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マンチェスター・ユナイテッドのブランド価値…昨季から続く低迷の影響とは

2014.10.18

<<enter caption here>> at Old Trafford on September 16, 2014 in Manchester, England.

[ワールドサッカーキング11月号掲載]

この20年、ユナイテッドはピッチ上の成績とクラブ運営の両方で大きな成功を収め、サッカークラブとしての“ブランド力”を高めてきた。では、昨シーズン以来続くチームの低迷は、その価値にどのような影響を及ぼすのだろうか。
Manchester United Team Group Photocall
文=永田 到
写真=ゲッティ イメージズ

ブランド価値で見るユナイテッド

 経営学的観点でサッカーを捉えた時、すべてのクラブに当てはまる一つの命題がある。それは「勝敗に左右されにくい組織の構築」だ。一つのリーグで優勝できるのは1クラブしかないという仕組みの中で、ピッチ上の成績だけに頼ったクラブ運営はビジネスの不安定さを招く。その点で、優勝を狙えるはずの戦力を抱えながら昨シーズンのリーグ戦で7位に沈み、今シーズンも不安定さが否めないマンチェスター・ユナイテッドは、経営学の視点から見て、極めて興味深い観察対象になり得る。

 ユナイテッドのブランドとしての価値は大きく下落した。イギリス・ロンドンに拠点を置くブランドファイナンス社の調査、「ブランドファイナンスフットボール」によると、2013年度版の調査において、ユナイテッドのブランド価値は世界2位の8億3700万ドル(約920億円)、格付けはAAA+(トリプルAプラス)だった。しかし最新の2014年度版では前年度から9800万ドルダウンの7億3900万ドル(約813億円)、格付けはAAA(トリプルA)。調査対象となっている50クラブの中でもワースト1位の下落幅を記録し、ランキングでも前年度1位のバイエルンに加え、レアル・マドリードにも後塵を拝して世界3位に下がった。

 業種を超えてマーケティング界の権威として世界中にその名を知られているデイヴィッド・アーカー氏(カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院名誉教授)によると、企業のブランドを構成する要素は「競争性」、「刺激性」、「洗練性」、「素朴性」、「誠実性」の5つがあるという。サー・アレックス・ファーガソン在任中のユナイテッドは、このすべての要素を高い比率で満たしていたと言える。しかしデイヴィッド・モイーズ就任以降、ダッチロールを見せたクラブは、プレミアリーグでの勝ち点などクラブのワースト記録を軒並み更新。ブランドとしての力強さを示す「競争性」の点において、特に大きくブランド力を低下させたと言える。

低迷しても廃れないメディア価値

 ユナイテッドの低迷はしかし、クラブが持つメディア価値の高さを逆説的に浮き彫りにした。昨シーズンの報道を思い出してほしい。ユナイテッドが試合に敗れるたびに、「あのユナイテッドがまた負けた」と世界中のメディアが騒ぎ立て、サッカーファンの話題の中心であり続けた。多くのプレミアリーグファンにとって、13-14シーズンは「マンチェスター・シティが2年ぶりにリーグ優勝を飾ったシーズン」と言うより、「ユナイテッドが数々のワースト記録を更新しながら、ヨーロッパリーグ出場権すら逃したシーズン」と言うほうが、しっくり来るだろう。

 そしてこれこそが、ユナイテッドの持つ真の意味での価値を反映している。どれだけ低迷しようとも、「あのユナイテッドがまた負けた」という新鮮な驚きは、ニュースとしての価値を生み出す。つまり、ユナイテッドは試合に勝っても負けても大々的にメディアに取り上げられる、希有な存在となっているのだ。近年は、スポーツマーケティングで知られるレピュコム社のように、スポンサーシップの費用対効果を広告のメディア露出の度合いから割り出す企業もある程で、メディア露出の度合いは以前にも増して重要視されている。負けてもニュースになるユナイテッドは、勝敗に左右されない、特別な価値を持っていることは確かだ。

ユナイテッドのアキレス腱

 筆者自身、ユナイテッドのブランドについて、イギリスに拠点を置くサッカービジネス界の複数の教授と意見を交わしたことがある。FIFAを始めとする数々のサッカー関連組織とプロジェクトをともにし、BBC等の英国メディアに第一人者として寄稿することも多いコヴェントリー大学のサイモン・チャドウィック教授は、ユナイテッドの「ブランド疲労」に対する今後の懸念を示す。ブランド疲労とは、利益重視のビジネス展開を図るが故、ブランドを安売りしてしまい、結果としてブランド価値を磨耗させてしまう、という概念だ。

 近年の事例で言えば、米国発のコーヒーチェーンが売り上げ重視で大量出店したが故に、提供するサービスや商品の質が低下したと指摘されていたのが当てはまる。ユナイテッドは世界レベルの高い認知度を活用して、様々な業種にスポンサーシップの提案を持ち掛けている。営業担当者の立場からすると、少しでも高い営業実績を積み上げたいがために、相手先の企業としての信頼性は結果的に後回しにして提案交渉を進めていくことになる。本来であれば、相手先が信用に足る企業なのかどうかを見極める「企業与信管理」が行われるべきなのだが、この機能が適切に働かず、通常必要なプロセスが見落とされてしまっているのが現状だ。そのため、ユナイテッドが長い歴史の中で築き上げてきたポジティブなブランドイメージを損ないかねないようなスポンサー企業もごく一部に存在してしまっていて、この点を憂慮する現地記者も存在している。ピッチ上の選手のプレーが重要なのは言うまでもないが、真のグローバルブランドとして進化を遂げているユナイテッドには、その格式に見合うだけの成熟したクラブマネジメントがピッチ外でも求められている。

忍び寄る「永遠の隣人」

 全く同じ場所にホームタウンを構えるシティは、ブランドファイナンス社の最新版ブランド価値調査で、前年比1億7800万ドル(約196億円)アップの5億1000万ドル(約561億円)という、上昇幅2位の数値を見せている。ユナイテッドの凋落とシティの飛躍が今シーズンも同じレベルで継続すれば、次年度の調査でシティがユナイテッドを上回る可能性すら出てくる。実際にブランドファイナンス社の調査には、チャンピオンズリーグ(CL)における戦績が色濃く反映されており、そもそもCLに出場できないユナイテッドは、この点で次年度のブランド価値調査で大きなハンディを背負うことになる。

 ニューヨーク・シティやメルボルン・シティの発足、そして横浜F・マリノスとの提携と、国境を超えたチャレンジングな動きを見せるシティに対し、ブランドファイナンス社は「イングランドのトップレベルにおけるパワーバランスは、マンチェスターの青いほう(シティ)に強烈に傾いてきている。スポンサーや心変わりしやすいファンにとって、シティは近いうちにユナイテッドを大幅に上回る魅力的なブランドになるだろう」という、極めて高い評価を下している。

 現在のユナイテッドはクラブ運営において改善すべき課題を抱える一方で、ライバルクラブが飛躍的なステップアップを見せているという、内憂外患の状態。だからこそ、ヨーロッパカップ戦への出場権がなく、試合日程面では余裕があるはずでありながら、今夏は金に糸目をつけない選手補強を行ってきた。この動きを受けてブランドファイナンス社は、「世界で最も価値のあるクラブに返り咲くべく、ユナイテッドは新監督ルイ・ファン・ハールの下で再建を果たすはずだ」とレポートの中で述べている。

 昨シーズンとはチームの顔触れが大幅に変わった中で、ユナイテッドは果たしてV字回復を見せることができるのか。刮目して今シーズンを見届けたい。

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