2018.04.06

都並敏史氏が語る「左サイドバック論」。独自の視点でリーガのベスト5を選出

都並敏史さんの濃密な「左サイドバック論」は必見 [写真]=野口岳彦
サッカー総合情報サイト

「基本的にディフェンス能力が高くない選手は好きじゃないんです。結論から言うと、僕の“ベスト5”にマルセロは入りませんから」。リーガでプレーする左サイドバックの「ベスト5の選出」を依頼すると、WOWOWのリーガ解説者として活躍する都並敏史さんは開口一番そう断言した。かつて日本代表の不動の左サイドバックとして一時代を築いた都並さんの濃密な左サイドバック論と、独自の視点で選んだこだわりのベスト5。王者レアル・マドリードの左サイドバックが選外になった理由とは……。


インタビュー・文=国井洋之 取材協力=WOWOW

■指標となるのは「アトレティコでレギュラーになれるかどうか」

——都並さんが考える左サイドバックに必要な能力、条件を教えてください。

まず4バックであれ3バックであれ自陣の左サイドを担当する選手は“ディフェンダー”であるべきです。DFである以上、守備面の能力、あるいは守備の意識が不可欠になる。4バックであれば、4枚のDFとGKで「絶対に失点しない」という考え方を持っている選手、そしてそれを実践できる選手が好きですね。

サイドバックとして必要な能力となるとかなり細かい話になりますが、対峙する相手に対しての1対1の能力、アプローチの距離感、激しさ……それから相手に中央を突かれた時、または外を狙われた時の体の向きや足の運び……すべてを見ています。

1対2の状況を作られた時にどう対応するか、逆サイドからのクロスに対してどのタイミングで体の向きを整え、どのタイミングで相手を捕まえ、あるいはどのタイミングで味方に声をかけるかも大事です。逆サイドからのクロスに対して、目の前の選手に寄せすぎて、外から入って来る選手にやられてしまうというシーンはよくありますよね。でも、いいサイドバックというのはセンターバックとの距離間を保ちながらしっかりとバランスを取ったり、自分がマークに付くのであれば逆サイドの味方に指示を出したり、というように細かい作業をしている。試合中はそういうことができているかどうかを見てしまいますね。

——リーガには守備面よりも攻撃面で目立つサイドバックが多いように感じます。

もちろんレベルが高くなればなるほど、攻撃でも違いを見せないといけない。ただ、攻撃力は長けているけれど守備は疎かという選手は、僕は評価しませんし、好きではないですね。まずディフェンスがあって、つなぎがあって、その先にいいタイミングでの攻撃参加があって、クロスがある。リーガのサイドバックは大抵クロスがうまいので、ぱっと見た時にはスーパーな選手が多いように感じますけどね。

僕の基準で言うと、一つの指標となるのは「アトレティコ・マドリードでレギュラーになれるかどうか」。これは非常に大きなポイントになると思います。どういうことかというと、アトレティコには(ディエゴ)シメオネ監督のアルゼンチンサッカーが根幹にある。アルゼンチンやイタリアは守備においては世界一細かいんですよ。だから、シメオネのチームではそうした細かい部分を持っているサイドバックじゃないと務まらない。

冒頭でも言いましたが、例えばマルセロはシメオネの下ではサイドバックとして使われないんじゃないかな。当然攻撃力は素晴らしいし、3バックのワイドならまた違ってきますけどね。今のレアルは(左サイドのスペースを)カゼミーロが全部カバーするというメカニズムが確立されている。それはマルセロの攻撃力を生かすためであり、(ジネディーヌ)ジダン監督はマルセロをサイドバックという目線では見ていないと思います。

——現役時代の都並さんは効果的なオーバーラップ…つまり攻撃力が持ち味の一つという印象があったので、「まず守備から」という考え方は少し意外でした。

当時の僕はオーバーラップに関して非常に高い評価をいただいていました。でも、僕自身が「人と違うな」と思う能力、読売クラブで最初は評価されずにいた持ち味というのは全然違うんです。僕の中ではリスクマネジメントであったり、カバーリングのポジション取りであったり、自分が左サイドで起点を作ってボールが逆サイドにいった時のポジショニングであったり……実はそういう部分を重要視していました。リーガにはそういうものが当たり前にあるので、改めてそこが大事なんだということを感じています。

——ご自身が現役時代に得意だったプレー、課題としていたプレーは何ですか?

