サッカーゲームキングジャック6月号
2014.09.06

【インタビュー】現役慶大生の日本代表FW武藤嘉紀、“持っている男”の飽くなき向上心

武藤嘉紀
写真=瀬藤尚美 インタビュー・文=小谷紘友

まさしく、“持っている”という言葉がしっくりくる。慶應義塾大学に在学中でありながら、Jリーガー。ルーキーイヤーながら、FC東京でレギュラーを張り、チームトップのリーグ戦8ゴール(J1第22節終了時点)。ついには、ハビエル・アギーレ監督の初陣となる日本代表にも初選出された。

 破竹の勢いで階段を駆け上がるFW武藤嘉紀からは、端正な顔立ちに想像を超える好青年ぶりが輪をかけて、天が二物も三物も与えたという印象を受ける。ただ、彼にもFC東京U-18時代に、トップチーム昇格の誘いを自信のなさから断っていたことがある。

アギーレ監督をして、「非常に若くて、攻撃的でハングリー」という現在の姿とは想像がつかないような、「自分を外から見たときに、プロでやる自信がなかった」という過去もあった。

フォーメーション変更で点を取ることを意識し始めました。

武藤嘉紀

――現在、FC東京でチームトップのゴール数を挙げています。ご自身で調子が良いという実感はありますか?
「実感はありますが、今までのチャンスの数を考えると、前半戦でだいぶシュートを外してきたので、物足りないと感じます」

――プロ入り前に立てた目標や描いていた理想像はありましたか?
「今年は、10点を取ろうと目標にしていました。自分としては大きな目標だったのですが、今は達成に近付けているのかなと思います。あと3点ですけれど、それを超えていけるように頑張っていきたいです」
※編集部注(インタビュー日は8月24日。第22節の鹿島戦で1ゴールを記録して、シーズン通算得点は8)

――目標は立てていましたが、最初はなかなか出場できないと思っていたのでしょうか?
「FC東京はタレントも多いですし、実力のある先輩がたくさんいます。入った時は絶対にレギュラーを取ろうと思っていましたが、こんなに早い段階で試合に出られるとは正直思っていませんでした。開幕戦でスタメンとして使ってもらえて手応えを掴んだので、そこからはレギュラーに定着しなければいけないなと、毎試合毎試合に臨んでいます」

――最初はサイドでの起用が多く、途中からFWに入ることが多くなりました。起用法の変更で心境の変化はありましたか?
「フォーメーションの変更があって、『どうしよう』とは思いましたが、監督がFWに抜擢してくれました。そのおかげで点を取ることを意識し始めましたし、サイドでのアタックの時よりも得点に関する貪欲さも出てきたのではないかなと思っています。監督からもゴールに向かう姿勢や裏への抜け出しについては個人指導を受けました」

――実際は、どのポジションでのプレーが得意ですか? ユース時代には、サイドバックも経験していたと聞きました。
「どこでもできますね。守備も苦手ではないです。プレーしていて気持ちが良いのは、やはりサイドかな。でも、最近はFWで点も取れるようになり、得点する喜びも感じられるようになってきたので、前線でもとても楽しんでプレーできるようになりました」

「自分はまだ全然実力が足りていない」と感じていました。

武藤嘉紀

――本来、武藤選手は石橋を叩いて渡るような慎重派なのでしょうか、それとも大胆なタイプなのでしょうか?
「サッカーに関しては、ガンガン行く方ですが、普段の生活や物事を決める時などは、石橋を叩く方かな」

――FC東京U-18の時にトップチームからのオファーを断ったと聞きました。理由は何だったのでしょうか。まだ自信がなかったからでしょうか?
「その通りです。結構、自分のことを客観的に見るタイプなんです。自分のことを絶対に過剰評価などはしないですし、そうやって自分を外から見た時に、自信がありませんでした。『これではプロでできないな』と思ったので、ユースの時は、トップには進まずに大学を経由して行こうと決めました」

――プロ選手になることは、目標に置いていましたか?
「もちろん。常に意識はしていましたが、トップチームのキャンプなどに参加させてもらって、『あ、ちょっと違うな』と。『自分はまだ全然実力が足りていない』と感じましたね。大学では、プロで活躍できる成長を求めましたし、活躍できる自信を付けようと思っていろいろなことに取り組みました。具体的にはフィジカル面で、筋トレにはだいぶ力を入れて取り組んでいました」

武藤嘉紀

――トップチームでプレーするようになって、プロの壁とかは感じましたか?
「特には感じなかったですかね。(大学時代にFC東京への)JFA Jリーグ特別指定選手の時に関しては、結構ありました。部活を辞めて今年プロに入り、とにかく『やってやろう』という気持ちしかなかったので、壁という壁はなかったような気がします。JFA Jリーグ特別指定選手の時は、やはり周りの選手の目を気にして、自分のプレーを上手く出せませんでした。自分の良さを上手くアピールすることができなかったという面で、少し悩んだ時期がありましたね」

――気持ちの面が変わった瞬間やきっかけはありましたか?
「監督が代わって、自分のプレーを理解してくれて、本当に良いアドバイスをくれるようになったことです。自分に対してプラスになる言葉を掛けてくれて、だいぶ自信がついてきたのかなと思います」

――具体的にはどういった言葉でしょうか?
「『持っているものは本当に素晴らしいから、あとはその良さをどうやって試合に活かしていくか』など、細かく教わった記憶があります。マッシモ(フィッカデンティ)監督は、自分の良さも理解してくれた上で、プラスになるような声掛けや改善点を、すごく丁寧に教えてくれたので本当に感謝しています」

