昨年末のクラブW杯で優勝し、改めて世界にその強さを知らしめたバルセロナ。サッカー界きってのバルサ通であられる倉敷保雄氏、岩本輝雄氏、小澤一郎氏のお三方が、その魅力と強さの秘密についてたっぷりと語った。
※この鼎談は、12月16日に行われた『バルセロナ完全読本発売記念イベント バルセロナの夜』のトークショー内容を『サッカーキング』掲載用に再構成したものです。
倉敷――小澤さん、バルセロナのファーストインプレッションはいつごろ、どんな印象ですか?
小澤――僕が大学生になった頃、BSでちょうどスペインリーグがやっていたんですね。90年代後半、97、98年くらいですね。で、初めて現地へ行ったのが98年で、学生の夏の1ヶ月くらいの短期留学で、どうしてもカンプ・ノウで試合が観たいと。8月だったので、スーペルコパでバルセロナ対バレンシアの試合を観たのが初めてですね。感動しました。
倉敷――なるほどね。そのころのバルセロナと、今のバルセロナどのくらい変わったなと印象があります?
小澤――単純比較はできないですけど、サッカーとして緻密になっているのかなという印象ですね。あの頃はどうしても、バレンシアもそうですけど、思い切って前に出て、あんまり後ろを考えずに出ていくというサッカーだったんで。そういう意味では、今はしっかり後ろのことを考えながら攻めるとか、そういうところで緻密になっているのかなと。思い切りはちょっと減ったかなという印象はありますね。
倉敷――ねるほどね。テルさん(岩本)はバルセロナにかなり行かれているということですが、今年(2011年)は何回ですか?
岩本――6回ですね。スペインへ行くとだいたい、バルサとレアル・マドリーも観るんですけど、トータルすると現地で年間30試合くらい観ていますね。
倉敷――ペップ・グアルディオラのサッカーどんな印象をお持ちですか?
岩本――まあ、ボールをまずは失わないですよね。あと、無理に攻めないですよね。あんまり急がずに、あいているところ、あいてるところにドリブルしていくというイメージがあります。で、最終的にメッシがいますからね。逆にメッシがいなかったらどうなのかなという部分には注目しています。
倉敷――そうですよね。先日のエル・クラシコ(2011年12月10日)も、モウリーニョがメッシをどうやって消していくのかが注目だったと思うんですけど、テルさんはあの試合どんな印象でしたか?
岩本――僕は今回、レアルが勝つと思っていたんです。
倉敷――実は私もです。今年はさすがにバルサも危ないかなと思っていたんですけど、びっくりしましたね。
岩本――最初の15分、20分間はレアルのペースでしたからね。でも、やっぱりメッシが一人で変えてしまったかな。あと、チャビってクラシコに関しては必ず点を入れますよね。やっぱり凄いなと思いますね。
倉敷――チャビはクラシコに強い人と言われているんですよね。逆にクリスティアーノ・ロナウドは「クラシコに弱い」とずいぶんスペインの新聞で叩かれています。
岩本――本当にそうなんですよ。クラシコは今年、スーパーカップ2回を含めて3回観ているんですけど、やっぱり他の試合のロナウドとは全然違うんですよ。クラシコになると自分でいかないですよね。今年の5月かな、カンプ・ノウでの試合の時も、シャビ・アロンソに怒られていましたからね。僕はカンプ・ノウで観戦する際、前から4列目くらいで観るんですね。2階席の方が見やすいんですけど、元サッカー選手としたらどれだけパスが速いのかとか、どれだけ寄せが速いのかを観たいので。その時、ロナウドがシャビ・アロンソに怒られていましたね。ロナウドは左サイドをやるじゃないですか。で、ダニ・アウベスとマッチアップするんですけど、プレスをかけている時に彼(ロナウド)は行かないんですよ。行っても止まるんですよ。もっと行けばボールを後ろの選手が取れるのに、行かない。止まっちゃうんです。その瞬間、バルサの選手はフリーになるわけで、スペースを空けちゃったら、バルサの選手たちの思う壺でしょう。だから、逆にクリスティアーノ・ロナウドがいない方が勝っちゃたりして。
倉敷――クリスティアーノ・ロナウドがいてバルサに勝ったのはたしか1回だけですね。小澤さんはクラシコにどんな印象を持ちましたか?
小澤――モウリーニョのプライドが邪魔をしたのかなという印象がありますね。エジルを使ったというのが、結果的に裏目に出たのかなと。前半はマドリーがだいぶはめていたので、バルサもだいぶ苦しんでいました。先制点以外のところで、結構バルデスから危ないパスだったり、引っかかったりしたパスもありましたし。そういう意味では、ロナウドが前半の決定的なチャンスを決めていれば、というのはありますね。本当に少しの差であると思うのですけど。
倉敷――僕も本当にちょっとの差だったと思うんです。結局経験の差ですよね。
小澤――テルさんに聞きたいんですけど、ロナウドがこれだけクラシコでダメな理由は何だと思います? 相性とかを気にしちゃうものなんですか?
岩本――僕はありましたね。選手の時は。このチームからは点を取れるけど、このチームからは取れないとか。
倉敷――テルさんといえばベルマーレ時代の印象が強いですね。
岩本――当時は戻らなくていいと言われていたんですよ。ボランチがマークするから、お前は別にいいやみたいな感じでしたね。だからサイドバックなんだけどウイングだったんですよ。で、中に行けと言われていました。シュートをとにかく狙ってくれという感じだったので、だから多い時にはサイドバックなのにシュート10本とかありましたね。
小澤――じゃあ、今のペップのバルサにぴったりじゃないですか。
岩本――まだ現役だったらバルサの左サイドバックでやってみたいですね(笑)
__RCMS_CONTENT_BOUNDARY__
倉敷――続いて「攻撃という哲学」というテーマに移りたいのですが、今のペップ・グアルディオラの哲学に関してはどんな印象をお持ちでしょうか?
