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目標は「ゴールマシン」…Jリーグ復帰を果たした武藤嘉紀、神戸から再び日本代表へ

2021.08.23

今夏、ヴィッセル神戸に加入した武藤嘉紀 [写真]=J.LEAGUE

「欧州に残る選択肢もありましたけど、今、一番成長できるところはどこかを考えた時、それは神戸だと。Jリーグで毎試合しっかり出場し、得点感覚を戻す。そして『ゴールマシン』になることを目標にして、大きな決断をしました」

 8月21日の鹿島アントラーズ戦で山口蛍の決勝点をアシストし、鮮烈デビューを飾った翌日。ヴィッセル神戸新入団会見に臨んだ武藤嘉紀は厳しい表情をのぞかせた。


 険しい顔つきの背景は、欧州6年間の不完全燃焼感によるところが大だろう。そもそも武藤は「次世代の日本代表エース」の座を嘱望された男だった。慶応大学在学中にプロ契約した2014年のFC東京ではJ1リーグ33試合出場13ゴールという華々しい活躍を見せ、翌2015年も半年で10ゴールをマーク。当時の眩い輝きは見る者を大いに魅了した。

 直後に赴いたドイツ・ブンデスリーガ1部のマインツでも、2015-16シーズン前半戦だけで7ゴールを叩き出し、前年・前々年に2シーズン連続2ケタ得点を記録した岡崎慎司の後継者として高評価された。

「オカザキとヨシ・ムトウは似ている。2人はチームのためにたくさんの貢献をし、しっかり戦ってくれている。しかもヨシはオカザキ同様にゴールを取れる選手。チームにとってものすごく重要だ」と当時のチームメートであるユヌス・マリも太鼓判を押していた。

 順風満帆なキャリアを送っていたと思われた武藤を襲ったのが、2016年2月のハノーファー戦での右ひざ外側側副じん帯の部分断裂だ。1カ月後に復帰を果たしたものの、同じ箇所を再発。さらに2016年9月にも右ひざを痛め、2017年1月までピッチに立てなくなったのだ。

「去年は本当についていなかった。厄年でした」と彼は2017年2月に苦笑していた。

 それでも、一時の“武藤フィーバー”から離れ、自身を冷静に客観視する時間を得られたのは、本人にとってプラスだったはずだ。

「ハリル(ホジッチ)も言っていますけど、日本に強烈なストライカーがいないのは、日本人がエゴイストなところを嫌う傾向にある人種だから。確かに日本人はすごく戦術理解力が高いし、真面目だし、監督に歯向かったりしないけど、自分だけいい顔して『チームのために』と言っていると、結果的には自分のためにならない。単なる『走り屋さん』で終わってしまう。それじゃ意味ないですよね。やっぱり外国人を見ると、全員がエゴイストの集団。自分もそうならないといけない」と彼は自己改革を宣言。改めて自らを奮い立たせ、再出発を期した。

 これを機に復活ロードを歩み始め、17-18シーズンは27試合出場8得点。本来の実力に近い結果を残し、念願だったプレミアリーグへの挑戦権を手に入れた。

 しかし、新天地では想像をはるかに超える高い壁にぶつかった。18-19シーズンは17試合、19シーズンは8試合の出場にとどまり、サッカーの母国で過ごした2年間で奪ったゴールはわずか1点。コロナ禍の2020年夏には乾貴士がプレーしていたリーガ・エスパニョーラのエイバルへレンタルされる。そこではコンスタントに出番を与えられたが、肝心なところで決め切れず、残留請負人にはなれなかった。

「6年間、海外のトップリーグでプレーしましたけど、難しかったこと、辛かったことの方が多かったですね…。ドイツの3年間は大きなケガもしましたし、イングランドでは思うようなプレーができず、かつ出場機会も得られなかった。スペインでは内容面でも6年間で一番いいプレーができたけど、数字がついてこなかった。サッカーに『たられば』はありませんし、それが自分の実力。今の力だと思います。ここからは海外で経験したよかったこと、悪かったことすべてを力にして、日本でさらに成長していきたい」と武藤は数々の挫折を糧に這い上がる覚悟を口にした。

 ゴールハンターとしての“飢え”は、鹿島戦の後半45分間に強く出ていた。神戸合流3日目でコンディションは決して良好とは言えなかったが、前へ前へ突き進もうという貪欲さとドイツ時代に体得したエゴイスト魂を全身で表現していたのだ。山口が「間違いなく貴重な戦力になる」と前向きにコメントした通り、鋭い動き出しとスピード、ゴール前の迫力で、古橋享梧が去った前線を活性化するのは間違いなさそうだ。

 同時期に加入したボージャンとはマインツ時代にコンビを組んでおり、大迫とも2018年ロシア・ワールドカップや2019年アジアカップ(UAE)で共闘している。代表では大迫と1トップを競う間柄だったが、神戸では2トップや3トップなどでの共演もあり得そうだ。2人揃って「ゴールマシン」となり、得点を量産してくれれば、今季クラブが掲げるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権獲得はもちろんのこと、日本代表でともに主軸を担うことも不可能ではないだろう。

「大迫選手は日本を代表するストライカー。自分とはタイプが違いますが、素晴らしい選手と一緒にプレーできる。間近で大迫選手のよさを盗めることでさらに成長できる。これ以上ない経験ができるとワクワクしています」

 目を輝かせる背番号11に託される仕事は、6年ぶりのJ1ゴールをいち早く奪い、圧倒的な存在感をアピールすること。そして数字を残し続けることだ。かつて神戸の11番を背負った三浦知良が54歳で奮闘しているのだから、29歳で老け込んでいる暇などない。

 武藤嘉紀は完全復活を果たすことができるか――。2021年夏がキャリア最大の前向きな転機になることを祈りたい。

文=元川悦子

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