今年、20周年を迎えたF・マリノスの未来を担うロンドン・オリンピック世代の齋藤学、比嘉祐介。お互いの印象から素顔、F・マリノスへの思い五輪本大会を控えた今シーズンに懸ける意気込みを初対面からなぜか気が合った2人が語り合う。
写真=鷹羽康博、足立雅史 Photo by Yasuhiro TAKABA, Masashi ADACHI
[写真]=鷹羽康博
「良い選手が多いので一番成長できると思った」(比嘉)
二人が初めて会ったのはいつですか?
比嘉 U─23日本代表のグアムキャンプ前だよな?
齋藤 新体制発表会の時です。その時に初めて会いました。最初はマジで気まずかったんです。
どうして?
齋藤 初めて会った日に新体制発表会に出席して、その後二人っきりでグアムに行かなきゃいけなかったんですよ! だってもし、あまりしゃべらない人だったら……。二人でグアムへ行かなきゃいけないのに、そんなの耐えらんないでしょ。だから「絶対無理!」って、周りの人にずっと言ってたんです。
比嘉 僕は何とも思わなかったんですけど。
齋藤 だって比嘉くんは代表常連じゃないですか。でも、僕は初めてだったから「マジで気まずいって」、「マジで嫌だって」思ってた。
実際に飛行機の中ではどうだったんですか?
齋藤 めちゃくちゃしゃべったんです。
比嘉 代表とか、F・マリノスの話とか。
齋藤 何も知らない者同士だったんで。
比嘉 初めて会ったのに、本当にひたすらしゃべってたね。
一同 笑
齋藤 あれ? 会ったばかりだよね? 初対面だよね? みたいな(笑)。
お互いに実際に会う前と会ってからの印象はどうですか?
齋藤 比嘉くんは僕のこと知らなかったでしょ?
比嘉 知ってたよ。
齋藤 絶対、嘘だよ。
比嘉 高校生の頃にすでに名前は知ってたからね。
齋藤 僕は去年、愛媛にいた時に比嘉くんの友達の内田くんとチームメートで、内田くんから「うるさい奴」って聞いていたので、うるさいんだろうなって思っていたんですけど、やっぱりうるさかったです(笑)。まんまです。
比嘉 学はね、調子に乗ってるんですけど、最初は「こんにちは~、学で~す!」みたいな感じだったんですよ。
齋藤 そりゃあ、そうでしょ(笑)。
比嘉 それで「いい子だ、こいつ」って思ってたら、一日も持たずに生意気だって判明したんです。だって飛行機の中ではすでに生意気でしたから!
齋藤 だって、代表合宿の二日目で、比嘉くんはもう僕のことイジってましたから。代表は気まずいからずっと静かにしてようと思ったのに……。
比嘉 学は完全にイジられ役ですから。
では、サッカー選手としてのお互いのプレーについてはどうですか?
比嘉 学はもう止められないですからね、誰も。チームの中心だからね。
齋藤 それは、違います!
比嘉 学のドリブルはすごい! ドリブルからのシュートは。
齋藤 ないない。だって人を褒めたりしないから、比嘉くんは。
比嘉 いいじゃん! 今は取材中なんだからさ。雑誌に載るんだぞ! 「ドリブルからのシュート!」って。
齋藤 載らない、載らない!
比嘉 で、俺は?
齋藤 うーん、何だろ?
比嘉 テキトーだなー!
齋藤 う~ん、対人が強い。普通にアーリークロスとか練習でもすごくうまいんですよ。そこがすごい!
そもそも比嘉選手がF・マリノスを選んだ理由は何ですか?
比嘉 代表クラスの選手が多いことですね。ディフェンスラインには勇蔵さんと佑二さんがいますし、中盤には俊さんがいて、FWには大黒さんもいて、良い選手がたくさんいるので自分が一番成長できると思ったんです。
齋藤 実際にやってどう?
比嘉 個人としてうまいのはすごく感じたね。学は何でF・マリノスだったの?
齋藤 うーん、あんまり覚えてない。まだ小さかったし。
比嘉 どうせ、「友達に誘われて」とかでしょ?
齋藤 どうだったっけ? でも確か、入っていた少年団でサッカーをやっているのは土日だけで、F・マリノスのスクールは平日に週1回あって。僕はサッカーがやりたかったからスクールに入って、そうしたらプライマリーのセレクションがあって、受けたら受かっちゃったって感じだったと思う。
比嘉 じゃあ、F・マリノスに対する憧れとかは?
齋藤 それはもちろん強かったよ。当時のF・マリノスってすごく強くて、優勝争いしてたし、実際に優勝もしてたからね。だからプロっていうよりは、サッカーがやりたくてF・マリノスに入った感じかな。
比嘉 確かに。F・マリノスってやっぱりビッグクラブだよね。伝統とか、サポ
ーターとか、いろんな面でさ。
「俊さんにボールを渡したのは緊張したな」(齋藤)
今年でクラブ創設20周年ということで、F・マリノスの試合で印象に残っているシーンを教えてください。
比嘉 俺はサッカーをあまり観ないし、F・マリノス1年目だし、ここはもう学だよ!
