サッカーゲームキングジャック6月号
2014.03.14

宮本×オシム対談「ネイマールは遅れて爆発する時限爆弾かもしれない」

世界で培った経験を通し、日本サッカー界にアドバイスを送り続ける、宮本恒靖とイビチャ・オシム。彼らが分析する日本代表と海外組主力選手、そして世界をリードするリーガ・エスパニョーラの2強の現実とは。

グループの中で嫉妬や羨望やその他の感情が出てくるのは自然だ

宮本 まず今季のリーガ・エスパニョーラの感想についてお伺いしますが、クラシコ、バルサの印象はいかがですか?

オシム メディアや観客は、大きすぎる期待を抱いていたのではないかと思う。もっと魅力的、もっと強く、もっとエレガントなバルサを期待しすぎた。クラブにも、ある程度のリミット(限界)がある。いつでも期待する方向へ進めるわけではないのだ。

バルサだけでなくレアルも、以前ほどスペイン国内で簡単に勝てなくなっている。特に今バルサが苦労しているが、サッカー全体の発展から見れば、バルサが苦しむのは良いことだ。お金では解決できない問題もあることを理解するために。

宮本 ネイマールがまだいい働きをしていないと?

オシム ネイマールはメディアが作り上げたスターだ。ひょっとしたら、エージェントとの関係など、(サッカーと関係のないところで)問題があるのかもしれない。バルサでプレーすることに、向いていない場合もある。

いつも誰かだけが勝つのは良くない。あるいはネイマールは、予定時刻よりも遅れて爆発する時限爆弾なのかもしれない。遅れて爆発するというのは、バルサにとって大きな問題を引き起こすかもしれない。それは、メッシとのライバル関係ができることだ。

バルサは、コンパクトにまとまっている団結したチームだったから、メッシとそれ以外の選手たちは長い間一緒にプレーし、お互い良く知っている。そこに外から誰かがやってきて、(バルサを自分の)発射台として考えている。しかし、大事なのは良い集団、戦えるチームを作ることだ。

グループというのは我々と同じ人間の集団で、その中では嫉妬や羨望やその他の感情が出てくる。それが自然なのだ。そういうところから、簡単に壊れることもある。そうなれば勝利の幸運は失われる。ネイマールは今までのところ、うまくやっている。彼のように優れた技術を持っていても、バルセロナでプレーすることは簡単ではない。
いずれにしろ、人間的な要素、つまり依存心、嫉妬、スターマニア(チヤホヤされること)などのファクターを無視するなということだ。

自分はここにいるぞ。メッシは偉大かもしれないが、今いないじゃないか……などなど。すべてのボールは自分経由でプレーされるべきだ、しかしミスした、彼自身どうしたらいいか分からなくなる──。

ネイマールのことは、はっきり言ってまだよく分からない。しかし、あのような選手が加わった場合には、よく研究してみることが必要だ。

少し長くなるが、哲学的な問題かもしれない。ネイマールを心理学者や精神科医に研究させる。メンタル的に(バルサでのプレッシャーに)耐えられるかどうかなどをね。

そういうプロセスが必要だ。香川などの場合も同じことだ。ビッグクラブの選手には気軽に気分はどうかなんて聞けないだろう。

宮本 一方でレアルはどうでしょう?

オシム 昨シーズンに支払ったツケを、今シーズン取り戻しているという印象だ。同じような選手がダブっていた問題を解決しつつある。例えば、イグアインとベンゼマは似たようなタイプだった。同じポジションに同じような選手がいたら、選手は自分を表現できない。誰かが間違っていると言う必要があった。それが、今シーズンのレアルでは、どうプレーすべきかという方向に沿って、ある程度プレーができるようになってきた。もちろん、「この選手を買ってきたぞ、うまく使え」と言われる監督が一番大変だがね。

宮本 レアルのクリスティアーノ・ロナウドが先日バロンドールを獲りました。メッシと彼の二人が現代のサッカー界のトップだと思いますが、彼らをどう見ていますか?

オシム 長所が多いという意味で、メッシの方が完全に近い。インテリジェンスがあり、グランドで効果的にプレーする方法を心得ている。一方のC・ロナウドは、美男子だしフィジカル的にも恵まれている。

身体が小さい点で、メッシの方がロナウドよりもハンディキャップを持っている。しかし、メッシは身体を張れるし、勇敢でクレバーで、非常に優れたテクニックを持っている。どちらがすぐれているか判定するつもりはない。それはテイスト(好み・趣味)の領域だ。

ロナウドは彼らしい魅力があり、メッシもまた独自の魅力がある。ロナウドは局面をフィジカル的要素で打開することが多い。一方メッシはインテリジェンスを活かし、思っても見ないようなアイデアで局面を打開する。一つひとつのプレーが相手にとって危険なのだ。

日本人は一般的に責任感が強い。しかし、サッカーでは違う。

日本人は一般的に責任感が強い。しかし、サッカーでは違う。

宮本恒靖

宮本 日本代表について伺います。本田圭佑や香川にどんな印象を持っていますか?

