2011年に産声を上げ、サッカーファン、映画ファンから熱い支持を集めてきた「ヨコハマ・フットボール映画祭」。今年も2月11日(月/祝)、16日(土)、17日(日)の3日間で本邦初公開のジャパンプレミアを含む7作品を一挙上映! そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各7作品の映画評を順次ご紹介。今回は映画好きでも知られるサッカーライターの田中滋さんにドイツで生まれた感動の物語『コッホ先生と僕らの革命』についての映画評を寄稿いただきました。

あれは大学2年の夏合宿での出来事だった。最高学年である4年の先輩たちが、新入生を一人ずつ自分たちの部屋に呼びつけた。と言っても、なにか説教や折檻といういかがわしい行為があるわけでなない。いや、むしろもっといかがわしいものだったかもしれない。
部屋に入った新入生は、待ち構える上級生の前で正座をさせられ、ある一つの質問を受けるのだ。
「いままで経験したなかで一番気持ち良かったことを話せ」
まあ、つまりは下ネタである。
当然ながら、4年生に呼ばれた者はいままで経験したことのなかで一番気持ち良かったことを、恥ずかしがりながら話さなければならない。なかには風呂場での行為を打ち明け、後に「プロペラ」というあだ名を付けられた仲間もいた。しかし、そのなかで一人、どこでどう間違えたのか、「一番気持ちよかった」という言葉の解釈を間違えた後輩がいたのである。
彼は、突然、リレーで5人抜き(6人抜きだったかもしれない)したときの経験を話し出したのだ。リレーというのはもちろん陸上競技のリレーである。”抜いた”というのも、当然ながら”走って抜いた”話だ。下ネタでもなんでもない。あまりの予想外の展開にあっけにとられる4年生たち。だが、語り出した本人は、いかにも気持ちよさそうに語り終えるのだった……。
くだらない話で申し訳ない。しかし、ここには少なからず真実が含まれていると思うのだ。スポーツのなかで初めて経験した勝利の味や、いままでできなかったことが初めてできたときの快感は、忘れがたいものがある。「いままで経験したなかで一番気持ち良かったこと」と聞かれて、リレーの話をしてしまった後輩のことは意外に笑えない。
初めて誰かとパスをしたとき、
初めてゴールを決めたとき、
初めてゲームに勝ったとき。
それがいつのことだったのか、今年で38歳になる僕には思い出すのが難しい。記憶の奥底にあるのは確かなのだが、あまりにも遠い昔のでき事すぎて、どこを開けば記憶の扉が開くのかわからなくなってしまった。その相手が友達だったのか、兄だったのかも思い出せない。それでも、とても楽しかったということだけは、いまでもはっきり覚えている。この映画は、そのことを僕に思い出させてくれた。
映画の舞台は19世紀のドイツ。普仏戦争でフランスに勝利し、次の敵国をイギリスと定めていたため、ドイツ国内ではイギリスに対する敵対感情が異様なほど高まった時代だ。そんなとき、歴史と伝統のある街であるブラウンシュバイクにある名門カタリネウム校に、ドイツ初の英語教師として留学していたオックスフォードからコンラート・コッホが赴任してくる。彼は、誰も見たことがない革製のボールを携えていた。このボールを使ったフットボールに魅了された子供たちは、ドイツ帝国の教育で美徳とされてきた秩序と規律、そして服従からの解放を目指し、革命を起こそうとするのだった。
主人公であるコンラート・コッホを演じたのはダニエル・ブリュール。ヴォルフガング・ベッカー監督の『グッバイ、レーニン!』で主演に大抜擢され、心臓病を患う母親にショックを与えないためにベルリンの壁が崩壊したことをひた隠す心優しき青年を演じた。今回も正義感が強く情熱的、子供たちを優しく見守りながらときには厳しさも忘れないコッホを好演している。
コッホの指導者としての姿勢は、いま話題の体罰問題を考える上でもタイムリーだ。映画であるため旧態依然とした旧勢力はみんな悪人面だが、スポーツの本質がなんであるかを、すごくわかりやすい形で伝えてくれる。
また、コッホによってフットボールの楽しさに目覚めていく子供たちの表情もすばらしい。この時代、学校教育においては器械体操や軍隊式の行進が中心で、球技は行われていなかったらしく、一度味わってしまったフットボールにどんどん魅了されていくのだ。
多少、キャラクターは類型的ではあるが、僕のお気に入りは医療用のボールや体操用具をつくっている会社の2代目である太っちょの男の子だ。第一印象はちょっと意地悪そうだったが、最後にはなかなか好印象を残してくれる。
史実から多少脚色されているらしいので、どうせならドラマとしてもう一波乱あっても良いような気もしたが、ボールを蹴りたくなる良作である。
『コッホ先生と僕らの革命』
ドイツ/ドラマ/114分/2011年制作
上映:2月16日(土)11:00~
監督:セバスチャン・グロブラー
出演:ダニエル・ブリュール/ブルクハルト・クラウスナー
配給:ギャガ
舞台:1874年代ドイツ
(c)2011 DEUTSHFILM / CUCKOO CLOCK ENTERTAINMENT / SENATOR FILM PRODUKTION
【ヨコハマ・フットボール映画祭2013について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2013年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月11日(月/祝)・16日(土)・17日(日)に開催! 詳細は公式サイト(http://yfff.jp)にて。
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