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“遠藤ショック”に負けず古巣・鹿島を撃破…完全復活へ前進した昌子源

2020.10.05

鹿島戦にフル出場した昌子源 [写真]=J.LEAGUE

「終始攻められてるなと(苦笑)。試合が終わってもずっと攻められたと思うし、個人的なミスも多かった。でもチームスポーツである以上、誰かのミスを誰かがカバーするというのがしっかりできた。僕が出てからここまで無失点がなかったのは非常に情けないですけど、今日はチームあっての無失点だった。チーム全員とサポーターに感謝したいです」

 今年2月にガンバ大阪入りした昌子源にとって、10月3日の鹿島アントラーズ戦は2度目の古巣対決だった。8月23日の前回アウェイ戦は奇しくも内田篤人(JFAロールモデルコーチ)の引退試合。内容的にも圧倒され、1-1のドローが精一杯であった。


「篤人君は鹿島の歴代の先輩から受け継いできたものを背負って伝えてくれた人。それを見て、自分も成長した部分は沢山あった」とピッチを去った偉大な先人への感謝を胸に刻みながら、今回の再戦に備えていた。

 そんな矢先に“ガンバの顔”とも言える40歳のベテラン・遠藤保仁の移籍話が急浮上。5日に正式発表されたが、この時点ではまだ報道ベースということで、チーム内が揺れ動く状況だった。「僕らは試合に集中するだけ」と昌子は雑音を封印して集中しようとしたが、どこか複雑な思いはあったはず。それでも古巣対決には絶対に負けられない。これまで以上に強い気迫を持って、パナソニックスタジアム吹田のピッチに立った。

 しかしながら、鹿島攻撃陣の迫力は予想以上だった。最前線のエヴェラウドと土居聖真、右サイドのファン・アラーノらを中心に序盤から猛攻を仕掛けてくる。前半は一方的に攻め込まれ、打たれたシュートは倍以上の10本。昌子自身も何度か突破を許したが、キム・ヨングォンからのパスを背後から来たレオ・シルバにカットされ、エヴェラウドに決定機を作られた38分のミスは特に彼らしくなかった。これは枠外に飛び、事なきを得たが、約1年間ケガで公式戦から離れていたブランクを露呈してしまったのかもしれない。

 後半に入るとG大阪は徐々に盛り返していく。最大の原動力となったのが51分の場面。前節・サンフレッチェ広島戦でJ1通算300試合出場を達成したGK東口順昭のスーパーセーブだ。「(ファン・アラーノと対峙して)味方を待とうかと思ったけど、そういう距離でもなかったので、前に詰めてシュートコースを消しながら詰めた結果、何とか止められた」と安堵した守護神の闘志あふれるプレーがなかったら、その後の反撃もあり得なかった。

 耐え抜いたG大阪は64分にパトリックが自ら得たPKを決めて先制。後半アディショナルタイムにも電光石火のカウンターを渡邉千真が決めて2-0と会心の白星を挙げた。これでチームは4連勝で4位に浮上。昌子自身にとっても、フル出場で初の無失点勝利となった。タイムアップの笛が鳴った後、彼はかつての仲間である永木亮太とグータッチし、犬飼智也とハグ。土居とも談笑していたが、「自分はエンジのユニフォームの一員ではない」と改めて痛感したことだろう。

 古巣を撃破した昌子は青黒のユニフォームが似合う男になった――。そう感じたサポーターも多かったのではないだろうか。

「鹿島戦はやっぱりフワフワというか、難しい感情はある。対戦相手として違うユニフォームを着て戦うのもどこか違和感があります。でも前回のアウェイも今日も、これから先もガンバのためにやっていくだけ。鹿島とやる感覚がどうなっていくかは分からないけど、相手がどこでも勝ちを目指してしっかりやりたいなと思います」と本人も神妙な面持ちで語っていた。

 宮本恒靖監督も「新リーダーになるべき存在」と大きな期待を寄せているはず。そのためにも、もっとパフォーマンスを上げていく必要があるのは確か。前述の通り、レオ・シルバに後ろからインターセプトされるようなミスは2018年ロシアワールドカップ前後の彼には見られなかった。早くそのレベルまで自らを引き上げていくことが肝心だ。

「自分の状態がどのくらい戻っているかと言われると難しいけど、パスの感覚だったり、相手のアプローチがすごく速く感じたりする。ファン・アラーノに入れ替わられたシーンなんかも、いつもならもっと『パパっ』と迷わずプレーできるのに、『ここでつぶしたら俺、退場になるかも』、『並走しても相手がスピードに乗ってるから負けるかも』といろんなことを考えてしまった。前はその瞬間の一番いい判断ができていたのに、今は迷いが出てしまっている。そこが一番悔しいところです」

 自身の課題を明確に見据えられるのは、昌子の大きな強み。だからこそ、レギュラー唯一の国内組としてロシアで16強入りの原動力になれたのだ。本人も前々から「日本にいても成長できる」と口癖のように語っているが、今の環境で世界基準を追求するのは決して不可能ではない。それをやり切った先に、日本代表復帰も見えてくる。

 10月5日からオランダで約1年ぶりの日本代表活動がスタートする。昌子が今もトゥールーズでプレーし続けていたら、今回のメンバーに選ばれていたと見られるが、現実は違う。この2連戦で吉田麻也、冨安健洋を筆頭に、リオデジャネイロ五輪世代の植田直通、東京五輪世代の板倉滉、中山雄太といった欧州組センターバックがどんなパフォーマンスを披露するか注目だが、昌子にはそこに割って入るチャンスがまだまだ残されている。

 2022年カタールワールドカップ予選が来年にずれ込んだことをプラスに捉え、この調子でG大阪の快進撃を後方から力強く支えること。それが彼に託された責務と言っていい。

 昌子源の復活ロードはまだ序章。本当の戦いはここからだ。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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