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日立台を埋め尽くした熊本対水戸戦の舞台裏…柏レイソルによる“隠れた”支援の姿とは

2016.05.27

柏レイソルのホームである日立台に集結したサポーターたち [写真]=浦正弘

 色とりどりのユニフォームで彩られた日立柏サッカー場。平成28年熊本地震の影響でホームタウンを離れて主催試合を行わなければならないロアッソ熊本を“観戦”という形で支援するべく、日立台にJリーグ各クラブのサポーターが数多く集結した。

 水戸ホーリーホックを迎えて行われた5月22日の2016明治安田生命J2リーグ第14節には、熊本の今季平均入場者数を上回る8201人もの人々が集まった。試合は残念ながら0-1で熊本が敗れたが、スタジアムでは漫画『キャプテン翼』でおなじみの高橋陽一先生、『GIANT KILLING』の作者ツジトモ先生によるサイン会が行われ、くまモンや熊本に縁のある著名人も数多く駆けつけて話題とお客さんを集めた。これには遠方開催による支出増と収入減が危惧されたクラブもひとまず胸をなで下ろしたことだろう。ロアッソ熊本の運営会社である株式会社アスリートクラブ熊本の池谷友良代表取締役社長も、水戸戦後にこう話している。


「今日は入場口でずっとあいさつをしていたんですが、いろいろなユニフォームを着た方がいて、それを見た時にサッカーの良さ、スポーツの良さを感じました。日立台が8000人を超える人で埋まったことには本当に感謝していますし、サッカーファミリーの絆の深さ、温かさを改めて感じました。これが復興のシンボル、第一歩になっていけばと思いますし、それを熊本の元気に変えるようにしていきたい」

池谷友良

日立台に帰ってきた熊本の池谷友良社長。クラブやサポーターたちに感謝の意を表した [写真]=浦正弘

 サッカーファミリーの温かさ――。多くの人々が日立台に集まり、熊本を支援しようとする動きは、まさにそれを象徴するものだった。そしてこの水戸戦が興行として一定の成功を収めるにあたって、運営面で日立台をホームスタジアムとする柏レイソルの大きな協力があったことも忘れてはならない。

 柏は水戸戦前日にアビスパ福岡とのリーグ戦を実施。デーゲームで福岡に劇的な勝利を飾った試合後からスタッフ総出で熊本の主催試合の運営協力に移行し、設営準備をスタートさせた。ちなみに柏は同週の水曜日にヤマザキナビスコカップのアルビレックス新潟戦も日立台で開催しており、熊本戦を含めると“ホームゲーム3連戦”。しばしば選手たちの“過密日程”が取り沙汰されるが、運営側にも同じような状況が起きていたことは想像に難くない。

 では、なぜ柏はこれほど協力的だったのだろうか。

 それは熊本が柏にとって“縁深い”クラブであったことに他ならない。池谷社長はかつて柏で監督を務めたことがあり、この日も柏サポーターに「おかえり」と声を掛けられていた。また、清川浩行監督は長年にわたって柏のアカデミーを指導しており、柏の大谷秀和にとってはU-15時代の恩師。水戸戦に足を運んでいた大谷自身も「キヨさん、めっちゃ優しい人ですからね。池谷さんは僕がサテライトでプレーしていた時のコーチでしたし」と昔を懐かしんでいた。以前から選手や指導者の行き来が頻繁で、クラブ関係者にとってもサポーターにとっても“他人”ではなかったわけだ。

清川浩行

1995年〜2009年まで柏のアカデミーを指導していた清川浩行監督(左)[写真]=浦正弘

 地震発生後、その柏にJリーグと池谷社長から、ほぼ同時期に日立台での熊本の試合開催が相談された。

 日本国内で“自前”のスタジアムを保有しているのは、柏とジュビロ磐田のみ。しかもサッカー競技で専有使用できるのは日立台だけだった。スタジアムの空き状況やクラブ間の関係性を考えると、柏に相談が入るのは自然な流れ。この打診を受けた柏は関係各所への調整をスタートさせ、行政や近隣住民、警察、消防なども協力体制を敷いてくれたおかげで、代替開催がスムーズに決定した。さらに柏はスタジアム使用料を取らず、クラブスタッフも熊本戦の運営に全面協力する。

 水戸戦当日、スタジアムには普段の柏戦と変わらないフードコート、そしてボランティアの姿があった。飲食店は前日から引き続き出店し、ボランティアスタッフも慣れ親しんだ日立台で熊本の主催試合をサポートした。しかもフードコートの出店者は水戸戦当日の収益を支援金として熊本に送ったという。また、この日は流通経済大のサッカー部員約80名がボールボーイや担架スタッフを含めて当日の運営補助に回り、柏サポーターは柏駅からの道すがら、慣れないスタジアムへ向かう人々に導線や駅周辺を紹介するチラシを配付した。これぞまさに“サッカーファミリーの力”と言えるものだ。

くまモン

熊本vs水戸戦の日立台に登場したくまモン(左)とレイくん(右)[写真]=浦正弘

 そして柏が代替試合の運営協力に尽力した理由が、もう一つあった。それが2014シーズン最終節に起こった出来事だ。新潟とのアウェーゲームが大雪のため順延となってしまったところで、何の関係もない鹿島アントラーズが代替開催を申し出てくれたため、何と中止翌々日の月曜にすぐさま試合を行うことができたのだ。この時の感謝が今でも忘れられない。柏のクラブスタッフは当時を振り返りつつ、今回の水戸戦へのサポートについて思いを話してくれた。

「今回はロアッソさんの試合運営に協力させてもらいましたが、何か特別なことをしたとは全く思っていないんです。自分たちが困ることもありますし、今までもいろいろなクラブがそういった協力をしてきていますから」

 熊本の次節FC町田ゼルビア戦は28日(土)19時30分からノエビアスタジアム神戸で行われるが、こちらもヴィッセル神戸が運営に全面協力するという。6月に開催されるホームゲーム2試合はベストアメニティスタジアムでの実施が決まった。こちらもやはりベアスタを本拠地とするサガン鳥栖のサポートがあるそうだ。

 サッカーファミリーの力――。選手やサポーターを中心に支援の輪が広がっている一方で、表に見えないところでもサポート体制が敷かれていた。支援にはそれぞれの立場でできることがある。日立台での水戸戦には、いろいろな人たちの思いが存分に詰まっていた。

ロアッソ熊本

試合には熊本や水戸のサポーターに加え、柏や浦和などJリーグ各クラブのサポーターが集結した [写真]=浦正弘

 熊本の困難な戦いはしばらく続く。もし会場付近(もちろんそれ以外も)にお住まいでお時間に余裕のある方は、仲間に声を掛け合って、ぜひ試合に足を運んでもらえたらと思う。「観戦が支援になる」という合言葉を旗印に、まずは28日(土)の町田戦を見にノエスタへ――。

文=青山知雄

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