて、明らかに日本代表に対しては手応えを感じているということですか?

本田圭佑 いや、まだまだですね。

──「手応えを感じてる」って言っちゃアカン、という感じですか?

本田圭佑 そんな感じです(笑)。いや、言ってもいいんですけど、言いたくないという気持ちのほうが先行してますね。

──ここで満足したら上に行けないから?

本田圭佑 まだまだギアを上げなきゃいけないと思うんですよ。これは僕だけが感じてもダメやし、でも僕が発信しないと始まらないし。はっきり言って、若い連中も全然アカンし、まだまだですよ。いい選手はいるんですけど、それをいい選手と呼んだらアカンし、まだ全然です。

──だから、札幌でのベネズエラ戦の後も、「全然まだまだ」と発していたわけですね。何となくレベルアップしていくだけじゃ、高みには行けないと。

本田圭佑 絶対に無理です。シンジくらいが普通にならないとダメですよ。マンUに入っても、「あー、マンUね」っていうくらいにならないと。それを、マンUに行っただけで騒いでたらアカン。分かるけど、(メディアも)数字取りたいだろうしね。ただ、もう騒ぐなと、まだ何もしていないと。ごっつぁんゴール1つ取っただけやと。もっと、本質を扱ってくれと。


──今年5月に、大阪で「ソルティーロファミリア サッカースクール」をスタートさせました。まず、なぜ現役でありながら、サッカースクールを立ち上げようと思ったんでしょうか?

本田圭佑 それは単純で、現役でプレーしている今のほうが、引退してからよりも、発言力、影響力がありますよね。現役のうちと現役引退してからとじゃ全然違うじゃないですか。僕が小学生の時、釜本(邦茂)さんのサッカースクールに参加したことがあったんですよ。僕は父親が釜本さんのことを好きやったから、当然ながら釜本さんのことを知ってたんですよ。「日本で一番すごかった選手は、誰がどう考えても釜本や」みたいなことを父親がずっと言っていたのを覚えてますからね。でも、周りの友達はね、「釜本さん? 誰?」みたいな感じになってるヤツも多かったんですよ、参加しているにもかかわらず。

──確かに、今年40歳の僕ですら、現役時代のプレーはほとんど記憶にないですからね。

本田圭佑 そうですよね。その状態で憧れの眼差しを持つっていうのは難しいじゃないですか、子供ながらに。今回、このタイミングで、現役のうちにサッカースクールをやりたいと思ったきっかけとしては、少なからず、その経験があったからかもしれません。

──このサッカースクールは、本田選手自身がトレーニングメニューだったり、コンセプトだったりといった詳細な部分にまで関わって進めていると聞いていますが、なぜそのようなスタイルを取ることにしたんでしょうか?

本田圭佑 それも僕にとっては、全くのスタンダードで。僕がやるんだったら、僕が中心じゃないと嫌やし。それだけの話です。

──自分で細部までこだわりたい、ということですね。

本田圭佑 そうです。自分がやることに関しては、何事においても、すべてのことにその姿勢で挑んでます。それだけです。逆に他のサッカー選手がどういう立ち位置でやっているのかが僕には分からないので。よく、「すごいね」とか「よくそこまでやりますね」とか言われるんですけど、逆に、「何でやらないんですか?」と思うんですよね。せっかく自分がやってるのに、そこにこだわりたくないんですかって逆に質問したくなります。

──確かに、一つひとつを聞くと、「そりゃそうだよね」と思うようなことばかりという気がします。

本田圭佑 そうですよね、普通ですよね? いや、普通なんですよ。何もすごいことはやってないんです。

──トレーニングメニューを考えたり、コンセプトを決めたりする上で、一番こだわっていることはどういう点ですか?

本田圭佑 僕がどんなに細かいところに口出ししても、結局は僕がやるわけじゃないので。僕がどんなメニューを考えても、教えるのはコーチなので。だから、僕が一番大切にしているのは、コーチたちとのフィロソフィーの共有ですね。どれだけ僕の考え方を理解しているかということを、トレーニングメニューを決めること以上に僕は大事にしてます。どんなメニューであっても、そこの共有ができていないと何の意味もない。ただ、そのメニューをこなしてしまっているだけ。そんなん誰がやっても全く意味がない。

──すべてのトレーニングは、そのフィロソフィーのもとで行われるべき、ということですね。

本田圭佑 極端に言えば、フィロソフィーさえしっかりしていれば、どんな練習をしたっていいと僕は思ってます。どんなつまらないトレーニングメニューでも、しっかりしたフィロソフィーさえあれば、間違いなく充実したものになりますから。

──逆に言うと、同じトレーニングメニューを行うとしても、フィロソフィー次第では、全く違う練習になる、ということですか?