オシム 本田はもっと大事にした方がいい。露出が多く、注目が集まりすぎている。一人の青年がそういう状況に耐えられるかどうか。香川も同じだ。スターシステム(スター偏重報道、偏愛)の犠牲にならないように、守らなければいけない。
特定の選手に人気が出るのは悪くない。だが、それが逆に選手の足を引っ張っている。主にメディアの責任だ。サッカーの資質に付いてではなく、私生活や無関係なことについて騒ぎたてる。ヨーロッパでも問題はあるが、日本では深刻だ。

メディア関係者は理解した方がいい。人間は腐ってしまう(チヤホヤされるとダメになる)ことを。20代の若者が、毎日テレビに取り上げられて、ヒーローのような扱いを受ける。彼が一人で成し遂げたわけではないのに。それは、日本がアメリカ化している問題だ。

香川もマンチェスター・ユナイテッドで素晴らしい選手たちに囲まれているからといって、以前より素晴らしいプレーができるとは限らない。ひょっとしたら、それが負担になっているかもしれない。彼自身にも、周りの人々にとっても。

日本人は生まれつき責任感が強い上に、成長の過程でもそう教えられる。だから、自分が背負える以上のものを背負おうとする。それはヨーロッパではマイナスだ。

宮本 そんな中で僕たちは日本人らしさを求めていかなければなりません。現在の日本人選手が抱える問題を、どう捉えていますか?

オシム 私が日本にいた頃、最も感心できなかったのは、多くの選手が漠然とプレーしていたことだ。そして、プロサッカー選手として許されない種類のミスを繰り返していた。

ジェフで最終ラインのポジションに、ナカニシ(中西永輔)という選手がいたが、彼はボール遊びが好きだった。最終ラインで、気分良くボールと“じゃれて”いた。ところがミスをしてボールを失い、失点した。しかも、二度同じミスをした。どうしてなのか理解できず、頭を抱えたよ。

日本人は一般的に、責任感が強い。日常生活では自分に対して厳しく、社会に対する責任感もある。しかしサッカーでは違う。ミスをする。それも不必要な場面で、たくさんの間違いを繰り返す。意味もないつまらないミスから、失点する。その原因は、よく言われる表現に当てはめれば「プレーに参加していない」からだ。
グランドに遊びで立っている。監督にとっては遊びなどではないのに。サポーターだって、チケット代、交通費をかせぐために働いているのに。何かが間違っている。

細かなつまらないミスが多い。その原因は、トレーニングをしっかりやっていないからだ。面白くない練習は、まじめにやらない。ジャグリング(リフティング)など試合では絶対使わないスキルばかり練習している。

そして問題は、必要な時に集中できないことだ。試合でミスをしないための集中力がない。そのミスのおかげで、リーグ優勝のタイトルを逃したこともある。私の監督一年目のシーズンだ。
失点シーンを分析して、自分たちのミスが原因で負けたことが分かった。市原で、3試合も試合終了寸前に失点して負けた。もう主審が笛を吹いて、ロッカーに引き上げる時間に失点したのだ。一年間、そのために努力してきたのに、試合終了直前にだれかが“寝ていた(集中を欠いていた)”。そのせいで負けたのだ。

プロとしてふだんからいろいろ努力してきて、最後の瞬間に、つまらない、ほんの些細なことでミスをして、全部を台なしにした。安易。ノンシャラン(無頓着)。不注意。ドリブルがいけないわけじゃない。最終ラインの選手がドリブルして、相手に取られて失点するのが問題なのだ。

宮本 日本の選手は監督の指示を待っている。そうではなく自分で決断し、「今こういうプレーをしなければいけない」ということをピッチ上のたくさんの選手ができるようになると、日本のサッカーはもっと強くなると思いますが。

オシム 監督が全てを思い通りにやらせようとするのも問題だ。私がセルビアにいた時、こういうことがあった。

あるセルビア人の監督と話をした。「調子は?」「練習している」「どんな練習だ?」「明日、俺の試合だから」と、主語が自分で、選手ではなく自分が試合に出るかのような口ぶりだ。「俺が試合に出る、俺がゴールを決める、俺が勝利する」といった感じで話すものだから、「バカいうな、試合に出るのは選手だろう」と言ってやった。

日本にも似た監督がいる。全部自分で指示しないと気に入らない。でも、実際はそうじゃない。もちろん監督は重要だ。しかし、そこには自ずと明らかな基準がある。

監督と選手の間の信頼関係が重要なんだ。厳密には監督にすべての権限がある。お前はこうしろ、いやだ、では使わない。それで話は終わるのだが、実際はそういうものではない。そういう信頼関係が壊れた状況では、いい結果は出ない。

宮本 最終的に日本人が目指すサッカーを、オシムさんはどう考えますか

オシム 基本的に、努力していればすべての分野で前進できる。私が日本にいた時に感じたのは、自分たちの持っている「自然資産」を日本人があまり活用していないということだった。つまり、日本人の「特徴」だ。

日本人は身体的に背も高くないし、世界ではハンディキャップがある。だが、運動能力(動き回る能力)、積極性(アグレッシブなこと)、技術力の高さなど、日本サッカーが拠って立つべき資質がある。

ほんの少しだけ、自分たちが今やっていることに、自信・確信を持てばいい。多くの人々が外国の真似をしようとしている。私にいわせれば愚かなことだ。そんなことをしなくても、日本人は自分たちの道を探せるはずだ。