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渋谷監督の発言から探る大宮の戦術…今季途中に就任した戦術家への期待

2014.12.07

11月29日の名古屋戦に臨む大宮の渋谷監督 [写真]=Getty Images

 大宮アルディージャは6日に行われたJ1最終節で、セレッソ大阪と対戦し2-0で勝利した。J1残留のための最後の可能性だった勝利で望みをつなげた大宮だったが、残留争いをする清水エスパルスがヴァンフォーレ甲府とスコアレスドローで終わり、勝ち点を1伸ばしたため大宮のJ2降格が決まった。

 大宮は今季から指揮をとっていた大熊清監督が8月31日に退任。コーチを務めていた渋谷洋樹監督が、当時17位に沈んでいたクラブの指揮官の座を受け継いでいた。シーズン途中からの指揮となった渋谷監督のチーム戦術を、最終節のC大阪戦から探った。


■監督の戦術はチームにどこまで浸透したのか?

 C大阪に勝利した後の会見で最初に渋谷監督が発した言葉が、残留争いをかけた試合を表現している。

「今日もスタジアムにバスが入るところでファン・サポーターの皆さんが大応援で迎えていただいて、選手の後押しをしてくれたことを本当に感謝しています。それがそのまま試合につながったと思います」
 
 実際に試合の展開は、何としても勝利を手に入れようとするサポーターと大宮の選手たちのアグレッシブな戦い方に支えられて、2-0という完全なる勝利と呼べるようなものだった。結果的に、J2に降格してしまった渋谷監督が率いた大宮だが、では目指したチームの戦術がどこまで選手に浸透していたのかを問うことは重要だと考える。そこで記者会見で語られた渋谷監督の言葉をヒントに探求しようと思う。

■守備戦術を考えてみる

 まず、守備戦術はどうか。渋谷監督は次のように発言している。

「守備戦術に関してはボールを中心に(考えてプレス)いく。守備のオーガナイズを意識してやってきました」

「ボールのないところでの守備の意識づけ、そのための準備というところだと思います」

 大宮のシステムは、[4-4-2]で中盤がボックス型を作る。FW(フォワード)の2トップの攻撃の並びは少し斜めにズレる形をとる。対戦相手のC大阪も大宮と全く同じ[4-4-2]のボックス型だったので、それぞれの選手がきっちりとマッチアップする状態となった。

 そこで大宮は、守備の際に2トップが縦の関係になり、ドラガン・ムルジャが下がって相手のボランチのどちらかを見るようなポジションをとる。4人のMF(ミッドフィルダー)は攻撃の際にボックス型を作るが、守備のときには4バックの4人のDF(ディフェンダー)の前に1本のラインを引くように横に並んでポジションをとる。MF4人の後ろにはDF4人が同じように1本にラインを引くように並び、MFとDFで作られた2つのラインの間の距離を狭く保って、相手の侵入を難しくする。そして、ボールを持った相手選手には近くの選手がプレスにいく。プレスにいった選手からボールが離れると、すぐにもといたラインの場所に戻ってくる。

 このように、監督が述べた「オーガナイズされた守備」が、この試合で実際に行なわれているのが見てとれた。

■攻撃戦術を考えてみる

 一方で、渋谷監督は攻撃戦術に関して次のように発言している。

「攻撃においてはやり方が3つくらいあるが、それを少し徹底してやっていた。我々にはラッキーゴールがない。しっかりとボールを動かして最終的に点になっている。手数をかけてやっていたし、手数をかけてもできる選手たちだった。サイドからは攻撃できていたし、逆に中央からのコンビネーションがあまりなかったというのが反省になる」

 監督の発言で面白いのは、「我々にはラッキーゴールがない」と話すところだ。なぜなら、「ゴールはすべて予定の範疇にある」ということを反面で述べているからだ。このことからも、監督は「戦術家」と呼べるし、実際に、現在はヴァンフォーレ甲府のGMを務める佐久間悟氏が大宮の強化部長だったときから、渋谷監督は佐久間氏の右腕として戦術面の指揮を担当していた。

 そんな戦術家の渋谷監督が述べる「攻撃の3つのやり方」とは次のことだ。【1】ボールを繋いで手数をかけたやり方(ポゼッション)。【2】サイドから縦に突破してクロスを上げる攻撃(サイドアタック)。【3】中央からコンビネーションを使った攻撃(中央突破)。

 この日の試合でも、試合開始早々からサイドアタックで得点チャンスを何度も演出している。前半の橋本晃司や後半から出場した泉澤仁は、タッチライン沿いにポジションをとって縦への突破を繰り返している。なぜ、SH(サイドハーフ)の選手をタッチラインに張らせるのかと言えば、ピッチをワイドに使いたいからだ。ポゼッションを意識して攻撃するときに、ボールを回している際に相手がプレスに来たならば、サイドに味方の選手が張っていれば、その選手にボールを預けてプレスから逃げることができるのである。このことからもわかるように、監督の狙う【1】のポゼッションと【2】のサイドアタックという攻撃戦術は試合の中で実行されていた。

 そして【3】の中央突破だが、まず、ボランチのどちらかにパサーがいて、FWに正確な縦パスを供給できる選手がいなければ難しい。今の大宮のMFのメンバーには適任者が見当たらない。「反省になる」と語った監督だが、どんなサッカーをやるのかは、選手の質によって戦術が決められるものだから、監督の要求に答えられる選手がいなかったので、「コンビネーションを使った中央突破が難しかった」ということは真相だろう。

 渋谷監督が目指す守備戦術と攻撃戦術は、試合の中ではっきりと選手に浸透していたことが上記で説明したようにわかる。

■監督に対する来季への期待

 もし同監督が来季も指揮をとるのならば、彼の目指す戦術をより実現するために、「監督の要求に答えられる選手」が必要となってくるだろう。

 12月9日から11日の間に、大宮は選手に契約更新を告げる。同時に、来季の監督の人選も話し合われることになるだろう。何人の選手が大宮に残るのかは、この原稿を書いている段階では不明なのだが、FWとMF(この場合はボランチ)は補強の急務なポジションである。相手DFの裏を狙えるFWとそのFWに正確な縦パスを入れられるMFが必要なのだ。

 渋谷監督になってからの大宮の戦術は、間違っていなかったし、監督がやりたい戦い方を選手も理解しようと務めていた。シーズン前のキャンプから指導していれば、しっかりしたチームを作れる可能性が大いにあると考えられる。なによりも渋谷監督は、選手とのコミュニケーションに昔から長けていたので、来季も彼が指揮する大宮アルディージャを見たいと渇望してしまうのである。

文=川本梅花

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