齋藤 ここはもう、僕ですね!
では齋藤選手、比嘉選手の分も語ってください!
齋藤 じゃあ……って、比嘉くんの分も語れるかな。いや、いくらでもあるんですけどね。全部知ってるから。育成組織にいたからずっと試合は観てるし。やっぱり久保(竜彦)選手のヘディングですかね! 大逆転で優勝した時の。テツさん(榎本哲也)が退場しちゃって。
比嘉 あ! なんかそれ聞いたことある?
齋藤 完全優勝の時!
比嘉 開始すぐにグラウに決められて、15分ぐらいで退場して。0─1で負けている状況から、マルキーニョスが入れて同点に追い付いて。最後、ロスタイムに久保選手がヘディングで決めたやつだ!
2003年2ndステージの磐田戦かな?
齋藤 そうそうそう! それ? ってか比嘉くん知ってるの?
比嘉 昨日たまたま(小林)祐三さんと話してて。本当にたまたま(苦笑)。
齋藤 なんでそんな話になるの?
比嘉 祐三さんと食事に行ったの、昨日。
齋藤 祐三さんと食事に行ったの?
比嘉 だって仲いいもん、俺ら。めっちゃ面倒見てくれるし、超良い人。
齋藤選手はこの磐田戦の時は?
齋藤 ボールボーイです。04年の時はスタンドで観てたんですけど、とりあえずこの03年の完全優勝が一番かな。ボールボーイもやってたし、「うわぁ~すげ~!」って思ってたから。04年チャンピオンシップの河合竜二選手のゴールも印象的でしたよね?
齋藤 確かに、竜二さんのゴールもすごかったですよね。でも当時は、竜二さんの苦労をあまり知らなかったから。やっぱり背景を知ると、あのゴールの意味も変わってきますからね。
比嘉 竜二さんって?
齋藤 えっと、レッズを戦力外になって、トライアウトでF・マリノスに加入した人で、その年のチャンピオンシップでレッズと対戦して、ホームでの第1戦でレッズから点を取ったの。それで1─0で勝った。
比嘉 マジ? それすごいじゃん。
齋藤 あとはね、01年のナビスコカップ初優勝の時も国立に観に行ったよ。あの年なんてリーグ戦ではJ2に降格しそうだったのに、ナビスコでは優勝して。00年のステージ優勝の時は、セレッソがフロンターレに負けたから優勝が転がり込んで来て。この時もボールボーイをやっていて、すごくピッチに近かったから印象が強いね。もちろんそれ以外にもいっぱい覚えているけど。
比嘉 ボールボーイやりながら試合を観るってどんな感じなの?
齋藤 淡々としてる。普通に観に行ってるのと変わらないよ。
比嘉 緊張したりしない?
齋藤 しないけど、でもレッジーナとマリノスが試合した時に俊さんにボールを渡したのは緊張したな(笑)。
比嘉 何それ、何の試合?
齋藤 俊さんがイタリアのレッジーナに移籍して、その凱旋試合みたいなやつでF・マリノスとプレシーズンマッチをやったの。その試合でボールボーイをやってね、コーナーに向かって、ふわってボールを投げたんだよ。
「呼ばなきゃいけない空気にしたい」(齋藤)
そんな歴史あるクラブが今年で創設20周年ということで、これからこのチームでどう力を出していきたいですか?
齋藤 とりあえず2年前は全く何もできなかったので、チームの勝利に貢献したり、本当の意味でチームの力になりたいです。去年は愛媛に行って、F・マリノスのことを外から見ていて、最後に失速したけどその前までは良い順位にいたじゃないですか。だからその中で自分がどれだけできるのかを試してみたいです。運も必要だけど、F・マリノスは優勝できるチームだと思っているので、そのための手助けじゃないですけど貢献したいです。というか、優勝してる姿をスタンドやボールボーイとして見ていたので、そろそろじゃないですか!
比嘉 やっぱりまずは試合に出て、チームのために何かできたらいいかなと思っています。
二人にとっては今年はオリンピックイヤーでもあります。二人にとって五輪はどんな位置付けですか?
齋藤 U─17ワールドカップの時はアジアで優勝して、みんなが自信を持ってたし、手応えもあったと思います。優勝したナイジェリアと対戦した時は、少し力の差を感じたんですけど。それでも、その分またナイジェリアとやりたいという思いがみんなにあった。でも、その後のU─20W杯には出られなかったので、U─17以来国際舞台からは遠ざかっていましたけど。でも、あの大会で世界と対戦できた経験はとても大きかったと思います。
比嘉 自分は結構海外の選手と対戦するのが好きなんですよ。日本ではあんまり球際の激しいところとかがないので、そういうところを楽しみながらやってます。
国際舞台で海外の選手と対戦することで、学べることもあると思いますがその辺はいかがですか?
