2016.02.16

継続は力なり――本田圭佑がミランで勝ち取った「信頼」という名の“勝利”

本田圭佑
14日のジェノア戦で約1年4カ月ぶりのゴールを決めた本田圭佑 [写真]=LightRocket via Getty Images
日本代表から海外まで幅広くフォローするフリーライター。

 冷たい雨の降りしきるミラノ・サンシーロ。3万人超というやや少なめの観衆を集めて行われた14日のジェノア戦。ミランは右サイドの本田圭佑がゴールラインぎりぎりのところで粘って上げたクロスが起点となり、前半5分にカルロス・バッカが先制。1点リードの状態で後半に突入していた。主導権を握りながら追加点を奪えなかったミランは19分、エースナンバー10を着けた男の意表を突く一撃で膠着状態を打ち破る。

 右サイドバックのマッティア・デ・シリオからパスを受けた本田は、ドリブルで中央にゆっくりと動き、約30メートルの位置から左足を一閃。ボールは相手GKの手が届かないゴール右下隅へと突き刺さり、勝利を決定づける2点目が生まれた。

「漠然とコースが空いてる感じやったんで。今までの流れなら外す流れやったけど、打ってみようかなと。まあ、入る時は入りますよね」

 自身は得点シーンをこう淡々と振り返ったが、彼の中では、一瞬のひらめきがあったという。

 セリエAでの得点は2014年10月19日のジェノア戦以来。483日ぶりという長い長いトンネルだった。2005年に名古屋グランパスでプロキャリアをスタートさせてから、リーグ戦でこれほどゴール間隔が空いたのは初めて。それを試合後のミックスゾーンで振られると、さすがの彼も苦笑いするしかなかったが、気を取り直して「よくも悪くもまたいつもどおり自分らしく、もうムリだろうと思われたところで一つのヤマを越えた。これが自分の今後の人生に大きく生きていくでしょうから。またとんでもない谷底に落ちそうな時にも、僕の言葉に耳を傾けてもらえればと思います」と発言。実に本田らしい言い回しで、自身の復活をアピールした。

 現役時代、左足の名手として知られたシニシャ・ミハイロヴィッチ監督の下で迎えた今季は、ここまで紆余曲折の連続だった。開幕直後こそ本職のトップ下でプレーしていたが、9月末から出場機会が激減。10月4日のナポリ戦後にはクラブ批判とも取られる発言で物議を醸した。そこからリーグ戦9試合スタメン落ちを強いられ、日本代表に合流した時にも「これだけベンチに座ったことはプロになって初めて」と苦渋の表情を浮かべていた。2015年最終戦となった12月20日のフロジノーネ戦で4-4-2の右サイドハーフとしてシーズン初の先発フル出場を果たした本田は、ミハイロヴィッチ監督から「このパフォーマンスを続けていれば常に使う」という言葉をもらっていたそうだが、本人の中では半信半疑の部分もあったのではないだろうか。

 混沌とした状況の続く中、年末に帰国した彼は自身が運営するサッカースクールに参加。そこで「一番大事なのは諦めないこと。失敗する中で信じ続け、辞めなかった人間こそが勝つ。それが自分が信じ続けてきた道」というインパクトの強い言葉を自らに言い聞かせるように口にしていた。周りが何と言おうと、どんな批判をされようと、自分はミランの名門再建に全力を尽くしていく――その意思が決してブレることはなかったのだ。

 シーズン開幕前に中国で行われたインターナショナルチャンピオンズカップでも、「ACミランというクラブでプレーする以上、常に世界トップレベルを攻守両面で求められる」とビッグクラブの一員であることの誇りをにじませていた。ミランを常勝軍団にするために、自分は黒子に回っても泥臭くボールを追い続け、地味で目立たない仕事を続けるだけ。そんな覚悟で彼は不遇の時を過ごしてきたのだ。

 こうしたミランへの忠誠を象徴したのが、ゴール後のパフォーマンスだった。キャプテンのリッカルド・モントリーヴォやデ・シリオら仲間たちにもみくちゃにされた後、ユニフォームの胸にあるエンブレムに人目をはばからずキス。そして背中の10番を両手で指し示す派手なパフォーマンスも披露してみせた。

「僕はミランでの(自分の)ゴールより、チームが勝ったほうがいい。『僕が勝たせた』と書いてもらえれば、僕はうれしいです」

 このコメントはまさにフォア・ザ・チーム精神の表れ。モントリーヴォも「ケイスケは本当に信頼できる選手。彼のような選手がいてくれてうれしく思う」と語ったというから、いかにチーム全体から絶大な信頼を勝ち取っているかが分かる。

 実際、このモントリーヴォも本田が移籍してきた2014年当初は、彼とほとんどコミュニケーションを取らず、ピッチ上でも絡む場面は少なかったが、今はいい連携が確立されつつある。先制点につながった本田のクロスもモントリーヴォからのパスが起点になっていた。キャプテンの視線の先には常に背番号10がいるのだろう。同じ右サイドでタテ関係を形成しているイニャツィオ・アバーテやデ・シリオとも息が合ったプレーが増えている。ジェノア戦を見る限りでは、ミランの攻撃は本田と左サイドハーフのジャコモ・ボナヴェントゥーラを中心に回っていると言っても過言ではないくらいだ。

「このゴールでホンダは批判してきた多くの人たちを納得させた。今日が彼にとってのミランでの本当のスタートだ」

 イタリアのニュースサイト「alanews」のアンドレア・エウゼビオ記者は、こう神妙な面持ちで語ったが、今後は本田を後押しする声が増えるはず。その追い風を力に変えて、ゴールに絡む仕事をより多く見せなければならない。継続は力なり――周囲からの信頼は勝ち得たが、名門再建はまだまだこれからだ。その旗振り役となるために、本田圭佑がさらなる進化を誓う。

文=元川悦子

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