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中村俊輔(横浜F・マリノス)「もっと上手くなりたい」

2013.05.24

中村俊輔(横浜F・マリノス)「もっと上手くなりたい」

[サムライサッカーキング6月号 掲載]
世界との戦いを経験した、あるいは世界を目指す選手たちに、自身が感じる日本サッカーと世界との差、そして到達するための青写真を聞く。
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インタビュー・文=浅野祐介 写真=樋口 涼

トップ下で充実のプレー、好調チームをけん引

――新シーズンが始まり、チームとしても個人としても充実したスタートを切っているように思います。ご自身としてはどういう感覚でプレーできていますか?

中村 昨シーズンの終盤から、4─2─3─1のトップ下をやるようになり、そこから良い感覚でプレーできています。トップ下だと、自分が守備のスイッチになれて、それに後ろがついてくる感じで、ディフェンス面でのやりやすさもありますし、ピッチのいろいろなところで得意なプレーを出せるようになりました。(昨シーズンまでの)右サイドだと、得意なプレーを出す数が限られます。トップ下だと、いろいろな場所とシチュエーションがありますからね。僕のプレースタイルだと、ボランチから良いボールが来ることと、良い守備がなければ消えてしまう時間が多いので、マチ(中町公祐)やカンペー(富澤清太郎)など、近くにいる選手に助けられていますね。

――横浜に戻ってきてから、今が一番充実していますか?

中村 そうですね。右サイドがやりにくかったわけではないですが、チームを動かせるという意味ではやはりトップ下ですね。「今は守備をする時だ」と思えば自分から低めのポジショニングを取りますし、「ボールが回らない」と思ったら、後ろとの連係を取ります。前に行けばアシストなど、ゴールに直結するプレーができますし、トップ下は自分が持っているものを出しやすいポジションですね。

――今シーズンはボールを持った時を含めて、まさにゲームを支配しているように感じます。好調な理由はありますか?

中村 体調は普通ですが、昨シーズンより良いですね。練習の雰囲気も良いです。でも、一番は昨シーズンの終盤からやって、形になりつつあった4─2─3─1を今シーズンも変えずに迎えたことじゃないですかね。昨シーズンのサッカーをベースに積み上げればいいだけだったので、それが大きいと思います。新加入選手が入れば、戦力がアップする一方で、それまでのやり方が合わないこともありますよね。すごく得点を取る選手でも、守備をしなければ、守備面でマイナスになってしまいますし。今シーズンは、スーパースター的な選手の獲得はなかったかもしれませんが、その分、確認もしやすかったというのはあると思います。

――不安要素があるとしたら、メンタル的な部分のほうが大きいですか?

中村 まだ始まったばかりなので分かりません。でも、若くない選手が多いので、ケガやコンディションを崩さないようにしなくてはいけませんね。そこは監督が考慮してくれていますし、プロ意識が高い選手がいるので大丈夫だと思いますけどね。

サッカー観に影響を与えたオシム監督との出会い

中村俊輔

―― 続いて、日本代表について伺います。現在の日本代表について、どういう印象を持っていますか?

中村 良い選手がいると思います。僕が代表の時は、サイドハーフらしい選手がいませんでしたが、今は速い選手がたくさん出てきました。サイドに速い、切れ込む選手がいるという印象ですね。トップ下の本田(圭佑)がうらやましいです(笑)。僕の時代にもそういう選手がいたら、また違った攻撃の形ができたと思います。Jリーグも良い風をもたらしたと思います。昔は特に、「サイドハーフは頑張って守備をしなくてはいけない」という傾向がありました。今はどんどん切れ込んで、「攻めで脅威を与えろ」という感じです。清武(弘嗣)や岡崎(慎司)もそうですね。時間が経って、FWももっと出てくれば面白いと思います。

――中村選手自身、ドイツ、南アフリカ・ワールドカップで、アジア予選を経験しました。改めて、アジア予選の難しさを教えてください。

中村 「W杯に出場して当たり前」という考えになったことがプレッシャーになりますよね。あとは、アウェーの難しさですね。よく分からない笛の音やチャントが聞こえてくる。芝が長かったり、暑かったりと、環境面で難しさを感じるので、メンタルもやられてしまいます。落ち着かない環境と移動距離、時差ボケがありますからね。ヨーロッパのクラブに所属している場合だと、だいたい試合後すぐに飛行機に乗るので、足が固まってしまいます。それはやった人にしか分かりませんし、調整法も自分で見つけなくてはいけません。(イビチャ)オシムさんの時はすごく走りましたし、岡田(武史)さんの時はダッシュの本数が多い練習でしたから、体調を合わせていかなくてはいけませんでした。

――改めて中村選手とW杯について振り返っていただきたいのですが、世界というものを意識したのはいつ頃でしょうか?

