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アジア王者・広州恒大は世界で戦えるのか? 強みは意外にも堅実な守備陣

2015.11.23

2年ぶりにACLを制した中国の広州恒大 [写真]=ChinaFotoPress via Getty Images

 広州恒大が2015年のアジア王者に輝き、12月に大阪と横浜で行われるFIFAクラブ・ワールドカップ2015の出場権を獲得した。

 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝セカンドレグが21日に広州の天河体育中心で行われ、中国の広州恒大が1-0でUAEのアル・アハリに勝利。この結果、スコアレスドローに終わったファーストレグとの合計スコアを1-0とし、広州恒大が2年ぶり2度目の優勝を決めた。

 アジア西地区を粘り強い守備と前線のタレント力で勝ち抜いてきたアル・アハリは、ディフェンスを固めたところから1トップのブラジル人FWロドリゴ・リマ、右ウィングのブラジル代表MFエヴェルトン・リベイロ、左ウィングのUAE代表FWアハマド・ハリルにシンプルなボールを出して突破を仕掛ける。ホームの広州は中盤のブラジル代表MFパウリーニョと中国代表でも10番を背負うジェン・ジー、トップ下のブラジル代表MFリカルド・グラルがショートパスを多く持ちながら、バイタルエリアで一気にスピードアップしてアル・アハリのディフェンスを脅かした。

 広州恒大の迫力ある攻撃も前半はアル・アハリの堅固なブロックに惜しいところで跳ね返されていたが、54分にグラルからパスを受けた左利きの中国代表FWジョン・ロンがDFサルミン・ハミスの間を破ると、ペナルティエリア内に侵入したFWエウケソンがファーストタッチで相手DFイスマイル・アル・ハマディの裏を取り、右足のアウトサイドでGKの対応をあざ笑う様にゴールを決めた。会場を埋めた4万超の広州サポーターと選手たちの歓喜が、このゴールの意味と価値をそのまま表していた。

 66分にはテンションの上がってしまったサルミンが高い位置でジョン・ロンに追突してレッドカード。10人のアル・アハリに対して優勢に試合を進めた広州は何度かカウンターで失点のピンチを迎えながらも、韓国代表DFのキム・ヨングォンを擁する守備陣が時に冷静に、時に勇敢に体を張りながら、しっかりとしのいで勝利をものにした。

 大会MVPを受賞したリカルド・グラルは大会8得点が評価されたはずだが、攻撃でアクセントを加える役割においても存在感が際立っていた。ただ、現在の広州恒大はブラジル人を含め、誰か1人というよりは堅実な守備とビルドアップをベースに、多くの選手が攻撃に絡んで多彩な仕掛けにつなげるスタイルであり、マルチェロ・リッピが率いてアジア王者になった2013年のチームとかなり異なる。

 攻撃の中心はブラジル人の3人だが、左利きのジョン・ロンも彼らに頻繁に絡んで得意のドリブルを織り交ぜるし、ファン・ボウェンはジョン・ロンよりミスが目立つものの突破力が高く、しばしば攻撃に縦の勢いをもたらす。パウリーニョとボランチのコンビを形成する10番のジョン・ジーも時にパウリーニョより前に出て攻撃に厚みを出すなど、ルイス・フェリペ・スコラーリ監督が布陣も含め、ブラジル人頼みのチーム作りを目指していないことが分かる。

 広州恒大は豊富な資金力でハイレベルな外国人選手を“爆買い”するイメージが先行するが、近年は育成にも積極投資していると聞く。どれだけ良質な外国人を獲得してもチームの過半数は中国人で構成されるため、彼らの底上げ無しに世界レベルでの躍進が不可能であることを経営陣も良く理解しているのだろう。もちろん中国超級リーグで成長した選手をライバルから獲得することにも余念が無い様ではあるが。

