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現役時代はボカ在籍時の高原直泰と対戦…アルゼンチン屈指の育成指導者が語る日本サッカー「チリを見本にすればいい」

2016.05.13

 かつて“天才”と称えられたディエゴ・マラドーナをはじめ、リオネル・メッシ(バルセロナ)、セルヒオ・クン・アグエロ(マンチェスター・シティ)など多くの名プレーヤーを輩出しているアルゼンチン。国民の大多数がサッカーに情熱を注ぐ国で、サンティアゴ・ロドリゲス氏は育成年代の指導に注力し、アルゼンチンサッカー協会(AFA)が定めた同国を代表する育成講師6人に名を連ねている。育成のスペシャリストの目に映る日本サッカーとは。

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高原直泰には恨みを持っています(笑)

――まず、サンティアゴさんのこれまでのプレー歴を教えてください。
サンティアゴ アルゼンチンでは、ボールを蹴れるようになった時からみんなサッカーを始めます。私も同じで、8歳の時にアルゼンチンの4部のクラブチームに入りました。14歳の時にインデペンディエンテにレンタル移籍で入り、16歳でプロとして契約しました。その後は当時2部のテンペルレイ、デフェンサ・イ・フスティシアを経て、1部のバンフィエルドへ。バンフィエルドでは眼窩を骨折してしまい、6カ月間プレーができなかった影響もあって、デフェンサ・イ・フスティシアに戻りました。それから1部のアルマグロを経て、コロンビアで当時最も力を持っていたアメリカ・デ・カリに移籍しました。その後はアルゼンチンに戻り、1部のフェルロというチームで一度は現役を引退したのですが、すぐにまたサッカーをやりたくなり、4部のチームで少しプレーして現役を終えました。

――どのようなプレースタイルだったのですか?
サンティアゴ ポジションはセンターバックで、インデペンディエンテ時代はガブリエル・ミリート(元アルゼンチン代表)とコンビを組んでいました。プレースタイルはファイター系だったと思います。ボカ・ジュニアーズと試合をした時には高原(直泰/現沖縄SV)をマークしたこともあります。その試合の接触プレーで首を骨折したのですが、直後のプレーで高原がシュートを打ってきたので、骨折している頭でヘディングをしてしまい、そのまま救急車で病院に運ばれました。だから高原には恨みを持っています(笑)。

――引退後、すぐに指導者になったのですか?
サンティアゴ 指導者としてのキャリアがスタートしたのは、引退して間もない33歳からです。テンペルレイの育成組織で2年間指導し、チームとして初めて優勝を果たすことができました。その成功のおかげでインデペンディエンテのサテライトチームからオファーを受け、監督に就任しました。インデペンディエンテでは、半年に一度しか負けないほど強いチームを作ることができましたが、ミリートに譲る形で監督の座を退き、アルセナルFCの育成組織の監督や、アルドシーヴィのアシスタントを務めました。再びインデペンディエンテに戻ってきたのは2年前で、現在はU-13チームのコーディネーターとサテライトチームの監督を担当しています。また、今年、アルゼンチンサッカー協会(AFA)から国を代表する6人の講師の一人として選出していただきました。今後はアルゼンチンで指導者を対象とした講義も行っていきます。

――アルゼンチンと日本ではサッカー文化の根付き方が異なると思いますが、アルゼンチンの育成指導者は、国民の間でどれほどの認知度があるのですか?
サンティアゴ さすがに街を歩いていてサインを求められることはありませんが、サッカー指導者の間では、とてもリスペクトされています。また、国全体にサッカーのネットワークができているので、お互いの顔を認知し合っています。アルゼンチン国民はサッカーのことばかり考えているので、みんながサッカーの知識を持っています。日本で(FIFA)クラブワールドカップが開催された時も、ボカやリーベル・プレートの大勢のサポーターが見に行きました。しかし、彼らの約8割は裕福ではなく、半年ほど節約して貯めたお金を使って日本に行っています。それほどサッカーに対してとても情熱的な国なのです。

――サンティアゴさんから見た日本サッカーはどのように映っていますか?
サンティアゴ 日本人はスピードがあってプレーが正確ですが、体の大きさはアルゼンチン人と比べて小さくて細いです。そして、セットプレーの強さと守備の組織力が足りないと感じます。ワールドカップでもセットプレー1本で試合が決まることは多いですし、レベルの高い試合になればなるほど、守備におけるほんの小さなことが勝ち負けに関わってきます。でも、日本は文化も経済も素晴らしく発展しているので、サッカーもしっかりと時間をかければ良いものを築けると思います。日本のサッカーはアフリカと少し似ていて、可能性を感じます。サッカーの要素の中で最もレベルを上げるのが難しいのはスピードです。パワーや持久力、柔軟性、頭脳は鍛えれば伸びるものですが、スピードはなかなか伸ばすのが難しいものです。しかし、日本人は国民性としてスピードを持っているので、大きな武器があると言えます。