中村 当時はJリーグにいる限り、W杯など国際舞台の経験を積まなくては、自分が伸びないと感じていました。日本代表に入っていれば、強い相手と対戦できますが、サン・ドニで大敗した時には、「このままではいけない」と、危機感を感じました。自分の力のなさを感じることができないと周りに置いていかれてしまいます。そこで、早く海外に移籍しようと思いました。そうやって少しずつ階段を上がってきました。

――02年W杯の後、ジーコ監督が就任し、日本代表に定着しました。ドイツW杯については、どういう感想を持たれていますか?

中村 単純に個々の能力がもう少し高くなければいけなかったと思います。それに加えて、自分たちの強み、集団で相手を上回る何かがなければいけないと感じました。相手からボールを奪う時にどう追い込むかや、陣形を崩すための連係があれば良かったです。

――その当時、日本と世界の距離をまだ感じていましたか?

中村 そこまでないと思っていましたが、W杯でベスト8になるような国との差はあると思いました。ドイツW杯の時だと、ブラジルですね。クロアチアとかは特に差を感じませんでした。

――ブラジルという言葉が出てきましたが、05年のコンフェデレーションズカップではブラジルを相手に善戦し、ドイツW杯直前にはドイツと引き分けました。しかし、本大会ではブラジルに1─4で敗れました。本番で戦う強豪国は、親善試合の時のどのような違いがあるのでしょう?

中村 ブラジルに関して言えば、コンフェデ杯で手を抜いていたわけではないと思うけど、W杯で対戦したブラジルのほうが強かったです。まったく違うチームでした。全部読まれているような感じがして、一対一で駆け引きができず、横パスに逃げてしまい、パスを受けた選手で取られてしまう。あの時の自分は、「ブラジルはサッカーが染み付いている」と表現しましたが、引き出しが多いんです。一言で言うと、「サッカーが上手い」ということなんですけどね。FWには、点を取るためにしなければいけないことがたくさんありますし、MFも先を予測してプレーしなければなりません。ブラジルはそれを全員ができますし、フィジカルも強い。僕らも個人で勝負してしまう感じだったので、いけなかったのだと思います。「個」に「個」で対応してしまったら負けてしまいますよ。もう少し、戦術上の引き出しがなくてはいけませんでした。

――それをすごく実感したということですか?

中村 そうですね。その後にオシムさんになって、すごく良かったと思います。連動して走り、相手をかき回す。そして「個」を出すと。日本人は敏捷性もありますし、頭も悪くないですしね。オシムさんがチームを率いてからなかなか日本代表に呼ばれませんでしたが、練習メニューなどはいろいろ聞いていました。オシムさんは、「傲慢な選手」や「走らない選手」が嫌いで、わざと理に適っていない練習をさせて、その時のリアクションを見る、というような情報も聞いていたので、合流後はとにかく走って守備をしました。どんな練習メニューでも執着して頑張っていました。

――実際にオシムさんのサッカーについては、どういう印象を持ちましたか?

中村 Jリーガーになると、誰にも怒られないじゃないですか? コーチが何か言っても、選手のほうが強くなってしまったり。オシムさんは突然怒りますし、真面目な選手しか集めていないと思いました。理不尽とも思える練習メニューでも、何かを得ようという向上心を持つ選手だったり、自分ができることに120パーセントで取り組む選手たちを代表チームに呼んでいたと思います。当時の代表チームは全員が高校生のような雰囲気でしたね。怒られるのが怖いというのもありつつ、「次の練習はなんだ」というピリピリした雰囲気で、「オシム塾」みたいでした。それがすごく新鮮でした。

――中村選手自身のサッカー観に影響を受けることがありましたか?

中村 ヤット(遠藤保仁)もそうだと思うんですけど、単純に走らなければいけないという(笑)。時代に合わせたサッカーをしなければならない中で、セルティックでも必要だと思ってやっていましたし、相手の先を読んで走るイメージですかね。「ボランチがトップにボールを当てる」と思ったら走り出すというか。

――セルティック時代はご自身で感じてやっていたのですか?

中村 そうですね。システムがワイドの4─4─2でしたから、それをやらないと一対一になってしまいますからね。誰かとくっついて何かをするというか、そういう距離感が欲しかったので。早めにボランチにくっついてボールをもらうとか。そうすればサイドバックが高い位置を取れて前を向けます。先を読む走りの質と量が必要だと思いました。

イタリアとスペイン、それぞれの難しさ

――代表の話を続けます。オシム監督から岡田監督にバトンが引き継がれ、岡田ジャパンでは南アフリカW杯本大会直前までスタメンとして戦いました。しかし、本番ではベンチで座ることになりましたが、南アフリカW杯は、ご自身にとってどういう大会でしたか?