小澤――攻撃というとどうしてもアタックということになりがちなんですけど、彼の場合はどう攻撃し続けるかとか、攻撃してボールを失った時にどうしていくかということを落とし込んだ上でのオーガナイズをしているのかなと。大体は押し込んで、相手のセカンドボールをエリア付近で拾って、そこからのスルーパスとかワンツーで決めるっていうイメージですね。攻め続けられるっていう印象です。そういう意味では、完全に相手を押し込んで、相手を窒息死させるようなイメージを持っています。
岩本――今って、4―3―3みたいな感じじゃないですか。絶対に前が(サイドに)張りますよね。両サイドがポイントだと思うんですけど、取られてからの守備がものすごく速い。サッカーっていうのは、ボールを奪ったらサイドバックに一回あてて、そこからどうしようかと考える。だけど、グアルディオラのサッカーは奪われてからすぐに相手のサイドバックを殺すっていうか、潰しに行って、そこで時間を与えないんですね。本当に大げさに言うと、サッカーコートの4分の1に全員が入っちゃうくらい、高い位置を取ってボールを奪って、奪ったらあいているところ、あいているところというように攻めていく。相手としては、あれだけまわされると、本当に疲れて、攻撃しようにもできないんですよ。僕の現役当時、ジュビロがすごく強かったんですね。名波、藤田、ゴンが全盛だった頃です。あの時も、本当にあれだけまわされると、ジャブじゃないですけど、後半になって前へ行けなくなるんですね。
倉敷――なるほどね。加えて、バルサは絶えず変化していますよね。。本物の9番がいるバルサと、偽物の9番がいるバルサ。ペップはなんで本物の9番がいるやり方をやめたんでしょう?
小澤――彼らの攻撃の考え方っていうのが、ギャップを突くとか、相手の隙間を突いていくというところなので、あえて決まったポジションとか決まった概念のつなぎ方とかしないと思うんですよね。典型的なセンターフォワードのタイプっていうのは彼らに必要ない。だからこそ、アウベスのように「ほんとにサイドバックか?」というような選手が生きるんだろうし。バルサは新しい、次のステージに行っていますよね。
倉敷――観ていて飽きないですよね。同じサッカーなのに全然違うというか。特にチャビの存在感ってすごいですよね。現場で観ていると。
岩本――あの人はやばいでしょ(笑)。あの人はおかしいと思うよ。あの人のボールタッチ数、昔数えたことがあるんですけど、大体サッカー選手って、ベルマーレ時代の中田ヒデだったり、中村俊輔もそうですけど、中盤でボールを触る回数って1試合に70回で多い方なんですよ。8月の日韓戦で香川が2点入れた時、あの時は、すごく目立っていて73回くらいボールに触っているんですね。もちろんポジションの関係もあるんですけど、まあ70回触ったらすごい運動量で、すごい顔を出しているイメージなんです。ところがチャビの場合は平均で200回くらいボールに触っているんですよ。それでいて、パス成功率は90%以上なんですよ。で、たとえば200回のうち10回くらいのミスがあるじゃないですか、その10本は最後のスルーパス、スペースがない時に出すスルーパスが相手に引っかかるだけで、あとはほとんどパーフェクトなんですよね。だからバルサは中盤が5人なんですけど、7人くらいいるような感じなんですよ。
倉敷――バルサの中盤っていうのは、パスサッカーをしているから動いているのかなって思うんですけど、実は動いてないですよね。
小澤――メッシしかり、ほとんど動きませんね。動くポイントとタイミングがすごくいいということだと思います。そこを突き詰めている。面白い話を聞いたことがあって、僕はバルサのフィジコ(フィジカルコーチ)の関係者と知り合いなんですね。で、バルサがどんなトレーニングをしているとか、どんな考え方をしているのかという話を聞いた時に、バルサは1日45分間の練習でチャンピオンズリーグに優勝しようとしている、ということを教わって。日本だとそれは時間の短縮でサボっているじゃないかというイメージですけど、彼はそこの質を高める為に時間を短くするっていう考え方なので、そういう考え方になったと。これには感嘆しました。
倉敷――バルサの攻撃力を語るに、フロントやベンチワークという要素も欠かせないですよね。ティト・ビラノバとペップ・グアルディオラの関係は、すごく美しい関係というか、お互いを補っていますね。例えば、クラシコの前も、ペップは(ビラノバが)手術したあとだったんだけど、「どうしても来てほしい」っていう話をしていました。ティトをものすごく尊敬しているし、尊重するんですね。
小澤――ティトが退院して戻ってきて、すぐに監督室に行ってクラシコに向けて分析を行ったというニュースが出ていましたね。たぶん、ペップにないものをティトは持っているんでしょうね。ティトもペップに遠慮なく自分の意見をぶつけるタイプだと思うんです。そういう意味で2人が共鳴し合って、刺激し合って、2倍3倍になっているんじゃないでしょうか。
倉敷――どちらかが欠けてもダメなんでしょうね。もし、ペップがいなくなったらどうするんでしょうね。もっと観たいですよね、ペップのサッカー?
岩本――もちろん、観たいですね。今後どういうふうになっていくのか非常に興味深いですね。(了)