サッカーゲームキングジャック6月号
2014.08.18

【サッカー×将棋 特別対談】村井満Jリーグチェアマン×将棋棋士・渡辺明二冠「接近する将棋とサッカー」

構成/頼野亜唯子 写真/樋口涼(2014年7月23日 @東京将棋会館)

 今年1月、第5代Jリーグチェアマンに就任した村井満氏。就任以来、J3を含む全51クラブの地元訪問を実現しようと全国行脚を敢行中だが、その一方で、Jリーグの振興・発展のヒントを得ようとさまざまな“異業種”の俊傑との交流にも精力的である。そんな村井氏が、なんと将棋の棋士に会いに行った。

 対談相手の渡辺明二冠は、現在「棋王」「王将」のタイトル2冠を保持。また、かの羽生善治名人(四冠)ですら未踏の「永世竜王」資格を唯一持つ、押しも押されもせぬトップ棋士だ。

 頭脳のスポーツとも言われる将棋の世界に興味津々の村井チェアマンと、「サッカーと競馬が二大趣味」と公言するほどのサッカーファンである渡辺二冠との、楽しくも濃密な対談が実現した。

「将棋の場合は小学生の時の力関係がそのままで上がってくる。もちろん、お互いがきちんと努力した場合ですが」

村井 実は、最近たまたま『ナリキン!』(*1)という漫画を読みまして、「こんなにサッカーと将棋は近いんだ!」と知りました。それがきっかけで、こういう対談の場を作ってもらうことになりました。将棋については全くの素人なので、ピントのズレた質問をして失礼があったら申し訳ないのですが、よろしくお願いします。

渡辺 こちらこそ、よろしくお願いします。

村井 先ほど、この将棋会館の中の「将棋道場」で、夏休みの子どもたちが将棋を指しているところを見て来ました。将棋の場合、スタートの年齢は何歳ぐらいからなのでしょう?

渡辺 自分の場合は5歳か6歳、小学校に上がるぐらいの年だったと思います。プロを目指す子はそれぐらいが一番多いとされていますね。3歳ぐらいの子でも、たぶん指せるんですけど。

村井 3歳でも指せるんですか!?

渡辺 はい。ただ、反則などのルールがありますので、そういう事を理解した上でやるには、3歳ではちょっと厳しい。よほど頭のいい子なら別ですが。だから一般には小学校に上がる前くらいが多いんじゃないかと思います。それから道場などに来て腕を磨く。

村井 Jリーグは今、51クラブあるんですが、Jリーグへの入会基準として、アカデミー組織、つまり高校生世代のユース、中学生世代のジュニアユースのチームを持つことを条件にしています。今回のW杯のドイツを見てもわかるように、トップの強化を考える時に、育成年代の子どもの位置づけがすごく大事だと言われているんですね。いかに子どもの時、神経が発達するタイミングで、箸を使ってご飯を食べるように足の細かい動きを身につけられるか。でもサッカーの特徴は、何歳ぐらいから化けるかわからない。例えば長友佑都選手は愛媛県の出身ですが、ユース年代までは代表に呼ばれることもなく、大学に行ってから花開いている。そういう選手もいれば、子どもの時に神童と言われた選手が必ずしも花開かない。

渡辺 ええ、そうですよね。

村井 将棋では、後から花開くということは難しい?

渡辺 将棋の場合、プロを目指すチャンスのある年齢がサッカーよりだいぶ若く設定されているので、大学生からプロになろうというのはまず難しいです。高校生ですら厳しいですね。

村井 それは、奨励会の「26歳までに四段になる」という年齢制限から逆算すると、目一杯やっても大学からでは間に合わないということですか?

渡辺 そうですね。間に合わない。奨励会(*2)というのはプロになりたい子が集まって来るところですが、プロになれる定員は決まっているので、そこでつぶし合うわけです。そして、奨励会には15歳以下で入った方が有利で、15歳以上だとちょっと上のクラスからしか入れないので、どんどん苦しくなっていくんです。

村井 なるほど、なるほど。

渡辺 17歳でも入れますが、次に二十歳で初段という年齢制限があるので、それまで数年しかないというのは苦しい。だから基本的に若ければ若いほど有利なんですよね。その上で、26歳までにプロ(=四段)になれなければ退会という区切りがあるので、小学生で奨励会に入った方が有利だし、実際にプロになっている人を見ると、小学校とか中一ぐらいで入っている人が多いんじゃないかなと思います。

村井 逆に言うと、この子は将来上に行けるという見極めが、小さい時につくということなんでしょうか。

渡辺 そうですね……例えば、今、羽生さんと森内(俊之)さんが活躍していますが、この二人は小学校の時からライバルなんです。

村井 ああ、そうなんだ!

