2012.11.01

ただの万能では終わらない“全能”のアタッカー、フランク・ランパードが世界一に挑む

ただの万能では終わらない“全能”のMFフランク・ランパード
Text by Kaoru TERASAWA Photo by Akio Hayakawa/Photoraid.uk.

 シーズン2桁ゴールを約束してくれる――それがフランク・ランパードの最大の魅力である。ストライカーであれば、そうした選手も珍しくはない。ただ、ランパードは中盤の選手でありながら容易くやってのける。プレミアリーグ創設から20年の歴史の中で、ランパードはMFとして最多の150のゴールを重ねてきた。2003-04シーズンから続く連続2桁得点記録も、前人未到の9シーズンに到達。高精度のミドルシュートや職人技のPKはもちろん、チャンスの匂いを嗅ぎ取って絶妙なタイミングでゴール前に飛び込む場面は、長きにわたってチェルシー攻撃陣の黄金パターンとされてきた。ロベルト・ディ・マッテオ監督も、「ランパードは常にゴールを決めてくれる」と絶大な信頼を寄せている。

 もっとも、ランパードが偉大なプレーヤーと呼ばれる理由は得点力だけではない。彼の真の魅力は、MFに必要な資質をすべて高いレベルで備えているところにある。正確なパス、巧みなボールキープ、豊富な運動量、果敢なタックル、味方を鼓舞するリーダーシップ……。ただの万能では終わらない“全能”のランパードをイングランドの人々は「パーフェクトなMF」と称賛する。

 クラブ・ワールドカップの出場権を手に入れるまでの過程で、ランパードの能力を表す象徴的な試合があった。前年王者バルセロナと対戦したチャンピオンズリーグ準決勝。バルサ優位の下馬評の中、チェルシーはホームでの第1戦に1-0で先勝。この試合でディディエ・ドログバの決勝ゴールの起点となったのが、他でもないランパードだった。自陣でリオネル・メッシからボールを奪うと、すぐに左サイドを駆け上がるラミレスに美しい軌道のピンポイントパスを放った。これを受けたラミレスがドログバへとつなぎ、値千金のゴールが生まれたのだ。まさに、ゴールだけではない彼の魅力が凝縮されたプレーだった。また、この試合では得点シーン以外でもプレー精度の高さを随所で披露。ランパードはチェルシーで唯一、バルサの選手たちに引けを取らない高度な技術を持っていたのだ。

 ただ、そんな彼も今年6月で34歳となり、体力的な衰えが隠せなくなってきた。プレミアリーグ164試合連続出場という記録を作り、「鉄人」と呼ばれた20代の頃と比べると、確かに負傷離脱が増えたし、連戦時にはローテーションでベンチを温める機会も増えている。

 しかし、だからこそ注目したい部分もある。それは彼が持つ“サッカーIQ”だ。ランパードは今シーズン、フアン・マタやエデン・アザール、オスカルといった若い世代に攻撃を任せ、自らは中盤の舵取り役として新境地を開拓している。自身やチームの状況に合わせて柔軟にプレースタイルを変化させる姿は、マンチェスター・Uの大ベテラン、ライアン・ギグスを想起させる。攻め上がる回数自体は減ったかもしれない。だが、戦況を的確に見極めた攻撃参加の効果は倍増する。クラブ・ワールドカップという大舞台でも、ランパードがゴール前に現れるシーンこそがゲームの“勝負どころ”になると考えていい。

 プレミアリーグ、FAカップ、リーグカップの国内3大タイトルをすべて獲得し、今年5月には念願だったチャンピオンズリーグのトロフィーも手に入れた。しかし、クラブレベルであらゆる栄光を手にしてきた彼も、自宅のキャビネットにはクラブ・ワールドカップのトロフィーだけがまだない。完璧主義の「パーフェクトMF」のこと。コレクションの完成に向け、日本行きへのモチベーションは高い。