本田圭佑 そうです。やっている人の考え方次第で、しっかりと充実したものを与えることもできるし、どんないい練習をしても、そこの共有ができていなければ、子供たちも頭に入ってこない。だから、それこそ毎日のように、そこだけはガンガン口うるさくコーチたちに伝えているんですが、これがそう簡単じゃないんですよね。「毎日話してるのに、何で分からへんねん」って思いますけど……。哲学を共有するのは、当たり前ですけど、簡単じゃないです。


──これまでの人生の中で、「挫折」と捉えている経験はあるんでしょうか?

本田圭佑 これまでは、メディアに挫折について聞かれた時は、「挫折の連続でした」と答えてきたんですが、最近、ちょっと考え方が変わってきて。よくよく考えたら、一度も挫折したことないんじゃないかと。それこそ、さっき話したケガの話で、ケガしたことを挫折と捉えるならそうですけど、言ったとおり、いいものやと思ってるわけですよ。ネガティブじゃないんですよ。

──それがなければ、今のレベルまで来ていないわけですからね。

本田圭佑 そうなんですよ。だから、「これまでの人生、メッチャ挫折したことありますよ」なんて答えてきましたけど、今後は全部撤回しようかなと。

──それ、最高ですね(笑)。

本田圭佑 考えようやなって思います。だから、あんまり失敗したことはないのかなと、今は感じてますね。

──では、孤独を感じることってありますか?

本田圭佑 孤独ですか……もちろん、感じることはありますね。むしろ、多いと思います。といっても、悪い意味じゃないですよ。なんか、自分自身が悲劇のヒーローや、みたいな意味じゃなく、良い意味で一人っていうのをポジティブに捉えてますね。だから、一人で考える時間は多いですよ。ポジティブな意味で、孤独は長いですよね。ずっと孤独な感じがします。やっぱり、僕はプロの世界ってそういうもんやと思うんですよ。もちろん、人間は一人では生きていけないっていう大前提で、多くの人にサポートしてもらってるのも承知の上で、それを踏まえた上でも、やっぱり自分の力で何とかしなきゃダメなんですよ。誰かに助けてもらう、もらえる、というような認識では通用しない。助けてもらっていることに感謝しつつも、助けてもらえるなんて思ったらダメなんですよ。自分だけの力で、一人で男は這い上がっていかないとダメなんです。その認識の上で、結果的には、確かに周りのみんなに助けられて、支えられて、ここまで来てはいますよ。でも、僕は常に一人で戦って生きていくんだという気持ちでいますね。

──すべてのことに自分一人で立ち向かっていく、そういう気概が必要だと。

本田圭佑 自分一人……というか、自分というかね。自分と向き合うということです。

──すべての答えがシンプルで、分かりやすいですね。

本田圭佑 そうですか。でも、確かに自分でもシンプルやと思ってます。

──本田圭佑という人間は、周囲の人間に大きな影響を与える存在だと思うんですが、そういう自分については、自分自身でどういうふうに見ているんですか? 

本田圭佑 いや、それもスタンダードなんで。

──もともと、ということですか?

本田圭佑 はい。だって僕はそもそも、人に影響を与える存在だとは自覚してませんからね。いや、周りに言われるから意識しちゃってますけど、逆に意識すると恥ずかしいから、意識させんといてくれよ、と思うくらいで。

──―初めて意識したのは、いつ頃ですか? プロになる前ですか?