渡辺 ということは、羽生さんと森内さんは小学生の頃から上位で、それが今も同じようにトップなわけですけど(笑)。

村井 つまり、大逆転は起こりにくいということなんですね。

渡辺 そう思います。小学校5、6年生くらいの力関係が、そのままで上がってきちゃう。もちろん、お互いがきちんと努力した場合ですよ。どちらかがサボったりしたらダメですが、お互いが努力すれば、そのまま持ち上がっているケースが多いのかなと思います。

村井 「この子は将来性がある」と判断する要素というのは、当然、頭脳はあるでしょうけど、性格とかマインドというのかな、その辺はどういうバランスなんでしょう。だいたい頭脳で決まるんでしょうか。

渡辺 性格も大きいとは思うんですよね。サッカーはチームに属して、監督やコーチがいて、回りの大人が何らかの道筋を立ててくれる。試合を組むのも大人だし、練習メニューを組むのも大人。だからまあ、子どもは──少なくとも高校生くらいまでは──それに乗っかって行けばいいという部分があると思うんです。

村井 うん、確かにね。

渡辺 将棋の場合、監督やコーチはいません。一応、師匠はいますが、手取り足取り教えるという関係ではない。たまにしか会わないし、技術的な指導はほとんどしないというケースも多いんですね。なので、ふだん家でどういうふうに練習するかは自分で決める。

村井 自分で決めて、自分でやると。

渡辺 はい。自由な時間のうちどれくらい将棋の勉強をするか、全て自分次第だし、サボるのも勉強するのも自由。なので、その子の性格みたいなもので、プロになれるかどうかとか、プロになった後に大成するかみたいなものは、ある程度は決まって来る……もちろん、もともと持っている才能も、これはやっぱり残念ながらあるんですが。

村井 あるでしょうね。

渡辺 おそらく、みんなが同じ勉強をしたからといって同じ強さになるわけじゃなくて。サッカーもそうでしょうけど、持って生まれた運動神経があるじゃないですか。

村井 あります、あります。

渡辺 ちょっとの差なら逆転するかもしれないけれど、どうしようもなく運動神経が良い子と悪い子と、当然ながら存在してしまう。将棋でもそれはあるんです。でも将棋の場合、やっぱり自分でどういうふうに勉強していくかみたいな部分は、けっこう大きいですね。

村井 うーん、なるほどね。『将棋の子』(*3)というノンフィクション小説を読んだのですが、奨励会の子どもがプロになれるかどうかという、あれは残酷な世界ですね。

渡辺 そうですね。

村井 半期に2名ということは、1年に4名しかプロになれない?

渡辺 そうです。

村井 それが全て勝負で決まっていくわけですか?

渡辺 奨励会は6級が一番下のクラスで、そこから5、4、3、2、1級と上がって初段になって、その後に二段三段と、勝ち数などの規定によって上がりますが、三段から四段は定員制なんです。半期で上位2名。Jリーグで言えば、J2からJ1に上がる枠が3つと決まっているようなもの。三段の奨励会員が30人になっても40人になってもプロになれるのは2人なんです。

村井 厳しいですね。

渡辺 三段まで行ってようやく、そこからプロになれる割合が50%くらいになる。もちろん三段まで行けない子もいるわけです。

*1 「ナリキン!」:鈴木大四郎作のサッカー漫画。将棋の天才少年がプロサッカーチームのGKになり、将棋の戦術を駆使してチームを勝利に導く。プロ棋士・野月浩貴七段が監修。月刊少年チャンピオン(秋田書店)連載。
*2 奨励会:日本将棋連盟によるプロ棋士養成機関。関東奨励会(東京)と関西奨励会(大阪)があり、プロ棋士を目指す子どもたちが全国から入会する。
*3「将棋の子」:講談社刊、大崎善生著。奨励会でプロを目指し、志を果たせず退会した主人公の人生を描いたノンフィクション。第23回講談社ノンフィクション賞受賞。

コートジボワール戦の先制点は歩一枚の得。銀得に昇華できないと苦しい。

村井 ところで、W杯はご覧になりましたか?

渡辺 ええ、見ていました。

村井 今回、果たして日本代表は初戦のコートジボワール戦に向けてコンディション調整ができていたのかどうか、国民がいろいろと議論しているんですけれども。

渡辺 はい、ええ(笑)。

村井 渡辺さんの著書を読ませていただいたら、将棋では準備することが大事で、生活時間の大半を研究に使うとありました。将棋の場合、対局に向けた準備というのは具体的にどういうことなんですか? 相手の将棋を研究することももちろんあるでしょうし、自分の体力とか気力とか……何をどう準備するのですか?

渡辺 そうですね……いまおっしゃったことの両方ですね。まず自分自身のコンディションというか実力というか、そういうところを上げていく。それはふだんからの課題ですが。あとは、対戦相手がいますね。サッカーの場合も、自分自身の技術やコンディションがある上に相手がいて、当然一試合ごとに相手が変わって来ますよね。将棋も同じで、その相手の戦術に対して本番でどういう戦術をやるかというのは家で考えるんです。パソコンで資料を使って考える。現場に行くともう資料が読めないですから、家で資料などを分析しておいて、対局場に行く。だから両方並行して行うような形です。

村井 なるほど。それから、今回のW杯ではベスト16に残ったチームのうち、12チームが初戦で勝っているんですね。結局、予選リーグ3試合の初戦を勝って勝点3を取れば、あとは一つ引き分ければ決勝トーナメントに進む可能性が高くなる。