得意だったのはインターセプトです。最初はカバーリングだけだったんですけど、徐々に覚えていって、晩年にはそれがバランスよくできていたと思います。オーバーラップに関しては外から回ってクロスを上げるというのは得意でしたが、ジョルディ・アルバのように自分が中に入っていくインナーラップは得意ではなかった。中に入って自らシュートを打つというのもそれほど得意ではなかったですね。攻撃面は発展途上のまま終わってしまった感じです。いろいろとサッカーを理解した時には体がもう追いつかなくなった。もっと若いうちから指導を受け、コンディショニングに気を使っていたら、全然違ったキャリアがあったかもしれない。だから今の若い選手たちにはそれを常に言い続けています。

——今おっしゃっていたようなお話を解説中も意識して見ているのですか?

めちゃめちゃ見てます。常に勉強ですからね。例えばアトレティコのメカニズムはすごく勉強になるし、今面白いのは(本来はウイングの)セビージャのヘスス・ナバスがサイドバックをやりだしたことです。エイバルでもルベン・ペーニャという選手が右サイドバックをやっていますが、これは彼らの攻撃力を生かそうとした“フェイクのサイドバック”だったと思うんです。ところが、攻撃力だけを買われて使われていたはずの選手が、日に日に守備面でも良くなっている。これは恐らく僕が今話しているような目線を持った指導者がいて、守備面をしっかり改善しているからだと思います。

■都並敏史が選ぶリーガ最強左サイドバックTOP5

[写真]=Getty Images

1)ジョルディ・アルバ(バルセロナ/スペイン代表)
バルセロナはハーフウェイラインよりも前で相手を潰し、背後を取られたら中央に向かってV字型に戻ってくるという特殊な守り方をします。これはサイドバックの視点で見るとかなりリスキーな戦術なんですが、ジョルディ・アルバはそういう中で相手をどこで捕まえるべきか、縦を切るべきか中央を切るべきかというのがよく分かっている。守備の仕事をしっかりこなしながら、攻撃時には圧倒的なスピードでグーンと前に出ていって一人で突破もできる。こういう選手はなかなかいないと思います。

クロスの精度についてはリーガの選手はみんな素晴らしい。でも、特にアルバの場合はマイナスのコースを見つけるのが非常にうまいんです。後ろから入って来る選手に対して、ボールを出すタイミングや入れる場所の選択が絶妙なんですよね。僕が現役時代にできなかったインナーラップもうまいし、ドリブルやワンツーで中に抜けていくプレーは彼とフィリペ・ルイスぐらいしかできない。そういう意味でもアルバは外せません。

[写真]=Getty Images

2)フィリペ・ルイス(アトレティコ・マドリード/ブラジル代表)
若い頃から彼を見ていますけど、昔はちょっと守備面が危うかった。これは「サイドバックはどんどん前にいっていい、後ろのスペースはボランチがカバーする」というブラジルの文化が影響していたと思うんです。でも、シメオネに出会って変わりましたね。今はボランチとサイドハーフ、センターバックとの距離感を常に意識しながら、相手が苦しむような空間を作り上げるのが非常にうまい。

もちろん、ボールに対してもしっかり寄せていくし、粘り強い対応とシャープなボール奪取の両方ができる。何より細かいテクニックとフィードセンスがある。自陣の左サイドからあれだけうまくボールをつなげるチームはなかなかないですよね。中盤のセンスを備えたサイドバックという感じで、ブラジル人の良さをうまく生かしているし、クロスの精度も半端じゃない。アルバのクロスがほぼマイナス一択なのに対し、一番奥、ニア、真ん中とどこにでも振り分けられる。僕が監督なら左サイドに一番に置きたいのはフィリペ・ルイスです。

