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「最初から全試合無料と考えた」ABEMAワールドカップ責任者に聞く、放映権獲得の経緯と理由

2022.03.21

『ABEMA FIFAワールドカップ2022統括責任者』の野村智寿氏 [写真]=野口岳彦

 3月15日、動画配信事業を手掛ける『ABEMA(アベマ)』が、FIFAワールドカップカタール2022本大会の放映権を獲得し、全64試合を無料生中継することを発表した。

 これまでは地上波、衛星放送のテレビ中継が基本だった同大会の中継だったが、インターネット配信を中心とするABEMAが、しかも全試合無料で配信するということで、大きな話題を呼んでいる。

 どのような経緯で放映権獲得となったのか。なぜ無料中継を決断したのか。本大会へ向けて、どういったサービスを展開したいと考えているのか。

『ABEMA FIFAワールドカップ2022統括責任者』として大会に携わる株式会社サイバーエージェント執行役員の野村智寿氏に話を伺った。

インタビュー=小松春生

[写真]=野口岳彦

―――野村さんはこれまでサイバーエージェントに長く勤務され、『ABEMA FIFAワールドカップ2022統括責任者』に就任されました。

野村 2004年、サイバーエージェントに入社し、インターネット広告事業、新規事業開発、Amebaのプロモーション責任者などを経て、2014年に宣伝本部を立ち上げました。ABEMAは2016年4月に開局したので、ABEMAの開局からこれまでのマーケティングに携わっています。インターネットのメディア変遷、広告の移り変わりなども長く見てきました。

―――その中で、ビジネスにおいても世界でトップと言える大会であるFIFAワールドカップの放映権を獲得しました。

野村 ABEMAとして全試合を生中継することがチャレンジだと思っています。こういった機会を得られたことはすごく光栄なことです。コンテンツが持っているポテンシャル、魅力を最大限提供できるかという観点で、どれだけ社会に貢献できるかを大事にしていきたいです。

―――会社として大きな決断となりました。これまでのW杯は地上波や衛星放送で中継されてきましたが、オンライン配信事業者が全試合に放映権を獲得しました。しかも単独事業者として全試合を無料放送するのは日本初です。経緯を教えてください。

野村 ABEMAの総合プロデューサーを務める藤田とともに、ABEMAを一つ上のレベルに持っていく、いいタイミングなのでは、ということで決断をしました。ABEMAは開局から6年が経ち、運営をする中でいろいろと経験し、ユーザーの皆様に支持いただける部分も出てきたので。

―――6年の蓄積があった上で、自信を持って勝負できると。

野村 これまでもいろいろなチャレンジを事業としてやってきましたが、これほどの機会はなかなかないですし、総合的に考え、チャレンジする決断をしました。

[写真]=Getty Images

―――テレビ放送からインターネット放送へ本格的に移行する節目の大会になる可能性もあります。従来のテレビ放送の関係がある中、契約などで難しい部分が多々あったと推察されます。

野村 契約経緯や金額については守秘義務もあるので言及できないことがあるとご理解いただければと思います。ただ、サイバーエージェントグループとして、ゲーム事業のヒットなど、その他事業部に後押ししてもらえている流れもあり、ABEMAとして「W杯の放送についてチャレンジできる」環境ができていたというところです。

 これまでの放送局さんと比較ということはなく、あくまでも純粋にABEMA事業の運営として次のステージに行く、ということです。ABEMAのサービス形態との相性の良さもあると思い、市場や競合環境、地上波さんとの放映権などと比較して踏み切ったわけではなく、事業判断として決断しました。シンプルに「やってみよう」と。

―――今回は全試合無料放送となります。有料放送も検討できたと思いますが、ABEMAのサービスを広くリーチできる機会にもなります。前提として無料放送でいこうと考えていたのでしょうか。