渡辺 ああ、そうですよね。

村井 だからどのチームも初戦の勝利はものすごく重要視していて、そのとおりに16分の12が上がった。例えば竜王戦(*4)の7番勝負で、渡辺さんが羽生さんに3連敗してから4連勝した対局がありましたよね。将棋の場合、初戦(1局目)の重要性とか、初戦を勝つことによるアドバンテージはあるんでしょうか。それともあまり関係なく、一戦一戦がフラットなものなのか。

渡辺 将棋のタイトル戦には五番勝負、七番勝負とあって、竜王戦だと七番勝負ですが、でもあれは毎日続けてやっているわけではなくて、一局一局の間にけっこうインターバルがあるんですね。一週間くらい空くんです。

村井 フランスでやって、次に天童へ行ったりとかですね。

渡辺 そうです。天童でやったら次は九州、次は北海道で、みたいにして1週間くらい空けてやるので、わりと一局単位で考えている感じです。それに七番勝負なので、初戦の重要性というのはあまり言われていなくて。

村井 あ、そうなんですか。

渡辺 野球の日本シリーズでは「2戦目が重要」と、野村監督や森監督が言っていましたけど、将棋も偶数局が大きいみたいなことはよく言われます。将棋にはW杯の予選リーグのような3試合のリーグ戦はないのですが、3試合って本当に短期決戦ですよね。

村井 そうですね。

渡辺 将棋には4人で3試合をやるミニリーグみたいなものはなく、あっても先に3回勝った方が勝ちという5番勝負。3試合は本当に短期決戦なので、初戦を落としてしまうときついだろうなと思いますね。

村井 その初戦で、日本は幸先良く先制点を取ったんですけどね。実は、さっき言ったベスト16に残った12チームのうち、9チームが先制点を取っているんです。

渡辺 なるほど。

村井 結局、先に点を取っちゃえば、あとはしっかり守れば相手は点を取りに来ざるを得ない。そこをカウンターで攻めれば、というゲームプランが立ちます。でも日本は先制点を取ったものの、途中でコートジボワールがドログバ選手を出してきて、場内の空気がガラリと変わってしまった。そういう、想定していないような手が繰り出されてくることによって、形勢が逆転してしまうような、想定外の出来事に対する対処とか対応は、どういうふうに考えていらっしゃるのか。あまりないものですか?

渡辺 あの試合は見ている我々も、先制して、勝てるんじゃないかと思いましたよね(笑)。実際はあそこから2点取られて負けてしまいましたが。将棋では、そうですね……先制してリードしたあの1点差というのは、微差じゃないですか。将棋でいえば、歩を一枚得したとか、せいぜいそんなレベルだと思うんです。将棋だと、歩一枚の得くらいだとプロ同士でも普通にひっくり返っちゃうので、あそこで歩得を銀得に昇華させるようなことができれば、かなり勝ちに近づけたと思うんですけど、歩得のままずっとキープしちゃうと、ああいうふうに逆転されちゃっても仕方がないというか。あれは残念な試合でしたよね、本当に。

*4 竜王戦:将棋の七タイトルの一つであり、将棋界最高の公式戦。渡辺明二冠は2004年から2012年まで9期連続で竜王位を保持するという偉業を成し遂げている。

技術的なビハインドを負ってでも「自分の将棋」に持ち込むのは少数派

村井 渡辺さんは、サッカーをどういう見方で見ているのでしょう。やはり将棋的頭脳で見るのですか?

渡辺 いや、普通にサッカーの頭で見ています(笑)。W杯について言えば、コートジボワール戦も、負けるのではないかと僕は予想していたんです。日本を応援する気持ちとは別に冷静に戦力を分析すれば、向こうはいい選手が多いし、日本は若干厳しいんじゃないかと。

村井 なるほど。

渡辺 ただ、ドログバはもう年齢が行っているから、あそこまで働けるとは思っていなくて、むしろ出て来ないんじゃないかなと思っていたんですよね。

村井 彼がDFを引きつけることで逆が空きましたよね。そういうものも含めて、彼の役割があったのかもしれない。

渡辺 やっぱりすごい選手なんですね。36歳ですか? 今はトルコのガラタサライでしたっけ(注・7月25日にチェルシー復帰発表)。だからテレビでもあまり見る機会がなくて、正直、もう全然やれないんだろうと思っていたんです。でもやっぱりああいう選手が一人いると、やられちゃうんだなと。

村井 流れが変わるんですね。将棋には、流れというのはあるんですか?

渡辺 流れはありますね。

村井 サッカーは、この時間帯は流れが来ているとか、この流れに乗って、という感覚があるんですが、将棋は麻雀とも違って偶然性がないし、すべて自分で選ぶ、運や偶然が左右しにくい競技なので、流れってどういうものなのかと。

渡辺 自分の場合は、今の形勢は何対何というおおまかな得点計算というか、自分が10点ぐらい──10点という数字は適当ですけど──優勢だとか、それが今の自分の一手と相手の一手で、10点勝っていたはずが8点差になったみたいな、そういう少しずつの感覚があるんです。逆に、10点負けていたけど一手ごとに1点詰めている、1点ずつ詰めてもう3点差ぐらいになっている、という押せ押せの感覚はあって、そうすると相手も、こっちが押せ押せだというのは感じているので、ちょっと引いて引いてみたいな感じになる。だからその、自分が5手、相手が5手指す10手くらいのスパンで見れば、流れというのはありますね。流れが来ているけど、この間に逆転できないとそのまま負けちゃうとか、流れが来ている間になんとかまたイーブンぐらいに戻せないときついぞ、という。