本田圭佑 いや、そんなに昔から言われてはいないですよ。メディアに客観的に質問をぶつけられるようになってからですね。まあ、何か影響を与えたいとか、そう考えて言ってるわけじゃないですし。マンツーマン、というのが基本ですよね。それが結果的に、副作用的に、インフルエンサーとなっているだけであって。結果論ですよ。自分は一対一のガチですべてと向き合っているだけなんで。

──今日、こうして話していても、本田選手の言葉は、非常に力強いと感じるものが多いんですが、こうした言葉は、本を読んだり、人と話したりすることによって培われたものなんですか? もしくは、自分自身で突き詰めて考えた結果、生み出されたものなのか。

本田圭佑 先天的な性格が、やっぱり半分は入っていると思いますね。でも、絶対にそれだけじゃないし。やっぱり、日常での訓練とか、そういうものを求めていくことで自分を高めてる。だから、日々求めることで、自分自身が成長していっているというふうには感じます。

──その一番のポイントは、これじゃダメだとか、まだ今のままじゃダメだっていう、強い意志の部分だと感じます。

本田圭佑 飢えですよね。やっぱり飢えというのはすごく重要なものだと思っています。「飢え」というと、これもネガティブなイメージがあるかもしれませんが、僕はすごく重要なものだと感じていて、飢えによって、人はパワーを発揮すると思うんですね。きっと、飢えがなければ、人間はここまで世の中を発展させることもできなかったでしょうし、そのハングリーさが、結果的には現代の社会を築いていると思うし。時にね、それがセルフィッシュなものと紙一重になってしまうかもしれませんが、そこをね、うまいことコントロールできるようになりさえすれば、飢えというのは素晴らしい人間の要素やと僕は思っているんですよね。

──確かに、「飢え」は必要だと思います。うまくコントロールすることができれば、とても大きな力を生み出してくれるものですし。ただ、その飢えを持ち続けることは本当に難しいことだと思うんですが、それは自然にできているんですか? それとも、半分半分ですか?

本田圭佑 半分半分ですね。でも、その半分半分は、自然と持っている、生み出されてくるのが半分で、もう半分は満足してしまっている自分がいるとしたら、その満足してしまっているもう一人の自分を、客観的に見ている自分もいるわけですよ。つまり、自分の中にもう一人の自分がいるわけですよね。で、「お前、満足すんなよ」みたいな感じで、しっかりとお互いをコントロールしつつ、何が必要かを考えながら融合するんですね。それで一つにまとまる。その結果、「満足しちゃダメだ」ということにまとまるわけですよ。だから、一喜一憂する時間は、基本的には数秒しかしない。すぐに強い自分が弱い自分をかき消してしまうんです。甘い自分を。

──その自分の中でのやり取りが、スタンダードなんですね。

本田圭佑 そう、スタンダードなんです。だからそれを築いているのは、さっきも言ったように、先天的なものと訓練。やっぱり求めることと、ハングリーさ、それが基本ですね。

──スタンダードにそういったことを考えることができるのであれば、必然的にやることは見えてくるわけじゃないですか。それをみんながやれたら、すごいことになるわけで。

本田圭佑 だから僕は、「夢を持つことが大事」と、いつも子供たちに言うんですよ。まずはやっぱり夢がないと、つらいことも頑張れないと思うんですよね。

──「こうなりたい」というイメージがないとダメだと。

本田圭佑 そうなんですよ。もちろん人生なんて自分の生き方なんで、「僕には夢なんて必要ない」と言う人には何も言うことはないですし、「楽しく今日を生きれればそれでいい」という人にも、僕は何も言う必要はないなと思っています。それぞれの主張を尊重するべきだと思うし。ただ僕は、自分が夢を持って楽しく人生を歩んでいる一人として、どれだけつらい時でも、楽しくポジティブに考えられるポイントとして、大きな夢を持つということは、かなりオススメできる大事な要素だと思います。人生を楽しくするために、必要な要素だと思います。

──夢を持ち、その夢を実現するためにはどうしたらいいか、ということを考えることが大事なんですね、その人自身で。

本田圭佑 それはね、はっきり言って、24時間中24時間以上考えなきゃダメですよ。時間をね、コントロールしないとダメです、空間として。

──「24時間以上」というのがすごくインパクトある言葉なんですが、自分自身、そういう感覚でいるわけですか?