[写真]=Getty Images

3)アーロン・マルティン(エスパニョール/Uー21スペイン代表)
現代サッカーではスポットと呼ばれる敵陣の角のスペースを取りにいって、相手のセンターバックをつり出すのが主流です。つまり、守備側から見ると、サイドバックの役目は自分の持ち場をしっかり守って味方のセンターバックがつり出されないようにすることが重要になるんです。ただし、ずっとそこにいてスペースを埋めていればいいというわけじゃなく、相手に付いたり、放したり、戻ったりという非常に高度な判断が要求されるんです。アーロンはこれが非常にうまい。付いていく、放す、持ち場に戻るといった感覚が優れている。

左サイドバックは自陣左サイドが自分の“部屋”です。基本的にはここで相手に仕事をさせなければいいんですが、ずっとそこにいるだけでは他のエリアで相手がフリーになる。だから自分の部屋を守りつつ、他の場所でもやられないよう部屋から出たり、入ったりという作業を繰り返さないといけない。その判断が悪いと、後手に回って相手に自由にやらせてしまう。リーガのような戦術メカニズムのレベルが高い国では、そうやってサイドで常に駆け引きが続いている。その中で、周りと連動しながらボールにプレッシャーにいく、カバーもするというのはすごく難しい作業なんですけど、アーロンはそこが優れているんです。

[写真]=Getty Images

4)ジャウメ・コスタ(ビジャレアル/スペイン)
ジャウメ・コスタはパスサッカーのビジャレアルにあって抜群にパス配給がうまい。完全に攻撃の起点になっているし、これが一番の能力だと思います。ひと昔前のプレッシングの基本は、相手のサイドバックを追い込んで袋小路に入れてしまおうというものでした。だからサイドバックの選手に技術がないと簡単にプレスにハマってしまう。それでこのポジションに技術や戦術眼を備えた選手が使われるようになったという経緯があります。

ビジャレアルには監督が考えている型があって、選手たちがいろいろなルールの中で動いている。でも、型にハマったサッカーは相手に分析されたら終わりです。だから、起点となるサイドバックには相手の守備に応じて自分で判断しながらパスを出せる能力、ピッチを俯瞰で見られるような能力が必要だと思うんです。ジャウメ・コスタにはそれがある。フィジカルが強いわけではないけど本当に頭のいい選手です。

[写真]=Getty Images

5)クレマン・ラングレ(セビージャ/フランス)
ラングレはセンターバックが本職の選手なんですけど、あえて選ばせてもらいました。彼の一番の魅力は「俺はバックの選手!」という感覚。センターバックをやらせてもサイドバックをやらせても「自分の持ち場では相手に何もさせない!」という強い気持ちと技術を持っている。

最近は中盤の選手を自由にさせないためにラインを上げてコンパクトにするのが主流なんですけど、スペインの選手は裏を狙われるとオフサイドを取ろうする傾向が強い。これは個人的にリーガのあまり好きではないポイントですね。オフサイドトラップは(ルイス)スアレスのようにタイミング良く抜け出せる選手、メッシのように少しでも時間を作れる選手がいるとすぐにかいくぐられてしまうからです。

そんな中でラングレはラインの位置取りが基本的に深い。危なかったら戻る、後ろに戻るのは悪いことじゃないというヨーロッパでは珍しい感覚を持っている。それは最先端のサッカーではないかもしれないけど、センターバックでもサイドでもその感覚があって常に安全第一。とにかく自分の背後は取らせない、取りにいく時は必ず強く当たるということをやっている。そこが好きですね。総合的にはアルバやフィリペ・ルイスなんですけど、一芸では間違いなく彼。相手のウインガーに「自分が対峙するマーカーを選んでいいよ」と言っても、恐らく誰もラングレは選ばないと思います。

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