――外国人選手との身体能力の差を埋めるために、日本は具体的にどのようなことをすればいいのでしょうか?
サンティアゴ まず、簡単な対処法は背が高い選手をDFに置くことです。フィジカルにも適材適所があるので、育成の段階から体の大きい選手をDFに置くことが大事です。2つ目に、もし体の小さな日本人が体の大きな外国人選手をマークしなければいけない場合は、チリを見本にすればいいと思います。チリ人は日本人と体格が似ていて、ワールドカップでも良いサッカーをしていましたし、2015年にはコパ・アメリカを制しました。体が大きな選手にも弱い部分が必ずあります。相手の弱点を把握して、自分が有利になる方法を身につけることが大事だと思います。クラブワールドカップでリーベルと対戦したサンフレッチェ広島は、試合内容は良かったですが、一つのミスで勝利を逃しました。サッカーの勝敗は小さなディテールで決まるので、日本は細かな部分を突き詰めていくことが重要です。

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日本は良いサッカーをする国になると確信している

――サンティアゴさんは日本のサッカーをご覧になることがありますか?
サンティアゴ 日本代表の試合を見る機会はあまりありませんが、「Independiente Japan」がアルゼンチンに連れて行っている日本人の3人はよく知っています。彼らのような選手がいれば、日本の将来は明るいと思います。

――その3選手は日本からアルゼンチンに渡って、どのような成長を遂げているのですか?
サンティアゴ (伊達)和輝は一番早くチームに馴染めました。彼はアルゼンチン人に似ているところがあって、チームメートに受け入れられやすいキャラクターも持ちあわせていました。(千葉)真登は素晴らしいテクニックとスピードを持っています。彼のようにスピードがあって正確にボールを運べる選手は、アルゼンチンには少ないです。しかし、彼はシャイで、相手をリスペクトしすぎてしまう傾向があります。サッカーをする上で、「失敗するのが恥ずかしい」と思うことはマイナスです。(金久保)陸生は、FWとしての動きが素晴らしいです。昨年、ボカの「カンデーラ」という施設で行われた公式戦でデビューしました。「カンデーラ」はマラドーナや(フアン・ロマン)リケルメも練習をしていた場所で、アルゼンチンの育成年代では「聖なる場所」と言われています。陸生もシャイですごく緊張してしまうタイプです。緊張すると自分の実力を発揮できなくなってしまうので、克服できればもっと力を発揮できると思います。

――ヨーロッパと比較し、南米リーグで日本人がプレーすることのメリットはありますか?
サンティアゴ スペインで活躍するアルゼンチン人はたくさんいます。ドイツやフランス、イングランドも同じです。ヨーロッパのビッグクラブで活躍するアルゼンチン人が多いのは、ヨーロッパ人にないものをアルゼンチン人が持っているからです。また、練習において選手への影響が大きいのは「方法」よりも「環境」です。アルゼンチンはマラドーナやメッシ、アグエロといった素晴らしい選手を輩出しているので、指導法を学びに来る人が多いのですが、学んだものを自国に持ち帰ってもあまり成果は出ていません。アルゼンチンには、他の国にはない情熱的な環境があります。例えば、アルゼンチンがワールドカップで優勝したら2週間は会社や学校を休みますし、そうでなくても代表戦がある時は休みになります。また、アルゼンチンでは19歳までの男子のうち、90パーセントの人がサッカーをやっているというデータがあります。その後は歳をとるにつれて割合が減っていきますが、60歳でも40パーセントに上ると言われています。本当にサッカーが好きな国なんです。

――日本とは全く環境が違うのですね。
サンティアゴ でも日本にも良い部分はあるので、良いサッカーをする国になると私は確信しています。サッカーで発展するために、他国の真似をすることはあまりおすすめしません。別の国が成功した例を日本がやっても、その国と日本は違うのです。日本の中で自然に発達したものでなければ、一時的な成功は手に入るかもしれないですが、継続はできないでしょう。日本人の特性や生活スタイルをサッカーに取り入れることが、一番良い方法だと思います。

――サンティアゴさんは日本でもサッカー教室を行っているそうですが、日本人の子供や指導者にどんなことを伝えたいと思っていますか?
サンティアゴ 日本は、バルセロナのサッカーに近づけようとする指導者が多いです。バルセロナの良いところ、つまりボールを持っているところを真似しようとするのですが、ボールを保持するためには、まず相手からボールを取らなければいけません。サッカーはボールを失った瞬間が最もボールを奪えるチャンスです。日本のクラブを見た時に一番足りないと思ったのは、ボールを失ってから取りに行くアグレッシブさでした。一方で、ポジティブな面を挙げると、バルセロナのサッカーに似ている練習や選手が多いので、ボールコントロールが優れた選手が多いです。あとは、失敗を恐れないこと。そこが改善されれば、より良いサッカーができると思います。

■「Independiente Japan」公式サイト
http://clubaindependiente.jp/

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