村井 「自分たちのサッカーをする」という選手たちのコメントがありますね。例えば日本はディフェンシブに行ってカウンターだけじゃなく、攻めていくサッカーをするんだと。でも戦局の中では、相手が一人減ったギリシャ戦のように、なんとしてもこじ開けなければいけない局面もあるし、先制したコートジボワール戦は、もうちょっとうまく守ってもよかった。要は、局面にあわせて戦術的なオプションをいろいろ変化させていくスタイルがとても大事だなと、すごく思ったんです。将棋には「これは俺の将棋で、相手に合わせるリアクション型のプレーじゃなく、自分のスタイルでいくんだ」みたいな世界観はあるのでしょうか。

渡辺 一応ありますね。

村井 やっぱりあるんですか。

渡辺 ただ、その通りにならない場合もありますから、その場合はそれに合わせる。無理矢理なんとしても自分の形に持ち込むということはしないですね。

村井 じゃあ比較的、局面に合わせて柔軟に対応すると。

渡辺 そうですね。

村井 すると、柔軟性を担保できる状態を維持しておくことが大事ということでしょうか。

渡辺 うーん。でも、人によります。どうみても技術的には不利なんだけど、自分の形に持ち込むという人もいます。

村井 ああ、やっぱり。

渡辺 でもそれは技術的な不利が生じているので、その不利を差し引いてでも自分の形に持ち込みたいという考え方ですよね。

村井 それは一つのスタイル?

渡辺 そうですね。最初に3点くらいビハインドを負っていても、自分の形でやれれば勝てるという自信がある人なんでしょうね。でもそれは少数派で、基本的に自分の形はあっても、まずはその相手とどういう形になるのかをやって、その中で指していくというのが多いです。技術的にビハインドを追ってまで自分の形に持ち込むというのは、あまり主流ではないですね。

村井 主流じゃない。なるほどね。

将棋は片側からしか見ない。立ち位置がクルクル変わるサッカーの主審は大変!

村井 渡辺二冠は、いつ頃からサッカーが好きになったのでしょうか。

渡辺 サッカーは子どもの頃から好きといえば好きなんです。今30歳ですが、子どもの頃は野球の方が人気があって、小さい頃はJリーグもないし、できてからもみんながすぐサッカーを見るという感じではなかったから、「見るのは野球、やるのはサッカー」でした。だから僕も見るのは野球だったんですけど、サッカーゲームはわりと面白くて人気があったんです。小学生の間でも。

村井 そうなんだ。

渡辺 Jリーグができて、Jリーグのサッカーゲームができましたよね。「プライムゴール」とか。そういうのをみんながやるようになった。実際のJリーグは見ないけど、ゲームはやる(笑)。

村井 なるほどねえ。ゲームは大事だね(笑)。

渡辺 大事ですね(笑)。今で言うと「ウイニングイレブン」が主流ですけど、そういうサッカーゲームはずっとやっていたんです。海外の選手も、テレビでは見ないけどゲームで知っている。で、今4年生の息子が、小学校に上がった頃にサッカーをやり始めたんですね。ちょうど長友佑都選手がインテルに入った頃だったと思います。それで、じゃあテレビでサッカーを見せようかなと、NHKのBSで放送していた海外サッカーを見せたら、息子の反応がけっこう良かったんです。

村井 へえ!

渡辺 それまで、息子が一つのものにそんなに食いついたことはなかったんですよ。僕、自分の子どもにも将棋をやらせたんです。自分の息子が将棋のプロになれるんだったらいいなと思ってやらせたんですけど、ダメだったんですよ(笑)。

村井 ダメっていうのは、やる気がなかった?

渡辺 そうなんですよね。教え方が悪かったかもしれないですけど。僕は自分で将棋を指すのはある程度できるかもしれないですが、人に教えるのはうまくないんです。おそらくサッカー選手でもそういう人はいると思うんですけど。しかも子どもが相手なので、おだてて楽しくとか、そこが僕は下手だったのかどうか、将棋はダメだったんですよ。

村井 で、サッカーに行っちゃったんだ(笑)。

渡辺 そうなんです。選手名鑑なんかも見せてみたら食いつきがよくて、それで、そこから僕も見るようになったという感じです。

村井 では、Jリーグの試合にご招待しますよ。息子さんと一緒に。Jリーグも面白いよと教えてあげたい。

渡辺 Jリーグも、味の素スタジアムには何度か行ったことがあります。

村井 その流れで、審判もやるようになったのですか?