野村 そうですね。有料は考えていませんでした。W杯のようなコンテンツは、とにかく多くの方に見ていただくことが重要だと考えています。昨今で言うと、日本でもスポーツ視聴に有料化の流れがある中、子どもから大人まで、もっとたくさんの方に見ていただきたいと考えています。「W杯ももしかしたら無料で見られないのでは」と想定していた方もいたと思います。その中で、社会貢献という言い方は広すぎるかもしれませんが、こんなに素晴らしいコンテンツをたくさんの方に届けたいという志を持ち、サービスとしては次のステップに進む機会と考えています。スポーツの裾野を広げ、ファンを増やし、業界をもっと盛り上げることに貢献したいということを考えると、有料だとやりきれない部分もあると思っています。基本的には全部無料で提供しようというのが、我々の思想です。有料か無料か検討した結果で無料としたのではなく、最初からそういった概念のもとで考えていました。

―――お話しいただいたように日本でもスポーツ視聴の有料化が進み、衛星放送だけでなくインターネット配信も含め、多くのサービスがあります。視聴者の趣味・関心も細分化され、マスに届きづらくなった一方、放映権の金額高騰などでメディア側は簡単に手が出せない部分もあります。欧米はペイ・パー・ビュー視聴が一般的ではありますが、無料放送の少なさから公共性の高い試合は無料で視聴できるように担保するなどしています。日本の視聴環境はどう捉えていますか?

野村 お国柄や国土、人口、文化もある中、メディアの成り立ち、視聴者環境、メディア環境のスタートも違うので、欧米や他国と比較することは難しいです。ABEMAの場合は、編成のあり方含め、とにかくコンテンツを余すことなく、時間的制約もなく、そのまま視聴者に届けることができるサービス特性があります。地上波の編成の制約がある中では、やりきれないところもありますし、ABEMAのサービス自体がスポーツ中継に向いていると思っています。そしてこのタイミングで、国を挙げてみんなで盛り上がる、応援するイベントがある。日本はひとつの事象に対して、盛り上がる文化、強い一体感をもつ国でもあると思っています。

[写真]=Getty Images

―――お祭り好きな国民性と言われたりもします。

野村 地域や文化でスポーツの楽しみ方は違います。歴史が違い、前提が違えば、ビジネスのあり方や提供の仕方も違うということに尽きます。日本に限っての話で言えば、テレビを持たない人が増え始め、見たいときにコンテンツを見るオンデマンド思考が強くなってきています。可処分時間の使い方が変わり、生活様式やメディアが変容し、届け方も今の時代にあったものにしないといけません。コンテンツの魅力や価値が下がったわけではなく、届け方が追いついていないことが大きいと思います。

 ABEMAはスマホでも見られるし、家にいたらテレビの大画面でもパソコンでも見られる。ゲーム機でも見ることができます。いろいろなシチュエーションに合わせ、時間や場所の制約を取り払い、コンテンツを楽しむ環境が提供できるようになったと思っています。今までは地上波を中心とした固定されていた視聴環境でしたが、いろいろな意味で“民主化”がされてきている。手前味噌ですが、よりW杯を、スポーツを楽しみやすくすることが実現できると思っています。

―――ABEMAでは2021年に有料配信でコパ・アメリカを中継しました。格闘技や大相撲、昨年からMLBとスポーツコンテンツを拡充していますが、社内の中でスポーツコンテンツへの評価や、社会的な評価で手応えはありますか。

野村 スポーツ自体の素晴らしさ、価値は疑う余地がないと思っています。今、お話しした通り、届け方の障壁により閉ざされ、見る、触れる機会がなくなってしまっている。僕は小学生の時にJリーグが開幕した世代なので、自然と憧れを持ちました。そういうことがきっかけでファンの裾野が広がっていく。我々が提供できているものは、スポーツがそもそも持っている魅力をディスカウントすることなく、その価値をそのまま伝える、より魅力的に届けることです。これまでやりきれなかったことがABEMAであれば、余すことなく丸ごとできる。スポーツ、特にライブ中継は相性がいいと思います。スポーツに価値を見出している、評価しているということではなく、そもそも価値のあるものを我々がしっかりと現代の形に合わせて提供をすることが、ABEMAの使命だと思っています。

