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ミトリのような少年は数多くいる。/柴村直弥

2015.01.30

 2011年にスタートし、1000名を超えるサッカー&映画ファンが集うイベントに成長、今年も2月14日(土)、15日(日)の2日間で8作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2015 powered by バーコードフットボーラー」。さらに今年は全国8都市で映画を上映するJAPANツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。

 今回はポーランドで現役プロサッカー選手としてプレーしている柴村直弥さんに、欧州の一流クラブでプレーすることを夢見るセネガルの少年の奮闘を描いた劇場初上映作品『リトル・ライオン〜明日へのゴール〜』 についての映画評を寄稿いただきました。

ミトリのような少年は数多くいる。/柴村直弥

 セネガルと言えば、ベスト8に輝いた2002年の日韓ワールドカップで一際鮮烈な印象を世界に与えたことが記憶に刻まれているサッカーファンの方々も多いことであろう。特に開幕戦で前回王者のフランスに勝利した試合は忘れられない。

 2012年のACL(アジアチャンピオンズリーグ)で対戦したチームに在籍していたセネガル人FWには高い身体能力を見せつけられた記憶がある。私の在籍していたウズベキスタンのFCパフタコールはグループリーグ最終戦でUAEのバニヤスとアウェーで対戦し、勝利すれば決勝トーナメントに進めるという試合であったが、身長188cmのセネガル代表FWアンドレ・センゴールにゴールを決められ、グループリーグで敗退してしまったのである。セネガル人選手の身体能力とポテンシャルを身を持って痛感した。

 そんなセネガルの村からプロサッカー選手になることを夢見て欧州に渡る少年ミトリ。空港でクラブからの招待状がなくて拘留されそうになる場面などは現実とリンクし、まさにリアルに描かれている。

 アフリカ人選手たちが欧州へ渡る際に必要となるビザとクラブからの招待状。私の友人のアフリカ人選手も、欧州のクラブから入団テストの話が来て招待状も届いたものの、ビザがなかなか降りずに出国できず、結局テストのチャンスがフイになってしまったという選手もいた。

 彼らは大陸を渡ることも容易ではない上に、渡れたとしてもその先に契約を勝ち取りプロになれるのは、映画の中にも出て来るように、その中でもほんの一握りである。

 ただ、実際にそうやってチャンスを掴み、プロ契約を勝ち取り、世界トップクラスの選手になっていったという例もいくつもあり、実際に私の身近にもそのような選手がいて、階段を駆け上がっていく姿をリアルタイムで見てきた。

 徳島ヴォルティスでチームメイトだったコートジボワール人のドゥンビア。

 彼は18歳のときにコートジボワールから日本にやってきた。徳島で活躍し、スイスの名門クラブへ移籍すると、2年連続でリーグ得点王とMVPを受賞し、数あるオファーの中からロシアのCSKAモスクワへ移籍。そしてロシアリーグ年間MVP、そして得点王にも2度輝き、2010年南アフリカW杯にもコートジボワール代表選手として出場した。

 18歳までコートジボワールで生まれ育ったドゥンビアは、いまでは欧州でもドゥンビアの名前を知らない人はいないと言っても過言ではないくらい、世界トップクラスの選手となった。

 アフリカ人選手のこのような例はいくつもあり、すぐに2、3ケース思い浮かべられる方もいるだろう。実際にアフリカには身体能力が高くて素質があり、ポテンシャルの高い子どもたちも多くいるため、世界のサッカーマーケットから注目もされているのもまた事実である。

 ミトリのような少年は数多くいて、誰とどこで巡り会うかというような運や、不測の事態が起こったときにどう対応するかということも大事になってくるだろうが、当然プレーで実力を示すことがもっとも大事なことである。まずなんとか自分のプレーを見てもらうために自分で行動を起こしていくミトリの姿は逞しい。

 私が最初に欧州のサッカーマーケットに飛び込んだ際も容易ではなかった。28歳の見ず知らずの日本人DFとすぐ契約してくれるクラブなどあるはずもなく、映像と英語のプロフィールを送り、なんとかプレーを観てくれると言ってくれたラトビアのクラブへ練習参加。明日帰れと言われるかもしれない状況で毎日プレーをアピールし続け、練習生として帯同していたトルコキャンプでは、次々に帰っていく練習生を見ながらも、サバイバルの末、1月半かかってようやく契約をしてもらえた。年齢や国籍、ビザなど、まったく同じケースというわけではないが、ミトリの挑戦していく姿に共感する部分もあった。

 映画の中でミトリがパーティーで軽快なダンスで周囲を魅了するシーンがあるが、私も海外のチームでチームメイトのナイジェリア人選手がパーティーでリズミカルなダンスを披露し、一際注目を浴びていたのを目撃したことがある。ダンスというツールは彼らにとってチームに溶け込む1つの手段になることもあるかもしれない。

 さらに、チーム内においてプレーで示すことで認められていくということも重要であり、ミトリのプレーによってチームのエースのアントニーとの関係が変化していく様も見所だ。

 昨シーズン限りで現役を引退したフランスのレジェンド、ティエリー・アンリ似の愛嬌のある顔立ちのミトリに、すぐに愛着が沸いた。現地でスカウトしたというサッカー少年の今後も楽しみである。

柴村直弥(しばむら・なおや)
1982年9月11日生まれ、広島県出身。プロサッカー選手。ポジションはディフェンダー。ポーランド・1リーガ・OKSストミール・オルシュティン所属。インターハイで日本一に輝いた広島皆実高校、中村憲剛らと共にプレーした中央大学を経て、2005年にアルビレックス新潟シンガポールに加入。福岡、徳島、鳥取、藤枝と渡り歩き、2011年にラトビアのFKヴェンツピルスへ移籍。国内2冠を達成した後、2012年にウズベキスタンのパフタコールへ加入、同年7月に同リーグのFKブハラに移籍。2014年7月、現所属先へ移籍。

【映画詳細】
『リトル・ライオン~明日へのゴール~』
セネガル、フランス/ドラマ/102分
監督:サミュエル・コラーディ
提供:アンスティチュ・フランセ

【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2015年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月14日(土)、15日(日)に開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2015.yfff.org/)にて。  

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