ピッポ・インザーギが現役を引退したら、イタリアサッカー界はひとりの偉大なFWを失うだけでなく、この世界で常に異彩を放ってきた“主役”のひとりを失うことになる。
38歳という年齢にも関わらず、ピッポは今でも若さを保っている。体は現在も20歳代のようだし、気持ちは10歳代のように若い。もちろん成熟していないという意味ではない。彼は今でも「勝ちたい」という気持ちを失っていないのだ。ユヴェントス、ミラン、そしてイタリア代表などであれだけ多くの勝利とタイトルを手にしてきたにも関わらずである。
ピッポとの会話はいつも楽しい。彼には本当に多くのおもしろいエピソードがあり、聞いている者を飽きさせない。今回はサッカー界で長くやっていく秘訣のことから話し始めてくれた。
Interview & Text by Giovanni Battista Olivero
インタビュー、文:ジョヴァンニ・バッティスタ・オリヴェーロ
Translation by Mitsuo Ogawa
翻訳:小川光生
インザーギ(以下I)――「疲れがたまり、足が動かなくなった時、あるいは朝起きて、まだ自分が『プレーを続けたい』、『しっかりと練習に打ち込みたい』と思えるのは、サッカーへの情熱があるから。それがなかったら、35歳を過ぎてなお、この世界での戦いを続けていくことはできない。これはすごく幸運なことだと思うのだけれど、僕は子供の頃からずっとこのスポーツが大好きなんだ。だから、この仕事を辞める気は今のところまったくない。考えたこともないよ。
ただ、僕の場合、たくさんの試合に出るだけでは満足できない。もっと勝ちたい、もっとゴールを挙げたいという気持ちがいつも心の中にある。『今日はしっかりと練習できたかな』、『昨日よりも少しは上達したかな』、いつもそう自問しながら僕はベッドに入る。充実感がないとなかなか寝つけないんだ。勝者のメンタリティーとは実はそういうものなんじゃないかな。どんな時も、勇気とプレーを続けたいという欲求を持ち続けていないと。そうでなければ前に進めない。それがなくなった時が、やめる時だと思っている」
今でも少年のような気持ちを持ち続けているピッポ。では、実際の少年時代はどのようなものだったのだろう。
I――「学校が終わると一目散にサッカー場に行くような子供だった。そこに誰か他の子供がいたらすぐにボールを蹴り始めていたね。年少の子だろうが、年長の子だろうが関係なかった。とにかく、楽しみのサッカーができればそれで良かったんだ。辺りが暗くなるまでプレーした後、いつもボールを小脇にかかえて家に帰ったんだけど、それでもまだサッカーがやりたくて、夜、親父のジャンカルロや弟のシモーネとパスやリフティングの練習をしたね。どんな練習が好きだったかって? 全部だよ。ボールが蹴れればそれで満足だった。もちろん、シュート練習が最高だったけれど、苦しい体力トレーニングや退屈な反復練習も文句をいわず取り組んだよ。うまくなりたいという気持ちがあれば、どんな苦しい練習だってへっちゃっらだった」
その後、プロになり、ピッチの上だけでなく外でも自分を律することが必要となった。食事規制もそのひとつ。ピッポはその点でも実にストイックだ。彼が言う。
I――「アスリートである限り、昼食時も夕食時も食べるものに気を使うのは当然のこと。よく食べるのは、ブレザーオラ(牛肉を塩漬けにしたもの。イタリア北西部の郷土料理)。味もおいしいし、脂肪分も少ない。かなり食べるよ。あとは、鳥の胸肉、それから外せないのはやはり母親のマリーナが作るミネストローネだよ。おふくろの味に勝るものはない。スイートも嫌いではないけれど、あまり食べないな。アルコールはもちろん一滴も飲まないよ。食事の時などには、水かコカコーラ・ライトを飲む」
グラウンドの外では摂生を貫いているピッポだが、いったんピッチに上がれば、獰猛なファイターへと変貌する。レフェリーの試合開始の笛がなった瞬間から、彼の温厚な人格は一変するのである。ピッポが続ける。
I――「ゲームには常に深くのめりこむ。あの90分間は僕にとって、本当に密度の濃い時間。それだけではない。ゲームの始る数日前から戦いは始っている。その間ずっと走り続けているような気分だよ。パワーの源? それはすべて僕の内面から自然と生まれてくるもの。スイッチを入れるきっかけなど必要ない。ピッチがあり、ユニフォームがあり、ボールがあり、目の前にこれから対戦する敵が現れる。それで十分。すぐに臨戦態勢に入れるよ」
試合中、ピッポの闘争心の“犠牲者”となったレフェリー、線審も多いような気がするが……。
I――「そんなことはないよ。基本的にどの審判ともいい関係さ。もちろん判定に納得できず、怒って抗議したこともあるけれど。僕が好きなのは、ピッチ上で対話のできる審判。上から見下ろすような態度でゲームを裁くレフェリーは好きになれない。僕は常に彼らをリスペクトしているべきだと考えている。だから、彼らもまた僕ら選手をリスペクトしなくてはけないと思う」
狡猾な動き出しで数々のセンターバックを葬り去り、長年に渡ってサッカー界に君臨しているピッポ。そんな彼が特に鮮明に記憶しているのは、すでに引退した2人の選手だという。
I――「対戦したディフェンダーの中で最もすごいと思ったのは、やはりパオロ・マルディーニだね。ユヴェントス時代、彼との対戦はいつも嫌だった。その後、僕がミランへ移籍。パオロが敵ではなく味方であった時間のほうが長かったのは、僕にとって本当にラッキーだった。それから、ジネディーヌ・ジダンも僕を夢中にさせた選手の一人。幸運なことに、僕はこれまで本当に多くの偉大なカンピオーネと一緒にプレーさせてもらってきた。ただ、その中でもジズーは別格。彼には、人とは違う能力、一種の魔力があったよ」
ピッポは、ある意味、マニアックと呼べるほど準備に余念のない選手だ。戦いの前には、実に細かい部分まで神経をとがらせる。大事な“商売道具”シューズについても同じこと。ピッポが続ける。
I――「シューズで一番大事なことは、当たり前のことだけど、履き心地がいいこと。まるで家ではくスリッパのように違和感のないものでないといけない。その点については、スポンサーに細かく希望を出すよ。ポイントについては、全てピッチに降りてみて感触を確かめてから、決めるようにしている」