渡辺 そうですね。4級審判の資格を取ったのも、息子がサッカーチームに入ったから。小学校単位のチームなので、お父さんの手伝いでクラブの運営が回っているんですよね。

村井 20分ハーフですよね。

渡辺 5年生からが20分ですね。実際のピッチよりもだいぶ小さいと思うんですけど。

村井 小さいです。でも、夏はお父さんたち、大変ですよね。20分ハーフでも。

渡辺 きついですね。この前、20分やってハーフタイムに水を飲みそびれたらもう、倒れるかと思いました。最後の5分は「もうお願いだから早く終って! お願いだから何も起きないでくれ!」と思いながら(笑)。

村井 私も4級資格を取って子どもの試合の審判をやっていたんですが、まあ大変(笑)。特に夏、この時季はね。

渡辺 ですねえ。主審の経験はあまりないんですが、この間やったら、主審は自分の立ち位置が変わるじゃないですか。将棋だと、片側からしか見ないんですよ!

村井 ああ!(笑)

渡辺 副審の場合も同じ方向からしか見ないから、わりと頭の中の情報はクリアなんですが、初めて主審をやってみたら、いろんな角度から見るから……。

村井 そうそう、そうなんです。

渡辺 あれ?どっちのチームがどっちに攻めてるんだ?と。

村井 わからなくなっちゃう(笑)。

渡辺 ふだん自分が見ている小学校のチームだったらまだ、顔を知っているから「こいつらがこっちに攻めているんだな」とわかるんですけど、主審は基本的に第3者がやるので、知らないチーム同士の試合だからもうわからなくなっちゃって。

村井 そう、あるある(笑)。

渡辺 もう早く終わって!もう無理だこれ!みたいな(笑)。

村井 じゃあ、立ってぐるぐる歩きながら将棋を指したらダメかもしれない。

渡辺 ダメですね。整理できないんですね、頭が。動き回りながらだと、「今はこっちのチームがこっちへ攻めているんだな」ということが整理できなくて、顔とユニフォームの色が一致するまでに10分くらいかかりました。さらに、GKはユニフォームの色が違うから、「このGKの味方はこっちだよな?」というのがまた、わけがわからなくなる要素で(笑)。

村井 ピッと笛を吹いた瞬間に、どっちに手を上げていいのか、あれ?こっちだっけ?って、そういうのはありますよね。

渡辺 ありますね。だから副審をやっている方が全然、頭がクリア。立ち位置が同じで、同じ方向からしか見ないから。

村井 それはレフェリーをやってみないとわからない感覚ですね。

渡辺 わからないですね。だから、もうちょっと審判を大目に見てあげてよと思います。メディアなどではいろんなことを言いますけど、実際にやってみたら、難しさがわかりますよね。

村井 一度自分でやってみると、試合を見ても、審判を見ちゃいません?

渡辺 あ、見ますね。今度の土曜日に自分が審判をやるという時には、審判の動きを見ちゃって試合が全然頭に入って来ない(笑)。「今のファウル、よく見てたなあ」みたいな感じで。テレビだとスローが出るじゃないですか。それで見ると確かに足がかかっていて、凄いなあと。

村井 今回のW杯の審判は相当リプレイでさらされましたけど、結構うまく吹いていましたね。

渡辺 オフサイドなんて、テレビにラインが出るじゃないですか。あれ、人間技では無理だと思うんですよ!

村井 ボールの出所とオフサイドラインを同時に見なきゃいけないし。

渡辺 それで、オフサイドじゃないのにオフサイドの旗が上がっちゃったりすると、「審判がひどすぎる」みたいになる。それ、すごくかわいそうだなと思って(笑)。あれだけ密集している中で、しかも、明らかに一人分出ているならまだしも、ちょっとの差で叩かれるわけでしょう? 自分が審判をやってみてわかりました。そんなに言ったらかわいそうだよ、と。

村井 そしてまた、子どものゲームで審判をやっていると、大人たちのクレームが聞こえるんだよね。

渡辺 聞こえますね。サッカーの場合、お互いがマイボールを主張するのが普通じゃないですか。あれって、将棋界にいると不思議な文化に見えるんです。両方がマイボールと言っているということは、どちらかが嘘をついているということですよね。お互いが正直に申告すれば、副審はいらないんじゃないかと思うこともあるんですが(笑)。でもあれが世界基準なんですよね。

村井 サッカーではゴールが入ると「わーっ!」と喜びますけど、将棋の場合は勝ってもガッツポーズなどはしないですよね。

渡辺 ないですね。

村井 あれも、ある種の日本の美徳というか、相手に対する配慮、リスペクトなんですか。

渡辺 そう教わるわけではないのですが、子どもは基本的にプロの真似をしますからね。将棋をやる子どもは、当然プロの将棋を見る。テレビとか、今はインターネットでも見られますから。プロの将棋では、勝った後に喜ぶことはまずない。むしろ勝った方が神妙に申し訳なさそうな顔をして、負けた方が落ち込みを見せないために感想戦でしゃべりまくるというケースがよくあります。それは敗者への気遣いみたいなものでしょうか。子どもたちの大会に行っても、同じような光景なんですよ。

村井 道場で見ていても、小ちゃい子が大きい子に勝っても、大きい子が「負けました」と頭を下げていたり。

渡辺 お互い様なんですよね。自分は今勝ったけど、次の試合で負けるかもしれない。負けた時の気持ちがお互いにわかるので、あまり、勝った時に大喜びするような文化はない。サッカーは、その辺は容赦ないですよね、少年サッカーでも。僕はふだん将棋の業界にいて、息子のサッカーの試合を見に行ったりすると、未だに慣れないですね。あと、大差がついている試合でもまだ入れる、みたいなのとか。

村井 ああ!(笑)

渡辺 7─0で勝っているのに、それでもたぶん何点取るというノルマがあって、相手の監督はまだ怒っている、みたいなことがあると、「もういいじゃん、終らせてあげようよ」と思ってしまいます(笑)。

戦いが始まれば、一手で戦局がガラリと変わる将棋。攻めていても一発のカウンターで失点するサッカーと似ている。

村井 渡辺二冠は、サッカーと将棋が似ていると思うことはありますか?