比嘉 日本を背負ってるので、負けたくない思いが強いです。特にアジアが相手だと。そこにビビッてしまったら、この前のシリア戦みたいにやられてしまう。自分たちの良いリズムになれなくて負けたので、あれはすごく良い経験になったと思います。だから次のマレーシア戦の時は最初から繋ごうって話し合って、それで4点取って勝つことができた。マレーシア戦と同じことをシリア戦でもできていたら良かったかなって、みんなも感じたと思うんです。そういうことを学べます。
齋藤 マレーシア戦は本当に緊張感があった試合だったし……。
比嘉 バカ緊張したよね?
齋藤 本当に!
そんなに緊張したの?
比嘉 だって、スタメンが分かったのが前日だったんですよ。
齋藤 それまで全然スタメンっていう雰囲気がなくて。でもコンディションが良かったから、後半は出られるかなって思ってて、結構アピールはしていたんですけど……。ねぇ?
比嘉 そう! 前日の紅白戦でね。
齋藤 そうしたら、え? 俺? スタメン? みたいな(笑)。しかもあの試合ってめっちゃ大事な試合だったじゃないですか。だから、余計に。だって、関さん(関塚隆U─23日本代表監督)はあんなことしないから。いきなりとかしないでしょ?
比嘉 チーム内でも絶対に「え?」って空気はあったでしょ。みんな言わなかったけど。
齋藤 あったよ。だって僕が一番「え?」ってなってたんだから(苦笑)。だからあの試合は本当に緊張しました。あまり試合に出てなかったから、「合わなかったら」って思ったりしたし。
やはり二人にとっては五輪は特別な大会ですか?
齋藤 僕は正直まだそこまで思っていないかな。この代表にはあまり入っていなかったし。とりあえず愛媛で出場して評価されて、その後に代表があるって感じだったから。とにかく昨年までは愛媛でどれだけできるかを意識してやってた。もちろん本大会で選ばれたらすごく光栄ですけど、U─17の時みたいに自分の中で代表が一番に来る感じではないです。
比嘉 正直、先輩たちのオリンピックを観ていなかったのでこれまでの歴史とかは知らなくて。だけど、たまたま自分が生まれた年代がオリンピックに出られる最年長の年代だったり、最近になってオリンピックに出場することの意味を実感し始めている感じなんです。年齢制限があるから、一生に一回しか出場のチャンスはない。自分のサッカー人生において五輪代表に選ばれて出場できることは、本当に宝になるんだろうなと思います。
本大会のメンバーは18人です。この狭き門に食い込むために必要なことは何でしょう?
比嘉 まず、自分はチームで試合に出て結果を出さないと五輪はないと思っているので、まずはF・マリノスのスタメンで出ることが一番だと思っています。あとは判断やパスの精度を上げていきたいです。齋藤 僕も同じです。
比嘉 言えよ! 自分の言葉で。
齋藤 じゃ、チームで試合に出ることは当然ですけど、その中でしっかりと結果を残さないといけないと思っています。関塚さんの信頼をどれだけ勝ち取れるかも大事だと思います。でも……僕のポジションは激戦区なので厳しいというのは分かっているのですが、それでも結果を残したり、「呼ばなきゃいけないでしょう」って思わせるぐらいの活躍ができればいいと思っています。でも、やっぱり難しいかな……(苦笑)。
比嘉 はぁ? まだ始まってねーし!
齋藤 うん、呼ばなきゃいけない空気にできるぐらい、頑張ります?
比嘉 すげーな。
「プロ1年目、まずは試合に出ないと始まらない」(比嘉)
それでは個人としての今シーズンの目標を教えてください。
齋藤 僕はとりあえずJ1初ゴールを(3月11日の第1節・柏戦で達成)。
比嘉 そればっかりだな。
齋藤 逆にそれしか言わないからね。まずは点を取らないと。
比嘉 そうだな。
クリアしたらどうしますか?
齋藤 クリアした時に考えます。愛媛の時もそれしかなかったので。
比嘉 愛媛の時のその後の目標は何だったの?
齋藤 「これからも取れればいいです」って。数字の設定なんかは絶対に言わない! 比嘉くんは?
比嘉 まずは試合に出ること。プロ1年目だし、まずは試合に出ないと始まらない。試合に出たいです。出ます!
お互いに期待することは?
比嘉 学にはやっぱり点を決めてほしいです。
齋藤 もっとうるさくなってほしいです。代表の時みたいに、もっと声出してほしいです。
比嘉 うるさい(笑)。
齋藤 そうすれば、チームがもっと盛り上がると思うんです。全然声を張らないですから。小さいですもん!
比嘉選手は齋藤選手の期待に応えられそうですか?
比嘉 もう、そろそろね。
齋藤 「2、3週間で慣れるわ~」って言ってたんですけどね。それから結構経ってる(笑)。
比嘉 まだ2週間ぐらいだよ。
齋藤 えー、だってもう開幕したよ?
比嘉 いや、マレーシア戦が終わってからの2、3週間だから。
齋藤 それから結構経ってるよ。
比嘉 そんなに経った? 違う! マレーシア戦じゃなくて、静岡キャンプから帰って来てからだから。
齋藤 どんだけだよ? ま、そろそろ期待に応えてくれると思います。
比嘉 “徐々に”ですね。
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