
現代フットボールの分析がすべてのスタート地点
正確なボールスキルを追求した、かつてない革新的モデル──。アディダスが発表した最新スパイク「Predator Lethal Zone(プレデター リーサル ゾーン)」は、我々メディア関係者の間に新鮮な驚きをもって受け止められた。「必殺5ゾーン」という画期的な機能と、その「5ゾーン」が明確に視覚化されたフォルム。このデザインだけを見ても、従来のスパイクとは全く異なる印象を受ける。
だが、この新機能は見た目のインパクトを狙ったものではなく、綿密な分析の結果として導かれたものだという。アディダス ジャパンでフットボールマーケティング部門を総括する山本健氏は、そのコンセプトをこう語る。「現代フットボールの中でいかにプレーヤーのパフォーマンスを引き出すか。そう考えた時に、『まず現代フットボール自体を分析しましょう』と。そこからスタートしたんですね。その結果、非常に興味深いデータが得られました。例えばトップレベルのゲームでは、プレーヤーがボールに触れている時間は1試合当たり平均90秒。1回のボールタッチ時間は平均0.5秒で、その際に使えるスペースはわずか1~5メートルしかないんです。つまり、短い時間、限られたスペースの中でいかに正確にボールを扱うのか。現代フットボールではそういう能力が重要になっているわけですね。その分析から導き出されたのが、『ボールスキルをサポートするスパイク』という『Predator Lethal Zones』のコンセプトなんです」

なるほど、あらゆる面で高速化した現代フットボールでは、個々のプレーヤーに与えられる時間とスペースは限られている。わずか1本のパス、1回のボールタッチの成否が試合の勝敗を分けるような局面も多い。かつてないほどボールスキルの正確性が重要視されていることは間違いないだろう。
だが、基本となるコンセプトがどれだけ素晴らしくても、それを一足のスパイクという完成品に落とし込めなければ無意味だ。「ボールスキルを追求する」というコンセプトは、どのようにして「必殺5ゾーン」という機能に結びついたのか。実はその手法こそ、「Predator LethalZones」の革新的な機能を生み出した根源と呼べるものだった。


ホワイトブーツを使用して徹底的にデータを収集
「通常ですと、まず開発チームがアイデアを出し合って、新たな機能をシューズに盛り込んでいくんですが」と話しながら、山本氏は何の装飾も施されていない、真っ白なスパイクを取り出した。「今回は全く逆の考え方をしました。つまり、我々の発想ではなく、現代フットボールを象徴するトッププレーヤーの技術、パフォーマンスから答えを導き出そう、と。そこで用意したのがこのホワイトブーツなんです」「Predator Lethal Zones」の開発を進めるに当たって、彼らはまず最初に、ホワイトブーツを様々なプレーヤーに手渡した。ボールスキルに関するデータを収集するためだ。山本氏が説明を続ける。
「プレーヤーにはホワイトブーツで実際にボールを蹴ってもらい、シューズのどの位置で、どのようなプレーを行っているかを色分けしたマーカーで書き込んでもらいました。この部分でドリブルをしているとか、ここでシュートを打っているとか。そのスパイクをかき集めて分析してみたわけです」
ホワイトブーツを用いたデータ収集は世界規模で実施された。世界各国のトッププレーヤーを始め、日本のプロ、更にはアマチュアレベルの部活プレーヤーまで……数百足にも及ぶ「マーキングされたホワイトブーツ」が、新たな機能を形成するベースとなったのだ。

もっとも、分析は決して簡単なものではなかったと山本氏は言う。「ホワイトブーツに書き込まれたゾーンというのは、プレーヤーによって全く異なるんです。ドリブルするゾーンも、シュートするゾーンも人によって違う。すべてのホワイトブーツにそのプレーヤーの特徴が現れていたと言ってもいいくらいです。しかし、それらを一つひとつ詳細に分析していくと、ボールスキルの種類と、そのために使用されるゾーンは大きく5つに分類できることが分かったんですね」
プレーヤー自身のデータから導き出された5つのゾーン。言うまでもなく、これが「必殺5ゾーン」の原型となった。「Predator LethalZones」には、その5ゾーンそれぞれに最適な機能が施されている。ファーストタッチゾーンにはボールの力を吸収する機能、ドライブゾーンにはボールを強く蹴るための機能、パスゾーンにはボールをしっかりミートするための機能、といった具合だ。「これらの機能を搭載するために、あらゆるバージョンのサンプルを作りました。実際にプレーヤーに履いてもらい、ボールを蹴ってもらい、問題点を修正する。そうやって何度もチャレンジを繰り返し、最終的に最もバランスの良い形状に行き着いた、ということです」。そう山本氏は胸を張る。
新素材のアッパーにより技術的な問題をクリア
プレーヤーのデータを集め、それをシューズの機能に反映させる。口で言うのは簡単だが、実際に「必殺5ゾーン」を完成させるまでには相当な困難を伴ったはずだ。だが、山本氏によれば「必殺5ゾーン」以上に時間と労力を割いた部分があるという。それが、アッパー部分に採用された新素材「ハイブリッドシンセティックレザー」である。
「そもそも、スパイクのアッパー素材には人工皮革と天然皮革という2種類があります。天然皮革は柔らかくて足になじみやすいんですが、水を吸うと重くなるし、時間が経つと革が変形してしまったりする。一方、人工皮革は軽く丈夫で、水に強いけれど、天然皮革のような柔らかさがない。どちらも長所と短所があるわけです。そこで、両方の長所だけをミックスしたような新素材ができないか、と。そう考えて開発されたのが『ハイブリッドシンセティックレザー』なんです」

柔らかく快適なフィット感と、耐久性、軽量性の両立。シューズの基礎となる素材が優れていれば、そこに搭載された「必殺5ゾーン」の機能はより生きる。実際、この新素材の開発がなければ、「必殺5ゾーン」も実現しなかったのだという。山本氏はその秘密を次のように明かしてくれた。
「天然皮革にラバーのような人工素材を接着するのは、実はかなりの技術を要するんです。それが1カ所ならまだしも、5つのゾーンにそれぞれ形状の異なる素材を接着するとなると、技術的に相当難しい。その点、『ハイブリッドシンセティックレザー』は人工素材なので、複雑な加工がしやすいわけです。このアッパー素材があったから『必殺5ゾーン』を搭載できたということですね」
最先端のテクノロジーと画期的なアイデアの融合
革新的なアッパー素材と、プレーヤーの意見を反映した「必殺5ゾーン」。「Predator LethalZones」というシューズは、言わば最先端のテクノロジーと画期的なアイデアの融合体だ。開発に携わった山本氏は、このシューズの革新性をどう捉えているのだろうか。
「これまでの開発ですと、あくまで仮説を立てるのは我々なんですよ。最初に仮説を立てて、それがプレーヤーのニーズに合っているかどうかをテストをして、検証して、商品化していくわけです。しかし、今回は仮説が文字どおり真っ白な状態から、プレーヤーの意見を集め、それをテクノロジーに変換して一足のシューズに仕上げた。そこが決定的に違いますよね。言ってみれば、『Predator Lethal Zones』はプレーヤーの“声”がそのまま形になったシューズなんです」
だからこそ、と山本氏は強調する。「まず履いてほしいと思います。コンセプトの段階から徹底的にプレーヤーの視点に立って、プレーヤーのデータを集め、その要求に応えるために設計されたシューズですから。トッププレーヤーが履いても、中高生の部活プレーヤーが履いても満足できる、望んでいる以上のパフォーマンスを発揮できるシューズだと自負しています。ぜひ実際に足を入れていただいて、ボールを蹴って確認してほしいですね」