2011年に産声を上げ、サッカーファン、映画ファンから熱い支持を集めてきた「ヨコハマ・フットボール映画祭」。今年も2月11日(月/祝)、16日(土)、17日(日)の3日間で本邦初公開のジャパンプレミアを含む7作品を一挙上映! そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各7作品の映画評を順次ご紹介。今回は16日にスペシャルトークショー「徹壱の部屋 ヨコハマ編」開催も予定されている宇都宮徹壱さんに本映画祭で日本初公開となる作品『ソカ・アフリカ 欧州移籍の夢と現実』 についての映画評を寄稿いただきました。

映画「ソカ・アフリカ 欧州移籍の夢と現実」を見ていて、ふと、あるカメルーン人の若者のことを思い出した。ディディエ・コウアカム、登録名「ディディ」。2005年当時、東北リーグ1部のグルージャ盛岡でプレーしていた。年齢は18歳くらいだったと記憶する。
当時、私は全国の地域リーグ(上から数えて4部リーグに相当)から将来のJリーグ入りを目指す地方クラブを取材していたのだが、まさか東北リーグでカメルーン人選手に出会えるとは想像もしていなかった。ディディは元U-17代表のキャリアがあり、海外でのプレーを夢見て代理人に導かれ、祖国からはるか彼方の日本にやってきた。当時のクラブ関係者によれば、本当はJリーグでのプレーを望んでいたのだが移籍のタイミングが合わず、とりあえずは東北1部でプレーしながらチャンスを待っていたという。
とはいえ、当時のグルージャは(今もそうだが)、選手は基本的に働きながらプレーを続けている。ディディも例外ではなく、盛岡市内にある「つなぎ温泉」の旅館に住み込みで働きながら日々の糧を得ていた。宴会場で忙しくビールと料理を運び、畳の固さと東北の寒さになかなか寝付けず、土のグラウンドで黙々とボールを追いかける毎日。でも、どこかで「こんなはずでは……」と思っていたのではないか。ディディは結局、1シーズンのみでグルージャを退団。その後、大分の練習生となったという古い情報をネットで見つけたが(おそらく不採用となったのだろう)今、どこで何をしているのかはわからない。
未来のエトオやドログバを夢見て、そして毎日の食事と家族を養えるだけの収入を求めて、アフリカから海を渡る若きフットボーラーの群れは、今なお途切れるどころか、むしろ増加の一途をたどっているように思えてならない。ディディの事例はレアケースに思われるかもしれないが、ヨーロッパの辺境と呼ばれる国々(たとえばルーマニアやハンガリーやラトビアなど)を訪れても、アフリカ出身の若い選手は普通にプレーしているのが現状だ。こうした傾向はヨーロッパだけでなく、日本や東南アジアを含めたアジア全域にも広がりつつある。
映画「ソカ・アフリカ」では、カメルーンと南アフリカの若者が、それぞれヨーロッパでフットボーラーとして活躍する夢を抱きながら、ささやかな成功と深い挫折を繰り返す様子が丹念に描かれている。そして、その間(あわい)で跋扈するのが、選手の夢を金に替えることを生業とする、商魂たくましい代理人の存在である。
もちろん、すべての代理人を否定するつもりはない。「プレーヤーズ・ファースト」をモットーとしている代理人は、私の周りには何人もいる。とはいえ現実問題として、「悪徳」と評されるこの手の人々が一定数存在しているのもまた、残念ながら事実のようだ。カメルーンの青年の場合、親が田畑を売った金でフランスに渡って入団テストを受けたものの話はまとまらず、代理人からは放置状態。故郷に帰ろうと思っても「一族の恥だ」と言われて拒否されてしまい、挙げ句にホームレス寸前にまで身を落としてしまう。
こうして書くと、何とも救いのない話のように思われるかもしれない。が、この作品が優れているのは、極めてダークな現実が描かれているにもかかわらず、きちんと救いが感じられることだ。深刻な問題を確認させつつも、だからといってフットボールそのものを幻滅させることはない。それは被写体の楽天的な性格によるものなのか、フットボールの本質によるものなのか、はたまた制作者の思惑によるものなのか、そのあたりについてはぜひ、本編をご覧になって確認していただきたい。
個人的にはむしろ、3年前のワールドカップの開催国となった、南アフリカの「その後」のことが非常に気になった。こちらについても、ネタバレになるので多くは語らないが、パブリックビューイングが開催された会場(私自身、大会期間中はここを訪れている)の現状や、恐ろしく閑散とした国内リーグのスタンドを見せつけられると、「あのワールドカップは、いったい何だったのだろうか」という疑念がふつふつと湧いてくる。アフリカの人々が、フットボールによって真の豊かさを獲得するには、まだしばらくの時間が必要なようだ。
『ソカ・アフリカ 欧州移籍の夢と現実』
イギリス/ドキュメンタリー/77分/2010年
上映:2月11日(月/祝)15:40~、17日(日)17:00~
監督:Suridh Hassan
舞台:カメルーン、南アフリカ、フランス、オランダ
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【ヨコハマ・フットボール映画祭2013について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2013年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月11日(月/祝)・16日(土)・17日(日)に開催! 詳細は公式サイト(http://yfff.jp)にて。
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