中村 ずっと代表の中心でやらせてもらっていて、W杯直前でベンチになりましたからね。周りが気を遣うこともあったかもしれません。それで引き締まったということもあるかもしれませんけどね。ケガを抱えながらJリーグでプレーし続けていて、何とか踏ん張っていたつもりだったんですけど、自分のコンディションの悪さを韓国との代表戦( 10年5月24日)で気付かされました。自分は「こんなにも動けないんだ」と。エスパニョールの時も同様のことがありましたし、ケガを抱えながらプレーしてはいけないと思いましたね。W杯に合わないというか、いつも何か起きますし、これが宿命だと感じました。それでも、何かが足りないからそういう運命にあるということを実感し、いろいろなことをしていました。ロッカールームや練習場でいろいろな選手に話しかけたりとか。とにかくシュンとしないようにしていました。チームが一丸になるということを体験できたのは良かったです。大会前はなかなか勝てませんでしたから、ミーティングをして各々が発言し、頑張ろうとなりました。そういうW杯の経験を生かし、今シーズンのF・マリノスでも、合宿中とリーグ開幕1週間前にミーティングをしました。昨シーズンを振り返りましたし、ナビスコカップも取りにいこうと。多少のケガでもメンタルを保って、頑張っていこうと。チームがまとまりましたね。厳しい経験をしたので、それを次に生かさなくてはいけませんし、指導者になっても使えると思いますから。

――続いて海外クラブでの話について伺います。02年にレッジーナに加入し、セリエAの舞台で戦いました。イタリアという舞台はどういうものでしたか?

中村 あの時のセリエAは世界一でしたから、良い時期にイタリアでプレーしていましたね。下位のチームにいたからこそ、ビッグクラブと戦う手段が身につきました。セルティックでは逆で、常勝軍団でどうレギュラーを確保できるかという感じでした。レッジーナでは3、4連敗するとファンが練習所に入ってきて、話し合いになってしまいますからね。街に出てもいろいろ言われますから、スーパーマーケットにも行けませんでした。レッジョはすごく田舎で何もなさすぎて生活するのも一苦労でした。日本人がいないですからね。生活も含めて、そういう環境の中でプレーできたことは良かったですね。

――いわゆる強豪と呼ばれるクラブに勝つ術というのは?

中村 それが難しいんですよ。3─6─1で完全に守り切ろうとするので、僕は使われづらかったです。だから、自分を変えなくてはいけないんです。速攻における最初のパサーになるか、受け手になるかとか。そこで、自分のプレーではないことをしなくてはいけません。でも、それをしなければ試合に出られませんから、多少はプレーの幅が広がったと思います。(エミリアーノ)ボナッツォーリという大型のFWの周りで、モリシさん(森島寛晃)のプレーを真似してみたりしました。西澤(明訓)さんとのコンビがすごかったですからね。ただ、ゴールを狙おうと思っても、ロングボールを蹴ってしまうためボールが回ってこない。ボールをもらいに行こうとしても、イタリア人は背負っている選手には出さないんですよ。そのうちボールを取られると、「お前が弱い」と言われ、そういう印象が付いてしまうんです。そういう意味では、自分が最も得意としないリーグで、生き抜くのは難しかったですね。3年目に(ワルテル)マッツァーリ監督(現ナポリ監督)になり、トップ下をやらせてもらって、自分の色を出せるようになりました。最後の何試合かは出れませんでしたが、手応えがありましたね。

――セルティックに移籍し、環境やチームの位置付けはどうでしたか?

中村 全く逆でした。レッジョと違ってグラスゴーには本格的な中華料理もあるし、日本の食材も売っていました。毎試合5万人の観客が入りますし、チームメートが上手いから、毎試合勝てますしね。その中で、良いプレーを続けていないと試合に出ることができません。コンディションやメンタルを整えて、仲間の良さを引き出すためにいろいろしましたね。セルティック時代は、運もあったと思うし、チームメート、監督など、すべての面で、一番上手く回っていましたね。

――エスパニョール時代はどうでしょう?