――今季のFC東京は守備が特長のチームだと思います。前線でプレーする上で、守備の局面で気をつけていることは何ですか?
「連動性は大切にしています。FWでも守備をサボらないことは、意識しています。それをやらないと、試合に出られないと思います。FWは点を取ればいいというサッカーではないので。だから、守備に関しても献身的にやらなければいけないなと」

口に出したり、文章にしたりすると、得点することが多いです。

武藤嘉紀

――監督はチェゼーナ時代に長友(佑都)選手を指導していましたが、長友選手や海外のことについて話されたりしますか?
「長友選手はいつも練習の時にイタリア語で『向上する』、『上手くなる』という言葉を最初からずっと使っていたと教えてくれました。『お前も常に練習で上手くなろうと思わなければいけない』と。『いつも練習で、自分を向上させないといけない』ということを監督から言われています」

――J1第8節のセレッソ大阪戦でリーグ戦初ゴールを挙げ、首位の浦和レッズ戦で2ゴールを挙げました。“持っている”という印象を受けますが、ご自身ではどう感じていますか?
「口に出すと実行するというか。例えば友達に『俺、明日決めるよ』と言ったり、何か口に出したり、文章にしたりすると、得点することが多いです。セレッソ戦に関しても、みんなから激励の言葉があって、友達も見に来てくれて。『お前、明日は決めろよ』といったことを言われ、『絶対決めるよ』と返したところ、決めることができた、という感じです。レッズ戦も、アギーレ監督が来るということになって、みんなからLINEのメッセージなどがたくさん来るんですよ。『アピールしろよ』といった内容です。『決めてくるよ』という感じで返信をしたら、ゴールを決めることができたので『ああ、やはり言葉にするのは大事だな』と思いました」

――有言実行タイプですね。
「そうですね。どちらかと言うと、言ったことに責任を持つタイプですし、それを実行しようと頑張れる方だと思うので、言った方がいいのかなと。でも、自分の実力を考えて達成できるラインのベストを狙って言うようにはしています」

――期待されることに対して、「プロはそんなに簡単な世界ではない」と思うことはありますか?
「全くありません。FWで出場していることもあって、『点を取れよ』と言われたら、点を取るしかないじゃないですか。そういうポジションなので、むしろ、そういう応援をされる方が嬉しいですし、それに応えなければいけないなと思っています」

武藤嘉紀

――浦和戦は2点とも素晴らしいゴールでした。アギーレ監督が来ていて、色んなプレッシャーがある中で、実力を出すことは何かの積み重ねでしょうか?
「1点目に関しては、普段はあそこからドリブルを仕掛けても、決まらないんですよね。たぶん、あのような形では1回も決めていないかな。左から中に切れ込むのが得意の形なのですが、最終的にシュートではなくパスを選んでしまったこともあって。ずっと外し続けていたので、練習をしていたんですよ。データを取ると左から切れ込んでシュートという形がかなりの確率を占めていたので、『そこを練習すれば、もっと得点できるよ』とスタッフにも言われていました。練習後に、GKと一対一になった場合はゴールのどこを狙うかという練習を、だいぶやりました」

――シュートに入る前のプレーでは、DFとの駆け引きもありました。一度、DFの裏に、サッと入っていましたが、あのようなプレーも練習しましたか?
「あのプレーは、FWになってからどういう動きが大事なんだろうと考えていくうちに編み出しました。最初から縦に行ってしまうと、オフサイドにかかりますし。ちょっと横に動いてから縦にクッと行くと上手く抜けられるので。それは自分で考えてできたのかなと思います。裏に飛び出すと相手DFも嫌だと思うので、嫌なところ嫌なところを突いていくことは意識しています」

――体幹のトレーニングをやっていると聞きました。
「一瞬の緩急の変化に加えて、強さがあれば、DFに抑えられることはそれほどないので。だから、一瞬の駆け引きと、相手がぶつかってきても跳ね返せる力、パワーを持つことが大事なのかなと思います。スピードだけだと抑え込まれてしまう時があって、スピードを活かし切れないということもあるので。スピードとパワーがあると、抑えに来られてもそのまま弾き飛ばして、相手の前に入っていけます」

――自分に何が足りないかをずっと考えている感じですね。
「そうですね。足りないものを模索して、補うといった感じです。小学校からずっとそうだったと思います」


当たり前だが、現役慶大生の日本代表という誰もが羨むような肩書きも、はじめから手にしていたわけではない。飽くなき向上心や信頼できる指揮官や先輩たちに支えられ、苦悩を感じて努力を重ねた末に掴み取った居場所や手応えなのだろう。トップチーム昇格を断った当時を振り返る武藤の表情は、自信に満ちて、発する言葉には力が溢れていた。

 余談になるが、近頃に武藤の有言実行ぶりを表すようなエピソードがもう一つ加わった。日本代表メンバーの発表前、8月2日に行われたJ1第18節の清水エスパルス戦後のことである。

 フル出場し、自身初の1試合2ゴールで4-0の快勝に貢献した武藤は、ヒーローインタビューで「日本代表も視野に入れて頑張っていきたい」と語った。本人は代表選出前に「あれはズルい。上手く言わされちゃいました」と笑ったが、結果的に実現させた形となっている。

普段はサッカーをあまり見ないと話す武藤だが、ブラジル・ワールドカップでのコロンビア代表MFハメス・ロドリゲスらのプレーを見て、「同年代であれだけ堂々とプレーしているのは、本当にすごい」と感じたという。とはいえ、その感情は憧れという類のものではない。

「もっとやらなければいけないという感覚です。自分ももう22歳だから、そろそろ結果を出さないといけないなと」

「幼い時から憧れだった」という日本代表に選ばれた際、マッシモ・フィッカデンディ監督から掛けられた言葉は、「ゴールではなく、スタート」だった。駆け上がっている階段は、遙か高みに通じている。