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ともに戦う澤の思いを胸に…なでしこに問われる勝利への“覚悟”

2016.03.03

なでしこジャパンが大阪府内でトレーニングを行った [写真]=内藤悠史

 快晴に恵まれた大阪で、なでしこジャパンがレジェンドとともに再起を期す。痛恨のドローから一夜明けた3日、澤穂希さんが選手たちの練習場を訪れた。

 前夜に行われたリオデジャネイロ・オリンピック 女子サッカー アジア最終予選第2節の韓国戦。なでしこジャパンは84分にFW岩渕真奈のゴールで先制しながら3分後に同点弾を許し、1-1で引き分けた。2試合を終えて1分け1敗、勝ち点1で6チーム中5位。わずかに2つしかないオリンピック出場権を懸けた戦いは、思いがけない展開となった。試合後のミックスゾーンを通る選手たちの表情は一様に暗く、2月29日の第1節オーストラリア戦で1-3と敗れた後には異口同音に発された「切り替え」という言葉も、あまり聞こえてこなかった。

「自分が選手であれば、何か行動を起こすことができるのかなとは思うけど…。現役を引退した今、『自分に何ができるのか』というもどかしさもある」と話す澤。「みんなに少しでも声をかけて、元気やパワーを与えられれば――」。現役引退後もチームとともに戦う気持ちは変わらない。

「正直に言って、厳しい戦いが続いている。選手たちは危機感を持っていると思う。次で勝てなければ、最悪の状況(敗退)も考えられる状態。私が選手だったら『どうしよう』という気持ちになると思う」

 澤は自身の経験に照らして、選手たちの心理状態を推測する。今大会は10日間で5試合を消化する短期決戦。いかなる大会においても「初戦が重要」という表現が使われるものだが、リオデジャネイロへの道のりにおいて、その言葉はより強い意味を持っていた。中1日で試合が続き、合間に行われるトレーニングで細かな修正を施す時間がほとんどないからこそ、スタートダッシュの失敗がもたらす心理的な負荷は重い。

 澤は「技術や戦術を1日で変えることはできないけど、今までにやってきたものがベースにあるはず。それをしっかりと表現できるかどうか。まずは気持ちの部分が重要」と言う。月並みな言い方になるが、まずはしっかりとメンタル面のリフレッシュを図ることが先決だ。

 快晴の下、冒頭20分ほどが公開された3日のトレーニング。佐々木則夫監督がホワイトボードを使って5分程度のミーティングをした後、選手たちはグラウンドへ解き放たれた。輪が解ける瞬間、「さあ、行くよ!」と大きな声でチームを鼓舞したのは、主将MF宮間あや、FW大野忍、GK福元美穂といった面々。2人1組でのストレッチでは、FW大儀見優季が笑いを誘う場面も見られた。経験豊富な選手たちが率先して、明るい雰囲気を作り出していた。

 練習を終えた宮間は「後ろを振り返っていても仕方がない。今の結果が自分たちの実力だと思うけど、それ以上のものを出せるような準備をしたい」と第一声。「準備というのは、気持ちの部分?」と問われると、「そうですね」と頷いた。

「勝てていないから、結果が出ていないから、こういう流れになってしまっている部分もある。もちろん責任を感じているし、そのうえで結果を恐れ過ぎずに全てを出し切る準備をしたい」

 4日の中国戦で敗れた場合、オリンピック出場は絶望的なものとなる。報道では「自力突破の可能性が消滅」との文字も並ぶ。悲観的な雰囲気が醸成されているのは確かだ。「結果を恐れ過ぎずに」という言葉を使った宮間からは、そんなネガティブな要素を払拭し、前向きのベクトルを打ち出そうという思いがうかがえる。中国に勝てば一気に2位へ浮上する可能性もあるのだ。必要以上に自らの心理状態を追い詰めてはならない。

 岩渕の言葉はよりポジティブなものだった。「こういう時こそチームが1つになって、なでしこらしくやらないといけない。明るく元気にやるのが一番だと思うので、良い準備をしたい」。穏やかな表情の22歳は、同時に覚悟も口にした。

「結果を出すために全力でやりたい。もっともっと(力を)出さなければいけない部分がある。勝たなければいけないし、オリンピックに行かなければいけない」

 結果を恐れず、しかし覚悟を持って戦う――。澤は「正直、気持ちの部分が足りないと感じる」と、厳しい言葉を使って奮起を促した。

「良い時のなでしこジャパンは、みんなが同じ方向に向かって、同じ思いを持って戦っている。でも、この2試合はどこか遠慮していたり、他人任せなところも感じられた。こういう時こそ、年齢も関係ないし、『勝つ』とか『負けられない』という思いを、(心の中で)思うだけではなくグラウンドで表現してほしい。明日は勝つしかない。“引き分け以下ではオリンピックに行けない”という覚悟を持ってやらなければいけない」

 ともに戦うレジェンドの思いを胸に。第3節の中国戦は4日19時35分、キンチョウスタジアムでキックオフを迎える。

文=内藤悠史

By 内藤悠史

元サッカーキング編集部。育成年代や女子、国内サッカー、海外サッカーなど幅広く執筆。退職後はJリーグのクラブ広報に。

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