―――社内の空気はいかがでしょう。

野村 ABEMAを運営する1人1人が志を持って使命感を感じながら取り組むようになると思います。いかにサービスを伸ばすか、というビジネス観点の話だけではなく、素晴らしいコンテンツをしっかりと世の中に届け、たくさんの方に見てもらうことに大義を感じ、その素晴らしさをどう届けるのか。メディアとしてその責任がありますし、そういう気持ちでやっている人間が多いです。

[写真]=Getty Images

―――今回の発表はスタートであり、大会に向けて、ここからどうアプローチしていくかというフェーズになります。現状でのイメージはありますでしょうか。

野村 まず、日本代表はまさに今、W杯出場を決めるかどうかの戦いにあるので、応援したいと思います。その中で、本番に向けての注目度を高めるだけでなく、もっとW杯の素晴らしさやサッカーという競技の面白さ、日本を代表する素晴らしい選手の紹介など、日本全体でW杯を楽しむ機運を高める活動を4月以降、積極的にやっていきたいと思います。

「本番だけ中継を見てください」ではなく、もっと日本を、W杯を、サッカー全体を盛り上げていくような企画を、テレビ朝日さんやいろいろなメディアさん、パートナーさんともタッグを組みながら、W杯開催までの半年、積極的にやってきたいですね。

 そしてもちろん大会中に、どのように中継を提供していくか、という点もあります。地上波で放送がある試合もありますし、ABEMAでしか見られない試合もあります。時差の関係で日本の夜中や明け方の試合もあります。ダイジェストなども含め、試合や結果をより快適に、わかりやすく提供できるか。試合自体もマルチアングルで楽しめるようにする。いろいろな角度から試合やW杯、大会情報を、期間通じて楽しんでいただけるように今、準備をしています。サッカーを愛してやまない方、W杯だから見てみようという方など、玄人の方から初心者の方まで、どんな方でも楽しめるものを提供するため、中継のあり方、コンテンツのあり方、企画のあり方を模索し、頑張っていきたいと思っています。

―――コアな方が求めるもの、4年に一度見る方が求めるものなど、いろいろな見方の方がいるので、番組作りの難しさもあると思います。二兎を追いかけるのか。中庸になることでどっちつかずになる危険性もあります。一方でインターネット配信であれば、マルチチャンネルやコンテンツの出し分けも可能になる部分もあると思います。

野村 全ての方に同じものを提供して、全員を満足させる難しさは間違いなくあると思います。その中で、どちらかに舵を切ってやるという話ではないと思っています。楽しんでくれる方を一人でも増やすことが、盛り上がりを作っていくうえで大切だと思っています。全力で全ての方にご満足いただけるような視聴環境や情報コンテンツを提供できるよう、メディアの責務として、チャレンジしていきたいです。

 立ち上げから6年やってきた中で培ってきたもの、築いてきたものがあるからこそ実現できることもあります。それを活かしながら、W杯というコンテンツを求めているすべての視聴者のみなさまに、どれだけちゃんと届け、楽しんでもらえるか、そこに尽きると思っています。

[写真]=野口岳彦

―――気が早いですが、W杯は2022年内に開催ですが、ABEMAは2023年以降も続きます。どういったサービスにしていきたいとお考えでしょうか。

野村 有料・無料問わず、通信環境、デバイス環境が整ってきた中で、動画サービスを習慣的に利用することがどんどん当たり前になっていくと考えています。メディア環境や視聴者の方が求めるものが日々変わっていく中、ABEMAとしてはユーザーの方に最高品質のもの、唯一無二のものを常にどう届けていくか、そこしかないと考えています。そのプロセスの中で、今回のW杯を全試合生中継する。同一プラットフォームで全試合無料生中継をすることは日本史上初めてです。そのような体験を提供することで、視聴者の方々に支持されるサービスにしていけるように頑張っていくことしかないと思っています。

―――最後にメッセージをお願いします。

野村 ABEMAは、FIFAワールドカップカタール2022の全64試合を無料で生中継します。いつでもどこでも、どんな環境でも、どなたでも楽しんでいただけるように、試合の中継はもちろん、企画や番組作りなど、W杯をより楽しめる企画を試行錯誤しながら、全力で準備していきます。ABEMAとしての挑戦にぜひ期待していただき、応援していただきたいと思います。

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By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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