本田圭佑 それぐらい、っていう気持ちですよね。そんなことまた言ったらね、「24時間以上、なんて何を言ってんねん」っていうヤツが出てくるんでしょうけど(笑)。ただ、そんなことは分かった上で、24時間以上というのは、やっぱり、気持ちの表れやと思うんですよね。それぐらいの、なんか常識を覆すような情熱を持って考えろと。常に自分と向き合えってことなんですね。何が必要なんやっていうことを自分に問えと。

──つまり、そこが一番大事なんだぞ、ということですね。

本田圭佑 そうです。僕がいつもスタッフに言っているのは、「もう結果は見えてるんだ」と。あとは過程さえしっかりしていれば問題ない。過程を見なさい、結果を追ってしまっているから、結果を成功としてつかめないんだ、と。スタートと結果の間には、たくさんのやるべきことがあるんですよ。結果はあくまで結果。要はここなんです。90分後の結果は、90分間のプレーの積み重ねで決まるんです。だから、90分間のプレーを、90分間何をすればいいのかというのを逆算しなさい、ということを言うんですね。その逆算がしっかりできれば、FKもそうですけど、画がしっかりと描ければ、結果はプレゼントとして付いてくるわけですから。だから、勝ちたいというのは当たり前の話やと。勝つためにどうするかを考えなさい、ということなんですよね。

──こうして話をしていると、仮にサッカー選手じゃない人生を歩んだとしても、間違いなくうまくいくだろうなと思います。

本田圭佑 僕も思ってますよ(笑)。

──20年後、30年後の自分というのは、イメージしたことはあるんですか?

本田圭佑 ありますよ。僕はその辺まで鮮明に描いていますから。

──鮮明に! それはすごいですね。まだ人には言ってないんですか?

本田圭佑 そうですね。少なくとも、まだどこのメディアにも言ってないですね。でも、その必要性というものを感じれば、言うでしょうし。まあ、その辺は、その時の気持ち次第かもしれません。

──じゃあ、いつかそれを言いたくなった時に、最初に伝えたくなるメディアであることをイメージしながら、僕もこれから活動していきたいと思います。では、最後の質問です。今回のメインテーマとして、「進化」というのがあります。プレースタイル、考え方、それぞれの進化について話を聞かせてもらいましたが、本田選手にとって、「進化」とは何でしょうか?

本田圭佑 進化とは……人生ですね。どう表現すればいいのかな……。ちょっと宗教っぽい発言になってしまうかもしれませんが、自分が進化することで、自分の生きる意味を探しているというか……。進化というのは、それくらい、大きなものやと思うんですね。だから、僕がいつも言っているのは、サッカーのことだけじゃないんですよ。男として、人として、成長していく必要がある。それが結果として、世界一であり、W杯の優勝にもつながっていくわけです。

──さっき言及した、「器」の部分ですね。

本田圭佑 そうです。サッカーを引退しても、人生は続いていくわけで。その先にあるのは、人として成功できるか。サッカー選手として成功することと、人として成功することとは、別問題やと思うんです。サッカーうまいのと、人生の成功者は別やと。ともすれば、それがイコールみたいな感じで言われますけど、僕はそれは明確に別モノだと思ってます。サッカー選手というのは、たかだか、20歳前後から30歳半ばまでの十数年間のことです。あくまで、人生におけるサッカー選手の期間は、過程の一部に過ぎないと思うし、自分のサッカー選手としての進化、人としての進化は、自分がサッカーを引退した後、どういう方向に向かっていくのか、ということとつながっているんです。自分はサッカー選手としてうまくなって、周りにそういうふうに評価されて、人に感動や夢や希望を与えて。自分は何のためにサッカーをしているのか、何のために成長しようとしているのか、何のために生きているのか、その意味を探しているんです。理由はないんですよ、成長するということ自体には。だからもう、人生です、本当に。じゃないと、意味ないですよね。こんなカッコいいことも言えないようじゃ。つらいことを我慢してサッカー選手を頑張る意味もないし、もうちょっと楽して今を生きたほうがいいし。でも5年後、出るかどうか分からない結果のために、今を頑張っているわけです。

──サッカー選手の成功イコール、人生の成功じゃないと言いましたけど、サッカー選手として成功を収める過程がちゃんとしていれば、きっと、それは人生の成功につながりますよね。

本田圭佑 つながりますね。過程さえちゃんとしていれば。

──つまり、偶然の成功ではダメだと。

本田圭佑 ちゃんとした過程を経て成功するのと、偶然成功するのとでは、全く違ってくると思いますよ。残念ながら、サッカー選手には、偶然成功した選手が多いと僕は思ってますけどね。僕の場合は、それだとここまで来ることすら無理でしたし、これから世界一になるにも、このままじゃ無理だと思っているんで。そういう意味では、人として成長する必要が、さらに求められてくると思うんです。確かに僕がサッカー選手として成功した時には、それはもう人生の成功だと、「もう道は見えてる」と言っても過言ではないかもしれないですね。