中村 エスパニョールでは、実力不足もあり、合わなかったですね。

――スペインではなかなか日本人選手が活躍できていませんね。

中村 スペインは行かないほうがいいです(笑)。みんな、めちゃくちゃ上手いんですよ。例えばドイツだと、大型の選手が多く、その中の一つのピースとして、敏捷性があり真面目な日本人は特徴が生きる。ハセ(長谷部誠)もそうだと思いますし、ふわふわしているウッチー(内田篤人)でさえ、真面目と言われているんですから(笑)。ヨーロッパの人は「静かで文句を言わないのが日本人」という印象を持っています。日本人はまめで、練習をしっかりとやると。そして、乾(貴士)とか清武のような小柄で俊敏な選手は相手をかく乱できる。でも、スペインだと、そういう選手が他にもたくさんいるんですよ。また、スペイン人はイタリア人と同じぐらい自我が強いというのもあります。僕がFKの練習をしていたら、6人ぐらい、オレもやるっていう感じで来ますからね(笑)。練習から試合の時のような迫力で来ます。それに、ストッパーの選手でもボール回しがすごく上手くて、僕がいた当時はアルゼンチン出身の選手が4、5人いたんですが、みんな上手かったですよ。だから、日本人がスペインで成功したらすごいですね。日本人にとって一番サッカーの質が合うリーグだけど、一番行ってはいけないリーグです(笑)。

――ありがとうございました。では最後に、今シーズンの抱負を教えてください。

中村 単純に、もっと上手くなりたいですね。「上手いなあ」とか「やっぱり違うな」とか言われる快感っていうのは、小学生の頃からありますし、やはり良いものです。その感覚は今でも変わりませんし、その欲がなくなってはいけないと思います。もちろん、それがほしいからやっているわけではないですが、やっぱり「上手い」と言われたいです。あとは、年齢も考慮すると、ケガで何が起きるか分かりませんし、監督が代わって、いきなりメンバーから外される可能性もあります。本当に何が起こるか分かりませんが、サッカーを楽しめればいいです。そのためにはたくさん走らないといけないですし、苦しいこともやらなければいけません。全力で毎日を生きていきたいと思います。


すべてをかけろ。世界はもう、夢じゃない

アディダスでは「すべてをかけろ。世界はもう、夢じゃない」というテーマの下、世界最高峰の大会・UEFAチャンピオンズリーグの開催に合わせ、中高生プレーヤーを対象に世界NO.1を決める大会「UEFAヤングチャンピオンズ 2013」を開催。優勝チームにはチャンピオンズリーグ決勝観戦や、チェルシーFCのクリニック参加など、本気で世界に挑戦する部活生をサポートする様々なプロジェクトを展開している。ここでは、中高生から寄せられた質問に中村選手が回答!

中村俊輔

Q1.FKの良い練習方法があれば教えてください。(17歳/MF)
A.高校の時にやっていたのは、ゴールの右上隅と左上隅にビブスをぶら下げて、ボールを当てて落とすという練習です。それから、誰かにビデオを撮ってもらって、あとから自分を見て、ボールの弾道、軸足の位置などを見ていました。そうやって第三者目線で見ること、そこで何かを感じてから練習すると、修正しやすいです。

Q2.FKの際に、壁やGKのどんな部分を見ていますか?(16歳/MF)
A.基本的に壁に当てたくないので、壁がしっかり下がっているかを確認します。また、GKのタイプを気にしますね。タイプによってポジショニングが違いますから、ニア寄りならファーを怖がっているとか、背が大きくないけどファーにいるGKは、先に動いてニアに来る、とかを考えています。GKのタイプとポジショニングを考えたら、狙いたいところを2、3秒見て、あとはボールだけに集中します。

Q3.キック力がなくてボールに飛距離が出ないのですが、どうすれば強くて速いボールが蹴れるようになりますか?(13歳/MF)
A.俺も全然キック力がなかったです。中1でペナルティアークにやっと届くようになったぐらいです。だから気にしなくて大丈夫です。15、16歳になった時に筋トレをしたり、シュートを打ち込めば、シュートの筋肉がつきますから、とにかくたくさんボールを蹴ることですね。

Q4.体が小さいのですが、どうしたら競り合いに勝てるようになりますか?(14歳/MF)
A.当たって耐えることよりも、まずは当たらないようにすることです。相手が来たら反転するようなドリブルやトラップ、プレッシャーに来れないようなポジショニングを取る動きだったりをやっていた方がいいです。

Q45中村選手のような司令塔になりたいのですが、パスを出したりゲームを作る上で、一番気をつけていることはなんでしょうか?(16歳/MF)
A.どこのポジションにも言えますが、ゲーム全体を把握することが大事だと思います。Jリーグの試合で全体を見渡して観戦すると、サッカーの知能指数が上がると思います。まずはそうやってゲームを見ることから始めてみてはいかがでしょうか。

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