渡辺 そうですね。陣地が半分に分かれていて……将棋盤は9マスだから、真ん中の5段目が……。

村井 ハーフウェーラインですね。

渡辺 そうですね。始まる時点ではお互いにここから先には入れないので、一応は陣地。始まってしまえば将棋もサッカーもごちゃごちゃですが、まずそういう陣立て(駒の配置)がある。あとは将棋の場合も、序盤戦は真ん中より先に駒が出にくいんです。自分の陣形を組んでいくから。

村井 矢倉とか、そういう。

渡辺 ああ、そうです。(将棋盤上で駒を動かしながら)最初はこんな感じで陣形を組む。お互いが一手ずつ指すので、自分が形を組んでいけば相手も同じような形になるんですが、この間は、駒はぶつからないことがほとんどですね、プロでも。

村井 ここまでは戦いの形を整える。サッカーで言うと最初の入りの15分くらいは、意外と慎重にボール回ししている感じですね。

渡辺 というより、まだメンバーを決めている段階みたいな感じですか。「まだやらないよ」という。で、駒がぶつかる=ゲームが始まってしまえばもう、野球のような「攻めと守り」というのはなくて、一手で戦局がガラリと変わります。その辺りはサッカーも、ずっと攻めていたのにカウンターの一発で取られることもあって、似ていますね。

村井 なるほどね。

渡辺 将棋盤は縦9マス、横9マスですが、角や飛車のような飛び道具がある。角は真ん中にいれば全部斜めに効きますし、飛車も十字に動けるので、この辺りで戦いが起きていたはずなんだけど、次はあっちで戦いが、みたいなこともあって。

村井 逆サイドから突然クロスが飛んで行く、みたいなことがあるんだ。

渡辺 そうですね。戦いは一カ所の極地戦というより、いろんなところでバシンバシンと起こる。もちろん上手い人の将棋ですけどね。プロの戦いの場合です。サッカーでも、幼稚園の子とかがやると同じ所でガチャガチャとやって、なかなか抜け出せないことがあると思うんですけど(笑)。

村井 みんな固まっちゃってね(笑)。

渡辺 将棋の場合も、上手い人がやると、あっちへ行ったりこっちへ行ったりのめまぐるしい動きになるんですね。

将棋でもサッカーでも、今や戦力分析に欠かせない情報技術

村井 最近はデジタル技術が発達して、試合中にどの選手が何キロ走ったとか、どの選手がどこのゾーンを動いたとか、最高のスピードが時速何キロだったかとか、誰から誰に行ったパスが何本で、その成功率とか、データが出るようになったのですが。

渡辺 ええ、出ていますね。

村井 将棋だと、対局の後に感想戦で振り返りをするじゃないですか。いわばそういう時の材料が非常に揃って来ていて。クロスが何本入ったか、サイドバックが何回スプリントを繰り返したか、みたいなこともね。そういう分析は、ピッチをマス目にして9つぐらいのゾーンに分けて分析をするので、そういうのを見ると、将棋と似ているなと思いますね(笑)。

渡辺 そういう試合の振り返りはするんですか? 映像やデータを使って?

村井 します。スカウティングと言いますが、試合前に相手のVTRを徹底的に見る。自分が右サイドだったら、相手の左サイドの選手をどういう抜き方をしたら破れるか、右に重心を移してから左に抜くのか、その逆なのか、ファーストタッチは右足か左足か。徹底的に分析した上で戦う感じですね、プロの場合は。

渡辺 将棋には棋譜のデータベースというのがありまして。昭和40年代後半以降の棋譜だけなのですが、全部入っています。たとえば、ある盤面の形を、過去に同じ形があるかどうか検索すると、いつ、どの対局で現れたかなどのデータがすぐに出ます。

村井 へえ、そんなのが出るんですか。

渡辺 はい。今おっしゃったように、次の対戦相手との対局でなりそうな形をパソコンで調べて、それを現場でやるわけです。そういう意味では、サッカーも同じような準備をしているんですね。

村井 そうですね。デジタルということでいうと、棋士とコンピューター将棋ソフトとの対決。これは相当レベルが上がっているそうですね。

渡辺 そうですね。2000年くらいの段階ではまだコンピューターが全然弱かったのですが、この14?15年でどんどん強くなってきて、今は完全にプロレベルです。

村井 ソフトのアルゴリズムというかロジックは、過去のデータベースを使っているのですか?

