
文=馬見新拓郎 Text by Takuro MAMISHIN
写真=金子悟/ゲッティ イメージズ Photo by Satoru KANEKO/Getty Images
澤穂希(INAC神戸レオネッサ)にとって、この4年間は決して平坦な期間ではなかった。そこには上り坂と下り坂があり、それでもめげずに前を向き続けた4年間だった。
澤の目前に6大会連続6回目の女子W杯が迫っている。さらに今大会で出場する1試合目は、なでしこジャパンとしての200試合目という節目のメモリアルゲームとなる。数字にあまりこだわらない性格ゆえ、澤本人にとっては特別なことではないだろうが、これは日本サッカー界にとって間違いなく歴史的な出来事だ。
4年前の女子W杯ドイツ大会は、まさに澤のためのものとなった。なでしこジャパンをW杯優勝に導き、得点王と大会最優秀選手賞、そして同年のFIFAバロンドールまで手にした。名実ともに世界一の女子サッカー選手となったのだ。

ロンドン五輪でも銀メダルを獲得した澤だが、2014年5月のAFC女子アジアカップ(ベトナム)に出場して優勝に貢献した後、女子W杯カナダ大会の重要なシミュレーションの場である、同年10月のカナダ遠征と翌2015年3月のアルガルベカップで招集を見送られた。この時期はINAC神戸で思うような結果を出せず、澤も自らの持ち味を十分に発揮できずにいた。パフォーマンスが落ちたまま突入した女子W杯イヤーの2015年、転機となったのはINAC神戸に招聘された松田岳夫監督の就任だった。
「松田さんは、まだまだサッカーがうまくなりたいって思わせてくれる監督」
澤が長いキャリアを過ごした日テレ・ベレーザで、ともに数々のタイトルを獲得した恩師とのタッグが再び組まれ、INAC神戸は今季、プレナスなでしこリーグ1部首位を走り続ける。澤はというと、本来の出足の速さや、相手選手の足元にあるボールに対してハイパワーで迫るプレーが見られ、そこには縦横無尽にピッチを走りまわる姿があった。
「澤個人に対して特別な練習メニューを与えているわけではなく、他選手と同じくハードワークを求めているだけ。ただ、今季の澤は私の今までのイメージを超えたところでプレーしている」

松田監督の要求に応えた末に、澤は新たな領域に入っていた。自ずと笑顔が弾けてくる。
「もしかしたら、今が一番サッカーを楽しんでいるかもしれない。毎日の練習が楽しいんです」
なでしこジャパンの佐々木則夫監督は、不調に陥った昨季と、見事に復調した今季の澤を何度も視察し、ついにゴーサインを出した。
「90分間の集中力、そしてチーム内でも誰よりも体を張ってスライディングも多い。意欲もある。今の彼女の力は、なでしこジャパンに必要」
今季に限らず、いわゆるビッグマッチで結果を残す勝負強さが、澤の魅力である。そんな姿を見る度に、我々日本人は澤の存在の大きさを感じずにはいられなかった。
その象徴的な試合が、5月に香川と長野で行われた2回の国際親善試合だ。約1年ぶりの代表戦となったニュージーランド女子代表戦の決勝点は、なでしこジャパンを世界一に導いたドイツ大会の決勝・フランクフルトの夜を彷彿とさせるものだった。中3日で迎えたイタリア女子代表戦でも、本大会を意識した深いチャージで、世界大会を戦い抜く覚悟を体現してみせた。

4年に一度の今大会に向けてコンディションを上げてくるあたりは、経験豊富な澤の成せる技という他にない。やはり存在感は計り知れないものがあり、その存在自体がチームの活力の源になり得る。
なでしこジャパンの代名詞でありシンボルとも言える澤は、今大会で新たな伝説を作る意欲にあふれている。4年前の決勝戦後、こんなコメントを残していた。
「女子W杯で優勝したらしたで、また欲が出てくるもの。五輪のメダルも欲しいなと思いますね」
今大会後に、澤のこんな言葉を再び聞くことができたならば、日本全体の幸福度や期待感が一層増すのかもしれない。