 3年ぶりに日本で開催される今回のクラブW杯において、広州恒大は12月13日に北中米カリブ海王者のクラブ・アメリカと対戦する。そこで勝ち上がれば準決勝で欧州王者のバルセロナと対戦することになる。スコラーリ監督はACLの優勝会見でまだ世界と差があることを認めながらも、「チームのレベルは日に日に進歩している」と語り、指導経験が豊富なアル・アハリのコスミン・オラロイ監督も「広州はクオリティの高いチームだし、勝ち進むことを期待している」とアジア王者にエールを贈る。

 中盤のパスワークをベースとするクラブ・アメリカ、さらに高いポゼッション能力と欧州屈指のプレッシングを誇るバルセロナを相手に、アジアでの戦い方のままでは恐らく通用しないだろうが、広州は時間帯に応じて堅守からのカウンターを用いることもできるチームだ。ある程度、守備のポジションが深くなっても、パウリーニョ、ジョン・ジー、リカルド・グラルのところでボールをキープできれば、ビルドアップで多くのパスをつながなくても、攻撃を高いエリアまで引き上げることができる。

 そこから得意のワンツーなどでバイタルエリアに入り、エースFWのエウケソンがフィニッシュに持ち込める場面を作れれば理想的だが、より効率よくサイドを突いてのクロスを活用するはず。その意味でも満を持して国際舞台にお披露目となるロビーニョの役割は重要だ。攻撃の起点を作る部分では、これまでよりブラジル人の依存度が強まるかもしれない。

 しかしながらジョン・ロンやファン・ボウェン、また爆発的な攻撃参加を誇る右サイドバックのジャン・リンポンなど、中国人選手たちがどこまで能力を発揮できるかが勝負のポイントになる。勝負どころでは長く中国代表を引っ張って来た長身FWガオ・リンが前線にエウケソンと並び立つ展開もあるかもしれない。スピードの衰えは否めないが、空中戦やゴール前の競り合いでは十分に存在感を出せるため、特にクロス対応にやや難があるバルセロナに対しては有効だろう。

 守備はエウケソンとトップ下のリカルド・グラルがある程度、プレスバックを免除されている分、ウィングとボランチは守備の意識が高く、高い位置ではできるだけ素早くボールを奪い、自陣では数的優位を作りながらボールホルダーの縦を切りながら必要に応じて厳しいコンタクトを加える。その中で目立つのはパウリーニョのボール奪取力だが、それもバイタルエリアに蓋をするキム・ヨングォンとフォン・シャオティンの粘り強さが後ろ支えになっている。

 日頃からエウケソン、リカルド・グラルといったアタッカーと対戦しているからか、広州の守備陣はサイドバックも含め1対1に強く、変化のある攻撃にも柔軟に対応できる。それはアル・アハリとの対戦で欧州でもトップクラスのFWであるリマを完封したことでも証明された。クラブ・アメリカにはメキシコ代表のオリベ・ペラルタや売り出し中のアルゼンチン人FWダリオ・ベネデット、バルセロナにはネイマールルイス・スアレス、コンディションが順調に回復すればリオネル・メッシもおり、非常に難しい局面が多くなることが想定されるが、集中を切らせることなくバランスを取り続けることができれば、完封の希望も見えてくる。

 スコラーリ監督は昨年のW杯で母国ブラジルを率い、準決勝でドイツに1-7と大敗したことが記憶に新しいが、本来は相手との力関係や噛み合わせを想定しながら選手を配置し、ボールの奪いどころを設定するのがうまい監督だ。分かりやすい戦術的なキャッチフレーズは無いが、緻密なパズルの様に布陣をくみ上げることに長けている。それが完璧にはまり、選手たちが任務をしっかり遂行できれば、クラブ・アメリカを破って準決勝に進出し、バルセロナに世界を驚かせる健闘を見せる道も開けてくる。彼らの戦いぶりがアジアの世界における指標になるという意味でも注目だ。

文=河治良幸

By 河治良幸

サッカージャーナリスト。プレー分析を中心に、Jリーグから日本代表、海外サッカーまで幅広くカバー。

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