2015.10.01

制裁免除のスタジアムが続出…Jクラブを救う「トイレ60%ルール」とは?

対象の一つであったパロマ瑞穂スタジアム [写真]=Getty Images
学生時代から全国のスタジアムへ通い続けてきた経験と人脈を生かして、Jリーグを取り巻くピッチ内外のネタを探り続ける。

 29日にJリーグが発表した2016シーズンのクラブライセンス判定。各クラブの財務状況、スタジアムやトレーニング施設などのインフラ環境、アカデミーの整備などを非常に詳細な項目にわたってチェックし、一定の基準をクリアすることでJ1やJ2への参加資格が認められるものだ。

 ライセンスの判定項目は内容の重要性に応じてA~Cの等級に分かれており、「A等級」のすべてを満たさなければ、J1、J2ともにクラブライセンスは発行されない。また、「B等級」の基準を充足していない場合はライセンスこそ発行されるものの、同時に制裁を課されるケースがある(「C等級」は達成推奨の努力目標として設定。B、C等級とも将来的に格上げの可能性あり)。

 ライセンス判定項目で話題に上がる機会が多いのが、スタジアムに関する内容だろう。J1ライセンス発行の「A等級」として、1万5000人以上のキャパシティを持つスタジアムを本拠地とする必要があることは知られているが、実はスタジアムに関する「B等級」の条件に、観戦者向けのトイレ数も指定されている。

 Jリーグのクラブライセンス規約では、スタジアム内のトイレについて以下のように定められている。

[クラブライセンス交付規則 第34条 I.12]
スタジアム:衛生施設(抜粋)
[B等級]
(1)スタンドには、どの席からもアクセス可能な場所に、男女別のトイレ設備を十分に備え、かつ、車椅子席の近くには多目的トイレを備えなければならない。
(3)スタジアムは1,000名の観客に対し、少なくとも洋式トイレ5台、男性用小便器8台を備えなければならない。

 つまり50,000人を収容するスタジアムであれば、洋式トイレが250台、男性用小便器が400台必要となる。今回の説明会では、スタジアムのトイレ数について以下が制裁対象にあたると発表された。

・ヤンマースタジアム長居(セレッソ大阪)
※C大阪はキンチョウスタジアムが基準を充足。
・NDソフトスタジアム山形(モンテディオ山形)
・石川県西部緑地公園陸上競技場(ツエーゲン金沢)
・IAIスタジアム日本平(清水エスパルス)
・パロマ瑞穂スタジアム(名古屋グランパス)
※名古屋は豊田スタジアムが基準を充足。
・シティライトスタジアム(ファジアーノ岡山)
・エディオンスタジアム広島(サンフレッチェ広島)
・Pikaraスタジアム(カマタマーレ讃岐)

 京都サンガF.C.も西京極総合運動公園陸上競技場がトイレ不足とされたが、京都府亀岡市内に新スタジアム建設を発表しているため、制裁を免除されている。

 今のところトイレ数は「B等級」の条件でしかないが、今後「A等級」に引き上げられる可能性は十分にある。だが、大多数のクラブが使用する陸上競技場やスタジアムは公共施設であるため、現実的にはコスト面や他競技との調整、利用状況などから簡単に施設を改修できるものではない。トイレについてもスペース確保の問題や工事費用の問題があり、即座に対応できないのが現状だ。

 なかなか難しい状況にある各クラブ。本来ならばもっと多くのクラブが制裁を受けるはずだったが、実は彼らを助ける免除規定が2013シーズン申請分(2014シーズンより適用)以降に設定されている。それが通称「トイレ60パーセント・ルール」だ。

 Jリーグでは2014シーズンよりトイレの数について基準未充足であっても、判定の計算根拠となる観客席の数を「満員」の「60パーセント入場」を母数とした場合に基準に達していれば制裁を免除している。つまり50,000人のスタジアムでも60パーセントの入場者数を想定し、30,000人を母数に観客1,000人に対してのトイレ数(洋式トイレ150台、男性用小便器240台)を満たしていれば制裁を受けない。

 この「トイレ60パーセント・ルール」には、FC東京や横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸といったJ1勢を含め、実に17ものクラブが救われている。

 本来ならスタジアムは満員のお客さんで埋まってもらいたいところだが、現状では確かにキャパシティに対する入場率は60パーセント程度が妥当といったところだろう。2002年のFIFAワールドカップのために建設されたスタジアムでも、「B等級」や「C等級」まで広げてチェックすると、現在のクラブライセンス要項を満たさない会場は少なくない。実際、FIFAがスタジアムに求めるハードルは上がっており、現時点で日本にはFIFAワールドカップの開催条件を満たすスタジアムがないと言われている。

 現在、日本中で新スタジアムの建設が相次いでいる。AC長野パルセイロが本拠とする南長野運動公園総合球技場は今春からすでに運用されており、ガンバ大阪が建設中の吹田スタジアム(仮)は今秋竣工予定。さらにギラヴァンツ北九州と京都もサッカー専用スタジアムの新設を進めている。また、C大阪はキンチョウスタジアムの増改築方針を打ち出した。こういったスタジアムの建設ラッシュは、2002年のワールドカップに向けた時期に次ぐような状況だという。スタジアムへ足を運ぶ者にとって、トイレを含む観戦環境の整備はうれしい限り。各クラブがスタジアムグルメの充実化に注力しているのも、間違いなく観戦者満足度アップの一環である。今は「トイレ60パーセント・ルール」に救われているクラブが目立つものの、いずれはそこに頼らない(救われない)スタジアムが増えていくことを期待しつつ、今後の新しい展開を注視していきたい。

文=青山知雄

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