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名門リーベルが味わった屈辱…どん底から這い上がり、クラブW杯で悲願の世界一へ

2015.11.20

今年8月に一度来日したリーベル。G大阪を圧倒し、スルガ銀行杯を制覇した [写真]=兼子愼一郎

 今年のFIFAクラブワールドカップに出場するアルゼンチンの名門リーベル・プレート(通称リーベル)。国内リーグ優勝回数で最多を誇るだけでなく、「南米代表」の名に恥じない歴史と実績を持ち、世界のサッカー史を語る上でも非常に重要なクラブのひとつである。

 1901年に創設されたリーベルは、アルゼンチンのサッカーがプロ化された1930年代からすでに強豪として名を馳せていた。強烈なシュート力からモルテーロ(迫撃砲)と呼ばれた当時の大スター、ベルナベ・フェレイラを獲得して1932年にプロリーグ初優勝を遂げたのを皮切りに、40年代にはラ・マキナ(マシーン=機関車)の異名を取った破壊力抜群の攻撃陣による活躍で立て続けに国内外のタイトルを制覇。このラ・マキナの攻撃スタイルが、後にオランダのトータル・フットボールの原点となったことでも知られているように、リーベルのサッカーはアルゼンチン国内に留まらず、欧州からも注目されていた。

 またリーベルは、アルフレッド・ディ・ステファノを初めとする世界規模のスター選手を数多く生み出した育成機関としても有名だ。これまでにダニエル・パサレラ、ラモン・ディアス、アリエル・オルテガ、エルナン・クレスポ、パブロ・アイマールといった、欧州のビッグクラブとアルゼンチン代表で活躍した名手たちを輩出している。

 ところが、これほど名実共に「名門」の肩書きが相応しいクラブがどん底に落ちた。創設から110周年目となった2011年、クラブ史上初となる2部降格の屈辱を味わったのである。

 そのハードなゲーム内容から「1部以上に過酷」と言われる2部リーグ。だがリーベルは、クラブ育ちのマティアス・アルメイダ監督と、ダヴィド・トレゼゲ、フェルナンド・カベナギ、アレハンドロ・ドミンゲスといった経験豊富なベテラン勢の先導によって、1シーズンで昇格を実現して見せた。

 1部に復帰してからもしばらくは不調に悩まされたが、2013年12月にロドルフォ・ドノフリオが新会長に就任。ドノフリオ会長は「リーベルが再びリーベルになる」というスローガンを掲げ、チームがかつての威厳を取り戻すための対策を考案。現役時代、クラブ黄金期の立役者となったエンソ・フランチェスコリを強化マネージャーにおいて再建計画に乗り出した。このフランチェスコリから絶大な信頼と期待を寄せられて監督に抜擢されたのが、元アルゼンチン代表の頭脳派MFマルセロ・ガジャルドだったのである。

 ガジャルド監督は基本形を4-4-2として中盤のボール支配率を高め、決定力ある前線を活かす攻撃的なサッカーを展開。またプレー内容だけでなく、クラブ育ちの先輩としてチームに「リーベルの誇り」を浸透させることにより、劣勢から逆転する精神力を植えつけた。こうして昨年12月、監督就任からわずか半年後にコパ・スダメリカーナで優勝し、17年ぶりとなる国際タイトルをクラブにもたらした。

 続いて参加したコパ・リベルタドーレスではグループ予選で苦戦を強いられ、ベスト16の中でも最下位の成績でかろうじて決勝トーナメントに進出。第1試合でライバルのボカ・ジュニオルスと対戦することが決まったが、第2戦がボカのサポーターによる妨害行為から没収試合となったため、リーベルが次にコマを進めることに。準々決勝からはついに本領を発揮してクルゼイロ(ブラジル)、グアラニー(パラグアイ)といった名門をなぎ倒し、決勝でティグレス(メキシコ)に快勝して実に19年ぶりとなるリベルタドーレス制覇を達成したのだった。

 国際タイトルから長年遠ざかっていたことによる渇望はこれだけではおさまらず、ティグレスに勝った6日後に大阪で開催されたスルガ銀行チャンピオンシップでもガンバ大阪に圧勝。長旅による疲労や時差を言い訳にしないプロ意識の高さを見せつけ、まさに「リーベルが再びリーベルになる」というスローガンを実践した形となった。

 リーベルのアイデンティティを取り戻すことに成功したガジャルド監督のチームが次の目標とするクラブワールドカップ。注目すべき選手の筆頭は、やはりハビエル・サビオラだろう。

 今年6月、14年ぶりに古巣に戻って来たサビオラは、8歳のときからクラブで育った生粋のリーベルっ子。16歳でプロデビューした試合でいきなりゴールを決めてサポーターの心をつかんだスターだが、復帰後はまだ得点を決めていない。誰よりもリーベルを愛するサビオラにとって今回のクラブワールドカップは大きなモチベーションとなっていることから、日本でゴールをマークすることに期待がかけられている。

 アトレティコ・マドリードへの移籍が決まっているMFマティアス・クラネビッテルも活躍が待たれる選手。リーベルでは下部組織時代から「ハビエル・マスチェラーノの再来」と言われ、中盤でのボール支配を重視するガジャルド監督のチームには欠かせない存在となっている。また、アルゼンチン代表でも評価を高めている右SBのガブリエル・メルカドは、効果的な攻め上がりと、空中戦の強さを活かしてセットプレーで得点に絡むスキルから、チーム躍進の立役者となった選手。豊富な運動量で攻撃の起点からフィニッシュまで担うウルグアイ代表MFカルロス・サンチェスのプレーも見逃せない。

 リーベルがクラブ世界一の称号を勝ち取ったのは86年、まだインターコンチネンタルカップだった頃だ。2000年から2007年までの8年間にライバルのボカが4度も南米王者に輝き、うち2度の世界一決定戦を勝ち取っていたことから、リーベルのサポーターたちはずいぶん長い間悔し涙をのんできた。今回のクラブワールドカップは、4年前の2部降格のショックも合わせ、過去の屈辱を一気に晴らす絶好のチャンス。日本でも「リーベルが再びリーベルになる」瞬間を見ようと、大勢のサポーターが日本に乗り込むだろう。

 現役時代から「自分は(ジョゼップ)グアルディオラのような監督になりたい」と話していたというガジャルド監督が、目標とする指導者がかつて導いたバルセロナと対戦するために決勝に進出し、悲願の世界一のタイトルを勝ち取ることができるかどうかが注目される。

文=藤坂ガルシア千鶴

By 藤坂ガルシア千鶴

1989年よりブエノスアイレス在住。サッカー専門誌、スポーツ誌等にアルゼンチンと南米の情報を執筆。

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