浦和MF安部裕葵 [写真]=清原茂樹
2025年のJ1リーグも最終盤。今季こそ19年ぶりのJ1タイトル奪還を目指していた浦和レッズだったが、9月未勝利の影響が大きく、10月4日のヴィッセル神戸戦を制したものの、その可能性がかなり遠のいた。
そこでマチェイ・スコルジャ監督は10月18日の横浜F・マリノス戦で新たなトライに打って出た。第2GKだった牲川歩見や19歳の早川隼平をスタメンに抜擢し、フレッシュな面々で勝ち切ろうとしたのだ。だが、指揮官の決断は裏目に出て、前半から大量4失点を喫してしまう。後半からは主力の渡邊凌磨、金子拓郎らを投入して巻き返しを図ったが、うまくいかない。そこで5枚目のカードとして送り出したのが、背番号7を着ける安部裕葵。2023年7月の浦和加入から2年3カ月の時を経て、ようやく浦和での公式戦デビューを飾った男がこの試合の数少ない朗報となったのは確かだ。
トップ下に陣取った安部は、まず右サイドに流れてイサーク・キーセ・テリンを目がけてクロスを狙う。そして味方がボールを失うと一目散に自陣まで戻り、守備に入る献身性を見せつけた。右太もも負傷でバルセロナ時代の2021年5月から約4年半も公式戦から遠ざかっていただけに、強度の高いパフォーマンスができるかどうか懸念されたが、そういった不安を一蹴。後半アディショナルタイムを含めて15分程度のプレ—ではあったが、確かな一歩を踏み出したのは間違いないだろう。
「(出場については)だいぶ前から話し合っていて、実際、今日がデビューになりましたけど、『今週行くぞ』というタイミングが4回くらいはあったのかな。でも、2〜3日前にもも裏の違和感を感じて練習を離脱するという形になっていたんで、今回はとにかく気を使いながら練習をこなして、今日という日を迎えることができました。0-4だったんで、とにかく結果関係なく、復帰のために尽力してくれた人のために姿勢を見せようと思った。それは多少はできたんじゃないかと感じます」と本人は感慨深げにコメントした。
2019年夏に鹿島アントラーズからスペインに渡り、バルセロナ・アトレティック(バルサB)でプレーしていた2020年2月に最初の手術を強いられた。安部自身は「その時が一番厳しかった。何の希望もなかったんで」としみじみ述懐する。そこからは長い長いケガとの戦いを強いられ、浦和に来てからも別メニュー調整の日が少なくなかった。4〜5年もこんな状態が続いたら、普通の人間ならメンタルが壊れてしまうだろう。それでも彼は「2カ月先、3カ月先に復帰が待っている」と信じて、それを繰り返すことで、ようやく辿り着いた。その苦労と努力は尊敬に値する。だからこそ、試合終了後には、横浜FMの鈴木冬一や天野純が「よく戻ってきたね」と声をかけたのだろう。
ただ、安部がピッチを離れていた期間に周囲の環境がガラリと変わったのも事実。同じ学年の堂安律、上田綺世は日本代表のエース級に上り詰め、U-20日本代表で共闘していた久保建英、中村敬斗らも森保ジャパンの重要戦力となっている。10月14日のブラジル戦を外から見た安部は一抹の寂しさを覚えたに違いない。
「正直、僕が一緒にやってきた世代は今みんな代表になっている。この間のブラジル戦もそうでしたし、バルセロナだったらもう半分以上が一緒にやってた選手が主力になっている。そこと比較してもしんどいだけなんで、『新しいサッカー人生』だと思ってボチボチやっていけたらなと思います」という発言は、10代の頃、スター候補生だった男の偽らざる本音ではないか。本人もよく理解しているが、“空白の5年”を悔やんでも何も始まらない。見据えるべきなのは未来だけだ。安部はこれからの人生を自分の力で変えられる。ようやくその状態になれたのだから、ここから本来の力を見せつけるしかない。
浦和には今季ラスト4試合が残されているし、相手もFC町田ゼルビアやサンフレッチェ広島など難敵ばかり。そこで背番号7が異彩を放つことができれば、チーム全体が停滞感も払拭できるはず。そうなるように、彼は自身のパフォーマンスを引き上げていかなければならないのだ。
「僕のこれからのサッカー人生は、僕をサポートしてくれた人の人生も背負うくらいの気持ちでやっていかないといけない。まだ若いんで、これからサッカー頑張ろうと思います」と安部は力を込めたが、本当に彼には他者にない突き抜けたストロングポイントがある。
高度なテクニック、パスセンス、小気味いいドリブル、頭抜けた戦術眼、そして相手の裏をかくアイディア……。そういったものをピッチで遺憾なく発揮できれば、安部のキャリアは確実に成功に近づいていく。25歳からの再出発は決して遅くはない。ここからの逆襲を楽しみに待ちたいものである。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子