渡辺 そうですね。序盤戦に関しては過去のデータベースを使っていますが、それは記憶なのでコンピュータが最も得意な分野です。前例がなくなった所からは人間もコンピュータも自力の思考なんですが、今まではそこがコンピュータは弱かったんです。ところが、自力の領域に入っても、人間のトップレベルと同じくらいに指せるところまで、コンピュータが追いついて来ちゃったんですね。時間をかけてそういうところまで来た。むしろ今は、人間が勝てる部分はどこなんだろうと(笑)。体力的にも人間は勝てないですし、記憶の部分でも勝てない。将棋って最後は王様を詰ますゲームなんですが、王様が詰むか詰まないかという問いには「解」があるんですよ。

村井 解?

渡辺 詰将棋ってありますね。よく新聞などに載っている。あれはもう、詰むか詰まないかどちらかなので、解がある。そして解がある部分は、当然コンピュータは強いんです。

村井 全てのパターンを試して解を導くことができるから。

渡辺 算数の計算と同じで解があるので、詰将棋の分野では、もう10年くらい前に人間はコンピュータに越えられているんです。ただ、実戦に関しては、コンピュータは中盤・終盤が弱かったから越えられていなかった。ところが、そこも追いついてきちゃった。

村井 なるほど。

渡辺 むしろ、人間は何がコンピュータより上なんだろうという感じです(笑)。

棋士のピーク年齢は? 将棋の戦術が大きく変わった羽生世代の動向に注目

渡辺 あの……足、崩してください。

村井 実はもう限界で……(笑)。

渡辺 私も崩しますので(笑)。

村井 足がしびれることはないんですか?

渡辺 いや、あります。

村井 あるんですか!? (あぐらに組み替えながら)……うわー!しびれた!

渡辺 棋士でもみんな結構、立ち上がる時におっとっと、みたいになってます(笑)。

村井 やっぱり、畳に座ってやるものですか。椅子ではやらない?

渡辺 やらないですね、プロの将棋では。囲碁の世界では椅子対局を導入していて、これはやはり年配の人など、腰がきついというのが理由だと思うんですが、将棋はやはり日本文化なので、基本的には畳です。どこへ行っても。

村井 サッカーでは、キングカズ(三浦知良)のように47歳でもプロでやっているというのはきわめてレアケースで、引退する平均年齢が25歳とか26歳とか言われています。フィジカルなスポーツなので年齢的なピークがある。将棋の場合、羽生さんは40歳を越えていらっしゃるけれども、どうなんでしょう、将棋の棋士としての年齢的なピークのようなものは、何かあるものなのですか?

渡辺 うーん、それにはいろんな説はあるんですが、サンプルがまだ少ない。というのは、羽生さんの世代から、将棋の戦術が結構変わったんです。おそらく取り組み方とかも含めて。

村井 ええ、ええ。

渡辺 昭和の頃と違って、羽生さんたちの世代が出て来て以降、将棋のプロ棋士は将棋を勉強するものだというのが当たり前になり、しかもそのラインが相当厳しくなってきたんです。昭和の棋士が勉強しなかったわけではないですが(笑)、わりとその辺が緩かったという話は聞きますね。たとえば、現代ではこのあたり(序盤の駒組みの段階)の陣形から50手先とかまで研究するんですけど、昔はそこまでは……。

村井 やっていなかったと。

渡辺 はい。対局場に行って、盤の前に座ってから考えるというのが主流でした。それが現代では、それは家で準備してくるものという考え方になった。今はプロ棋士同士が集まって研究することもありますが、昔はそういうこともなかったし。プロが将棋を研究する、そのレベルがどんどん厳しくなっていて、それが出来ない人はどんどん淘汰されていくんですが、そういう風になったのが、羽生さんの世代くらいからなんですね。羽生さんが今年44歳ですが、若い頃からそういう取り組み方をしている人たちが、何歳になったら衰えて来るのかというサンプルがないんです。

村井 まだこれからなんですね。

渡辺 羽生さんの世代には、森内さんだとかタイトルを争うような強い人がたくさんいるので、その人たちが何歳くらいではっきり成績が落ちてくるのか、それがたぶん大きなサンプルになると思います。それ以降(の世代)はたぶん、みんなだいたい一緒だと思うんです。

村井 では、これからチャレンジですね。どこまでやれるのか。

渡辺 少なくとも羽生さんたちは、45、6歳で落ちて来る感じでは全くないので、おそらく50歳あたりは全然大丈夫なんだろうなと。ただ、体力などの問題は出て来ると思うので、その辺は今後どうなっていくのかわかりませんが。

村井 なるほどね……。

渡辺 サッカーは本当に、25、6歳ですもんね。

村井 まあ、30歳になっても活躍できる人はいるんですが。自分の経験でボールを予測する動きができるようになったり。それでも40歳だと普通はきついですよね。

渡辺 きついですよねえ。将棋の場合も、奨励会に入ってプロを目指して、ダメだった後のキャリアの話とかもよく出るんです。将棋の業界に残れる人は凄く少ない。仕事のキャパがそれほど多くはないですから。大学にも行かず将棋のプロを目指して、そこからポンと世間に戻ることになります。サッカーにも当然そういう問題があると思いますが、実際、大変なものですか。

村井 大変です。本当に大変だと思いますね。毎年100人規模でプロ入りする選手がいて、入って来た人数は出て行く。J3の創設で若干キャパは増えましたが、各クラブでプロ契約できる数には限りがありますので、トータルの数でいうとゼロサム。そういう意味では、Jリーグで残れるかどうかは非常に厳しい戦いです。ピッチに出るのは11人だし、ペンチに入る数も決まっているし。それと、チームスポーツなので、個人的な競技レベルの高さは当然のこととして、コミュニケーションが必要じゃないですか。チームの戦術をコミュニケートして、チームとして一つの結束した動きをしなくてはいけない。そういうコミュニケーション能力や、結束する力、一緒にやりきる力……サッカー界で生き残るには、個人の技術とは別の所の「人間力」を高めていかないといけない要素もありますね。将棋の世界も、誘惑に負けず研究、勉強する時間を確保するとか、常に高いテンションを維持し続ける、究極を言うと、将棋の才能プラス、人としての力が要るわけですよね。

渡辺 当然それは必要だと思いますね。ただ、将棋の場合は個人競技なので、自分が研究や勉強をして、それで勝てればいいし、負けるにしても、ある種全部自分の責任みたいな所はあるんですよね。指し手を決めるのは自分ですから。でもサッカーの場合は、自分はコンディションがよくても、監督がやりたいサッカーと合わなければ使われないわけじゃないですか(笑)。

村井 そうなんですよね。

渡辺 そこが酷だな、と。でも、だからといってチームをポンポン変えられるものではないですしね。

村井 そうですね。

渡辺 今年で言えば、香川真司選手もマンUでほとんど出られなかった。選手寿命が短い中で、一年間出られないのはすごく痛いわけじゃないですか。それが自分でどうにもならないというのは、きついスポーツだなと、見ていて思います。

村井 そう。それにサッカー選手には怪我というものがあるので。

渡辺 あ、それもありますよね。

村井 将棋の世界における怪我って……。

渡辺 ないですからね(笑)。なので、わりと全部、結果に関しては自分の責任ということで完結できちゃうんです。

村井 自分の才能と自分の努力が、ほぼそのまま。

渡辺 ほぼ、そうですね。何かこう、理不尽な負けとか、監督と折り合いが悪いからとか、そういう要素はあまりなくて、自分の取り組みがほぼそのまま結果に反映される。もちろん、お互いがきちんとふだんから取り組んでいた場合、勝つのはどちらかなので、いくら自分が頑張っても全部勝てるわけではないんですが、ある程度はそういう結果が出るような気がします。だから、誰かの意志に左右されるスポーツや団体競技は、酷だなと思って見てしまいます。

村井 反面、それは言ってみれば言い訳があることにもなりますよね。将棋の場合はないわけで、それも酷と言えば酷ですよね。全部自分で背負わなきゃいけない。

渡辺 まあそうですね。負けが混んだ時に、なんらかの理由をつけるのは難しいですね。

村井 「天候が」とか、言えないですもんね。

渡辺 ないですね(笑)。将棋って、情報が全部オープンなゲームなんですよ。トランプと違って伏せがない、お互いに全てをオープンにするゲームなので、運の要素はない。結果はほとんど全部自分のせいということですね。

村井 そうですよね。

渡辺 それを酷と見るかどうか。人によってどっちが向いているかというのはあると思います。自分はずっとこの将棋界でやっているので、勝っても負けても全部自分のせいというのは凄く楽です。「使ってくれればやれるのに何故出してくれないんだ」みたいな、そういうケースはない。そうなったらもう、どこにぶつけていいかわからないじゃないですか(笑)。

村井 全部一人で、七番勝負のタイトル戦とか、あるいは一年間のリーグ戦とか、長丁場を戦っていく時に、凹んだり落ち込んだりはしませんか? 気持ちのコントロールはできちゃうものですか?

渡辺 日々の暮らしの中では、やりたいこととか自分の欲求はあるので、その辺はうまく考えながら。自分の場合は、生活の全てを将棋につぎ込んでいるというわけでもないし。サッカーを見たり競馬をやったりという二つの大きな趣味があるんですが、その時間を確保しつつ、どの時間に将棋をやるかみたいなことは、一週間の始まりにプランを立てていますね。

村井 将棋の脳ではないところでサッカーを見ることが、気分転換になったりする?

渡辺 そうですね。将棋の研究や対局が生活のメインではあるけれど、空いた時間にサッカーを見たり競馬をやったり、そういう楽しみがあるからその分、仕事というか研究をやろうと。自分の場合はそういう考え方でやっています。ただそこは、きちんと縛りをつけないとズルズル行っちゃうので、その辺はある程度縛ってやるようにはしていますね。

村井 なるほどね。すっかり時間を忘れて話してしまいました。そろそろ締めましょうか。渡辺二冠の次の対局というのは?

渡辺 対局自体は年間を通してやっているんですが、大きいのはタイトル戦です。自分は今、王将と棋王というタイトルを持っていて、その防衛戦が来年あるので、まずはそのタイトルの防衛を目指すというところですね。

村井 ぜひ、頑張ってください。スタジアムにもいらしてください。

渡辺 はい、よろしくお願いします。

村井 ありがとうございました。